業務基盤としてのBIM活用を目指す奥村組のDX推進の現在地
- 成功体験による個別技術の浸透
- 自社の技術研究所を発注者・設計者・施工者として検証
- BIM活用の先にあるDX推進
大阪市阿倍野区に本社を置く株式会社奥村組は、免震構法やハニカムセグメントなど、高度な技術力が高く評価される、1907年創業の歴史あるゼネコンだ。同社がDX推進のために行っているのは、業務基盤としてのBIM活用だという。
2015年にBIM推進グループを立ち上げ、さまざまな現場支援を通じて、現場におけるBIM活用を一気に加速。だがBIM推進室長を務めるICT統括センター イノベーション部の脇田明幸氏は、そのプロセスを「BIM活用に関しては比較的後発になるので、活用事例を参考にしながら、手戻りなく、スムーズに進められる方法を考えながら推進してきました」と述べる。
一律にBIMモデルを作製して現場へ納品し、活用を促すというような手法ではなく、測量、施工計画から施工性検討、納まり確認、干渉チェック、数量拾いから、合意形成・もの決め、施工図の作成、解析、維持管理までの、個々のフェーズに適したメニュー(個別技術)を採用し、少しずつBIMを導入しているという。
成功体験による個別技術の浸透
「まずは現場が始まる段階でプロジェクトの設計図・施工図を精査し、どの部分でBIMが有効に活用できるかを考え、それぞれの現場に合わせてBIMを導入しました」と、脇田氏は続ける。「現場に導入する際は、個別技術のうち、BIM推進室がその現場で大きな効果が期待できると考えるものを推薦し、活用してもらうこととしました。実際にBIMを活用し成功体験をしてもらうことで、次の現場でも活用しようと思ってもらえます。この数年は、そうした活動を繰り返してきました」。
その代表的な例が、脇田氏が “測量BIM” と呼ぶ、3Dモデルや図面を見ながら杭芯などの位置を測量する方法だ。「杭の位置確認は手間がかかりますが重要なフェーズです。測量機“杭ナビLN-150”と測量アプリBIM 360 Layoutを活用することで、正確性を確保しつつ生産性を大きく向上させることができます。効果が分かりやすいので、多くの現場で採用が進んでいます」。
技術研究所管理棟のZEB化改修の採用技術 [提供: 株式会社奥村組]
仮設計画や施工管理など、個別技術を中心とした現場におけるBIM活用は順調に進んでおり、現在は干渉チェックや点群活用、デジタルモックアップによるクライアントへの説明など、応用展開にも取り組んでいる。その一環となるのが、自社の技術研究所管理棟・室内環境実験棟における維持管理BIMを研究して、発注者メリットを探るプロジェクトだ。これは今年度の国土交通省『BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業』にも採択されている。
自社の技術研究所を発注者・設計者・施工者として検証
技術研究所の管理棟は、2020年にZEB化改修し、基準ビルと比較して設計値で76%の一次エネルギーを削減、BELS評価でNearly ZEBの認証を取得。これにより奥村組はZEBリーディングオーナーとして認定登録され、現在は、エネルギー消費量の実態把握や設備システムの効果的な運用方法などの検証を行っている。2020年度の運用終了段階では、年間エネルギー消費量は基準ビルに対して84%の削減を達成しており、設計値を上回る成果が得られているという。また新設された室内環境実験棟では、ICTやAIなどを活用した設備システムの制御に関する技術開発も行われている。
「この施設は、自らが発注・設計・施工したものであるため、BIM活用による効果や、維持管理における活用のために何を行うべきかを、発注者・設計者・施工者それぞれの目線で検証することができます」と、脇田氏。「リバースエンジニアリングと呼んでいますが、竣工した建物に対して、設計や施工の場面に立ち戻って、発注者のメリットとなることを検証しています」。
BIM活用の先にあるDX推進
奥村組による業務基盤としてのBIM活用が見据えているのは、総合技術を活用したDX推進であり、その実現に向け、データの活用によるデジタルツインやロボット・AI・5Gなどへの取り組みが行われている。その一例が、内閣府のPRISM予算を活用して実施される国土交通省大臣官房技術調査課の公募による、2018年度「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」に採択された、奥村組、大阪大学などの産学連携コンソーシアムによる「映像認識AIとデジタルツインを用いた施工改善支援システム」だ。
この取り組みは、岐阜県山県市の東海環状自動車道の高富IC北地区道路建設工事で行われた、テールアルメ工法においてAIを用いたカイゼン活動を支援するものである。ICT統括センター イノベーション部の宮田岩往DX推進課長は、「テールアルメ工法は、ストリップバーと呼ばれる鋼製補強材を層状に敷設することにより土とストリップバーの摩擦効果を生かし、スキンプレートと呼ばれるプレキャストのコンクリートブロックを垂直に配置して補強土壁を構築するものです。この工法は繰り返しの作業が多いため、作業や時間を”視える化”し、それをAIで分析することでカイゼン活動に役立てるものです」と述べる。
「重機にIoTセンサを積んで取得した位置情報や、現場に設置したクラウドカメラの情報をAI分析にかけて、どの重機がどこにいるか、テールアルメ工法に使うさまざまな材料がどこに置かれているか、人がどこにいるかなどを認識して、それをクラウドで解析します。そして、どういう動線で動いたのか、どういう作業工程だったかなどを判別します。さらに、UAVの写真測量やレーザースキャン計測で最新の地形データを取得して、それをもとに進捗していく3Dモデルをつくり、それらを統合してデジタルツインを構築しました」。
このプロジェクトではUAV写真計測、地上レーザ計測による地形データ、構築物3Dモデルと点群データによる進捗3Dモデルから、工事の進捗をより忠実に表現する統合3Dモデルが作られた。そしてIoT・AIからの情報と統合3Dモデルを、Autodesk Forgeプラットフォームを活用してクラウド上で重ね合わせることで、現場がデジタル空間に再現される。
「これは、繰り返し行われる作業のサイクルタイムを縮めることで工程を短縮する取り組みで、実際には20%ほどの生産性向上が実現できました」と、宮田氏。「2019年度『建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト』には、『シールド工事における方向予測AIと操作シミュレーションを用いた掘進管理手法の高度化』についての取り組みが採択されました。シールド工事ではシールドマシンの前方が見えないため掘進管理システムで得られる大量の掘進データから熟練オペレーターが判断して線形管理や方向制御を行っているのですが、方向予測AIを用いてシミュレーションすることで、目標掘進線形に対する偏差の精度を20%以上向上させることができました」。
「今後は環境シミュレーションやコンピュテーショナルモデルの活用にも注力していきたいと考えています」と脇田氏。「応用範囲が広いし、アイデア次第でさまざまな検証ができる。色んな場面でのBIM活用につながりますし、解析結果は現場や設計者にも有用なものとなるので、そこをさらに掘り下げていきたいと考えています。また、業務基盤としてBIMを活用することで、奥村組の将来のありたい姿を示す『2030年に向けたビジョン』の実現と、SDGsが目指す『持続的な共生社会の実現』に貢献したいと考えています」。