クラウドの迅速な導入でビジネスの成果にメリットをもたらす 5 つの方法
- 2020 年の新型コロナウイルス感染症による職場の制約は、空前のクラウド導入をもたらすことになった。
- クラウドベースの運用の利点は、コミュニケーションの向上からコスト削減、サステナビリティの獲得まで多岐にわたる。
- クラウド導入によるロケーション依存からの脱却は、人材確保の機会提供と、現従業員に対する選択肢の拡大を可能にした。
2020 年がビジネスの世界にもたらした教訓は、リーダーや社員が業務遂行のためのクリエイティブかつ刺激的な手法を見出すのに伴い、大規模なリモートワークが実現可能であるだけでなく、より望ましいものになってきたということだろう。そして、その成功の中核を成すのがクラウドの導入だ。
多くの企業は既にデジタル化への道を歩んでいたが、コロナにより数億もの人がリモートワークを余儀なくされることで、クラウド技術の導入が大きく加速した。投資家は 2020 年度第 2 四半期だけでもクラウドコンピューティング関連事業に 3,000 億円近くを提供しており、TechHQ はクラウドコンピューティング市場が 2023 年までに 68 兆円規模に達すると報告している。クラウドの時代が到達したことは明白だ。
クラウド サービス プロバイダー Advance2000 のリージョン代表を務めるクリス・フランス氏は「すぐにクラウドを導入すべきです」と話す。「クライアントには“クラウドを利用すれば、全てをローカルに置いた場合以上に、IT の優れた利点と費用対効果が得られる」という点を伝えています。コンピューティング リソースの大半をクラウドに置いている企業は、社員全員が在宅勤務にシフトせざるを得なかったパンデミックの禍中でも、ずっと業績が順調だという事実を目の当たりにしています」。
オートデスクのプラカシュ・コタ CIO は「このパンデミックは我々全員に課題をもたらし、また DX への投資を行うべきという議論を続けていた企業の目を覚ますことになりました」と話す。「クラウドを活用している企業には、その妥当性を確認する機会になりました。そして、まだ活用していない企業には千載一遇の機会となったのです」。
対応や対処、レジリエンス構築に奮闘する時期を経て状況が落ち着いてきた現在、パンデミックによるポジティブな影響として、デジタル化とクラウド導入の急速な進展により、イノベーティブで新たな業務手法への扉が開いた点が挙げられる。この記事ではコタやフランス氏、その他のテック分野のトップ企業のリーダーたちによる、クラウド ソリューションの促進で生じる 5 つのビジネス機会を紹介しよう。
1. クラウドの導入が実現する、自動化の強化
第 4 次産業革命、インダストリー 4.0の特質のひとつに、製造タスクやその他の労働の自動化の加速があり、デザインやエンジニアリングのタスクなどの精神労働もさらに増大している。クラウド コンピューティングとその処理能力の成長に伴い、こうした精神労働に機械学習や AI を通じて自動化を応用する能力が劇的に向上した。
NVIDIA プロフェッショナル ビジュアライゼーション部門 VP のボブ・ペッテ氏は「自動化はあらゆる場所で役立っていますが、特に必要とされているのが、製造プラントや建設現場など機敏性や柔軟性が要求されるところです」と話している。「NVIDIA では自動化とは AI であり、それがインテリジェントな設計と製造、エラーの削減、反復タスクやミスの排除を推進しています。建築家やエンジニア、デザイナーを単調で繰り返しの多いタスクから解放し、最も重要なタスクに集中させることができます」。
シミュレーション ソフトウェア メーカー Ansys でシステム/プラットフォーム事業部門の VP を務めるエリック・バンテニー氏は「リソースは常に不足していますが、クラウドはコンピューター処理能力へのアクセスを無制限に提供できます」と述べる。クラウドへのアクセスは自社運用型処理によって生じる制約からエンジニアを解放し、それによって優れたシミュレーション能力、ジェネレーティブ デザインと AI によるイノベーションを可能にする、と彼は話している。
2. クラウド導入によるチーム コミュニケーションの促進と XR を通じたイノベーションの実現
パンデミック中のコミュニケーションでスターの座に躍り出たのが Zoom ビデオ カンファレンスであることは間違いないが、それ以外にもさまざまなツールやフォーマットが利用者を増やしている。XR と総称される VR、AR、MR は、同一の物理空間に居合わせることができない関係者間の連携、コミュニケーション、イノベーションを実現するようカスタム構築が可能だ。
建設・製造業企業のビジネス プロセス最適化を支援するSymetriでインダストリアル デザイン/ビジュアリゼーション マネージャーを務めるニック・ジョン氏は「コンセプト、課題、反復、問題に対する新しいソリューションなど、その内容はさまざまですが、クリエイティブな開発のスピードは、企業のコミュニケーション能力へダイレクトに相関しています」と話す。「XR と AI、クラウドの全てが、コミュニケーションの促進と明確で誤りのない対話の円滑化に重要な要素です」。
「当初、XR は多くのクリエイティブ部門で、単に意志決定を促進するためのデザイン プロセスとして導入されました」と、ジョン氏は続ける。「しかし、このツールは急速に進化を遂げます。そして企業は物理的なプロトタイプ作成の必要性の低減や移動・輸送・ロジスティクスの必要性の縮小、大陸間でのリアルタイム コラボレーションと、それに付随する諸経費の削減まで、その付加的なメリットを認識するようになりました。こうしたテクノロジーとメンタリティのコンバージェンス (融合) が、より環境に配慮して持続可能な自動車や製品のデザイン プロセスを正当な形で生み出します。これは、グリーン企業の投資家や顧客にとって、重要で価値のある付加的なメリットです」。
3. クラウド導入によるエネルギーとコストの削減の促進
クラウドが XR の使用を円滑化し、より環境に配慮したデザインと製造のプロセスを可能にするのと同じように、物理的なデータ センターを必要としないという純然たる事実は、企業にエネルギーとコストの削減ももたらす。Advance2000 のフランス氏によれば、それは最大で小規模企業の光熱費の 90% に相当する。
「データ センターでの処理における最大の出費は、コンピューターやサーバーなどの電力と、その冷却の電力です」と、フランス氏。「そうした冷却費は非常に高額で、エアコンよりずっと多くの電力を要します。可能なところを集中化、必要に応じて分散化することなど、あらゆる最先端技術を駆使することで、電力消費を抑えることができます。弊社のデータ センターがニューヨーク州バッファローにあるのも、それが理由です。我々は外気を積極的に利用しています。冷涼なエリアのため、冷却システムの使用を削減できます」。
比較的小規模な企業であればクラウドでコネクトされたバーチャル デスクトップで全てをまかなえるが、より大規模な企業は一部にローカル サーバーを使用した、ハイブリッド モードでの運用になるだろう。フランス氏は、ここで重要なのは、エンジニアリング分野の大企業でも IT サポートのためだけに 20 拠点は必要でなく、それをひとつに統合できることだと述べている。「大企業であれば、クラウドに移行することで、一般的に IT 関連の年間費用の 40-50% を削減できるでしょう」。
4. クラウド導入で固定化したビジネスのサイロを解体
どのビジネスリーダーも、企業の組織構造を提供製品で示すことは最善ではなく、シームレスに統一された製品やサービス体験を提示する方が良いことを理解している。クラウド導入による DX は、問題の多い組織のサイロ化の緩和に役立つ。
Ansys のバンテニー氏は「完全なデジタライゼーションが行われたプロセスを導入することで、企業は CEO が切望している、組織内の壁の解体を実現できます」と述べる。「これは多くの組織、特にエンジニアリング分野で、テスト エンジニア、アシスタント エンジニア、デザイナー、シミュレーション エキスパート、アナリストなどに細分化されている組織に当てはまります」。
バンテニー氏は、これら全ての関係者がクラウド内で同じデータ セットを使用して業務を行っているのであれば、それまで個別の担当に限定されていた役割を果たすことができる、と主張する。例えばエンジニアリング チームは消費者の需要に応えるため製品の市場投入を早めたいが、それにはわずか数日間に数百ものシミュレーションやテストを行う必要があるとしよう。デザイナーが CAD 環境でこうしたシミュレーションを実施できれば、実質的にアナリストの代理となり、こうしたテストを即座に完了できる。
「エンジニアリング分野のみならず他分野の大企業も、リモート監視やリモート保守の限界に挑んでいます。それは工場に十分な人員を置くことが不可能だからです」と、バンテニー氏。「人間の派遣が困難な環境にある資産に対して、AI ベースのインテリジェントなリモート監視による意志決定が可能となれば、それはまさに運用チームとエンジニアリング チームの壁を壊して、サイロを解体するようなものです」。
5. 場所に依存しないクラウドの導入が人材の選択肢を拡大
ニューヨークやボストン、サンフランシスコなどの大都市に広大なオフィスを構える必要性への疑問に加えて、企業は物理的なオフィス空間からの解放が世界の人材に扉を開き、現従業員には仕事場所への主体性を提供することを認識し始めている。
「コロナが我々の働き方を変え、世界各地で人々と企業をつなげたのであれば、もう地理的境界に縛られる必要はありません。業務の提供先は、制限されないのです」と、ジョン氏。「自分が有する才能やスキルセットを示し、常に最新の情報を手に入れることが重要だと思います。今や世界各地のあらゆる企業が相手となる可能性があるのですから」。
フランス氏もこの点に共鳴し、企業は今や世界のあらゆる所から最良のデザイナーを獲得できるようになり、また顧客はロケーション依存からの脱却とテレワークの組織化を進めていると述べる。
「クラウドがリモートワークの需要とニーズへの対処に貢献していることは確実です」と、NVIDIA のペッテ氏は述べる。「こうした転換は、パンデミック以前から始まっていました。それぞれがベストな暮らしを楽しめる場所に移り住むことが望まれるようになっています。人々が処理リソースやアプリとだけでなく、互いにつながることを可能にするツールが、今後ますます多く登場するようになるでしょう」。
オートデスクのコタは「あらゆる組織に、従来とは異なる形で適応し、考える必要が生まれました。そして場合によっては、何年もかかっていたであろう変革と DXのイニシアチブを加速させたのです」と話す。「これは、まだ始まりに過ぎないのでしょう」。
本記事は Autodesk University 2020「Redshift Presents: How the Pandemic Is Accelerating Cloud Adoption and Business-Model Innovation (パンデミックが加速したクラウドの導入とビジネスモデルの刷新)」パネルを記事化したものです。