万人向けのアフォーダブル住宅を作るスタートアップ企業
- Umdasch Group VenturesによるオーストリアのスタートアップNEULANDTは、アフォーダブル住宅を数週間で建設できる、独自のポータブル・プレキャストプラントを開発
- NEULANDTは地域の人材に向けた、デザインのカスタマイズ性を犠牲にしない規格住宅を建設するトレーニングを世界各地で提供
- このポータブルプラントは、ワクチン接種会場や避難収容場所、仮設病院などのソリューションとしても使用可能
アフリカは世界でも最も急速に成長している大陸だ。人口増加に関する国連のデータによると、2050年にはアフリカの人口は現在の11億人から、約24億人に倍増すると予想されている。
こうした急成長の一方で、その多くの国がインフラや教育制度、医療制度、経済などの準備が整っていない問題を抱えている。
その結果、アフリカの全人口の約60%を占める25歳未満の若年層は、より良い職の候補と生活の質の向上を求め、コンゴ民主共和国のキンシャサやナイジェリアのラゴスなどメガシティへの移住を行なっている。こうした都市での生活は貧富の格差が目立ち、豪華な邸宅からさほど離れていないエリアにスラムやテント、トタン屋根の小屋が並ぶ。
オーストリア企業Umdasch Group Venturesの社長兼COOであるヨハン・ペーネダー氏は、こうした住宅供給の不公平を優れた建築ソリューションで抑制することが極めて重要だと考えている。そして子会社NEULANDTを設立し、万人向けアフォーダブル住宅を建築するための第一歩を踏み出した。
業界のコンバージェンス: 建設現場と製造施設を融合
NEULANDTチームは、その“新たな地”を意味するドイツ語を由来とした社名の通り、生活空間を生み出す新たな方法をデザインしている。NEULANDTが開発するのは次世代のポータブルな“住宅工場”で、アフォーダブル住宅の建築を短期間でスタートさせられるよう、世界のあらゆる場所に輸送して現場で組み立てることができるプレキャスト建設プラントだ。
NEULANDTで販売/営業開発部門を統括するクリスチーネ・ファッシング氏は「選択したテクノロジーと、その開発で採用したイノベーティブな手法によって、当社の生産性は大幅に向上しました」と述べる。
オートデスクで工業化建築のストラテジー/エバンジェリズムのリーダーを務めるエイミー・マークスは「工業化建築にはさまざまな形態がありますが、それは必ず、変化する需要やビジネスモデル、業界のコンバージェンスを反映しています」と述べる。「NEULANDTは、エコシステムが新興経済と現地の熟練労働者のニーズに応えて急速に進化・融合し、環境や経済、産業、社会の持続可能性にポジティブな影響を生み出すことを示す典型的な例だと言えます」。
Umdaschのチームによると、バタフライ技術を使用することにより、1プラントで年間最大1,000棟の平屋または多層住宅を建設できる。バタフライは折りたたみ式の鋼製型枠で、従来の連結式型枠より効率性がはるかに優れている。「この技術を使用することで、プレキャストの要素を7x3mのスペースに配置できます」と、ペーネダー氏。「完成形の住宅の構造を指定せず、その構造を自由に変更できる余地があり、顧客が個々のニーズにあった生活空間を自ら生み出すことができる構造キットを提供しています」。
この効率性は、デザインのカスタマイズ性を犠牲にすることで成り立っているものではないのだ。「万人向けの住宅が、必ずしもプレファブリケーション住宅であったり、それに関連したネガティブなイメージを持つものである必要はありません」と、ファッシング氏。「ほぼ各自の要望に合致した方法でデザイン住宅を実現することも可能です」。
それを実現する方法のひとつが、現地の建設分野の同業者との連携だとファッシング氏は提案する。間取図は現地のニーズに基づいて作成、標準化されるが、塗装や備え付けの家具、その他の造作には柔軟性が残されている。
“万人向けの住宅が、必ずしもプレファブリケーション住宅であったり、それに関連したネガティブなイメージを持つものである必要はありません”—クリスチーネ・ファッシング氏(NEULANDT販売/営業開発部門統括)
工場を4週間で構築
ペーネダー氏は、NEULANDTはこのポータブルプラントを単なる建設だけでなく、技術的な専門知識と効率的な建設技術を現地のプロフェッショナルに伝授することまで拡大して使用したいと考えているのだと説明する。「メーカーとしてではなく、テクノロジーとインフラのサプライヤーとして参入します」と、ファッシング氏。「エコシステムを現地で開発するための基盤を築くのです」。
そのためにチームはスタッフを訓練して、4-6週間にわたるプラントの現地組立を支援する予定だ。「アムシュテッテンで、原型となるプラントの建設を行いました」と、ペーネダー氏。この全長70m、幅15mのポータブルプラントは、アムシュテッテンで試験運用が行われた。世界各地から80名の従業員が集って研究所のように運営され、さまざまなターゲット市場で実際にプロジェクトを行う方法が検証された。
このプラントは40個の船舶貨物用コンテナで目的地へ輸送でき、次のロケーションへ移動するまで、必要な限り建設現場に留まる。
Autodesk Foundation CEOのリネル・キャメロンは「デジタル化された建設と工場で構築される住宅はDfMAであり、迫り来る住宅不足危機に一役買うだけでなく、建設費用を抑え、無駄を削減して、労働者に今後重要な新しいスキルを提供します」と述べている。
ワクチン接種会場、仮設病院、避難収容場所としての可能性
現在、NEULANDTは新興市場におけるアフォーダブル住宅の建設に注力しているが、このポータブルプラントには、それ以外にも多くの潜在的用途がある。アフォーダブル住宅の不足は米国内でも問題で、ヨーロッパの住宅事情も危機的になりつつある。ミュンヘン、ハンブルク、フランクフルトなどのドイツの都市が影響を受け、パリやロンドンの不動産価格は何年も上昇し続けている。それにも関わらず、人々はこうした大都市に移住し続けているのだ。
津波やハリケーンなどで壊滅的な被害を受けた被災地では、避難所の迅速な設置が不可欠だ。また新型コロナウイルス感染症の世界的流行などの現状も、仮設病院の建設やワクチン接種会場の設置のプレッシャーを高めている。ポータブル・プレキャストプラントのような施設は、こうしたシナリオにおいてにも、迅速かつレジリエンス性の高い対応を提供できるのだ。