ACWA Robotics の自律型ロボットが水資源のレジリエンスへの道を切り拓く

世界的な水道システムのひっ迫に直面する中、ACWA Robotics は、配管内を移動して漏れを検出し、修理を最適化する自律型ロボットでイノベーションを起こしています。このフランスのスタートアップ企業が、どのようにしてテクノロジーを活用してサステナビリティを高め、貴重な水資源を保護しているのかをご紹介します。


画像提供:ACWA Robotics

エンジニアたちが ACWA Robotics のテスト モデルを水道管の中に沈めようとしている。

マーク・ドゥ・ウルフ

2024 年 9 月 4 日

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  • 世界中の水道システムは、人口増加、都市のスプロール現象、気候変動の重圧にさらされ、ひっ迫しています。浄水の必要性が高まる中、配管の漏水により数兆ガロンもの水が失われています。

  • 差し迫った環境問題に対応すべく、デザインと創造の企業はサステナビリティを優先しています。フランスのスタートアップである ACWA Robotics のようなイノベーターは、テクノロジーを活用してサステナビリティの問題に取り組み、新たなビジネスを構築するソリューションを開発しています。

  • ACWA 独自の自律型ロボットは、水道システムの配管内を移動し、注意が必要な箇所に関するデータを取得するように設計されています。これにより、水道事業者は高額な修理や配管の更新を最適化し、貴重な水資源を保護することができます。

世界中で水道システムがひっ迫しています。毎年人口が増加し、さらに多くの建物が建設される中、古い配管は老朽化(英語)しています。米国では、何兆ガロン(英語)もの飲料水が漏水や破損によって失われており、その修理費用は驚くほど膨大です。米国の老朽化した水道ネットワークを修復するだけで、今後 20 年間で推定 6,250 億ドル(英語)の費用がかかる見込みです。

気候変動はこの問題をさらに悪化させるだけで、浄水へのアクセスは既に世界的な緊急課題となっています。今年、ヨハネスブルグ (英語) では水道水が枯渇し、メキシコシティ(英語)では水道管や給水設備の老朽化により最大 40% の水が失われています。

しかし、希望が見えてきました。世界中のデザインと創造の企業が、サステナビリティを優先事項として深刻な環境問題に対応しています。オートデスクの『2024 年版 デザインと創造の業界動向調査』(英語)レポートによると、全業界の企業の 97% がサステナビリティを向上するための対策を実施しています。こうした企業は環境目標を達成するためにテクノロジーに目を向けるとともに、革新的なソリューションを開発して新たなビジネスを構築する機会を生み出しています。

フランスのスタートアップである ACWA Robotics も、その 1 社です。水道業界が直面している重要な課題に対処するため、配管システム内を移動してデータを収集するロボット ソリューションを開発し、より効率的な水道管理を実現します。

水道システムを改善するためのビジョン

ACWA のセグメント化された円筒形の自律型水中ロボットが、テスト配管への投入を待っている。

ACWA の自律型水中ロボットが、水道管内の状況をシミュレートするテスト環境に投入されるのを待っている。画像提供:ACWA Robotics

「ACWA は、Autonomous Clean Water Appliance(自律型浄水装置)の略です」と、ACWA Robotics(英語) のマネージング ディレクターである Jean-François Guiderdoni 氏は説明します。「世界中で 4,000 万キロメートルの配管が、建物、住宅、企業に浄水を届けています。この配水のバックボーンによって運ばれる水のうち、平均 20 ~ 40% が失われています。これは膨大な量であり、配管の状態に関係しています」

この状況を改善するために、水道事業者はより多くの配管を更新、修理、交換して、水の損失を減らす必要があります。しかし、Guiderdoni 氏は次のように述べています。「そのようなインフラはすべてかなり前に設置され、埋められているため、いつ、どこを更新すべきかは正確にはわかりません」

水道事業者に必要な情報を提供するため、ACWA Robotics は、水の供給を中断することなく、何マイルもの配管を自力で移動できる多関節モジュール式ロボットの開発に先駆的に取り組んできました。このロボットは曲がりくねりながら移動し、複数のセンサーがデータをキャプチャして弱っている箇所や漏水箇所を特定し、さらに一般的に潜在的な問題箇所を特定して、水道事業者が効率的に対策を進められるように支援します。

エンジニアには不可能な場所でもスマート ロボットなら到達可能

自律型ロボットが水道管の中を移動しながらデータを収集している様子を示す水中画像。

ロボットは水道管の中を移動しながら、水道管の状態や潜在的な問題箇所に関するデータをキャプチャする。画像提供:ACWA Robotics

同社のインテリジェントな配管ロボットの目的は、水道ネットワークの状態に関する完全なデータ セットを収集することです。「私たちは、フィーダーやメインと呼ばれる大型の配管を扱っています」と、Guiderdoni 氏は言います。「これらは戦略的な配管であり、破損すると都市全体や近隣地域に影響を与え、莫大な経済的損失を引き起こし、都市の活動全体を停止させる可能性があります」

このロボットは、高精細画像や一連の非破壊検査(NDT)技術を活用し、配管の直径、さまざまな場所における配管の残存肉厚、腐食が進行している箇所などの指標をキャプチャします。ACWA のロボットは、走行条件の評価だけでなく、固定されたセンサーが届かない箇所の水温、pH、流速、濁度などの測定値も収集できるため、水質とパフォーマンスの向上に役立ちます。

配管に沿ったロボットのルートは、移動が始まる前に確立されます。ポイントは経度、緯度、高度で地理的に参照され、同社によると、誤差 40 cm 以内で位置を調整できます。ロボットはミッションを完了すると、進入地点または事前に定義された出口エリアに戻ります。

ロボットを実現

屈曲して水道管の中を移動している多関節ロボットのレンダリング。

多関節ロボットが屈曲して水道管の中を移動している様子を示すレンダリング。画像提供:ACWA Robotics

当初から、ACWA の課題は、水道管の中を移動するために十分にコンパクトで柔軟性のあるユニットを設計することでした。水の流れを妨げないほど小さく、それでいてデータ収集に必要なシステムを搭載できる大きさが必要です。

そこで同社は Autodesk Fusion を活用し、アルミニウム製の本体に 250 個の部品を組み立てて、ロボットを実現しました。事前に構築済みの部品は、モーター、ボール ベアリング、シャフト シール、ナットとボルト、バッテリーのみです。それ以外はすべて、ロボット専用に設計されています。

ロボットの設計グループは、機械設計と電子設計の 2 つのチームに分かれています。Fusion は、両チームがシームレスにコラボレーションし、2D と 3D のブループリント、3D レンダリング イメージ、カスタム回路基板、電子カード、機械部品を作成するのに役立ちました。チームは Fusion Simulation Extension を使用して、応力と熱のシミュレーションの正確な解析を実施して収集しています。

AI による自律能力の構築

2 人のエンジニアが、ACWA の自律型ロボットの試作モデルを持って、テストのために地上に設置された大きな配管に運んでいる。

ACWA Robotics は、水圧を最大 250 PSI、流量を最大 1.5 m/s まで上げる過酷な条件をシミュレートして、自律型ロボットをテストした。画像提供:ACWA Robotics

配管を走行するロボットが収集したデータは、漏水を特定するだけでなく、配管の構造評価を確立するために使用されます。「コンクリート配管の腐食、接合部の故障、亀裂が多い箇所をクライアントに伝えることができます」と、Guiderdoni 氏は説明し、この情報により「漏れが発生する前に介入する」ことができると付け加えました。

構造評価情報から、「水道事業者が修理すべき箇所と何もすべきではない箇所、今年、または 2 年、3 年、4 年、5 年後に配管を更新すべき箇所を判断するのに役立つ一連の手がかり」が得られると、同氏は言います。「最終的な目標は、配管の状態とどのように資金を使うべきかを水道事業者に明確に把握してもらうことです」

今後の開発段階では、ACWA のロボットが人工知能(AI)機能を採用し、データ収集方法を改善する予定です。「AI により、ロボットはミッションに動的に適応できるようになります」と、同氏は言います。「たとえば、ロボットが水道管内の写真を撮影するときに亀裂を検出するかもしれません。その亀裂が一定の形状と長さであれば、ロボットは停止して近づきます。これは、AI がより正確なデータを収集しつつ、水道管のメンテナンスを事前にサポートする方法の 1 つにすぎません」

サステナビリティへの注力が新たな人材を引きつける

ACWA の自律型ロボットを持つ作業員が、別の作業員が待っているマンホールの隣にひざまずいている。

ACWA の地元であるコルシカ島のバスティア市にある水道事業者 Aqua Publica とともに、作業員たちがプロトタイプ ロボットのパイロット テストを実施している。画像提供:ACWA Robotics

ACWA Robotics のテクノロジーは進化し続けていますが、デザインと創造の業界(英語)の多くの企業と同様に、優秀な人材の採用は同社にとって継続的な懸念事項です。「人材の発掘と維持は、特にエンジニアの場合は難しい課題です」と、Guiderdoni 氏は言います。「私たちにとって重要なのは、適切な人材を見つけることです」

しかし、「重要なサステナビリティの問題に取り組む」という ACWA の中核的なミッションは、新たな人材を獲得する際に同社に優位性をもたらしています。『デザインと創造の業界動向調査』によると、ビジネス リーダーの 72%(英語) が「人材維持につながる最大の魅力はサステナビリティである」と考えています。

Guiderdoni 氏は、若い従業員は報酬ややりがいのある仕事だけでなく、世界にプラスの影響を与えているという感覚によってモチベーションが上がると述べています。「サステナビリティに取り組み、影響を与えたいと願う新たな世代の人たちがいます」と、同氏は言います。「当社に加わった人たちは、仕事を通じて技術的な課題に直面しながら、自分のしていることがもたらす影響を実感できます。自分が単なる機械の歯車ではないことを知っているのです」

わずかなしずくから、急流へ

今日の水道システム管理者は、無駄や認識不足、怠惰といった課題に対処しなければならない圧力が一層強まっています。特に、インフラ投資に関する意思決定が先送りされる主な原因は、怠惰です。

「水の中では、物事はゆっくりと変化します」と、Guiderdoni 氏は言います。「私たちは新しいテクノロジーをかなり保守的な環境に導入していますが、現在は破壊的イノベーションの傾向があります。以前は、水道事業者が次のように発言したことがあったかもしれません。『多少の水の損失は必ずあるものです。問題があれば、値上げすればいいのです』今では、水道事業者は価格が限界に達していることを認識し、さらに高騰しているため、パフォーマンスの向上に取り組み始めているところです」

「メディアの圧力、企業の圧力、新たな規制、欧州委員会や各国政府によるインセンティブなど、サステナビリティの強化を求めるプレッシャーの源は数多くあります。政府も企業も、サステナビリティには多くの経済的可能性があることに気づいているのです。それが実際に価値を創造し、好循環を生み出しつつあります」

— ACWA Robotics 社マネージング ディレクター/Jean-François Guiderdoni 氏

また、より環境に配慮した行動をとらなければならないという圧力も高まっています。『デザインと創造の業界動向調査』レポートによると、5 社中 4 社が、各方面の関係者からの要求により、サステナビリティ対策を採用する意欲(英語)を持っています。「メディアの圧力、企業の圧力、新たな規制、欧州委員会や各国政府によるインセンティブなど、サステナビリティの強化を求めるプレッシャーの源は数多くあります」と、Guiderdoni 氏は言います。「政府も企業も、サステナビリティには多くの経済的可能性があることに気づいているのです。それが実際に価値を創造し、好循環を生み出しつつあります」

水道事業者が気候変動による需要の増大に対処する中、既存の資源の価値を最大化することが重要です。これは、サステナビリティの基本原則です。Guiderdoni 氏は、最近の業界の変革には、水道管の漏水をスマートかつ正確に発見するための新しいテクノロジーの急増が含まれていると指摘しています。「次の段階を推し進めるのは資産管理です。つまり、配管が壊れる前に行動するということです」と、同氏は言います。「人々は今、水、特にその配水インフラに迅速に対処する必要があることを意識し始めています。私たちが影響を与え、今後数年間で水道事業者が変革できるよう支援する能力を示せたことに、大きな手応えを感じています」

マーク・ドゥ・ウルフ

マーク・ドゥ・ウルフについて

マーク・ドゥ・ウルフはテクノロジーのストーリーを専門とするフリーランス ジャーナリストで、コピーライターとして受賞歴があります。トロントに生まれ、ロンドンで育ち、チューリッヒを拠点に活動しています。お問い合わせは、markdewolf.com まで。