Skip to main content

BIM 活用によるコミュニケーション力で実現: 大東建託「ROOFLAG (ルーフラッグ) 賃貸住宅未来展示場」

BIM コミュニケーション Rooflag

賃貸住宅の可能性を追求してきた大東建託株式会社が、その未来を考えるための施設である大東建託「ROOFLAG (ルーフラッグ) 賃貸住宅未来展示場」をオープン。マウントフジアーキテクツスタジオ一級建築士事務所の設計のもと、「本物の木の良さを、本物で伝えたい」という思いを体現するべく採用された国内最大級となる木造大屋根の実現には、施工者である東急建設株式会社が取り組んできた、BIM を活用したデジタルでのコミュニケーションが大きな役割を果たした。

この展示場で一際目を引くのが、支えの柱が一本も無い、長辺 60 m に及ぶ三角形の大屋根の骨組みだ。この大架構の梁として採用された CLT (直交集成材) は、近ごろ注目を集めるマス ティンバーの木造建設技術でも構造材として使われている、環境性能が高く、木材の循環利用の促進にもつながる材料だ。

昨今の建築基準法の改定などにより、日本国内でも CLT を幅広く活用するための環境が整いつつあるが、東急建設では CLT を梁に使った前例や、確立した工法が無かった。しかも部材となる CLT パネルは高さ 2.3 m、最大で長さ 11.8 m、厚さ 270 mm という巨大なもので、その重量は 3 t に達する。初めての経験で、どこに課題があるのかも分からない中、このプロジェクトは手探りで進められることになった。

2017 年に立ち上げられた BIM 推進部の初代部長として、東急建設全社での BIM 活用推進のリーダーを務めてきた建築事業本部の林征弥氏は、「二次元図面の情報だけでは、木造の大屋根の施工方法や手順、品質確保などを検討する際に、その難度が非常に高くなります」と述べる。「最初の課題は木質パネルの組立手順と接合部の納まりでした。二次元図面では具体的にイメージすることが困難なので、建物全体を把握するために BIM モデルを活用することにしました」。

BIM コミュニケーション Rooflag CLT 屋根 施工
CLT 屋根の施工風景 [提供: 東急建設]

デジタルが提供する安心感と信頼

まずは接合部の取り合いなどを確認するため、Autodesk Revit におけるモデルの形状情報を変換し、3D プリンターで 1/33 の模型を出力。詳細な検討を経て組立順を導き出してから、実物大のモックアップを使って検証が行われた。「施工の際にボルトを締める作業員の手が入るか、精度を保つため測量点をどこにすれば良いかなど、実施施工前に綿密な実証実験を行いました」と林氏。「モデルから精度の高い模型を作成したことで、CLT パネルの施工プロセスにおけるパネル同士の仕口の納まり、組立手順、作業性の確認など、検討から解決までを迅速に実施できました」。

この大屋根で使われた CLT パネルは、実に 128 枚に及ぶ。勾配屋根のため、パネルが斜めの状態で組み立てられ、その施工には 2 mm 以下の精度が要求されるうえ、位置座標の押さえ方も難しいなど、精度管理には困難が予想された。そのため、測量機器としてトータルステーションを採用し、3D 建方測量システムを活用。測量点の座標を Dynamo を通じて瞬時に算出することで、従来の手計算と比較して 80% の工数削減を実現し、精度を保った組み立てを行うことができた。

BIM コミュニケーション Rooflag 外観
大東建託「ROOFLAG (ルーフラッグ) 賃貸住宅未来展示場」の外観 [提供: 東急建設]

木造大屋根の組み立ての際には、CLT パネルは下から支保工で支えられる。この仮設物を撤去するジャッキダウンのプロセスにも、BIM を活用した解析が実施された。「支保工の荷重を解放する際、一ヶ所に荷重が集中するとパネルが破損する恐れがあります。そこで支保工のグルーピングを行い、どのような順番で荷重を解放していくかのケーススタディを行って最適解を出しています。解放する荷重の割合も、解析を行うことで、デジタルで手順の妥当性を確認できました」。

「この検証結果、つまりデジタルツインを現場に持ち込むことでジャッキダウンを問題なく実践でき、構造設計の許容値以内で作業を完了することができました」と、林氏は続ける。これは、当初から発注者が最も心配していた施工上の課題要件でもあった。「デジタル解析により安心感を提供でき、それによって信頼を獲得できたのは非常にうれしいことでした」。

3D によるコミュニケーション

このプロジェクトでは、BIM が持つ 3D 形状情報を活用したコミュニケーションが、合意形成や情報共有の際にも役立てられた。「当社には技術研究所など、さまざまな技術支援部署があります。この案件では、BIM データを活用することで、非常に難しい施工課題に対しても社内の各技術支援部署が連携しを行い、その対策を検討することができました」と、林氏は述べる。

BIM コミュニケーション Rooflag 温熱環境解析
熱だまりとなる CLT パネルに囲まれた部分の温熱解析や、大空間における空気環境の快適性などを検証するシミュレーションも行われた [提供: 東急建設]

「その後、検討に使ったものと同じ BIM データを用いながら、設計者やメーカー、現場担当者で細かい納まりを決定しました。さらに、その BIM モデルを使って発注者と合意形成を行い、それを現場の作業員とも共有することで、品質の高い施工につなげることができたと思っています」。

施工の段階では、モバイルデバイスなどでデータが共有された。「BIM 360 を活用することで現場へ容易に BIM データを持ち出し、その場で形状や情報を確認することができました。現場で作業員の皆さんと、作業部分の手順や納まりを確認することもできます。さらに現場の施工進捗度合いや、その確認に BIM モデルを使い、ICT デバイスと連携して実施することができました」と、氏は続ける。

「こうして関係者全員で合意したデータを現地に持ち出し、実物と見比べ、整合性が施工管理として確認できるということは、ものづくりをしている私たちにとって大切な QCDSE (Quality, Cost, Delivery, Safety, Environment) 分野で、その活用範囲をさらに広げられると確認できました」。

BIM コミュニケーション Rooflag BIM 360
現場での作業や確認に BIM 360 が活用された [提供: 東急建設]

「この ROOFLAG をどう作り上げるのかを、発注者、設計者、施工者それぞれが、本当に手探りの状態からスタートしました」と、林氏。「BIM を使い、ひとつひとつの課題をコミュニケーションを取りながら解決することで、関係者が笑顔になるのを見ることができた。それは BIM を推進するという立場の私にとっても、大変喜ばしいことでした」。

「お客様の満足度や生産性の向上、環境への貢献は、当然のことだと考えています。それをさらに高めるため、BIM を活用してコミュニケーションを深め、また現場の力を高めて、新しい価値やサービスを提供し続けることが弊社の使命です」と、氏は続ける。「当社の存在理念にあるように、安心で快適な生活環境づくりを通じて、ひとりひとりの夢を実現することを、今後も進めていきたいと思います」。

著者プロフィール

オートデスクのInternational Content Manager for APAC & Japan。「Design & Make with Autodesk」コンテンツハブの日本語版、韓国語版、中国語 簡体字版を担当。

Profile Photo of Yasuo Matsunaka - JP