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BIM とクラウド コラボレーションで、 水道システムのレジリエンスを強化

BIM とクラウド コラボレーションで、
水道システムのレジリエンスを強化

The future of making

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All images courtesy of Arcadis except where noted.

社会に欠かせない水道インフラのリノベーションを、テクノロジー ツールで大幅に効率化および迅速

社会に欠かせない水道インフラのリノベーションを、
テクノロジー ツールで大幅に効率化および迅速

2014 年夏、オハイオ州エリー湖で有毒な緑藻が大量繁殖し、その影響で、トレド市の老朽化した浄水場が、数日間にわたって飲料水を住民に供給できなくなる事態が発生しました。同市はこの非常事態を受けて、80 年前に建設された浄水場の改修および拡張を、世界的な設計・エンジニアリング コンサルタント会社の Arcadis に依頼しました。Arcadis 社は、地域に安全な水を供給するために、ビルディング インフォメーション モデリング(BIM)とクラウド コラボレーションの高度なテクノロジーを利用して浄水場を改修し、レジリエンスを強化するための設計を作成しました。さらにこの設計プロセスをきっかけに、同社の業務システムも変革しました。

非常事態:水道水を飲まないで

2014 年 8 月 2 日、(OEPA)は、オハイオ州トレド市中西部の住民に「水道水を飲まないように」という勧告を出しました。エリー湖で大量発生した有害藻類ブルーム(HAB)によって、市の水道水がミクロシスチンと呼ばれる毒素で汚染されてしまい、50 万人近くの住民に使用可能な水道水を供給できなくなったのです。HAB の毒素に曝されると、胃腸疾患、皮膚や目の炎症、呼吸器系の障害、さらには肝不全を患う恐れがあります。オハイオ州知事は非常事態を宣言し、州兵と赤十字社が給水センターを設置しました。

3 日後には宣言が解除され、住民は以前のように水道水を飲んだり、料理や入浴に使えるようになりましたが、トレドなどの都市が水源として利用している淡水湖や貯水池では、暖かい季節になると HAB が発生するため、地域の住民にとっては依然として脅威となっていました。同市は、よりレジリエントな水道システムを確保するために解決策を模索しました。

2014 年 8 月にトレド市の水道設備を汚染したエリー湖の有害藻類ブルームの衛星画像。画像提供:NASA GFSC

トレド市の水処理能力を拡大

OEPA は、給水の安全性を確保するために、トレド市のコリンズパーク浄水場を改修する命令を出しました。同市は、この緊急の要請に対応するために、世界中の水道施設を設計した経験をもつグローバルな設計・エンジニアリング・管理コンサルタント会社 Arcadis に、この改修プロジェクトを依頼しました。

この浄水場には 1 日あたり 1 億 2,000 万ガロンの水を安全な飲用水へと処理できる貯水槽が 6 つありましたが、これに加えて 2 つの新しい貯水槽を追加することになりました。Arcadis 社は、その設計と施工監督を担うとともに、施設の古い水処理装置も一部改修することになりました。「このプロジェクトでは、浄水施設に冗長性を追加し、容量を拡大することで、藻類の毒素の処理能力を上げることを計画しました」と Arcadis 社のプロジェクト マネージャー、Kurt Smith 氏は話します。それは、貯水槽の修理が必要となった場合に、住民への給水が滞ることがないようにするための対策でした。新たに設置する貯水槽 7 と 8 は、それぞれが一日あたり 2,000 万ガロンの水を蓄えることができ、これらを追加することで、浄水場が一年中メンテナンスを行えるようになります。

コリンズ パークの敷地のレンダリング。既存施設の右側に青色で表示されるのが、新しい貯水槽 7 と 8。

 

プロジェクトと施工現場のタイトなスケジュール

コリンズ パーク浄水場は、1950 年代に拡張されました。その当時に作成された施設の図面は、旧式の紙の図面です。「保管されていた当時の図面に、建設された施設の現況が正確に反映されているようには見えませんでした。そこで私たちは既存の施設を図面に落とし込む必要があったのですが、この作業には精密な正確性が求められました」と Arcadis 社の上下水環境コンサルティング エンジニアリング ビジネス部門 BIM マネージャー兼デザイナーを務める Julie Nicholson 氏は話します。

同社が施設の改修を進める間も、浄水場の運営は継続する必要がありました。施工現場のスケジュールは非常にタイトでしたが、同社のチームはさらに、7,200 ボルトの地下電力ループや、藻類毒素を処理するための追加のオゾン システムなど、さまざまな改修プロジェクトも進める必要がありました。OEPA の定めた期限が迫るなか、Arcadis 社は 5 人の外部サブコンサルタントと共に作業にあたることを計画していました。この状況下では、効率的なワークフローとコミュニケーションが不可欠でした。

会に欠かせない水道インフラのリノベーションを、テクノロジー ツールで大幅に効率化および迅速化

 

3D モデリングによるステージ設定

2016 年、Arcadis 社はコリンズ パーク拡張の設計フェーズを開始し、施設の改修と 2 つの新しい貯水槽の設計に取り組みました。この作業には、生水を処理するためのカスケード型の多段階処理プロセス用の新しい配管の設計も含まれます。同社にはまず、浄水場の現況が正確に反映されたモデルが必要でした。そこでチームは ReCap を使用して、現場の測量データと 3D スキャン データを点群データへと変換し、Revit でモデルを作成しました。さらに Infraworks を使用して、浄水場のサーフェスとユーティリティ設備の GIS データを追加しました。

同社はその後 2 年をかけて、現場の Revit モデルを 13 個作成し、Navisworks とその干渉検出機能を使用してエラーを早期から検出および修正することで、コストのかかる手戻り作業の発生を防ぎました。このモデルは、市当局と共に作業のレビューを行う際にも、インタラクティブなツールとして役立ちました。「モデルの中をウォークスルーしながら、改善点を確認し、最終的にはどうなるかをオーナーに見せることができます」と Smith 氏は話します。

流水洗浄施設の 3D モデルには、浮遊藻類を除去するためのスキマーや、処理水をさらにろ過するための堰などの水処理設備が示されています。

 

リアリティ キャプチャからデジタル モデルを作成

  • 浄水場の現況をとらえた 3D スキャン。チームは点群データとリアリティ キャプチャ テクノロジーを使用して、3D モデルを作成しました。

  • 3D モデルは、凝集槽の設備の配置を示しています。凝集剤を添加して粒子と結合させることで、不純物を簡単に除去できる仕組みの装置です。

  • 拡張現実のオーバーレイを使用すると、3D モデルと現場の環境を比較しながら確認できるため、建設可能性の問題を特定するのに役立ちます。

ゲーム チェンジャーとなったクラウド コラボレーション

ゲーム チェンジャーとなった
クラウド コラボレーション

リモート環境におけるチーム間のコラボレーションでは、ファイルのダウンロードやメールのやり取りに余計な時間がかかるため、プロジェクトの遅延が生じる可能性があります。多くのグローバル企業と同様に、Arcadis もこの点に懸念を抱いていました。「私たちは、意匠、構造、機械、空調、電気、I&C、土木工事と、あらゆる分野の仕事を手がけてきました。そうしたプロジェクトでは、異なる分野の関係者間で変更の調整を行う際に、よく問題が生じます」とコリンズ パーク プロジェクトの Nicholson 氏は話します。

そこで Arcadis 社はオートデスクと提携し、10 ヵ月間にわたって試験的にクラウド コラボレーションを試してみることにしました。「私たちは、BIM 360(現在は BIM Collaborate Pro に名前が変更されました)を利用することで、どれくらい時間を節約できるか試し、結果を数値化することを目指ました」と Nicholson 氏は話します。Arcadis チームは、サブコン各社に対して、プレゼンテーションやトレーニングを含むオンボーディングを実施し、フロリダからオハイオまで分散するチーム メンバーとコラボレーションしながらプロジェクトのワークフローを進めました。

浄水場のライブ ビデオ フィード、リアリティ キャプチャ、BIM 360 などのツールを使用したリモート コラボレーションは、プロジェクトに欠かせないソリューションとなりました

 

オフィスと現場がバーチャル環境で連携

2 年間の設計プロセスが完了後、2018 年に入札が実施され、コリンズ パークの施工フェーズが始まりました。Arcadis 社の BIM チームは、ライブ ビデオ フィードやリアリティ キャプチャによるリモート アシスタンス セッションを使用して、浄水場の現場チームと連携しました。Arcadis 社は、建設現場の 360 度写真で建設の進捗状況を監視できました。また、そのデータを記録用の現場モデルに統合し、チーム メンバーがバーチャル環境で確認できるようにしました。

「私たちは拡張現実(AR)を使用して、現場の状況とモデルをオーバーレイさせながら、建設可能性に問題がないか確認しました」と Nicholson 氏は言います。建設チームは Microsoft HoloLens ヘッドセットを使用して、3D モデルを現場にオーバーレイしながら確認し、設計と現場の整合性を検証し、相違点の検出と文書化を行いました。

ビデオを見る(1 分 27 秒)Arcadis が拡張現実(AR)を使用して 3D モデルと建設現場の現況をオーバーレイし、設計と現場の整合性を確認する様子をご覧ください。

リノベーションの次の段階に向けた準備

貯水槽 7 と 8 は、2020 年後半に予定通り完成しました。「既存の浄水設備の改修を始める前に、まずは 4,000 万ガロンの浄水設備を追加する必要がありました。その後、貯水槽 1 ~ 6 の改修とフィルター パイプ ラインの改修という 2 つのプロジェクトを開始し、現在も進めています」と Smith 氏は話します。

このコリンズ パーク浄水場の改修工事は、5 億ドルをかけた 10 年間におよぶ複雑なプロジェクトです。その一部である貯水槽 7 と 8 の拡張工事は、新型コロナウィルス感染症のパンデミックという混乱した事態の中でも、遅れることなく順調に進められました。この大規模プロジェクトの監督を市当局から依頼された施工管理専門会社は、パンデミックに伴う規制に従って作業員の人数制限を行ったり、サプライチェーンの問題を調整したりしましたが、それによって Arcadis の作業が混乱することはありませんでした。設計チームはリモート コラボレーション機能を活用することで、安全プロトコルに準拠しつつ、バーチャル環境を通じて現場を訪問することができました。

貯水槽 7 と 8 の建設は、10 年にわたる大規模改修プロジェクトの一部として調整されました。

 

設計時間を 1,000 時間短縮し、厳しい納期に対応

BIM Collaborate Pro を設計プロセスに使用することで、Arcadis 社はコリンズ バーク プロジェクトの設計時間を 1,000 時間以上節約し、OEPA の厳しい入札期限に間に合わせることができました。電子メールのやり取りやデータのダウンロードなどの手間がなくなったことでプロジェクトの調整も改善し、ファイル転送によるタイム ラグを約 80% 削減することができました。サブコン各社とクラウド上で連携することで、すべての関係者が変更を即座に確認できるようになりました。

「すべてのサブコンに 1 つのモデルを共有しながら作業してもらいました。一部の関係者にとってはこれが初めての試みでしたが、作業の効率化とエラー防止に役立ちました。同じモデルで作業するため、全員が常に最新状況を把握することができます」と Smith 氏は話します。 精度を高めることで、施工業者の入札の質も向上し、変更管理や情報提供依頼を最小限に抑えることができます。サプライヤーは、オフサイトで事前に機器を組み立てることで、より迅速かつ正確に現場での組み立て作業を行うことができます。「施工業者の作業時間とコストを削減することができました。これはもちろん、オーナーである市にとってのメリットにつながります」と Smith 氏は言います。

現場の写真と 3D モデルを、360 度の現場の記録モデルに組み込むことができます。

 

「これは私たちにとって、クラウドベースのコラボレーションを始めるための第一歩となりました。私たちはさまざまな使用方法を比較検討し、それぞれのメリットを確認しました。結果的にはいいことづくめです。当社は今ではすべてのプロジェクトを BIM Collaborate で行っていますし、提携しているサブコン各社も同様です」

—Arcadis 社 北米 BIM マネージャー/Julie Nicholson

レジリエントな水道システムを支えるテクノロジー

コリンズ パーク浄水場の改修プロジェクトは、2023 年に完了する予定です。テクノロジーと高度な設計によって、すべての貯水槽がアップグレードされ、水道システムのレジリエンスが向上するでしょう。Arcadis 社は竣工時に、浄水場の現況が反映された BIM モデルを、完成した浄水場と共に納品します。このモデルはその後、浄水場の統合データとして、保守・運営に利用されます。2014 年の飲料水危機が繰り返されることのないように、有害な藻類の繁殖からシステムを守る上で役に立つでしょう。

Arcadis 社は、3D モデリングとクラウド コラボレーションを活用して、老朽化した浄水場の改修という課題に取り組みました。そして同社は、コリンズ パーク プロジェクトで時間とコストの節約を実現した成果に基づき、グローバルな組織全体に BIM Collaborate Pro と Revit を導入することを決定し、提携するサブコン各社にも導入を要請しました。改善されたワークフローを全面的に標準化することで、そのメリットが、同社が今後手がけるすべての上下水道システムの設計プロジェクトにもたらされます。

新しい貯水槽 7 と 8 の建設は、新型コロナウィルス感染症のパンデミックという混乱した事態の中でも、遅れることなく順調に進められました。2020 年春に両方の貯水槽の稼働が開始され、同年の後半には仕上げ作業も完了しました。