レンガ積みロボットHadrian Xが変える建設の未来とは
- 長い年月を費やして開発されたレンガ積みロボットが建設業界にディスプラションを起こしている
- Hadrian Xはブロック (標準的なレンガの12倍の大きさに特別なデザインが行われた建設資材) を45-55秒に1個のスピードで詰むことが可能
- レンガ積みロボットは、コスト見積りのためデータを一元化できる特殊なソフトウェアとアルゴリズムにより、効率の向上と廃棄物の減少というメリットを実現
レンガは最古の建材のひとつだ。日干しレンガの歴史は実に紀元前7000年、焼成レンガも紀元前3500年にまで遡る。その用途は非常に幅広く、抽象化されたメノーラー (ユダヤ教の燭台) の成形や美しいアーチにも使われてきた。モルタルを塗り、レンガを並べた後で、はみ出たモルタルをコテでならすという積み方は、数世紀にわたって変化していない。
この数千年に及ぶ伝統を、テクノロジーで強化しようと考えた企業がある。オーストラリアを拠点とする建設テクノロジー企業FBR (旧 Fastbrick Robotics) が開発したレンガ積みロボットHadrian Xは、防御壁を建設したローマ皇帝ハドリアヌスの名を冠し、人の手を借りずにレンガを積むことができる。
レンガ積みロボットのメリット
このテクノロジーは、世界各地での住宅不足対策など、幅広い恩恵をもたらす可能性がある。FBRのスティーヴ・ピアーツCIO (最高イノベーション責任者) は「要求されるペースで住宅建設を行うには、必要な人手が不足しています」と話す。「その大量建設のプロセスを自動化する必要があり、それを実現する手段のひとつが、このロボットです」。またピアーツ氏は、自然災害後の復興にも機会も見出している。「私はこうしたロボットの一群が、被災地で居住用構造物を素早く建設する未来を思い描いています」。
高い精度を誇るHadrian Xは効率も向上できるため、従来の手法より住宅を迅速に、かつ低コストで建設できる。生産性を向上させ、無駄を減らすリーン コンストラクションのアプローチも促進。同社のサイモン・アモス建設技術部門ディレクターは「シングルソースのデータを取り込み、積み方を考慮に入れた上で、必要なブロックの数と接着剤の量を把握できます」と述べる。「つまり、どれくらいの無駄が生じるのかを、事前に十分に理解できます」。
レンガ積みロボットHadrian Xの動作原理
Hadrian Xは、一見するとトラック搭載型の典型的なクレーンのようだが、制御システムとブロック搬入システム、動的安定化システムなど複雑なコンポーネントの組み合わせで機能している。マシンは投入されたブロックひとつひとつを識別し、それをどこに並べるべきかを判断。必要に応じてブロックを1/4や1/2、3/4サイズに切断して、後で使用できるよう保管する。ブロックはブーム搬送システムへ送られて、配置ヘッドへと運ばれる。このヘッドは、マシンにプログラムされたロジックとパターンに基づいてブロックを並べていく。
「この配置ヘッドがマジックを実行します」と、ピアーツ氏。「風や振動を受けてもヘッドはブロックをしっかりと保持し、1秒に何百回もの補正を行って正確な位置を保ちます」。。
Hadrian Xの“脳”とハードウェア
このHadrian Xロボットは10年以上をかけて開発されたものだ。動的安定化ロボットの最初のアイデアは1994年に誕生したが、FBR設立者兼CTOのマーク・ピヴァック氏が初のプロトタイプを作り上げたのは2005年になってからだ。Hadrian Xの先行モデルであるHadrian 105は、2008年の世界金融危機によって生産が停滞。このプロジェクトは2014年、経済回復と建設業界ブーム、レンガ積み職人と石工の労働力不足の中で再開され、2016年に次期バージョンであるHadrian Xの開発が始まった。
ロボットの制御システムは、ロボットを支える“脳”だ。FBR独自のソフトウェアは直交座標とパラメトリック デザインを活用し、CADでモデリングされた壁構造物を、全てのレンガとその配置を把握したメタデータに変換する。その後、このメタデータを活用してレンガを特定の入れ子パターンへ追加。その後、アルゴリズムの力を借りて、そのパターンと、ロボットの配置ヘッドのサイズやロボットがブロックをつかむ方法などのパラメーターに従ってレンガの配置を決定する。
FBRは、Hadrian Xの壁システム用に独自のブロックとその形状をデザイン。「ブロックの概念は、人間がレンガをどう扱い、それを一定のスピードでどう配置するのかに基づくものです」と、アモス氏。「それを、ロボットに合致するよう変更したのです」。Hadrian Xのブロックは、壁の厚みが一定になるよう最適化されており、そのサイズは標準的なレンガの12倍で、Hadrian Xは1ブロックを45秒から55秒で並べることができる。FBRが使用する接着剤は、従来のモルタルに比べて接着が速く、接着力も強い特殊なものだ。
レジリエントな建設ロボットの設計に向けたテスト
このマシンの動作のため、ピヴァック氏は自身の航空工学や機械工学、ロボット工学、数学のバックグラウンドを活用して、特許技術となる動的安定化技術 (DST: Dynamic Stabilization Technology) を開発した。このDSTは、3次元空間でブロックの遠距離からの正確な配置を実現。風や振動など環境要因からの影響は中和して、ブロックを正確な位置に保持できる。この安定性により、Hadrian Xを艀 (バージ) や船舶、クレーン、トラックなど土台となるものの上にマウントして、他の現場でのブロック積みに活用できる。
「課題となるのは、これらのシステム全ての統合です。システムは高度に連携し、ロボット内部の全てのモジュール同士の連動が綿密に制御されます。もちろん、汚れと危険の伴う建設現場に存在する、あらゆる環境上の問題にも対応しなければなりません」と、アモス氏は話す。
これらの問題を克服するため、Hadrian Xの構成要素には厳格なテストが行われ、その段階毎に教訓や改善がもたらされることになった。Hadrian Xのマイルストーン ビルド (特定の機能の実装) は2018年11月に社内で行われ、180平米の住宅を3日間で完成させた。次の屋外検証を伴うステップは2019年2月、オーストラリアのうだるような猛暑の中で行われた。
「データを収集して、ロボットを高温下に置いた場合の環境の影響を理解するため、屋外でビルドを行いました」と、アモス氏。「こうした検証の多くは、ロボットに相当な負荷を与え、非常に厳しい風と温度条件のもとに置いて、その影響を考察するという、本当の意味での挑戦でした」。
建設自動化の要望を高めるグローバルなパートナーシップ
FBRは、既にHadrian Xの今後のグローバルな展開に備えて準備を進めている。メキシコの大手建設会社Grupo GPの住宅部門である GP Viviendaと、同国でのパイロット プログラムの契約を締結。サウジアラビア王国とは、50,000戸の新規住宅建設プロジェクトの覚書に署名したところだ。さらに、オーストリアを拠点とする粘土ブロックメーカーWienerbergerと締結したパートナーシップでは、Hadrian X用に最適化された粘土ブロックの製造と、ヨーロッパにおけるパイロット プロジェクトの計画が進行中だ。
母国オーストラリアでは大手建設資材メーカーのBrickworksと連携し、オーストラリア全域に“Wall as a Service” (サービスとしての壁) を提供する。Brickworksは、この「サービスとしての壁」を通じて、住宅プロジェクトに特化したFBRのブロック積みロボット向けコンクリート製石積みブロックを供給予定だ。
ピアーツ氏は、このHadrian Xに建設業界を変えるポテンシャルがあると信じている。「破壊的な変化は、自分の業界を全く異なるアングルから見たときに訪れます」と、ピアーツ氏。「新しいテクノロジーに挑戦し、実験的な取り組みを進んで行わなければ、取り残されてしまうでしょう」。
本記事は2019年5月に掲載された原稿をアップデートしたものです。