河西工業がデータの活用で目指すサステナブルな自動車製品開発
- 乗用車の内装トリムシステム部品の設計・製造を行う河西工業株式会社は、環境と人、テクノロジーを軸にサステナビリティの実現に向けた取り組みを実施。
- 流動解析を活用し、製造上の問題を事前に特定することで製品設計を最適化。またデジタルモックアップを作成し、バーチャルで製品の形状や色を確認している。
- バーチャルモックアップの使用による開発プロセスの効率化で時間とコストを大幅に削減することで、より多くのアイデアを検討する時間を創出できる、新たな開発体制を確立している。
世界のCO2排出量の約20%が交通や運輸に由来しており、その45%が乗用車から排出されている。最も気候負荷の大きい移動手段とされる乗用車には、電動化や水素エンジンによる脱化石燃料や軽量化などの取り組みだけでなく、持続可能な開発プロセスの採用も必要となる。
20,000点もの部品で構成される自動車の設計、製造には、数多くの協力会社とのコラボレーションが必要であり、そのエコシステムには膨大なメーカーが参加している。1946年に創立した神奈川県高座郡に本社を置くグローバルな総合メーカー、河西工業株式会社もそうした会社のひとつ。同社は自動車内装トリムシステム部品と呼ばれる、自動車内部に収められるシートとインストゥルメントパネルを除く部分の企画・開発・生産を主力事業としており、それをアセンブリした状態で自動車メーカーへ納品している。
新たな内装トリム製品の開発や、製品につながる技術や材料の開発を手がけている河西工業株式会社 開発本部 R&Dグループは、自動車メーカーが決めた意匠を同社が設計・製造する上で必要となる意匠面での変更の提案や、独自に開発を行うコンセプトモデルのモックアップ (事例PDF) のデザインを行なっている。同グループで新製品開発部の主担を務める坂田秀夫氏は「自動車メーカーが作成した意匠のCADデータをもとに、それが車に取り付くよう裏面の設計を行なったりするほか、多数ある自動車の法規や基準を満たすための実験や解析なども行なっています」と述べる。
サステナブルな内装デザイン
坂田氏は、同社の役割を「お客様が決めた意匠形状を崩さず、求めている性能を実現しながら、安全・安価にスペックを達成する」ことだと説明し、その上でサステナブルな内装を実現するべく、材料や技術などのアイデアを盛り込んでいると語る。
「意匠は自動車メーカーが決めるものですが、弊社が内装トリムを実際に製造する際に樹脂の流れ方の問題や表面の不具合が出ないかどうかは、Autodesk Moldflowの流動解析を使って事前に確認し、問題がある場合は意匠を少し変更したり、裏面の構造を工夫したりという作業を行なっています」と、坂田氏。現在、同社はほぼすべての自動車メーカーの仕事をしているが、各社で意匠デザインに使用されているAutodesk Aliasを、社内でも10名ほどが使用。他社からAliasのデータを受け取り、そのまま作業することもあるという」。
モビリティ社会の快適空間の実現を目標に掲げる同社は、環境と人、テクノロジーを軸にサステナビリティの実現に取り組んでいる。低CO2排出製品の開発や、揮発性有機化合物 (VOC) 対策のための有機塗装削減や有機溶剤・有機接着剤の排除、ハイパピアの製品開発から遮音/吸音/遮熱構造の設計開発と素材発掘や熱制御技術の構築まで、その取り組みは実に幅広い。
設計から製造まで一貫して手掛けていることで、サステナビリティに対しても包括的な取り組みが可能となる。例えば接着剤に使用されている有機溶剤の削減に際しては、従来の有機溶剤型接着を水性接着剤で置き換えるだけでなく、従来は塗装で行っていた表現を、工夫によって塗装を使わず実現できる技術の開発なども行っているという。
バーチャルなモックアップ
さまざまな取り組みの中でこのところ大きな効果を挙げているのが、これまでコストと時間をかけていたモックアップを、なるべく作らずに作業を進める試みだ。Autodesk Aliasで作成したデータを活用して、内装のデジタルモックアップを作成。モックアップをVRで再現することで、本来の目的である「完成品の形状や色などを把握する」ことをバーチャルで実現している。自動車メーカー以外ではそれほど導入が進んでいないワークフローだが、企画・開発・生産を一貫して行っている強みを活かせる部分でもあり、それにより従来は数千万円規模だったモックアップの制作コストや工数が1/10以下になった例もあるという。物理的なモックアップを作らないことで、同社が掲げる「KASAIサステナビリティ方針」に沿った新たな開発体制につながっている。
「モックアップを作成するもののうち、現在はその8割をバーチャルで行うようになりました」と、坂田氏。「まずはバーチャルなモックアップを作り、その上でどうしてもフィジカルで確認したいというところだけ、実際にモックアップを作っています。それによってモックアップ制作の時間を短縮でき、より多くのアイデアを練るための時間を創出できています」。
また、それにより社内外のコラボレーションの方法も大きく変わっているという。「これまで、設計中の内容を関係先に伝えるのは難しかったのですが、それを早く伝えられるようになり、先方からも具体的なフィードバックが得られるようになりました」と、坂田氏は語る。今後は、海外に拠点を置く社内の他の部署、さらには顧客とのコラボレーションに活用することにも取り組んで行きたいということだ。
「デザインのチームは、将来の内装の空間や部品構成はこうなるのではないかということを予測しながら、その提案ができるようにしていきたいと考えています。それを社内の設計や生産技術の部署に投げかけることで、これまでは不可能だったことを実現し、これまでとは異なる意匠を実現した製品が作れるようになることを目指しています」。