Skip to main content

地震で倒壊したクライストチャーチ大聖堂をデジタル連携で再建中

digital collaboration new zealand's christ church cathedral

  • 2011年にニュージーランドを襲ったマグニチュード6.3の地震で、街のシンボルであるクライストチャーチ大聖堂が崩壊。その復興には長い年月が必要だが、現在も再建プロジェクトが進行中だ。
  • Christ Church Cathedral Reinstatement Limitedは5フェーズによる再建を行っており、2027 年に完成予定。
  • この街の精神的なよりどころであり、人々のつながりの象徴となっている大聖堂の復権のため、建築家とエンジニアはデジタル コラボレーションを活用している。

2011年、ニュージーランド南島東海岸の都市、クライストチャーチをマグニチュード6.3の地震が襲った。この地震は大規模な被害を引き起こし、クライストチャーチ大聖堂のファサード、東側玄関と両側の壁が大きなダメージを受け、全高36mの塔、26.8mの尖塔も倒壊した。

クライストチャーチ大聖堂の定礎は1864年、竣工は1904年で、その建造には40年もの歳月が費やされた。それ以降、この大聖堂は遺産史跡、礼拝の場、市民の集いの場の役割を果たしてきたが、地震で倒壊した大聖堂は打ちひしがれた街を象徴するものとなっている。

希望と回復のシンボルとして、この大聖堂を復元できるだろうか。Christ Church Cathedral Reinstatement Limited (CCRL) がリードする再建プロジェクトは、クライストチャーチ大聖堂の文化遺産としての特色を保持し、より安全な建物として蘇らせることを目指すものだ。

損傷した大聖堂の身廊 [提供: Warren and Mahoney.]
 

復元した大聖堂のレンダリング [提供: Warren and Mahoney]

その再現には長い年月が必要となる。プロジェクトの費用は170億円と推定されており、作業は以下の5フェーズで行われる:

  • 制約と機会を検討するプレコンストラクション
  • 支持フレーム設置による安定化、損傷の大きい部分の解体、歴史遺産の回収
  • 壁の再構築と新基礎、耐震枠、床組の取付、基礎への免震工事による補強と再建
  • 大聖堂の管理センター、カフェ、博物館、中庭のあるビジターセンターを含む関連施設の建設
  • 塔の再建

2020年に開始された安定化は、最大で2年が費やされる。プロジェクト全体は7-10年が必要と推測されており、その完成は最短でも2027年になる。

2 社がクライストチャーチ大聖堂再建を担当

環太平洋地域で建築業務を行っているWarren and Mahoneyが、スノヘッタとのコラボレーションによりクライストチャーチ大聖堂再建のデザインを主導。当初から重要な議題となったのが、建物のモデリングへのアプローチ方法だった。プロジェクト チームには、現在の状態の大聖堂をブロック毎にできるだけ正確にモデリングする方法と、地震による建物の揺れを理解するため、フォトグラメトリと点群スキャンを使用して建物を直交座標でモデリングする方法という 2つの道があり、後者が選択された。

プロジェクトのBIMマネージャーを務めるブラッド・サラ氏は「これは選択し得る最も効率的なルートであり、テクノロジーを最良の形で利用するものです」と話す。「点群スキャンも、それを読み込んで理解するプログラムも向上しているため、テクノロジーが最も有益な方法で変化をもたらす場所の検討が必要でした」。

クライストチャーチ大聖堂の復元後の尖塔のレンダリング画像と再建後の大聖堂のレンダリング画像
復元後の尖塔のレンダリング画像と、再建後の大聖堂のレンダリング画像。完成は2027年の予定。

同社は、そのデザインがクライストチャーチ大聖堂に相応しいインパクトを備えた、単なる建物としての存在を超越するものとなることを望んでいた。プロジェクト主任のピーター・マーシャル氏は「クライストチャーチにおいて、大聖堂は単なるシンボル以上の存在です」と話す。「再建後の大聖堂は、街の復興における重要なマイルストーンになるでしょう」。

大聖堂再建のための信頼できる唯一の情報源

2020年10月にコンセプト デザインが公開され、クライストチャーチという都市と文化遺産の中心的存在である大聖堂が、初めて一般向けに披露された。このデザインはAutodesk Revitで作成された単一のデジタル モデルをベースに、建築家によるオリジナルの作図や初期の写真、大聖堂内を撮影したパノラマ写真、オフサイトで保存されている倒壊した石片の全目録、点群など、さまざまなソースを組み合わせたものだ。

Warren and Mahoneyは自社が持つ、複数の情報源を管理してデジタル レプリカを作成する専門知識を活用した。「建物の各部分に、作図や写真、最新の点群スキャンなど、どのようなデータを使用するかを選択し、情報が未入手の部分を特定する必要がありました」と、サラ氏。「信頼できる唯一の情報源が存在しないため、複数の情報源からひとつのモデルにまとめる必要があったのです」。

クライストチャーチ大聖堂の再建工事の VR モデルを確認中のクライアント
再建工事の VR モデルを確認中のクライアント

このデジタル モデルによって、さらに効率的な連携が可能になった。Warren and Mahoneyは Holmes Consultingのエンジニアリング チームとAutodesk BIM 360を活用して同じモデル環境で作業を進め、建物の構造要素や建築要素を定義して、それらを互いにどう組み合わせるかの検討を行なった。

「通常、デザインはある程度までは建築家が主役となり、その後で構造エンジニアに引き継がれます」と、サラ氏。「でも、このプロジェクトでは壁の部分毎に建築家と構造エンジニアに分配する必要がありました。これは共有モデルが無ければ不可能だったでしょう」。

Warren and Mahoneyは構造以外でも、建物にある数々の文化遺産の造作を理解するため、文化財保護専門家との連携に単一のデジタル モデルを使用した。現場の施工会社は、このモデルを現在進行中の安定化作業に活用している。

同社はVRモデルを作成し、最新情報を提供することでクライアントとのエンゲージメントを高めている。Warren and Mahoneyのアソシエート/シニア テクニシャンであるニック・マッケンタイア氏は「大聖堂が激しく損傷しているため、これまで何年も、誰も建物に足を踏み入れていません」と話す。「これは新しい空間がどのようなものになるかを示す、優れた方法です」。VRはデザインの開発において重要なツールとなり、チームがCCRLに複雑な再建箇所の説明を行い、デザイン上の重大な決定をする際に役立てられた。

新旧の融合によるクライストチャーチ大聖堂の再建

クライストチャーチ大聖堂の最も特徴的な造作は、華美なステンドグラスのバラ窓だ。窓の複雑な形状のモデリングには、ひとつひとつのパーツとその製作方法の分析が必要となり、まずは2Dで、その後3Dで検討が行われた。

「私の思考過程は、窓がどう製作され、曲線と輪郭がどのようなもので、その2要素がどう組み合わせられていたのかをスケッチで理解し、モデリングを効率的に行えるよう反復要素を識別するというものでした」と、マッケンタイア氏。「点群から輪郭をなぞることで、それぞれの窓についての詳細な知識を得られるようになります」。

クライストチャーチ大聖堂の象徴的なステンドグラスのバラ窓は 2D でモデリングされた後に 3D でモデリングされた
大聖堂の象徴的なステンドグラスのバラ窓は 2D でモデリングされた後に 3D でモデリングされた

大聖堂が補強と再建のフェーズに到達すると、新旧の競合は、より明確になるだろう。倒壊したクライストチャーチ大聖堂で使用されていた石の多くは石工が成形し、木材による構造は大工が建設したものだ。再建の段階でも同じプロセスが予定されているが、例えば特定の構造で 3D プリントを使用するなど、伝統技能と新技術の融合が必要になるかもしれない。

Warren and Mahoneyは、この伝統工芸と現代技術のミックスを、大工や石工、その他の熟練工が作図やモデルと触れ合う機会だと捉えている。「現時点では、石を使ってできるだけ忠実に再建しようと考えていますが、新技術をどう利用できるのかに関して、石材サプライヤーと石工の間での議論は現在も進められています」と、マッケンタイア氏。

デジタル連携を通じて廃墟から再建へ

Warren and Mahoneyは、クライストチャーチ大聖堂の再建のデザインにおいて、市民としての、そして文化財を扱う者としての責任を有している。同社は、大聖堂の真価とクライストチャーチ市にとっての重要性を十分に引き出す必要がある。倒壊という最悪の状態にあっても、この大聖堂は希望と強さのシンボルであり続けた。

大聖堂の再建がクライストチャーチ市の象徴の復活を予兆するものとなり、この街の精神的なよりどころと人々のつながりが回復の兆しを見せれば、こうした努力が実を結ぶことになる。

「私は幼い頃、この大聖堂で合唱団の一員として歌った楽しい思い出を持っています」と、サラ氏。「人々が再び大聖堂に足を踏み入れ、大聖堂を体験するのを目にできれば、それはクライストチャーチで人々が再びひとつになる決定的な瞬間になるでしょう」。

著者プロフィール

リナ・ダイアン・カバラーは科学、テクノロジー、社会、環境の交点を取材するニュージーランド在住のライター。

Profile Photo of Rina Diane Caballar - JP