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3Dプリントを活用したボートデザインが伝統的な建造方法を変革

3Dプリントによるボート
MAMBO のテスト航海の様子。ボート部分のプリントは英国バーミンガムにあるオートデスク テクノロジーセンターとミラノのMoi Compositesで、組立はイタリア南部のCatmarine造船所で行われた [提供: Moi. Composites]
  • 小型船の伝統的な造船技術を3Dプリントで変革
  • 海上でのボートの挙動のシミュレーション
  • 英国、ドイツ、イタリアでの分散型製造

波にインスパイアされた舷と、船尾方向に細くなる“ひれ”のような形状を特徴とする3Dプリント製のMAMBO (Motor Additive Manufacturing BOat) は独創的なボートであり、その名の通り、キューバのリズムを体現するようなデザインが特徴だ。

だが外観だけでなく、その製造手法もユニークだ。イタリアのテック系スタートアップMoi Compositesが建造したMAMBOはFRP (繊維強化プラスチック) の3Dプリントで作られている。登記によると、その長さは6.4m、高さは2.4mで、重量はわずか794kgに過ぎない。

現在イタリア最南端エリアのCatmarine造船所に停泊しているMAMBOは、ジェノヴァ国際ボートショーでの公開前にイオニア海でテストが行われる予定になっている。従来の造船手法では実現不可能な、このボートのイノベーティブなデザインを3Dプリントでどのように実現させたのかを、MAMBOを支えるチームメンバーに語ってもらった。

 

3Dプリントで置き換える手作業のプロセス

MAMBOプロジェクトを運営するのは、Moi Compositesの共同設立者であるガブリエル・ナターレ氏。エンジニアリングに特化したイタリア国立のミラノ工科大学における彼の研究は、繊維の連続製造に重点を置くものだ。その3Dプリントのプロセスは、より高い耐久性と性能、デザインのさらなる多様性を提供する。

ナターレ氏が共同設立者であるミケーレ・トニッゾ氏とともに目指したのは、その研究結果を応用し、極めて伝統的な業界である小型船の造船業界に変化をもたらすことだ。その製造手法は有効性が何世代にも渡って証明されてきたが、小型船の伝統的な造船技術には限界がある。

船大工たちは、現在も船体のメス型を使用し、連続繊維製のマットを層状に重ねて硬化させる、時間のかかる手作業に依存している。

MAMBOの舷には印象的な波状のデザインが採用されている [提供: Moi. Composites]

従来の造船手法でも繊維強化プラスチック (FRP) が使われ、手作業で層が重ねられている。MAMBOでは、この作業の大半が3Dプリントで置き換えられた。[提供: Moi. Composites]

チームはプリントを開始する前に、ボートの暴風雨時における海上での挙動について、6カ月に及ぶシミュレーションを行った [提供: Moi. Composites]

トニッゾ氏とナターレ氏はMAMBOにより、何世代も受け継がれてきた技術に専心する小型船の船大工たちに自動化の可能性を追求させたいと考えた。3Dプリントを活用することで従来の製造プロセスにおけるボートデザインの制約が無くなり、デザイナーには新しくエキサイティングな可能性がもたらされ、製造に必要な材料の節約にもなる。

この目標を実現するべく、Moi CompositesはMAMBOプロジェクトでオートデスクなどのパートナーと連携。オートデスクはFusion 360、Netfabb、PowerMillソフトウェアと複数のシミュレーションプログラムを提供している。

多胴船型の単胴船

このMAMBOプロジェクトに当初から参加しているオートデスクの材料科学者、リサーチエンジニアのドミニク・ミュラーは「ボートデザインの試行錯誤にこれほど長い時間を費やさなければ、3Dプリント 3カ月で完了したでしょう」と話す。

チームはプリントを開始する前に、暴風雨時における海上でのボートの挙動について、6カ月に及ぶシミュレーションを行ったと彼女は明かす。チームメンバーは、クラシックなモノハル (単胴船)、マルチハル (多胴船) という、異なる2種類の船体構造からインスピレーションを得た。最終的には両者の組み合わせを選択。トニッゾ氏が具体的に名を挙げたのは、英国の船舶デザイナー、レナート“ソニー”リーヴァイ氏によるY型のArcidiavoloだ。

MAMBOは、前方からは多胴船に、後方からは単胴船に見える。ボート側面のヒップラインのようなカーブは、機能性でなく審美性を考慮したものだ。

3D プリント ボート 設計
ボート前方からはマルチハルのデザインが明確に見て取れる [提供: Moi. Composites]

分散型製造

3Dプリント製ボートのデザインが完成した後、MAMBOを物理的に実現する作業には3カ国が参加。トニッゾ氏はこれを、分散型製造の最たる例だと語る。ソフトウェアの専門知識はドイツによるもので、実際のプリントは英国バーミンガムにあるオートデスク テクノロジー センターとミラノのMoi Compositesで行われた。製造とコミュニケーションはクラウド経由で行われ、Moi Compositesチームはバーミンガムでの作業の進行をコントロールできた。

ロジスティクスを複雑にしたようにも思えるが、ミラノでは機材へのアクセスもボートをプリントするスペースも無かったため、こうしたソリューションが必要不可欠だった。その当時、Moi Compositesはコンポーネントのプリント用に2台の固定多軸ロボットアームを所有していた。

3台目のロボットがあるバーミンガムに製造の一部を移すことで、作業の同時進行が可能になった。ミュラー氏は、既にプロセスを向上させるアイデアを持っている。ロボットをレール上で使用すればボート全体をひとつのピースとしてプリントでき、作業効率が上がると彼女は考えているのだ。

3D プリント ボート
3D プリント製パーツは英国のバーミンガムとミラノで製造され、その後イタリア南部のミッジャーノにあるCatmarine造船所で組み立てが行われた [提供: Moi Composites]

プリントされたボート部分はプーリア州レッチェ県ミッジャーノに送られ、そこでCatmarineにより最終組み立てが行われた。

このボートが海上航行の許可を得るのはもう少し先になりそうだが、MAMBOは実演モデルとしての目的は果たしている。そのユニークな形状は、Moi Compositesが2018年に着手した段階で目指した目標である、ボートデザイナーは、その創造力を制限する必要はなく、最新の製造方法を用いることで、どんなアイデアも簡単に実現することができることを既に証明している。

「船大工は老齢化が進んでおり、その技術を継承する若い世代は、ほとんど残っていません」と、ミュラー氏。「そこに変化をもたらさなければ、この職業は途絶えてしまうでしょう」。

著者プロフィール

キャロリン・ヴェルトマンはコンスタンツ大学で文学、芸術、メディア科学を学び、ドイツの建築・景観設計会社 Callwey Verlag で働いてきました。ミュンヘンテレビ映画大学 (HFF ミュンヘン) では文化ジャーナリズムを学んでおり、現在はドイツの主要新聞であるサウスガーマン新聞などに執筆を行っています。

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