BIMから始まる日本の建設DX: データの連携からデジタルツインまで
- 建設DXのための国内の動向
- 建設DXのために重要な取り組み
- デジタルツイン/CDE環境の構築とビジョン
国際標準への取り組みは、ますます重要になっている。今年3月、参議院の予算委員会で行われた「国際化の中で日本企業が人材をどう確保していくか」に関する質疑では、菅内閣総理大臣が「企業が激しい国際競争の中で、より優位な立場で国際市場を獲得し、成長するにあたっては、標準化や国際化ルールというのは極めて重要」であると述べた。
建設DXのための国内の動向
2021年2月、大和ハウス工業は同社がBIMを使用して構築された資産のライフサイクル全体にわたって情報管理を行うための要件を満たすとして、ISO 19650-1およびISO 19650-2に基づいた「設計と建設のためのBIM BSI Kitemark (カイトマーク)」認証を日本で初めて取得。この国際規格の取得は、同社の先進的なBIMへの取り組みが、世界的にも通用するものであることを証明するものだ。
その一方、国土交通省が2020年に策定した「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン (第1版)」では、日本におけるBIMは国内の建築・建設業界の商習慣を元に活用されてきたため、すぐに国際規格に沿った推進はできないものの、実際に各国のBIMガイドラインにおいても、ISOを参照しながら各事情に応じたカスタマイズが行われている旨が記載されている。この取り組みを、日本の商習慣に合わせた形で実現することが重要だとされているのだ。
その上で同省は2020年度に、BIM導入によるメリットの検証へ試行的に取り組む提案として8件を採択。上記ガイドラインに沿った形で設計・施工等のプロセスを横断してBIMを活用する建築プロジェクトで、BIM導入の効果検証や課題分析等を行う提案に対して補助金の交付を行なった。
これらのモデル事業では、設計・施工における生産性をどう向上させていくか、BIMを活用した維持管理で、どのように新しいビジネスを目指すのか、それに対する時間やコスト、人工といったものをどう見直していくのかについて具体的な数字が示され、またオーナーはどう連携していくべきかについても活発な議論が行われた。同時に行われた14の連携事業でも、設計者や施工者、オーナーなどがBIMを活用した際の生産性向上やオーナーBIMのメリットなどがさまざまな目線で研究され、その実際の作業の成果がレポートとして提出されている。
ここで重要なのは、こうしたモデル事業、連携事業で得られた知見が、書面となり数値化されることだ。この中には官庁営繕のBIM活用に向けた取り組みの事例も発表されており、BIMの活用を施主、オーナーとしてどうとらえるかについても、ひとつのかたちが提示された。その中ではBIM実行計画書 (BEP) の作成において、設計者側がオーナーのEIR (BIM発注者情報要件) に対応して何ができるか、どんなソフトを使い、どんなデータを構築して、それをどんな責任範囲でやっていくのかなどが、BIMの実行計画書の中で見えてきたということになる。
そのワークフローも描かれており、設計者としてどんなツールでデータを使うか、BIMのデータやモデルの中にどんな情報を入れていくか、それをCDE (共通データ環境) の中で発注者やプロジェクト管理者とどのようにコミュニケーションして連携していくかについても、ヒントとなる形が出てきた。こうした部分は今年度の新しいモデル事業や関連事業でさらに深堀りされ、そこから出てくる新しい手法が業界の標準として確立していくのではないだろうか。
建設DXのために重要な取り組み
建設業におけるDXでは、データの連携、つながりが非常に重要だ。だが現在は契約形態や施主の要望によって、設計者と施工者間でのデータの連携が難しい、ツールの限界によって意匠・構造・設備でなかなかデータが連携できない、あるいは建物の維持・運用・管理の段階を視野に入れてデータが作られていないので、せっかく構築したデータ環境がそのままでは利用できないなど、データのつながりにおいては大きな課題がある。
これからの時代に求められるのは、データをいかに活用できるものにしていくか、ということだ。そのためには最終的に必要なデータを視野に入れ、そのデータの作り方を考えて、皆で共有していくことが重要になる。それを実現するための基盤となるのがBIMプロセスだ。設計、施工、運用、そしてそこで得られた情報を次のプロジェクトの計画に活用するプロダクトライフサイクルにおいて、BIMデータ、BIMプロセスを活用していくことが求められている。そのための二本柱となるのが相互運用性と生産性だ。
相互運用性においては、オープンなデータをどう構築し、そのためのオープンなプラットフォームには何を選ぶべきかが、大きな議論になっている。重要なのは、データを囲い込むのでなく、オープンなプラットフォーム上にオープンなデータを構築することで、業界のさまざまな標準やデータ形式に対応することが重要だ。そしてコロナ禍の現在ほど、生産性が重要になったことはない。短い時間の中で、いかに効率よく、より多くのことを実現していくかが課題になっている。これまで行なってきたことを、続けるべきなのか、止めるべきなのか、そして今後は何をやるべきなのか、その見直しが問われている。
とりわけ重要なのが、プロジェクトオーナー、クラウドの活用、BIMの深化といった目線だろう。従来、BIMはCADの延長であり、中心となる3次元モデルに情報があって、それを設計や施工に活用するという視点だった。今後はプロジェクトのオーナーや建物・構造物の利用者にとって、それで実現するどのようなメリットが重要になるかという視点が、非常に大切になってくるだろう。クラウドの活用では、データをより安全、安心な状態で共有するための環境をどう構築していくべきかが重要な課題だ。そして、既存の機能をより良いものにし、存在しないものを作っていくことによる、さらなるBIMの深化にも注目したい。
オートデスクの場合は、Autodesk Construction Cloudプラットフォームと、そのクラウドベース共通データ環境であるAutodesk Docsを提供。水道インフラのための環境であるInnovyze、不動産開発のためのAI/機械学習のソリューションであるSpaceMaker、デジタル ツインのためのプラットフォームとなるAutodesk Tandemの提供も予定しており、ODAやDigital Twin Consortium、BIMの標準化団体であるbuildingSMARTとも連携しながら、オープンなデータづくり、環境づくりをサポートしている。
さらに公共プロジェクトオーナーのためのプラットフォームであるaurigo、GISのEsri、3D/VRテクノロジーのNVIDIA、設備メーカーのシュナイダーエレクトリックなどとのパートナーシップによって、より良い環境の提供にも尽力。BIMがDXの基盤となるというコンセプトのもと、自社開発やパートナーシップ、買収などでソリューションの拡張を図っている。
デジタルツイン/CDE環境の構築とビジョン
基本計画段階からのデータの構築・活用を広い視野で考えると、デジタルツインによるアセットの管理が注目される。これまで考えられていたのは、計画や設計、施工の中でBIMデータをどう活用するかという点だったが、実際に多くの時間とコストがかかっているのは、投資計画である一群の建物や構造物という資産を、引き渡し後に管理していく部分だ。
デジタルツインは実際の建物をバーチャルな環境で再現し、IoTのデータをリアルタイムにトラッキングしながら建物の活用状況を解析したり、今後どのように劣化していくか、どんなメンテナンスが必要かということを予測して、それを関係各所に情報として連携したりする環境、プラットフォームになっている。建物の所有者が必要とする、設計段階における意思決定や、生産段階で建物に使われた材料、施工段階における変更や維持管理段階で修繕データなどを日々更新していけるような環境を提供することが、より所有者にとって重要なものになるのではないだろうか。
そして構造物、建物を物理的に納品するだけでなく、それに付随するデジタルツイン・データ、いわば環境を一緒に納品するデジタルハンドオーバーの考え方が重要になってくるだろう。現在、設計や施工段階では所有者を巻き込みながら透明性のあるコラボレーションを行い、意思決定をして、手戻りを削減している。このデータを、ほぼそのままの形で詳細な施設情報にできれば、所有者にとっては大量の紙の図面でなく、このデータの中に最新の真実の情報があることに価値がある。
設計や施工、そして引き渡し後の運用段階のデータは、特にデジタルツインにおいては引き渡し後に継続的に維持メンテナンスに活用しながら改善していく必要がある。デジタルツインの構築を視野に入れ、最初の段階で必要な運用条件やデータ要件を定義する、これがまさにEIRであり、それを最初の時点で明確にして、デジタルツイン、CDE環境を構築していくというビジョンが必要とされている。建設業のDXはBIMから始まるという認識が重要だ。BIMのプロセスを理解し、それを活用することで、次のDXの一手が見えてくるだろう。