CO2排出量計算ツールが建築設計におけるサステナビリティの実現に果たす役割
- 建物のエンボディド カーボンを計算する、より優れた方法の需要は高い。
- エンボディド カーボンの計算は、従来は時間のかかる複雑なものだった。
- 新世代のソフトウェアツールは作業を簡単にし、建築家やゼネコンはCO2排出量と他の要因との間のトレードオフを、より多くの情報に基づいて考慮できる。
- 設計の決定が環境へ与える影響を、初期段階で容易に予測できるようになってきている。
スウェーデンのバイオテクノロジーとグリーン建材の企業であるEcohelixは、新たな工場の建設に着手するに際して、自社のサステナビリティミッションに沿って環境への影響を最小限に抑えたいと考えた。木質系部品を専門とし、また新たな社屋が森の中にある同社は、カーボン フットプリントを無視できるレベルに抑えることを望んでいた。
数字が重視されるAEC (建築、エンジニアリング、建設) 業界では、CO2に関する成果の定量化が必要だ。Ecohelixは当初から、この新たな施設の真のカーボンフットプリントを把握したいと考えていた。Ecohelixのオスカー・シュミットCTOは「弊社は特定の建築物のバリューチェーン全体のカーボンフットプリントにプラスの影響を与えられるような木質製品を製造しています」と述べる。「フルスケールの工場には、現実的で経済的にも実現できる、最もサステナブルな建材が必要です」。
Ecohelixは、ヨーロッパ最大級の建築/エンジニアリング分野のコンサルタント会社Swecoの建築部門に、同社の社内ソリューションであるCarbon Cost Compass (C3) を用いて初期設計にカーボンコスト予測を加えるよう依頼した。このC3は設計や材料のさまざまなオプションを検討している段階において、建築家やエンジニアが構造物のカーボンフットプリントとコストのトレードオフのバランスを考慮する面倒なプロセスを簡略できる、新たなカテゴリーのソフトウェア ツールだ。
大抵のCO2計算ツールは、特定の建材に含まれるエンボディド カーボンに焦点を当てるか、運用開始後の構造物の運用コストを予測するものになっており、サプライチェーンの選択による影響と建物の耐用年数計画を考慮するようなツールは多くない。
測定しなければ管理もできない
AEC分野は、温室効果ガスの排出における最大のマイナス要因のひとつになっている。国連が先日発表した報告書によると、この分野のエネルギー消費量とCO2排出量は2021年に過去最高を記録し、世界全体のエネルギーとプロセス関連のCO2排出量の37%を占める。これは2019年に記録された前回のピークを2%上回る数字だ。
2060年までに2,300億平米に相当する (PDF P.4) 新たな建造物の建設が予定されており、このままではエンボディド カーボン関連のCO2炭素排出量は増加の一途をたどるだろう。敷地レイアウトの初期段階から運用まで、CO2とコストへの影響に関する戦略的な選択に必要なデータと知見を設計者に提供できるCO2計算ツールは、建造物が建設される方法に影響を与えるものだ。
こうした計算は、従来は多くのデータを取り込んだ後に、主にスプレッドシート上で行われており、詳細な計算の後、最終的な予想までに多くの時間とリソースが必要だった。 設計の段階や建物の形状・材料に関する詳細の入手状況によっては、さらに時間がかかることもあり、変更があれば数字を再度見直す必要もあった。
適切なソフトウェアを使用することで、こうしたプロセスを数クリックに圧縮できる。建築家やエンジニアは、別の設計やそれに続く変更がプロジェクトの持続可能性にどのような影響を与えるかを、数日ではなく数分で確認可能だ。
最良のCO2計算ツールを使えば、CO2の影響に関する粒状化データを用いて、建築家の設計モデルに初期段階から活用できる。ユーザーは設計変更がCO2とコストに与える影響をリアルタイムで見える化し、サステナビリティと事業成果のバランスを考慮した情報に基づく意思決定が可能だ。
ライフサイクル全体を検討する
各CO2計算ツールの使用事例は、建造物のライフサイクルの特定の段階に相関していることが多い。現在利用可能なツールのスナップショットのオプションを紹介しよう。以下のソリューションは、BIM (ビルディング インフォメーション モデリング) データとシームレスに連携するものだ。非営利団体のCarbon Leadership Forum (CLF) は、エンボディド カーボン計算ツールを探すための便利なリソースを提供している。
初期コンセプトの段階
初期スケッチが進めており、構造物の最終的な形状が完成しつつある場合、EHDD architectsのEPICツールで、その予測されるエンボディド カーボンのコストを計算できる。材料やサイズに関する情報が限定的な場合、EPICはCO2計算手法のc.scalを使用して初期設計を行い、業界データをベースにCO2排出量の概算を算出する。SwecoのC3も初期コンセプト段階で効果を発揮し、複数のソリューションを比較し、最適な気候や予算のオプションを素早く発見可能だ。Ecohelixなど、既にCO2排出量や建設コストの計算に使用している企業もある。
詳細設計の段階
プロセスの後半で、完全なBIMモデル生成に十分な建造物の形状や材料の詳細が存在する場合は、SwecoのC3、tallyCAT (下記参照) 、Autodesk Insight: Carbon Insightsなどのツールが役立つ。Carbon Insights (現在は技術プレビュー版) はAutodesk Revit内で、建物の外壁や窓の製品ライフサイクル全体にわたる解析をダイレクトに実行可能。 原料の抽出から製造工程全体まで、さまざまな材料がCO2排出量に与える影響の有益な知見を提供する。
設計後期段階
EC3 (Embodied Carbon in Construction Calculator)は、Building Transparencyが無償で提供を行なっている。現在はTally Climate Action Tool (tallyCAT) と呼ばれる他の無償オプションと統合されたこのプラットフォームでは、建築家やエンジニア、クライアントが、完成した建造物の設計のエンボディド カーボンとオペレーショナル カーボンのコストの詳細分析を実行できる。また、建造物に選択された材料のサプライチェーンに含まれるカーボンコストの計算機能も提供する。
全領域にわたる分析
One Click LCA計算ツールを使うと、建築家は設計の上流の影響を、さらに踏み込んで計算できる。これは最終的な解体や廃棄を含む、建造物のライフサイクル全体をカバーしている。また、建築家が設計プロセスを最適化し、低炭素建築ソリューションの認証基準を満たすための正確な分析を実施するのにも役立つ。
CO2計算ツールの応用例
米国の床材メーカーInterfaceがアトランタのダウンタウンに構想した新本社は、当初計画では約6,500平米のビルを建設予定だったが、その設計をEC3で分析した結果 (PDF P.8)、同社の建築家はその目的を3,700平米の建物でも達成できると理解した。
フリーアドレスやホットデスキングを導入することで、全体的なスペース活用が劇的に向上。建築家たちは次にEC3を用いて、選択肢となる3,700平米の新築と、市中心部にある1960年代に建てられた同サイズの建造物の改修の分析を行った。
最終的にInterfaceが選択したのは後者だった。既存の建造物を改修し、レンガを再利用することで、エンボディド カーボンを50.48%削減できると判明したからだ (PDF P.9)。
サステナビリティに最初から配慮
サステナビリティの正確な測定はAECの長年の課題であったが、その複雑さ、競合するモデル、基準をめぐる意見の相違が、炭素会計ツールや実務における透明性の欠如につながっていた。カーボンコスト計算ツールの向上、成熟によって建築家とクライアントがプロセスをモダナイズし、正確でインパクトをもたらす成果を達成できるなうになるよう期待されている。
Swecoのデジタル開発責任者、マティアス・ネル氏は「プロジェクトの初期段階では、カーボンコストとさまざまな建設資材のハードコストとの間に、非常に強い相乗効果があります」と話す。「サステナビリティと材料に関する決定を行うことで、より優れた管理が実現できます。その決定を、早い段階で下すことができれば」。