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エアバスがバイオニックデザインの革新で継続する未来へのサステナブルなフライト

バイオニック デザイン エアバス A320
エアバスA320 [提供: Airbus]

2015年に本記事が「Redshift」へ掲載された時点で、エアバスは2050年までの温室効果ガス排出量半減という究極の目標に向け、A320の要素を再デザインして、よりサステナブルな乗り物を実現する試みに取り組んでいました。それを実現する機会のひとつだと考えたられたのが、客室乗務員用の折りたたみ式椅子を支えるパーティションです。

ジェネレーティブ デザインのテクノロジーにより、当初の研究開発で45%の軽量化を実現する、金属アディティブマニュファクチャリングによるパーティションが制作されました。金属アディティブは現在もまだ非常に高価なものであり、このバイオニック パーティションは残念ながら生産には至りませんでした。しかしジェネレーティブ デザイン テクノロジーは進化を続け、従来の加工法による製造にも対応するようになっています。

この進化を受け、エアバスはより低価格で実現できる、新たなバイオニックパーティションに取り組みました。エアバス最新のパーティションは再びジェネレーティブ デザインを活用したもので、プラスチックを使った3Dプリントを行なったのち、航空機品質の合金で鋳造。このパーティションは先代同様に軽量なもので、同等の重量削減による燃費向上を実現します。

鋳造に対応したジェネレーティブ デザインが、エアバスにコストと効率の両面でのサステナビリティを提供します。最初のバイオニックパーティション同様の重量と強度を実現するだけでなく、ずっと低価格での製造を実現。エアバスが取り組み続けるイノベーションの詳細は、以下のオリジナル記事をお読みください。 -「Redshift」主筆 エリン・ハンソン

バイオニック パーティション 比較
バイオニックパーティションのオリジナルデザイン(左)とアップデート版 [提供: Airbus]

休暇先へ向かう機内にいると想像してみよう。例えば急な乱気流を避けるため、飛行機が翼の形状を変更。あるいは飛行中に機体へ何かが衝突して生じた損傷が、乗客の目の前で自動的に修復。さらには機体が透明になって、あらゆる方向を見渡すことが可能になったとしたら。

これが2011年にエアバスが発表したコンセプトキャビンのビジョンだ。絵空事だと思われるかもしれないが、こうした未来が現実のものとなり始めている。

エアバスは先日、ジェネレーティブ デザイン ソフトウェアと3Dプリントを活用し、ニューヨークを拠点に活動する設計事務所The Livingと連携してバイオニックパーティションを製造した。このバイオニックデザインによるパーティションは、薄くはあるが乗客と客室乗務員のエリアを隔てる極めて重要な壁であり、緊急事の担架 (ストレッチャー) 用のスペースや、離着陸時に乗務員が使用する折り畳み椅子も支えている。

バイオニック デザイン エアバス パーティション 動画
[提供: エアバス]

このバイオニックデザインによるパーティションの重さは、約30kg。従来のパーティションに比べて45%も軽量化されており、燃料と二酸化炭素排出量を大幅に削減できる。だが、このエアバス製パーティションの最大の驚きは、そのデザインが単細胞生物である粘菌を基に作成されていることだ。

エアバスのイノベーションマネージャー、バスティアン・シェーファー氏は「粘菌は非常に興味深い生命体です」と語っている。「この微生物は、食物を求めて森の地表を這い回ります。その過程であらゆる方向へと広がり、自身とその周りにある食物とをつなぐ、重複した網を生み出すのです。私たちは、パーティション内の構造を構築するために、この習性を利用しました。アルゴリズムを使用して、パーティションと機体の主要構造部分との結合点だけでなく、パーティション内部でも乗務員用の椅子をしっかりと支えられるようにしました。これによりパーティション内部に、幾重にも重複する構造網を作成することができたのです」。

エアバス バイオニック デザイン パーティション 位置
エアバスA320のバイオニックパーティションの位置 [提供: エアバス]

シェーファー氏が言及したアルゴリズムを生成するため、エアバスはジェネレーティブ デザイン ソフトウェアを使用している。チームは、ツールへ制約となる事項を入力し、軽量化と性能の2点を目標に掲げた独創的なデザインを生成した。軽量化に関しては、チームは30%の削減を目標としていたが、45%の削減を実現できた。

「ジェネレーティブ デザインとは、簡単に言ってしまえば目標の定義付けです」と、シェーファー氏。「つまり目標が軽量化なのであれば、ソフトウェアがアルゴリズムを使用して、その目標の達成を支援してくれます。また構造上の性能など、それ以外の目標を実行することもできます。このバイオニックパーティションの場合は、16Gの衝突実験でパーティションに200mm以上の歪みが出ないことに目標を定めました」。

バイオニック デザイン パーティション 分解図
[提供: エアバス]

これらの最初の制約事項から、チームはパーティションデザインの1万を超えるバリエーションを得ることができた。そしてエアバスはビッグデータ分析を利用し、デザイン反復の数を減らすとともに、最も性能の良い最終的な製造デザインを決定した。「私たちはある種のビジュアル図を使用しており、2つの制約である重さと歪みをグラフに示して、全てのデザイン ソリューションを点で示すようにしています」と、シェーファー氏。「幾つかのデザインソリューションを選択し、より詳細な分析結果を用いて、詳しい検討を簡単に行うことができました」。

製造デザインの決定後、エアバスはBosom Concept Laser M2、EOS M290、EOS M400 (長いパーツ用) という3種類の異なるアディティブマニュファクチャリング システムを使用して製作を行った。「パーティション全体を複数のサブコンポーネントに分割し、プリンター内の作業空間サイズに合わせてプリントしました」と、シェーファー氏。「そのため、どのプリンターでどの部分をプリントするのか決める必要がありました。その決断を行った後、複数のプリンターで並行してプリントを実施しています。1つのパーティション全体を作成するのに、最低でも7回に分けてプリントしました」。

バイオニックデザインによりパーティションが形作られる [提供: Airbus and David Benjamin/The Living, an Autodesk Studio]

「116個のパーツ(全てのパーツには接合部があり機械加工が必要)がありましたが、問題は「これらのコンポーネントで作成したパーティションが果たして機能するのか?」という点でした」と、シェーファー氏。「結果としては、全てうまくいきました。パーティションを持ち上げたとき、それは驚くほど軽く、しかも堅固なものでした。このテクノロジーは必ず成功すると大きな自信が持てましたね」。

シェーファー氏は、同等の軽量化は従来は不可能だったとも指摘する。「これが実現したのは、ジェネレーティブ デザインと3Dプリントの組み合わせだからです」と、シェーファー氏。

現行の工業用積層造形マシンでは、大抵は航空機用の小型部品しかプリントできない。より大型のプリンターの登場が、より大きな部品を製造可能となることを意味している。いずれエアバスも、3Dプリント製のコクピットに狙いを絞るようになるだろう。コクピットにはパーティションの倍の大きさがあり、完全に密閉されなければならず、また万全の安全性が求められる。デザインの指針に粘菌を活用することに留まらず、エアバスは新しいヘッドレストを作成するため、植物をもとにした他のアルゴリズムを開発するようになるかもしれない。人間の特性をベースにした、超強力な垂直尾翼やジェット エンジンの部品をデザインするアルゴリズムが、現実のものとなるかもしれないのだ。エアバスは、ジェネレーティブ デザインを活用し、飛行機全体が3Dプリントで製造可能となる日を待ち望んでいる。

「空の旅の未来に関するエアバスの大きな理想のひとつとして、もちろん持続可能性があります」と、シェーファー氏。「私たちは製品自体だけでなく、事業運営と製品の製造方法にも特別なライフサイクルアプローチを取っています。そのため飛行機の設計に、新しい手法であるバイオミメティクスを取り入れることができるのです。バイオニックパーティションは、バイオミメティクス分野にそのルーツを持つ製品です。ですが私たちの製品は、最終的には製品寿命を終えるとリサイクル可能である必要があります。そのため製品のライフサイクルプロセスには注意を払っています。2020年になるか、22世紀になるのかは分かりませんが、将来的に飛行機は食べられる材料で製造されるようになるでしょう」。