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ISO 19650, 共通データ環境, CDE, Autodesk Construction Cloud

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建設プロジェクト業務に標準規格を導入する動きは、国や地域による義務化とともに、過去 10 年間で増加しています。ビルディング インフォメーション モデリング (BIM) の導入が拡大したことで、国際規格 ISO 19650 の開発が進みました。この記事では、そうした標準規格の開発や適用について解説するほか、Autodesk Construction Cloud を使用する中で、こうした標準規格がどう関連するかについて説明しています。

はじめに:共通データ環境

BIM Wiki で共通データ環境 (CDE) は、「プロジェクト チーム全体のドキュメント、グラフィカル モデル、非グラフィカル データを収集、管理、配布するために使用される単一の情報源」と定義されています。そして「単一の情報源を作成することで、プロジェクト チームのメンバー間のコラボレーションが容易になり、重複やミスを回避しやすくなる」と説明されています。

つまり共通データ環境とは、一般的な BIM ワークフローの一環として情報を統合管理するためのデジタル ハブです。もともとは、英国政府による BIMの義務化宣言「BIM Level 2」の構成要素のひとつとして開発および実用化されました。そして現在では、BIM に関するデータや情報だけでなく、プロジェクト契約、スケジュール、変更管理など、あらゆるデータが共通データ環境で管理されるようになりました。プロジェクト中に作成された情報は、プロジェクト期間中はもちろん、プロジェクトの終了後も、権限を有するすべての関係者がアクセスし、活用できます。

共通データ環境はなぜ重要なのか?

図 1 は、一般的なプロジェクトと、共通データ環境(CDE)が導入されているプロジェクトの情報フローを比較しています。

左図は、一般的なプロジェクトでチーム メンバー同士が情報交換する方法を簡素化して示しています。非常に複雑な構造となっているため、各ユーザーが正しい情報を適切なタイミングで取得することは困難です。情報はさまざまなシステムに存在します。さらに手作業で情報交換を行うためミスが起きやすく、余計なコストが生じる可能性があります。

右図は、CDE が導入されたプロジェクト チームの場合を示しています。CDE では中央リポジトリを介して情報をやり取りするため管理が簡単で、各ユーザーが常に最新情報を取得できます。CDE には、情報の流れをコントロールできる仕組みがあります。設計図書やマークアップ、指摘事項などの情報に、チーム メンバーのみがアクセスしてレビュー/承認できるようにしたり、目的に応じて公開したりできます。

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Figure 1. Traditional information flow versus common data environment.

図 2 は、一般的なプロジェクト業務の構造を示しています。建物やインフラの建設プロジェクトに複数企業が携わり、設計、施工、運用を共同作業で進める場合のエコシステムです。ここには、次のような数多くの課題があります。

  • 専門分野やチームごとに分断されている契約上の境界

  • 設計チーム、建設チーム、サプライ チェーン全体で、プロジェクト データや情報の共有・アクセスを管理する必要がある

プロジェクト情報を管理する中央ハブは、チームだけでなくオーナーにとっても重要です。これがなければ情報の信頼性が低下し、プロジェクトのリスクが増大します。

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Figure 2. Project team organization.

共通データ環境のメリット

  • コラボレーションを強化:デジタル テクノロジーを正しく活用することでコラボレーションを改善できることは、すでに数多くの事例で証明されています。ここで重要なのは、プロジェクトのすべてのデータと情報を中央システムで一元管理しながらアップデートしていくことです。これにより、社内やチーム間のコーディネーションとチームワークを強化できます。

  • 情報を一元管理:プロジェクト情報を一元管理することで得られるパワーを過小評価してはいけません。チーム メンバーは常に最新データにアクセスして、計画や変更などの情報をリアルタイムに把握できます。さまざまなプロジェクトのデータや、さらには会社全体のデータをすべて一元管理することで、幅広いインサイトを引き出し、より良い意思決定を下せるようになります。

  • 効率と品質を向上:共通データ環境では、データを手動で何度も作成する必要がないため余計な手間が減り、入力ミスや情報の損失などの問題発生を回避できます。さらに会社全体における情報へのアクセス性が向上し、チームがスピーディーに意思決定できるようになります。

  • リスクの軽減:CDE によってプロジェクト全体の透明性が高まり、幅広いインサイトが得られるようになり、リスクが軽減します。そして時間の経過とともに継続的に業務を改善し、予測可能性を高めていくことができます。これはビジネスを成長させていく上で不可欠な要素となります。

  • セキュリティを強化:IT 管理者は CDE によってデータと情報をより適切に管理できるようになり、セキュリティを強化できます。

ISO 19650

ISO 19650は、建物資産のライフサイクル全体を通じて情報を管理するための国際的な標準規格です。プロジェクトのクライアントや建物オーナーにとって必要な情報を明確に定義しているほか、プロジェクト チームのメンバー間で効率的かつ効果的に情報をやり取りするための手法やプロセス、期限などについて詳しく定義しています。

ISO 19650 3.3.15 で共通データ環境(CDE)は、「特定のプロジェクトまたは資産(3.2.8)のために共有する情報供給源(3.3.1)であり、管理されたプロセスによって各情報コンテナ(3.3.12)を収集、管理、配布するためのもの」と定義されています。

ISO 19650 では要件が定義され、これらの要件に関連する実際の規格が国家付属書 (National Annex) で定義されています。テクノロジー ソリューションは CDE だけでは機能しません。プロジェクト チームは標準規格に従ってプロセスを進めることで、CDE のテクノロジーを活用し、強化していくことができます。

主な要件は次のとおりです。

  • 図面、モデル、ファイル、その他のデータを含む各「情報コンテナ」に割り当てられた一意の標準識別子

  • 標準規格を採用する各国で定義された命名規則(国家付属書)

  • データにアクセスして使用する人がその信頼性、正確性、用途を確信できるように、データを分類し、特定の「適合性ステータス」を割り当てる

  • プロジェクト チームの関係者全員が特定の改訂版の、最新で正確な情報のみを使用して作業できるように、リビジョン管理を行う

  • 承認済みの情報のみが「処理中」から「共有」、「パブリッシュ」へと移行するように、情報フローと承認プロセスを管理する

  • 監査証跡

CDE の要点

  • 使いやすさ:ユーザー エクスペリエンスは共通データ環境の重要な要素です。効果的に活用するためには、使いやすさが大切です。つまり、直感的に操作でき、最小限のトレーニングでチームがシステムを理解でき、作業を開始できることが重要です。

  • アクセス性:クラウドベースの環境では、権限を有するユーザーはオフィスからでも現場からでも、必要に応じていつでもどこでも情報にアクセスできます。

  • 統合環境:CDE は現行のシステムやプロセスと連携して機能する必要があります。業務を分断している障壁を取り除き、全体的なコラボレーションを促進することが、CDE の目的です。

  • 標準化と拡張性:CDE によって、プロジェクト間のワークフローとプロセスを標準化することが可能になります。また CDE は、あらゆる規模や複雑性のプロジェクトに対応可能な拡張性を備えている必要があります。

  • 安全性:CDE は、データの整合性を維持しつつ、機密情報や専有情報へのアクセス管理ができ、安全である必要があります。

ISO 19650 対応の Autodesk BIM 360

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Autodesk BIM 360 は、オートデスクの提供する共通データ環境で、次の機能を搭載しています。

  • 権限管理
  • 監査証跡

  • ドキュメント/バージョン管理

  • メタデータのカスタマイズ

  • 設計ワークフローの統合

  • 設計ファイルやその他の業務ファイルの表示

  • 2D/3D 表示と比較

  • 承認ワークフロー

  • データ伝送

  • マークアップと指摘事項の管理

  • モバイル デバイスからのアクセス

  • レポートと解析

  • 一意のファイル名の命名をサポート*

  • ファイル命名規則のサポート*

  • リビジョンとステータス*

  • 強化されたレビュー/承認ワークフロー*

*現在、限定ベータ版で利用可能

CDE 導入のベスト プラクティス

  • 部門ごとに WIP(処理中)、Shared(共有)、Published(パブリッシュ)フォルダを設定します。また必要に応じて Archived(アーカイブ)フォルダも設定します。[Project Files](プロジェクト ファイル)フォルダを使用します。BIM 360 Docs では既定で、英数字順でフォルダが表示されます。フォルダの表示順序を整理するために、「01-WIP」、「02-Shared」、「03-Published」のような番号/ラベル形式でフォルダ名を付けます。
  • 役割ベースまたは会社ベースの権限をフォルダごとに設定します。BIM 360 ではフォルダ レベルで権限を設定できます。フォルダに設定された権限は、フォルダに含まれるすべてのサブフォルダとドキュメントに適用されます。権限レベルは、「表示のみ」から完全な管理コントロール権限まで幅広く設定できます。

権限レベルには次が含まれます。

  • 表示のみ:ユーザー/役割/会社は、ドキュメントの表示、非公開マークアップの追加、指摘事項の作成を行えます。
  • 表示 + ダウンロード:ユーザー/役割/会社は、ドキュメントの表示、非公開マークアップの追加、指摘事項の作成を行えます。
  • アップロードのみ:ユーザー/役割/会社は、ドキュメントをアップロードできますが、フォルダの内容を表示することはできません。
  • 表示 + ダウンロード + アップロード:ユーザー/役割/会社は、そのフォルダで自身のドキュメントをチーム メンバーと共有できるほか、そのフォルダ内の他のドキュメントを表示できます。
  • 表示 + ダウンロード + アップロード + 編集:ユーザー/役割/会社は、そのフォルダで自身のドキュメントをチーム メンバーと共有できるほか、そのフォルダ内の他のドキュメントを表示・編集し、公開マークアップを追加できます。
  • フォルダ コントロール:ユーザー/役割/会社は、そのフォルダで自身のドキュメントをチーム メンバーと共有できるほか、そのフォルダ内の他のドキュメントを表示・編集できます。フォルダ コントロール権限を持っている場合、通常はプロジェクト管理者のみが実行可能なタスクを、そのフォルダ内で実行することもできます。実効可能なタスクには、タイトル ブロックの作成、プロジェクト メンバーの追加、権限の管理、セット割り当ての編集などが含まれます。この権限レベルには、そのフォルダにおける最大限の権限が付与されます。

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  • テンプレート プロジェクトを設定しておくと、プロジェクト用 CDE を簡単に作成・追加できるので便利です。テンプレート プロジェクトとは、フォルダと役割ベースの権限が設定された BIM 360 Docs プロジェクトです。BIM 360 の Account Admin モジュールで新しいプロジェクトを作成する際に、テンプレート プロジェクトを選択して[プロジェクトの設定をコピー]します。
  • Project Admin モジュールでプロジェクト メンバーを追加し、役割や会社を割り当てます。プロジェクト メンバーのアクセス権限は、役割や会社に基づく設定でコントロールされます。その後、プロジェクトメンバーをプロジェクトに追加したり削除した場合は、役割や会社に基づき、当該のユーザーに適切な権限が付与されます。
  • Project Admin モジュールの Document Management >[レビュー]タブで、レビューと承認のワークフローを設定します。順番にレビューを進めるステップと、グループでレビューを進める並行レビューのステップからテンプレート(1~6 ステップ)を選択します。

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  • 各ワークフローのステップに、ユーザー/役割/会社を割り当てることができます。また、ワークフローをコピーしてステップを調整し、追加のワークフロー テンプレートを簡単に作成することもできます。

詳細については、解説ビデオをご覧ください。

ジョーン・アレンは、Autodesk Construction Solutions 部門でドキュメント管理と建設記録管理プラットフォームの製品管理を指揮しています。また、建設業界における施工管理とテクノロジーの分野に 30 年以上携わってきた経験をもつ、プロフェッショナルの土木設計者でもあります。オートデスクに入社後は、建設プロジェクト チームの連携強化と、プロジェクト デリバリーのワークフロー改善を目指して、Autodesk BIM 360 Docs、Autodesk BIM 360 Glue、Autodesk Buzzsaw などの革新的なクラウド ソリューションの開発に取り組んでいます。

アンジェラ・イーは、Autodesk Construction Solutions 部門ドキュメント管理チームのシニア プロダクト マネージャーとして、共通データ環境に取り組んでいます。彼女は建設業界で建築設計、施工管理およびテクノロジーに 15 年以上携わってきたプロフェッショナルの建築設計者です。オートデスクに入社後は、業界最前線で、BIM 360 Docs ユーザー向けの高度なドキュメント管理/コンプライアンス ソリューションの開発に取り組んでいます。

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