建設業界におけるデジタル変革:日本の現状と統合型ソリューションの役割

日本の建設業界: 長年の課題と変革の芽

日本の建設業界は、国内総生産の約5.5%を占める基幹産業です(日本建設業連合会)。これまで質の高いインフラ整備や住宅建設を通じ、日本の経済と国民生活を支えてきました。しかし同時に、生産性の低さや慢性的な人手不足、受注環境の悪化など、長年にわたる構造的な課題を抱えてきました。この生産性の低さ(国土交通省「建設現場の生産性に関する現状」)は、建設業界が熟練作業員に過度に依存した典型的な下請け構造を長らく維持してきたことに起因します。現場では熟練工の経験と感覚を頼りに作業が行われるのが一般的で、設計変更などが生じると関係者間での対面調整が不可欠となり、生産性を劇的に低下させていました。

慢性的な人手不足と高齢化の進行

日本の建設業界が抱える最大の課題は人手不足で、長らく人材の確保が非常に困難な状況が続いています(国土交通省「建設労働受給調査」)。また、従事者の高齢化も深刻な問題となっています。統計によると、建設業では55才以上が占める割合が他の産業と比べて多く、29才以下の占める割合が少ないことがわかります(日本建設業連合会および国土交通省)。熟練労働者の減少と若手入職者の減少が同時に進行しており、現役作業員の経験とノウハウが次世代に十分に継承されていない現状があります。

受注環境の悪化と災害リスク増大

さらに、公共工事を中心に受注額は減少傾向にあり、建設業者間での低価格競争が一段と激しくなっています。また地震や洪水など近年の自然災害の増加により、災害リスクにさらされるケースも多くなってきました。一方、自治体の財政は逼迫しており、老朽化したインフラの維持・更新費用の確保も難しくなっています。

このように日本の建設業界は、根深い課題を抱え込んだまま厳しい環境に置かれています。しかし、近年注目を集めているDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、これらの課題解決に向けた大きな一歩を踏み出す機会が訪れています。

生産性向上とデータ連携の実現に向けて

DXは、従来の紙ベースや現場主体の作業を見直し、データとデジタルツールの活用によって生産性を飛躍的に高める取り組みです。建設業界における世界的なDXの潮流を見ると、3次元の設計データと実際の施工状況をリンクさせ、関係者で共有するBIM(Building Information Modeling)の活用が中心になっています。

設計や施工計画の段階から、3次元データによるシミュレーションと検証が可能になれば、ミスや手戻りを大幅に削減できます。さらに設計・監理者と施工者がデータを共有することで、変更への素早い対応と無駄のない施工が可能になります。

また、作業工程の記録をデータ化し、クラウド上で共有できれば、作業員の熟練度に頼らずに適切な施工が実現でき、若手作業員の育成にも役立ちます。さらには、過去のデータを分析・活用することで、受注時の適正な見積作成や、建設リスクの予測など、経営判断の高度化にもつながるはずです。

しかし現状では、建設業界のDX推進は個別の取り組みに留まっているのが実情です。ツールの統合や関係者間でのデータ連携が不十分なため、現場の生産性向上につながっていないケースが多く見られます。

DXのボトルネックとソリューション

建設DXに向けた取り組みにおいて、最も深刻な課題は「現場とデータ・システムの分断」と言えるでしょう。設計や施工管理はデジタルツールを使っても、実際の現場作業は今でも手作業にほぼ依存しています。作業記録もアナログ的で正確性に欠けるケースが少なくありません。つまり、現場とデータ・システムに大きなギャップが生まれているのです。

また、ポイントソリューションの氾濫も問題になっています。特定の業務を合理化するための単体ソフトウェアが乱立したため、データの連携が困難になり、かえって非効率を生み出してしまっています。

建設プロジェクトのための統合型ソリューション

このような課題を解決するには、単なる点でのデジタル化ではなく、プロジェクト全体を繋ぎ、ステークホルダーが容易にアクセス可能なプラットフォームの導入が不可欠です。例えばオートデスクのACC(Autodesk Construction Cloud)では、プロジェクトの計画段階から完成まで管理をシームレスに行うことができ、発注者、ゼネコン、サブコン、設計事務所、管理会社などあらゆるステークホルダーが安全にアクセス可能です。

誤った選択をしないために、次の5つのポイントを押さえておきましょう。

  1. データアクセス権の所在

ステークホルダー全員が、作成したデータを自由に所有・アクセスできるか。セキュリティを確保しつつ、情報共有とデータ活用が柔軟に行えるかが重要です。

  1. プロジェクトライフサイクル全体をカバー

設計から建設、運用・維持管理までの一連のフェーズを統合できるかどうか。契約前から引き渡し後までシームレスにつながっているかを確認しましょう。

  1. 包括的なトレーニングとサポート体制
    導入時の研修はもちろん、運用フェーズでの手厚いサポートが受けられるか。新しいワークフローの定着を全面的にバックアップしてくれるかが肝心です。
  1. 開かれたエコシステムと連携範囲

他のベンダーやシステムとの連携が自在に行えるオープンなプラットフォームか。専用アプリの活用やシステム間のインテグレーションができるかどうかが重要です。

  1. 柔軟な料金体系とTCOの最適化

不要な機能や固定費用をかけずに済み、プロジェクトや従業員数に合わせて最適なプランが選べること。総所有コスト(TCO)を最小化できるかが重要なポイントです。

ACCのような統合型のプラットフォームなら、単にデジタル化を進めるだけでなく、建設業界が長年抱えてきた課題を包括的に解決できる可能性があります。

日本の建設業界を取り巻く環境は一層厳しさを増していますが、DXは危機を脱却する大きな力となるでしょう。部分的なソリューションに頼るのではなく、こうした統合ソリューションの導入により、日本の建設業界が抱える深刻な課題に包括的に対処し、新たな飛躍に向けた大きな一歩を踏み出せるはずです。

山根 知治

2002年オートデスク入社。
Buzzsawからはじまり、BIM360、そしてACCと3代に渡り
クラウドサービスのカスタマーサポート、プロダクト
スペシャリスト、チャネル&アカウント営業を経て、
現在は技術営業を担当。 これまでの建設、土木、プラント、
エンジニアリング業界といった幅広い分野での経験から、
ユーザーが建設ライフサイクル全体にわたる生産性向上を
実現するために日々活動している。