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ディスラプションの時代に顧客や社員との関係を深めるには

ZOOM 会議 参加者 9名 イラスト

  • DX やクラウドへの移行が加速
  • 顧客に寄り添い、マーケティング手法を変更
  • 顧客との関係性やパートナーシップの構築
  • コミュニケーションの重要性

マーケティング リーダーたちには、この未曾有の不確実性の時代に顧客との関係を深め、新たにリモートワークを行うことになったチームや社員と、強力なコミュニケーションのネットワークを維持する方法を確立する必要が生まれた。この時代にふさわしい行動を取り、こうしたディスラプションを 2021 年の成長の機会へと変えるには、リーダーたちはどうすべきだろうか?

Altimeter Group のシニア アナリストであるスーザン・エトリンガー氏は、顧客や社員との関係構築とその維持について、また従業員が燃え尽きることを防ぐ方法に関して、オートデスクのリサ・キャンベル CMO とディスカッションを行った。

ほとんどの交流がデジタルで行われるようになった今、顧客や他の利害関係者との関係性はどう変化しましたか? この状況は、ご自身にとってはどのような変化をもたらしているのでしょうか?
どの顧客も不安を感じており、誰もがデジタル トランスフォーメーションについて語っています。これまでと同じようには物事は進まないと、皆が認識しています。また我々は、2-3 年はかかるであろうと予想していたことが 6-7 カ月で実現するという現象も目にしています。顧客によっては全てのデザイン業務をクラウドに移行し、そこでコラボレーションを行うようになりました。

オートデスク CMO リサ・キャンベル イラスト
リサ キャンベル オートデスクの元 CMO

パンデミック以前であれば、従業員数が 3 名程度の小企業なら「クラウドに移行する必要はない」と言ったでしょう。そうした顧客も、弊社のコラボレーション デザイン ツールの利用者になりました。そうしなければ業界での生き残りは不可能です。これはビジネスの存続にかかわる問題なのです。

顧客にとって重要なことも変化したため、その優先事項にしっかりと合わせる必要がありました。今、彼らが直面しているビジネスの重要課題は何か? 事業計画に関して、何が経営幹部の話題に上り、現在のコロナ禍でどう舵取りしているのか? 何が永続的で、何がそうでないのか? ほぼ全ての顧客にとって、永続的な変化となるでしょう。これはデジタル トランスフォーメーションの一部だからです。

マーケティングは、その大部分が既にデジタル化されています。ただし米国が 3 月と 4 月にロックダウンに入った際には、マーケティング手法を変更する必要がありました。家族の安全をどう守るか、自身の安全をどう守るか、給与をどうするかについて、皆が解決策を探っていました。その時点で積極的なマーケティング活動や需要創出を行うのは的外れだったでしょう。一歩引いて「顧客が直面している困難に焦点を合わせよう、彼らが経験している苦難とは何だろう?」と考える必要がありました。

そして顧客の役に立つものにするべく、マーケティング プログラムの一部の変更に着手しました。即座に COVID-19 リソース サイトを立ち上げ、この状況を切り抜ける方法を理解できるようにしました。例えば教職員や学生の顧客には、カリキュラムをオンライン化する支援を試みました。

また建築・建設やエンジニアリング分野の顧客には、彼らのモデルをクラウドに移動できるようにしました。主要なクラウドコラボレーション ソフトウェアは、90 日間の試用版の商業利用を可能にしました。これは前例のない試みでした。試用版は商業目的のものではなく、通常の試用期間は 30 日間で、その後は製品の購入が必要になります。しかし、斟酌すべき状況にありました。

クラウド 導入 スピード
パンデミックが、かつてないスピードによるクラウド導入をもたらした

自宅待機やレイオフの対象となった、この業界の労働者に対しても行動を起こしました。チャネル パートナーと連携し、顧客企業で自宅待機やレイオフの対象となった方が、スキル向上再教育のトレーニングを受けられるようにしました。これはチャネル パートナーにとっては、弊社が提供するトレーニングの助成で社員の雇用を維持でき、また従業員はスキルを向上できて、新しい職を探す必要がある場合も元の企業に雇用先に戻る場合にも有益となり、双方にとって好都合となりました。どちらのケースでも、ポートフォリオに加えられるスキルが追加され、その貢献度もさらに向上しています。

我々が顧客に費やす時間も増えました。オンライン イベントには素晴らしい人数が参加しています。通勤や移動に時間をかけなくなった人々は、各分野でのグローバルな最新情報をオートデスクに頼っているのです。顧客の中には、その拠点とは関係無しに、グローバルなプロジェクトへ入札している企業もいます。そうした企業から、「中国、韓国の情勢は? APACの景気は EMEA や北米に比べて回復していますか?」といった質問を受けます。我々は、それに対して「お話を伺ったお客様から、こういうことを聞いています」と伝えることができます。その点では大いに貢献でき、それが顧客との、より信頼の厚い関係性やパートナーシップの構築にも役立っています。

顧客から質問されるトピックについて、もう少し聞かせてもらえますか?
オフィスに戻ってくる人々に対して、どのような支援を提供できるかという問い合わせがあります。弊社のデザイン ソフトウェアで、オフィス空間をより安全なものに再設計できるかどうかを知りたいのです。そうした支援は可能です。弊社のデザイン ツールでは、フロアをより安全な環境にするための再構成についての支援ができます。製造分野の顧客は、こんなことを言っていました。「スタッフを現場に再配置する必要があるが、それを安全に行うために、どんな支援が提供可能ですか? 製造フロアのフローの再構成や再設計は、支援できますか?」。別の製品を製造できるよう、製造フロアの再設計が必要になった顧客もいました。自社で PPE を製造可能かどうかを、複数の顧客が知りたがっていました。弊社のソフトウェアは、その判断に役立ちます。

顧客 関係 スーザン・エトリンガー
著者である Altimeter Group のシニアアナリスト、スーザン・エトリンガー氏 [llustration by Micke Tong]

社員や顧客との交流に関しては、どのように感じていますか? 新たな指針は検討されていますか?
先日、素晴らしい記事を読みました。その著者は、全ての人にサージ キャパシティ (危機に対する対応能力) があると述べていました。記事ではサージ キャパシティについてアン・マステン博士の言葉を引用し、「精神的、肉体的な適応システムの集合体で、自然災害などの緊張度の極めて高い状況において、短期的生存のために人間が利用するもの」と説明しています。サージは通常、散発的なものですが、米国に住んでいる我々は、昨年からサージ キャパシティをノンストップで使用している状態です。

また、人々のウェルビーイング (心身共に良好な状態) が話題に上ることも増えています。セルフケアとして、どのようなことが行われているでしょう? より柔軟な勤務スケジュールに、それをどう取り入れることができるでしょうか? これは、学校に戻ることができていない小さな子供を持つ社員には、特に当てはまります。その場合、教育はハイブリッド環境または完全にバーチャルで、これは非常に大きなストレスです。そこで社員には、皆がよりアジャイルに業務が行えるよう、フレキシブルな時間の提供に努めています。また、相談相手が必要な場合に利用できる、さまざまなプログラムも提供しています。

他のリーダーも行っているとは思いますが、Zoom で純粋な社交目的でのやりとりも行っています。もちろんビデオ会議に疲れている人は多いですし、カメラをオンにしたくない場合もあるでしょう。そこで私のグループでは、45 分制のミーティングを取り入れています。1 時間のうち 15 分は、電話への対応や飲み物の用意、ただ単に歩き回るだけのための時間として活用するのです。こんなシンプルかつ些細なことに非常に大きな価値があり、チームからも大きな反響がありました。

コミュニケーションも増やしています。以前は全員参加の会議を四半期ごとに行っていましたが、今ではコミュニケーション量をほぼ倍に増やし、情報共有の場を持つようにしています。情報共有のためだけに、グループ内の全マネージャーと、より頻繁に顔を合わせるようになっています。とにもかくにもコミュニケーションです。人々はコミュニケーションやつながりを欲しており、積極的にコンタクトを取るようになっています。また、進捗についての確信が持てなくもなっているようです。全てがリモートになっていると、これはなかなか困難です。コミュニケーションを増やし、よりリアルタイムなフィードバックを提供するようにしています。つまり、リーダーシップの観点から言えば、私の関心の多くは健康とウェルビーイングに注がれているということです。

また、チームのメンバーについて、これまで以上によく知ることができているように思えます。ビデオ会議のおかげで、メンバーのお子さん、パートナー、ペットなどに会う機会ができました。コロナ禍以前は、ビデオ会議に家族が乱入することは妨害だと考えられており、フラストレーションの原因でした。それが今では、皆笑顔です。それに、私はこう考えるようになりました。「彼らのお子さんの名前を知ることができた。ハロウィーンのコスチューム姿を見ることができた」と。

捉え方の変化に関して言えば、仕事量や一部のロードマップも見直す必要があることに気づき、実際に変更も行いました。誰もが仕事と私生活のバランスに四苦八苦している中で、全員を一定の生産性の基準に置くことはできません。そこで、いつもというわけではありませんが、道理に適う場合には、仕事を成し遂げるためにより多くの時間を提供できるよう、ロードマップとコミットメントの一部を調整するよう努めています。それが不可能な場合は、現在のスケジュールでやり抜く必要がありますが、余裕ができれば、すぐにでもそのスケジュールで進めたいと考えています。追跡評価によると、この取り組みは効果をもたらしていると思います。

今後もしばらくはパンデミックと共に生活していくことになるとして、そうした交流をどのように拡大できると思われますか? このような形で仕事を続けていくには粘り強さが必要ですが、現時点での学びの多くは、個人の見解に基づくものに過ぎません。より計画的にリモートワークを管理する手段についてはどの程度の範囲までをお考えですか?
こういった新たなスキルの習得は、必ずしも計画していたことではありませんでした。リモートワーク用の新たなスキル構築はすべて、そうせざるを得なかったからしたことです。初めは短期的または危機的状況のためのものであったことが、より洗練されたスキルへと変化しつつあるということを、我々は学びつつあります。ビデオ会議の例を挙げましょう。ビデオ会議では、一部の人が会議室に、他の人はリモートで参加するが一般的でした。これは海外からミーティングに参加する者がいるときのやり方です。この場合、リモートでの参加者には会話を追うのが難しいことがありました。また、発言権を得るのも難しかったのです。

今では、順番に全員の意見を聞いたり、バーチャル挙手機能を活用したりしています。分からないことについて全員が質問でき、会話に反応したり参加したりできるよう努めています。また、内気な人や、意見を言うまでに時間がかかる人は、この状況について、率直に意見するための基盤ができたように感じられると話しています。どんどん先に進んでしまうため、これまで参加できなかった会話に、初めて参加できるようになったのです。

リモートワークは優れた地ならしの機会となっています。より多くの人々が、つながりを感じ、意見を共有できるようになったと感じています。ですが、人間同士、個人的なつながりがないことを寂しく感じています。今後は、おそらくハイブリッドな環境になるでしょう。完全バーチャル、あるいはバーチャル ファーストに移行すると発表している企業もあります。バーチャル ファーストとは、リモートで働きたい人にはその機会が提供されるということです。オフィスを毎日出勤してデスクワークを行う場所としてではなく、コラボレーション用の空間として再利用するとしている企業もあります。現在、我々は未来の働き方のスキルを構築中であり、それを洗練させていくのだと私は考えています。ネクスト ノーマルは、よりハイブリッドな体験となるのですから。

私は、新しい研究レポート 「Strategies for Growth in the Reimagined Workplace」作成の一環で、ベン・ウェーバー氏にインタビューしました。彼は、最近の記事で、オフィスを持たない働き方の影響について書いており、「緩やかなつながり」という概念を取り上げています。職場であれプライベートであれ、時折交わるような関係のことです。組織においては、こうした緩やかなつながりが極めて重要だと、彼は話しています。文化の健全性のためだけでなく、こうしたつながりがなければ知ることのできない、ビジネスに影響を与える重要な情報源ともなり得るからです。このことを話題にしたのは、この世界は、社員と顧客の両方との、より偶然性の高い交流を生み出すデジタル空間における手法について、まだ学んでいる最中だと思うからなのです。

その通りだと思います。我々はそれを、短いオフィスチャットと呼んでいます。廊下での 5 分くらいの会話と同じ状況を生み出すということを、チームと取り組んでみました。30 分の新しい Zoom ミーティングをスケジュールする代わりに、「おしゃべりタイムにしよう」と号令をかけるのです。オフィスに顔を出して誰かに話しかけたり、電話をかけたり、テキストメッセージを送ったりする時間です。また、我々だけでなく多くの企業が行っているもうひとつの取り組みにSlack への移行があります。これも非常に有益です。

スタッフと関係者専用の Slack チャンネルを作成していて、そこに顔を出して質問したり、ドキュメントのフィードバックを求めたりすることができます。これも、廊下でのおしゃべりに代わる、つながるため、情報共有のためのもうひとつの方法です。「輪番停電のせいで今朝は電気が使えなかった」とか、「ねえ、すごく興味深い記事を読んだんだけど」などと書き込むことができます。この習慣を根付かせようとしているところです。ですが、やはりこういった立ち話ができないことを、皆が寂しく感じていると思います。難しいですよね。すべてのギャップを埋められる優れた解決策はまだ耳にしていませんが、対処するためのアイデアにはさまざまなものがあります。

指標やカスタマー フィードバックがこれまでとは異なってきていると感じることは?
顧客は、よりオープンになってきています。我々はリスニング セッションを始めました。それは単純に顧客と話がしたかったからです。ご存じのとおり、アンケートを実施すると、相手を傷つけたくないあまり、回答が本音よりも優しくなるということがあります。ですがセッションでは、問題や懸念について、より率直で、はっきりと、正直な回答が得られるように感じます。これは、顧客により良いサービスを提供し、問題を解決するのに役立ちます。また、データや含意の解析結果も向上します。例えば、一定期間が経っているのに顧客が弊社製品の特定の機能を使用していない場合、導入が軌道に乗っていないこともあり得るため、顧客に連絡を取り、支援を提供することができます。

今後についてどのようにお考えですか? 今にして思えば別のやり方があったかもということはありますか? また、今回の経験から学んだことで、事態が収束に進んでも今後も維持したいと思うことは?
これまでよりも周到でありたいと思うことのひとつは、控え選手を幅広く用意しておく手法についてです。我々はスター選手だけに頼りすぎがちな面があります。現在の仕事量に加えて、さらに新しいタスクを引き受けて欲しいと頼みがちですが、トップ選手であるほどノーとは絶対に言いたがらないものです。だからこそ、より多くの人材を育成し、こういった異常事態に頼りになる広範な人材を確保する必要があります。

今後も続けていきたいことも幾つあります。「地ならし」というコンセプトが気に入っています。全員の意見を聞くことが、より良い意志決定を行い、より良い結果を出すことにつながっていると感じるからです。社員のプライベートに詳しくなったと感じられる部分も継続したいですね。つながりが持てて、互いのことをこれまでより少しだけわかり合えているような気がします。肩書に関係なく、我々は皆同じ人間なんだということを思い出させてくれるように思います。

著者プロフィール

スーザン・エトリンガーはグローバルに認知されるデジタルストラテジーのエキスパートであり、AIやテクノロジー倫理、データにフォーカスしています。イクロソフトのAI & Innovation担当ディレクター、研究機関CICC (Centre for International Governance Innovation) の上級フェロー。彼女のTED Talk「What Do We Do With All This Big Data」は25カ国語に訳され、130万回以上視聴されています。

Profile Photo of Susan Etlinger, Microsoft Director, AI & Innovation - JP