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“迅速施工”の精神が若いエンジニアたちの成長を加速

accelerated construction

ウィスコンシン州ミルウォーキーを拠点とし、多分野をカバーするエンジニアリング/建設会社 GRAEF。同社のプロジェクト マネージャーによる自社の建築現場の訪問が、会社の運命を決するものになった。彼は完成したコンクリートの基礎を検査したのち、形鋼の組立を見学したいのでいつ戻って来ればいいかと尋ねたのだ。「話になりませんでしたよ。1 カ月後になると言うのですから」と、同社プリンシパル/スポーツ チーム リーダーのマイケル・ヴォーゲル氏。「形鋼が現場へ速やかに搬入されなかったため、施工会社は工事を進めることができなかったのです。プロジェクト マネージャーには“このプロセスは修正できるはずです”と言われました」。

そしてプロセスは修正された。ヴォーゲル氏は「我々はエンジニアです」と述べる。「効率を向上する、それが我々の仕事です」。

迅速施工 Brown County Expo Center navisworks モデル
Brown County Expo Center のモデルは Navisworks での学際的連携を実証している [提供: GRAEF]

2017 年の夏から秋にかけ、同社は GRAEF Accelerate と名付けたプログラムをスタート。このプログラムは Autodesk の RevitAdvance SteelNavisworks を導入し、不要なダウンタイムを最小限に抑えることで施工スケジュールを迅速化するものだ。GRAEF Accelerate は、エンジニアリング業界における人材のスキルギャップも埋める。このプログラムにより、同社は若いエンジニアを以前よりも迅速かつ良好に育成できるようになった。また最新の BIM テクノロジーに取り組みたいと考えるエンジニアの取り込みと雇用維持にも役立っている。

GRAEF Accelerate プログラムのもと、同社はこの 12-18 カ月の間に 5 棟のビルを完成させ、運用を開始している。エンジニアとテクニシャン約 15 名で構成された当初のパイロット グループは、今後 12 カ月で構造エンジニアとテクニシャン、ディテーラー 65 名からなるグループへと拡大予定だ。

このプログラムは、その反応の良さでクライアントに好印象を与えている。「ウィスコンシン州グリーンベイの Brown County Expo Center は、プロ スポーツ イベントのため指定日までに完成させる必要がありました」と、ヴォーゲル氏。「スケジュールを構築していくと、従来の建設プロセスでは、十分な余裕を持って納期に間に合うようプロジェクトをスタートさせるのは不可能だと判明しました。そこで GRAEF Accelerate を採用し、スケジュールを 10 週間短縮して、納期までにプロジェクトを完成させることができました」。

迅速施工 brown county expo center navisworks
Brown County Expo Center のディテール [提供: GRAEF]

プロセスの最新化

この新しいGRAEF Accelerate プロセスは、従来は各協力会社が個別のモデルを作ってばらばらに行なってきた構造エンジニアリングのプロセスを、ひとつ屋根の下で単一のモデルにまとめるものだ。

通常、構造デザイン プロジェクトで GRAEF が提供するのは、2 次元の実施設計図だ。従来の業界標準のプロセスでは、この実施設計図を用いて施工用の工作図が発注される。ここで作られる工作図とは、サードパーティである形鋼製造メーカーに対して、鉄骨部材 (柱、桁、梁、トラス、固定具など) の詳細を詳しく示したものだ。ファブリケーターはその後、構造鉄骨ディテーラーに発注を行い、ディテーラーが 2 次元の実施設計図から 3 次元モデルを構築する。そして全ての要素が正しく連結されるよう、連結の設計者が干渉チェック用の別モデルを追加作成。現在、GRAEF はこうした役割すべてを社内で行っており、社内の構造エンジニアが、エンジニア、ディテーラー、連結設計者が同時に操作できる単体モデルを作成している。

「実施設計図の完成後、すぐに工作図を完成形で提供できるようになり、ファブリケーターは実施設計図の作成完了まで作業を待つ必要がなくなりました」と、ヴォーゲル氏。その結果、デザイン プロセスはずっと迅速になり、プロジェクトの規模に応じて数週間から 3 カ月の短縮ができる。

また良好な連携により、これまで各プロジェクトに対して生成されていた数十から数百に上る RFI (情報提供依頼書) を実質的に排除可能となった。「複数の協力会社がプロセスに関与することで生じる、互いに連絡し合っているのに相手がつかまらないような状況を排除できました」と、ヴォーゲル氏。「従来は、例えばファブリケーターが委託雇用した連結設計者が質問したい場合、まず連結設計者がファブリケーターにコンタクトをとり、ファブリケーターが建設マネージャーに質問を伝え、マネージャーが建築家に連絡して、建築家が構造エンジニアにそれを伝えていました。今ではディテーラーがエンジニアに、その意図や見え方などを直接問い合わせできます。質問に対する回答を得るのに、RFI を出す必要も、伝言ゲームをする労力も必要ありません」。

エンジニアのスキルギャップを埋める

GRAEF のプロセス改革のうれしい副産物は、長期にわたって続いてきたスキルギャップに対処するための、若いエンジニア育成の問題が大幅に改善することだ。「GRAEF では世界金融危機により、10 年の経験を持つエンジニアが不足すると予測しています」と、ヴォーゲル氏。「この業界は全米で従業員の 30% を失いましたが、業界を去った人材は戻ってきてはいません。GRAEF Accelerate は新たなエンジニアをより迅速に育成し、このギャップを埋めるのに役立っています」。

迅速施工 graef accelerate プログラム
GRAEF Accelerate プログラムでデザインされた、クライアントの本社ビル モデル [提供: GRAEF]

事実、このプログラムは同社が「スーパー エンジニア」と呼ぶ人材の育成に貢献している。「従来は業界にどっぷり浸かった状態でも習得に 20 年以上が必要だった内容を学んでいます」と、ヴォーゲル氏は話す。

20 年前、新卒の構造エンジニアは 2 次元の実施設計図を作成し、建物を構成する「キット」の各要素全てを示す工作図をレビューしていた。「今では全てが 3 次元モデルです」と、ヴォーゲル氏。「新人エンジニアには、弊社で“飾り付け”と呼んでいる作業を任せており、曲板、フーチング、補強材などを 3D モデリングしてもらっています。それにより新人エンジニアに、早い段階から鉄骨の連結や配置の原理、連結設計手法に触れる機会を提供しています。建設の可能性を学ぶ機会となっているのです」。

GRAEF Accelerate プログラムは、人材確保と雇用維持にも役立っている。これは、あらゆる企業の成功の最重要項目だ。「GRAEF Accelerate は、構造エンジニアリングの未来です」と、ヴォーゲル氏。「まだ標準ではありませんが、今後 10 年でそうなるであろうと考えています。プロセスには大きな価値があります。そしてエンジニアたちはその価値を認めています。このテクノロジーに取り組む機会を求めて、たくさんの人々が私たちの元にやって来ています。これは業界をひっくり返すもので、若いエンジニアも、経験を積んだエンジニアも、このビジョンに関与することに喜びを感じています」。

著者プロフィール

シェリル・ J. ゴールドバーグはテクノロジー カンパニー向けマーケティング コンテンツの執筆、編集を専門にしています。

Profile Photo of Cheryl Goldberg - JP