あらゆる規模の企業の文化を変える8つのステップ
- 企業文化は無形の企業活動形態であり、従業員同士の関わり方を規定する規範、期待値、行動により構成される。
- 文化の変革は大規模な取り組みだが、健全な企業文化が企業の成否を左右すると考えられている。
- 自社の文化を理解していると考えるCEOと人事担当リーダーはわずか28%だが、企業文化が競争優位をもたらすと82%が考えている。
- 企業文化の変革にはトップダウンの投資が必要となる。必要な変化への対応において、社内の全ての層が何らかの責任を感じる必要がある。
- 企業文化の変革は継続的な努力の積み重ねだ。フィードバックループを組み込むことで、リーダーは変化がどの程度浸透し、それに適応が行われているかを推測できる。
企業を機能させ収益を創出するには、コンピューターハードウェアから機械にまで、さまざまなインフラがあらゆるビジネスで必要となる。それが無ければ、建設会社は新たなオフィスタワーを建設できず、建築会社は新しい医院の設計図を作成できず、メーカーは次の優れたアイデアを開発できない。
だが企業には、健全な企業文化などの目に見えにくい指標も必要だ。経営に必要・不必要なものを断定する企業にとって、「企業文化」はあまりにも曖昧で厳密さに欠けるものだと思えるかもしれない。企業文化、つまり企業の社会的規範とは、その企業がどう運営され、従業員がどう交流し、意思決定がどうなされるかを説明するものだ。公正を期すために言えば、文化とは、目で見たり測ったりするより、肌で感じたり経験したりするものだ。そして、それは企業の成功に欠かせないものでもある。
全員の意見が一致するよう、企業文化を定義もしくは変革するには、ハンドブックにビジョンを記したり、ロビーにポスターを貼ったりするだけでは十分ではない。企業文化には、アダプティブかつ革新的な再開発のためのトップダウン戦略が必要だ。
企業文化は、あらゆる規模の企業で重要だ
中小企業では、従業員が会社の文化、あるいはその欠如を、より身近なものとして感じていることが多い。行動や価値観に対する期待は、従業員とシニアリーダーの距離が近いからこそ、日々体感できる。例えば小規模なエンジニアリング会社の場合、1年目の従業員と経営者は、担当する業務が異なる段階のものであっても多くのプロジェクトを一緒に進めることになるため、自社の目標を強く意識していることが多い。
大企業の場合は、企業文化がビジョンやモットーで定義される場合もあり、それがマグカップやマウスパッドに書かれていることもある。だがこうした文化は、グループ内部におけるリーダーシップのスタイルによっては、実際にはビジネスグループや階層を上流から下流へ異なる形で浸透していくこともある。製造業界のオフィス勤務者が経験する文化と、工場の現場で働く人が経験する文化は、大きく異なることもあり得る。
全員の意見が一致するよう、企業文化を定義もしくは変革するには、ハンドブックにビジョンを記したり、ロビーにポスターを貼ったりするだけでは十分ではない。企業文化には、アダプティブかつ革新的な再開発のためのトップダウン戦略が必要だ。
今日の企業にとって、この無形のアイデンティティは、リスキリングや事業分野の拡大と同じくらい、企業の成功や将来を左右するものだ。健全な組織文化がなければ、ビジネスの成長と発展のためのその他の側面が低迷する可能性は高い。
ここでは企業文化とはどのようなものであり、それが重要である理由、そして自社のビジネスにおいて文化を変えるべきかどうかについてのアイデアを紹介している。ここにまとめた8つのステップを踏んで企業文化を変えれば、刻々と変化する状況に対応できる、より堅牢かつレスポンシブなビジネスの実現が可能となるだろう。
企業文化が重要である理由
パフォーマンス向上とチェンジマネジメントのコンサルタント、サブリナ・パーマー氏は「 [企業文化]とは 企業内で期待される社会的規範のことであり、従業員がどう関与し、意思決定がどうなされるかを形作るものです」と述べている。
「企業文化は多くの場合、企業の存在理由であるミッションや目指すビジョン、従業員の行動に影響を与える核となる信念や原則である価値から生じます」と、パーマー氏。「その結果、企業文化は企業によって異なってきます。同じ文化を持つ会社は2つとないでしょう。しかし、小さな会社にも大きな会社にも共通することはあるのです」。
企業文化は、これまで以上に、その企業の将来性を左右する重要な要素となっている。現在・将来の従業員や顧客は皆、会社がどこに注力しているのかを示す企業文化に注目している。事実、「2016デロイト グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド」レポートによると、調査対象となった7,000名以上のCEOや人事リーダーの82%が、企業文化は競争優位性をもたらすものだと考えている。
パンデミックは、良くも悪くも企業やその文化に圧倒的な影響を与えた。職場の文化は、一般的に急速には、もしくは容易には変化しない。だが事業のあり方の根本的な見直しを余儀なくされたため、企業は自らの企業文化についての好き嫌いを評価する機会も得た。
「ネガティブな文化は、企業のカスタマーエクスペリエンスに影響を与える可能性があります」と、パルマー氏。「良好ではない体験は企業に対するネガティブなイメージにつながり、売上の減少につながることもあります。文化を変えることは、最終的に企業の成長、ビジョン実現能力、戦略実行能力に影響を与える、重要なことです」。
だが、レジリエンスを持ち健康的な企業文化は、単に幸せな職場という以上のメリットをもたらす。健全な文化を持つ企業はまた、アカウンタビリティも高く、事故やPRの問題、その他の災難を上手く切り抜けることができる。自らの基盤を見失うことなく、より大きな文化の変化や進化に対応することが可能だ。つまり、自社の企業文化の成長と向上への継続的な投資は、スローガン以上の意味を持つ。それは、会社の将来を強化することに他ならない。
企業文化を変えるべき時
企業はこれまで、業務上の成功に重点を置いてきており、それは当然のことだ。成功している効率的なビジネスがなければ、企業文化を心配する必要もない。だが成功のためには、企業文化の中で何が議論の対象であり、何がそうでないかのパラメーターを設定するという、避けられない手順が伴う。
以下のような兆候は、企業文化を見直し、変革すべき努力を共同で行う時期が来ていることを示している可能性がある。
- 従業員の高い離職率。 一般的に、満足している人は退職しない。グループや会社で人材の流出が続いているのであれば、その理由を理解すべきときだ。大声で怒鳴る、脅す、無礼、協調力に欠けるといった有害な行動に関する社内の苦情、顧客からの芳しくないフィードバックは、ビジネスに悪影響を与えるだけでなく、不利益となり得る。また成長の機会の欠如やリスキリングへの取り組み不足は、人々に停滞感や不当な評価を感じさせることになる。
- 特定の集団または少数派グループの従業員の離職率。 労働者は一様ではない。特定のグループや集団が不満を感じている場合、それはビジネスが彼らを支援していないことの表れかもしれない。さらには、あるグループが差別の対象として特別視されていたり、他の同僚より与えられる機会が少なかったりすることを示している可能性もある。
- 新しい事業部門。 成長は良いことで必要なことだが、企業文化に対する課題も呈する。新製品や新サービスの立ち上げなど大きな変化の際には、企業文化の変化も考慮する必要がある。
- ビジネス上の新たな優先度。 企業文化の見直しが必要になるのは、必ずしも会社の体制が大きく変わる場合ばかりではない。戦略の変更予定は、新たな成長を支えるビジネス能力に懸念があることを意味する。文化の変革をビジネスの変革に織り込むには良いタイミングだ。
- 指導者の交代。 シニアリーダーが去ったり、再編成されたりすると、自然に空白状態が生まれる。このような移行期は、新しい文化や展望に着手する良い機会である可能性がある。
- 合併や買収。 複数企業の融合は、ハイブリッド企業となる会社への期待や文化を再調整する絶好の機会となる。こうした合併は、企業が互いに学び、合併後の企業文化をより健全なものにするために、それぞれから最適な戦略を選択する機会をもたらすことが多い。
組織文化を変える8つのステップ
叱咤激励やコンプライアンス研修の義務化だけでは不十分だ。組織が企業目標を成し遂げるために必要な基本的価値観を、ビジネスリーダーとして、具体的に示すことが必要になる。 それを共に目指すことで、その価値観と行動が企業文化を定義するものとなる。
ビジネスの目標が、新事業への着手、プロセスのデジタル化、自動化の拡大のいずれであっても、従業員の行動や顧客とのやり取りを通じた日々の業務など、企業としての振る舞いが成功につながる道であると導くことが重要なのだ。より良い企業文化を生み出すために企業文化の変化が必要だと考えるなら、次の8つのステップを取り入れてみてはどうだろう。
1. 望ましい成果を明確にする
どのような企業文化にも、そこで働く従業員の価値観や行動が表れる。それを変えたければ、何を変えるべきかを明確にする必要がある。
最初のステップとして、基本的な価値観を明らかにし、その価値観を支える行動を見極めよう。企業の長期的目標の実現に必要となる新たな価値観や行動に加えて、これまで良い結果をもたらしてきた要素も組み込もう。
どのような企業文化にすべきなのかを、しっかりと熟考して定義することだ。そうしないと、とりわけ企業が急成長している場合は、従業員が増えるにつれて企業文化が個人の解釈次第になってしまい、その結果として不明確で、成功への障害となるものになってしまう。
明確なビジョンであれば、あらゆるレベルの従業員や新社員に、どのような企業が望まれているのかを伝えることができる。最初に時間をかけ、方向性をクリアにしておくことで変化を加速できる。
2. 文化の変革の伝達計画を立てる
企業文化の枠組みの定義は重要だが、それに関する企業とのコミュニケーションが行われなければ全てが無駄になる。従業員が変革に共鳴する必要がある。
それに適応することを望み、変化する責任すら感じていなければならない。特に企業文化の定義を初めて発表する際に重要なのは、従業員がフィードバックを提供できるよう、興味を引くようなインタラクティブなコミュニケーションを生み出すことだ。従業員に新たな概念を熟慮する機会を与えるような対面でのワークショップ、リーダーによる早期支援を示す全社・事業部単位での全員参加による会議に加えて、メールやイントラネット、社内ソーシャル メディアなどの、より「脇役」なコミュニケーション活動など、フィードバックできる仕組みを作ることは不可欠だ。
忘れてはならないのは、これは誰かに何かを「教えよう」としているのではなく、「理解を助け、ミッションに手を貸そう」としている点だ。従業員が疑問を投げかけ、価値観を理解し、日々の業務にその価値観を結びつけられるように支援するべきだ。それが企業文化のより深い理解を生むだけでなく、企業のより幅広い成功に従業員を結び付けることにもつながる。
つまり、自社の企業文化の成長と向上への継続的な投資は、スローガン以上の意味を持つ。それは、会社の将来を強化することに他ならない。
3. 新しい文化的価値観を人材採用活動に織り込む
企業文化の変革を実現する確実な方法のひとつは、従業員の雇用、昇進、報酬のあり方にそれを組み込むことだ。特に人材採用では、企業文化が候補者の評価や査定方法、待遇の決定に関わってくる。
これは、ファースト コンタクトの瞬間から始まり、メールや電話での予備面接、実際の面接に至るまでの、あらゆる接触機会に影響する。候補者はすぐに企業の感触をつかみ、そこが自分にとって適切な場所なのかどうかを判断できるし、適合すると判断すれば入社後すぐに、企業の求める価値観や行動で企業文化に貢献することを厭わないだろう。
4. 経営陣の賛同を得る
言うまでもないが、社内のあらゆるレベルのリーダーシップチームが、こうした価値観と行動こそが正しい道であり、会社の成功の基盤であると確信していることが不可欠だ。それによって文化への取り組みのすべてが、単なる企業のウェブサイト用の美辞麗句ではないことを、より多くの従業員に示すことができる。これは相当の専心を要する。企業のリーダー層、特に幹部は、社内の他のチームが見習えるような企業文化を形作る必要があり、会社全体が追従することを望むなら、リーダー自身が同じ立場に立たねばならない。
5. 根気強く取り組む
こうした取り組みに乗り出そうとしている企業は、多くの人が参加するべき取り組みであることを認識しておくことが重要だ。企業文化の枠組みは、検証、パイロット テスト、調整を経て最終形へと至るが、その後も継続して発展していく。
最終的に企業文化を支配し、形作るのは従業員だということを忘れてはならない。リーダーとしてできるのは、従業員が企業文化を実践できるような指標を提供することだ。それが、より優れた業務、より良い顧客との関係、そして結局は好調なビジネスを実現することになる。
6. 徹底的にメッセージングを定義する
企業文化はオフィス内にとどまるものではない。今日、企業は悪評や否定的な体験を伝えるソーシャルメディア上の動画、不満を持つ従業員や協力会社のツイートなど、外部からの攻撃で評判やブランドを傷つけられる可能性がある。
新しい文化や目標の社内展開を計画する一方で、人事チームや外部の人事会社と連携し、これらの変化に対応したマーケティングを行う。公に大規模に展開する必要はない可能性が高く、こうした変更の大半は社内に焦点を合わせたものであるべきだ。ただし、企業文化は潜在的な顧客や従業員に直接影響を与える可能性があるため、外向きのプログラムを補完することは有益と言える。
明確なビジョンであれば、あらゆるレベルの従業員や新社員に、どのような企業が望まれているのかを伝えることができる。最初に時間をかけ、方向性をクリアにしておくことで変化を加速できる。
7. 従業員からのフィードバックにトレーニングを適応させる
また企業文化を実現させるには、企業文化の枠組みを展開し、そこへ適合させる以上に深めて行く必要がある。これは単純なトップダウンのプロセスではない。「ミッションや会社の成果への直接的な貢献が感じられるので、従業員のモチベーションが上がりやすいのです」と、パルマー氏はこす。そのためには重要な価値観を選び、そうした価値が従業員の日々の業務にどう現れるのかを、期限を定めて集中的に検討するべきだろう。そこには組織内のあらゆるレベルにおける、小規模で指導者の参加したインタラクティブなセッションも含むべきだ。
また、フィードバックループを設けることも有効だ。変革のプロセスについて従業員にフィードバックを求め、そのフィードバックを有意義な方法で評価することは、実施、長期的な賛同、そして持続可能な変革にとって極めて重要だ。このフィードバックループは、展開の各段階を通じて散発的に行われる従業員アンケートという形でも、より個人的な1対1のフィードバックセッションに参加するよう従業員に依頼する形でも構わない。従業員によってはどちらかの方法がよりしっくりくる場合もあるため、複数の方法を組み合わせると最良の結果が得られるだろう。
8. 今すぐ始める
文化の変革は一朝一夕に実現可能なプロジェクトではない。それには、広範にわたる計画、戦略、実施が必要となる。文化的な直感が自動的に働くようになるには、実際には何年もかかることもある。
とにかく始めることだ。職場の文化を改革する取り組みに限界はない。ビジネスや実際の人々の現実と向き合いながら、成長し、変化していく。フィードバックを受け、目標を再定義する時間があればあるほど、良いものになっていく。
実際のビジネスに期待される文化改革のあり方
パルマー氏は、自身のチェンジマネジメントにおけるキャリアを例に、これらのステップがどのように、より健康的で強固な職場文化の目標を支援するかを説明している。
「同業の中小企業を買収したばかりの、ある大手ハイテク企業がありました」と、パルマー氏。「買収された側の企業文化は恐怖に満ちていました。レイオフやコスト削減の歴史があり、声を上げることを恐れていたのです。システムが古く、組織のペースも遅いものでした。モチベーションとパフォーマンスが高く、より活気のある文化へと変えるために、いくつかのことが行われました」。
パーマー氏はそれらの変化の要点を次のように説明している。
- リーダーシップは、組織のビジョンを積極的に伝え、問題に対処し、期待を引き出した。
- プロジェクトや活動はビジョンを支え、従業員はコミュニケーションに納得していた。
- 新しいシステムへの投資、設備への投資も増えた。
- 会社の方向性を支持し、期待される新しい行動の模範となる人材が採用された。変化を支持しない人は去るか、または去ることを促された。
- 部門横断的なチームの中で新たな学びの機会が生まれ、サイロが解消され始めた。チーム間のコミュニケーションが改善され、従業員は担当分野の改善に力を発揮できるようになった。
- 経営陣は、アンケートを通じて従業員の意見を求め、フィードバックや懸念に対応した。
組織文化は変えられるか?
簡単に言えば「イエス」だが、注意点もある。組織の文化は変えることができる。だが、それには時間と投資、そして継続的かつ献身的な取り組みが必要だ。
元来、リーダーは組織の摩擦を敬遠するものだ。すべての組織は文化と慣習、学習された行動が連動し合う、網の目のようなものだ。構造的な変化は、網の目のすべての糸を引っ張る。抵抗は予想できるだろう。
リーダーはコンプライアンスを要求する代わりに、トップダウンの権威や叱責でなく、楽観と信念をもってチームを鼓舞することが大切だ。リーダーは、自分の影響力を用いて成長と変化を形作るべきで、それを強制するべきではない。
詰まるところ、これらの変化は会社で働くことがどのように感じられるかということ以上に、ビジネスにおいて重要な考慮事項だ。職場の文化をポジティブに変えることが、実際にビジネス収益を変えることになると、パーマー氏は説明する。「ある大手パッケージングソリューションプロバイダーが、コスト削減、コーポレートガバナンスの改善、ステークホルダー価値の向上を目的として財務業務の改革を決定したとき、その組織のリーダーは、この変革を慎重に計画・管理することを望んでいました。この組織には不正支出の文化があり、非効率的な手作業のプロセスに慣れてしまっていました。計画された変化を管理し、企業文化を見直さなければ、この企業が組織のリソースを可視化し、コントロールすることは不可能だったでしょう」。
文化の変革が、より強く、堅牢で、レジリエンス性の高い職場をもたらすのだと認識すれば、従業員のためらいは消え去る。曖昧な空間での仕事や暮らしを望む人はいない。このような組織改革に明確な展開とはっきりとした計画があれば、誰もが社内に居場所を見つけ、将来への安心感を感じることができる。
この記事は、2019年10月に掲載された原稿をアップデートしたものです。