株式会社 HACARUS
Fusion 360 が AI 事業に
新たな付加価値をもたらす
FUSION 360
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量産化や軽量化に貢献するエレメカ連携とジェネレーティブ デザイン
電気回路と筐体設計のエレメカ連携とジェネレーティブ デザインによる強度と軽量化の両立は、AI のデータ測定に新たな価値を提供します。
— 大西 理王 氏 , 株式会社 HACARUS 開発部 CPO(チーフプロダクトオフィサー)
株式会社 HACARUS 開発部 CPO(チーフプロダクトオフィサー)大西 理王 氏
『次世代の「はかる」をあらゆる産業に』をミッションとし、医療、製造業、インフラ領域でサービスを展開する株式会社 HACARUS。同社は 2014 年の設立から、独自のスパースモデリング技術を AI に応用し、人の知見を資産化してオペレーションの効率化や省人化に貢献してきた。同社の開発部では、AI での解析に必要なデータを収集するモジュールや外観検査を実施するロボットアームに取り付けるアダプタなどの設計に、Fusion 360 のエレメカ連携とジェネレーティブ デザインを活用し、量産化や高精度な検査に求められる装置開発を推進している。
Fusion 360 のエレメカ連携を活用した背景について、開発部 CPO(チーフプロダクトオフィサー)の 大西 理王氏は、次のように振り返る。
「きっかけは、自分が HACARUS の CPO として参加したことでした。以前から、当社では AI のデータ収集のために計測器や自社設計のモジュールを組み合わせた製品の開発を実践していました。新規事業の立ち上げを迅速に進めるといった背景から、当時はデータ収集という目的を満たすための開発が優先され、外観や量産化などに配慮した設計まではあまり手が及んでいない状況でした。」
大西氏が参加する以前から開発が進んでいた「犬の肉球から心電図データを取得しデータを可視化する装置」のプロトタイプでは、心電図を取得するシートに接続するデータ収集モジュールは、必要最低限の機能を実現するために、サイズや見た目は後回しにされた設計になっていた。大西氏は「以前のモジュールでも、必要なデータは収集できました。しかし、心電図を取得する装置は、住友ファーマアニマルヘルス社と協力して、動物病院への導入やモニター公募を推進していくためには、獣医の先生方にとっての扱いやすさも重要でした。そこで、自分が設計し直そうということになり、電気の設計と 3D CAD が使えるソフトを探して、Fusion 360 のエレメカ連携を知りました」と開発の経緯を語る。
獣医師のための獣医療支援プラットホームサービス「あにさぽ」向け「ハートチェック」。
右が Fusion 360 で設計しなおした製品
Fusion 360 のエレメカ連携に注目した背景について、大西氏は「大学時代にロボットを専攻していて、自分で作りたいと考えてエレキもメカも勉強しました。当時は、二足歩行のロボットを研究していたので、基板作りからメカ設計まで一人で開発していました。社会に出てからは、電気畑を歩んできたので、Fusion 360 の 電気設計機能の前身である Eagle (イーグル)から本格的な回路設計ソフトまで使いこなしてきました。また、3D CAD もフリーのソフトを使った経験があるので、Fusion 360 を見たときに、これならば自分でも使いこなせると思いました」と話す。
大西氏による Fusion 360 のエレメカ連携を活用した計測用モジュールの再設計では、旧モジュールに比べて 1/3 のサイズを実現した。そのポイントについて「量産化を考えて、筐体には汎用性のあるパーツを採用しました。そのサイズの中で、シートからのケーブルと電源などを配線するための穴の位置や回路を固定する位置などを設計しました。実際の回路は、シングルボードコンピュータをベースに開発されたものなので、コネクタを出すための穴の位置や深さなどの微調整も、Fusion 360 のエレメカ連携で正確に設計できました」と大西氏は成果を語る。
完成したモジュールは、見た目もスッキリしたデザインになり、ケーブル類を差し込むコネクタの深さや LED の穴なども最適な位置に調整され、使いやすさとコンパクトさを実現した。
ジェネレーティブ デザインで設計したブラケット
Fusion 360 のエレメカ連携に加えて、ジェネレーティブ デザインも活用した経緯について、大西氏は「外観検査のための装置設計で利用しました」と振り返る。同社の検査関連サービスでは、ロボットアームとカメラを組み合わせて、品質管理などの外観検査を提供している。その装置設計において「ロボットアームの先に取り付けられる装置の総重量が 500g に制限されていました。ところが、検査用のカメラが 130g で照明装置が 310g の重量になり、この 2 つの機器を取り付けるためのブラケットを 20g 前後で設計しなければなりませんでした」と大西氏は当時の課題を説明する。しかし、外部の協力会社が設計してきたブラケットの重量は 50g だった。大西氏は「予算があれば、協力会社にブラケットの再設計を頼めたのですが、コストをかけても 50g が劇的に軽量化されるかは未知数でした。そんなときに、Fusion 360 のジェネレーティブ デザインを知りました。ジェネレーティブ デザインと 3D プリンタを組み合わせたら、20g 前後のブラケットが設計できるのではないかと考えたのです」と解決の糸口としてジェネレーティブ デザインに注目した理由を話す。そして、Fusion 360 のジェネレーティブ デザインを活用して、ABS 樹脂を素材として重量と剛性を重視したパラメータを設定したブラケットの設計を実施した。検討結果をもとに質量 20g で剛性最大を目指した設計とした。
AI 外観検査装置「HACARUS Check」のロボットアーム先端にリング照明を取付
大西氏は「最終的には、提示された複数のデザインの中から、機能美が感じられるものを選びました。選んだジェネレーティブ デザインは、結果的に重量は 3D プリンタ出力で 23g になりました。通常ならあきらめざるを得ない状況の中、自分自身でジェネレーティブ デザインを使ってみた結果、大きな工数をかけることなく軽量化が実現できました。また、正直、何回か失敗を繰り返すと予想していたのですが、初回で取り付けに成功したので驚いています」と結果を評価する。
AI 外観検査装置「HACARUS Check」本体(左)とジェネレーティブ デザインを利用し軽量化したブラケットを取り付けたロボットアーム先端(右)
今後に向けた取り組みについて、大西氏は「当社の強みである AI サービスでは、データを収集するためのエッジコンピューティングにおいて、専用モジュールや新たなデバイスの設計が求められる機会も増えてきます。これまでは、外部の協力会社に『お任せ』で設計から開発まで依頼していましたが、Fusion 360 のエレメカ連携と Generative Design Extension を活用していけば、設計の新しい武器として自社での開発力を強化できると考えています。エレメカ連携については、私のようにエレキもメカも経験している設計者のスキルが求められるので、人材育成も必要になりますが、ジェネレーティブ デザインは、革新的なテクノロジーなので、多くの設計者が利用するべきだと思います」と語る。