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2021年の建設技術: 注目のトレンド (中間見直し版)

建設技術 2021年

  • 人々が安全な距離を保ちながら空間を体験するのに先進の建設技術が役立っている。
  • 建設現場向けのロボットやドローン、スマート ウェアラブルが進化を続けている。
  • 先進的な材料や電気設備、サーキュラー ビジネスモデルなどによる持続可能性は、今後も優先事項となる。

決して明るいムードで始まったとは言えない2021年も半ばを迎え、少しずつ希望を感じさせる年になりつつある。経済活動が徐々に再開し、不安感も少しずつ解消されて、工事が中断された建設現場も再開するようになっている。

だが2021年の建設技術に関しては、人々が安全な距離を保つためのバーチャル空間の体験や理解を行う方法を生み出すことのプレッシャーが高まっている。それによって、より直感的で密接なデータの共有もイノベーションの必要条件の上位を占めるようになった。ここで紹介する 2021年に注目すべき建設技術のトレンドを見れば、現在の状況下で人々の安全を守るため、施工者がクリエイティブな手法を模索していることは明らかだ。彼らは実際に現場に足を踏み入れることを避けつつ、連携する能力を高めようとしているのだ。

1. ポケットLiDAR

LiDARは、現場の施工状況がデジタルBIMモデルに合致しているかどうかを確認するための、最も正確で効率的な方法だ。既存のレーザースキャン用ハードウェアは、大きくて扱いにくいものが多く、その大半が単一のタスクしか実行できない。だが、コンシューマーテクノロジー分野の巨人であるAppleとGoogleにより、この状況は変化しつつある。

建設テクノロジー 2021 iphone 12 pro lidar
AppleのiPhone 12 ProはLiDARテクノロジーを内蔵したデバイスになっている [Courtesy of Apple]

AppleのiPhone 12 Proと最新のApple iPad ProはLiDARスキャナーを内蔵している。このスキャナーは、ナノ秒のレーザーパルスを使用した物体からの距離の計測が可能で、データを集積することにより極めて複雑かつ大規模な3Dマップを作成できる。

Googleも高度な人感センサーとして機能するレーダーを基盤とするシステムに取り組んでいる。コンシューマー向けスマートフォンのLiDARシステムはAppleのARkitのように、合成された環境やキャラクターを既存の環境に重ね合わせるARの応用を促進することになるだろう。これは、現場にBIMモデルを重ねる、完成した建物の換気経路を確認する、乾式壁の硬化前に使用パターンを突き止めるなど、建設現場でも大いに役立つ可能性がある。

ポケットサイズのLiDAR機能を建設現場に持ち込むことは、こうした場所の管理を劇的な変化させる理想的な方法となる。LiDARは材料や人が行き交う現場でも、各段階をほぼリアルタイムで、唯一無二の精度で記録できる。また大規模なインフラ、特に送電網など、人間の目やCCTVチャンネルで確認するには広大すぎるインフラの管理と改修にも活用できる。

屋内ではLiDARにより、安全上のリスクとなり得る壁の小さな亀裂や不備を検出できる。建設の安全性においても、より詳細で最新の換気に関するアドバイスが受けられるようになり、危険な場所への立ち入り調査の必要を軽減できるようになる。Appleが現在研究中とされるヘッドマウントタイプのLiDARセンサーは、ツールの使用中や重機の運転中にハンズフリーで操作しなければならない作業員には理想的なものだ。

2. 建設現場の電化

バッテリーの大型化に伴い、建設現場の電化は、よりクリーンでサステナブルな運用を意味することになる。建設重機は充電式がトレンドとなっている。油圧ショベルクレーン車掘削リグ大型トラックは、その動力源である太陽光や風力、地熱などと同様に、カーボンニュートラルで効率性に優れたものとなりつつある。

Gammons Constructionはバッテリー価格の急落を利用し、輸送コンテナサイズのリチウムイオンバッテリーであるEnertainerを配備することで建設現場からディーゼルの煙を排除できた。これらのユニット (専用設計もしくはディーゼルエンジンへレトロフィットしたもの) は、カーボンフットプリントを縮小するだけでなく、より信頼性が高く、メンテナンスの必要性も低い。騒音と汚染が低減することで、住宅地での建設作業時間の延長も可能にしている。

こういったユニットの多くは未だに電源コードを必要とするが、それも過去の話になるかもしれない。オートデスク テクノロジー センターのレジデントで、サンフランシスコを拠点とするスタートアップ企業のPHION Technologiesは、電源コードや充電パッド無しに約3.7mの距離からデバイスをワイヤレス充電できる、ワイヤレス電源/データシステムのプロトタイプを開発している。その最終目標は、建設ロボットの位置検出機能を提供し、ワイヤレスネットワーク接続性を支援する、半径9.2mに及ぶスケーラブルな電源だ。

木にマウントされたZEITdiceのタイムラプスカメラ
木にマウントされたZEITdiceのタイムラプスカメラ [提供: ZEITdice]

3. どこからでも現場に向けられる (もしくはその中にある) 眼

新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、誰もがリモートコラボレーションを短期間で学ぶ機会を得た。だが一部の企業はパンデミック以前から、建設向けソフトウェアとハードウェアにより、遠隔地とのコラボレーションをより円滑に進める方法を研究していた。

オートデスク テクノロジー センターのレジデントであるカナダのZEITdiceは、デジタルモデルではなく高解像度のタイムラプスカメラを用いたアプローチでリモートコラボレーションを行っている。ZEITdiceは撮影した建設現場の膨大な映像を、機械学習を用いて分類することでパターンと変則を識別し、効率性と安全性の向上に関するレポートを生成して赤外線画像を提供する。

4. 施工用途に向けたXR

VR (仮想現実)、AR (拡張現実)、MR (複合現実) を包括した用語である XR は、建設業界において、現場シミュレーション支援から職場でのVRトレーニングまで幅広く新風を巻き起こし続けている。

Resolveを使用することで、設計者と施工者はそれぞれの基準でBIMモデルを調査できる。巨人のように上空から全体像を確認することも、地上から確認することも、フロア毎に確認することも可能だ。ワイヤレスのVRヘッドセットOculus Questを使用し、Autodesk BIM 360で操作できるResolveは、複雑なモデルをイマーシブなVR環境へ変換し、音声による注釈の作成や、バーチャルモデル内でカラフルなアバターを用いた計測やスケッチが行える。

建設技術 2021
ResolveはBIMモデルを、設計者と施工者がリアルタイムでプロジェクトを検証できるVR環境に変える [提供: Resolve]

この種のデータをフィールドへともたらすハードウェアでは、ハンズフリーで直感的な操作が必要となる。Vuzixのスマート グラスはGPSセンサー、3軸加速度計、スピーカー、マイク、4Kビデオカメラを搭載しており、シームレスなオーディオ/ビジュアル コミュニケーションを実現する。ARといえば、Google Glassのことは覚えているだろうか? この眼鏡タイプのシステムは、コンシューマー向け製品としては時流に乗れなかったが、製造業向けには極めて有用であることが密かに立証されており、建設現場での企業向けハードウェアとして存在意義が見出されている。

手で操作したい場合には、タッチや動きに反応するMicrosoft HoloLens 2で、仮想イメージをスワイプやジェスチャにより操作できる。

5. ヘルメット ドローン

第1世代の建設現場向けドローンは現場を観察するためのもので、触れることは想定されていなかった。フォトグラメトリの活用は時間とコストの削減をもたらし、現場の効率性と安全性を向上させた。新世代のドローンは着陸後も機能するよう進化しつつあり、最も危険で困難な仕事を人間の手から解放するようプログラムされている。

オートデスク テクノロジー センターのレジデントであり、ジョージア工科大学から誕生したSkymulは、鉄筋の交差部を結束できるドローン システムを開発している。鉄筋の交差部を固定するのは、建設現場でも非常に退屈かつ肉体的に過酷な仕事のひとつだ。このシステムは、機械学習を使用して交差部を自律的にマッピングする。またTerra Droneは、広大な山岳地帯に地震センサーを投下するドローンを実験中だ。

UAV (無人航空機) の最大手DJIが先日リリースした新しい農業ドローンは、パワフルな噴霧機能を搭載しており、この機能は建設現場にも応用できる可能性がある。DJI AGRAS T20には最大積載量 (ペイロード) 16Lの噴霧タンクと、噴霧幅7mのノズルが搭載されている。全方向レーダーは障害物を全ての水平方向から検知でき、ソフトウェアとハードウェアは作物の生育状態をモニタリングして、様々な対策を講じることが可能。果樹園では、木々の形状を識別することで飛行ルートを生成できる。このドローンはペイロードが大きく、ペンキや接着剤の塗布、緑化屋上への水やりなどが可能なので、建設現場でも活躍するだろう。

建設技術 2021 DJI AGRAS T20 は幅7m までの噴霧が可能
DJI AGRAS T20は幅7mまでの噴霧が可能だ [提供: DJI]

6. 安全と効率のための接触者追跡

コロナウイルス感染症が招いた難局により、建設現場での作業員の健康と安全のために、接触者追跡が決定的に重要であると明確に示された。往来が激しく、複雑で、常に変化している建設現場は、空気感染が広がるのに最適な空間となっている。

建設中の人々の安全を守るため、現場全体の健康と換気のデータを追跡する方法に重点的に取り組んでいる企業もある。WakeCapシステムは、ヘルメットに装着されたユニットを活用する。このユニットはレシーバーと通信し、信号強度で距離を測定して、現場での位置を追跡できる。このユニットは、現場のワークフローとソーシャルディスタンスの確保、換気のボトルネックとなる箇所の追跡、最も利用しやすい道具置場や休憩室の位置のマッピングをパワフルに支援する。

WakeCap が使い勝手の良さに重点を置いている一方で、ウェアラブルセンサー企業WorkerSenseは、さらなる機能性の追求を選択。温度、湿度、照度、動きを9軸で検知するヘルメット装着型センサーを提供している。このソフトウェア プラットフォームは、作業員の位置、人員構成データ、コスト コード、PPE (個人用保護具) の使用、証明の実施、インシデントのログ、環境状態のモニタリングを行う。Nokiaは摂氏0.3度単位の精度による体温自動検出システムを開発中だ。

7. 建設現場用ロボット

地ならし機やローダー、バックホーなどの機器を機械制御する実績を持ったコンセプトが2017年にはさらに拡張され、自律制御とロボット技術がフォーカスされるようになった。パデュー大学科学技術研究所のオートメーション/インテリジェント建設 (AutoIC) ラボの研究者たちは、コンピュータービジョン センサー技術を用いたロボット建設システムを開発している。このシステムは、対象物の配置と固定の両方を行えるロボット エンド エフェクター1台だけで建築要素を感知してBIMデータと照合できる。

パデュー大学科学技術研究所建設管理技術学部のジャンソン・ツァン助教は「ロボット アームのセンサーを、範囲がより限定される高価なセンサーシステムではなくコンピュータ ビジョン技術に基づくものにすることで、手頃な価格のセンサー1台で多数のセンシング タスクをこなす機能を備えました」と話す。

建設技術 2021 建設現場を自動走行するBuilt Roboticsの自律トラックローダー
LiDAR、GPS、デジタル ファイルを活用して建設現場を自動走行するBuilt Roboticsの自律トラックローダー [提供: Built Robotics]

その新たな応用例が、既に建設現場へ配備され始めている。人間のレンガ職人と一緒に働き、生産力を高める一方で労働者の身体の酷使を緩和する、SAM (Semi-Automated Mason) と呼ばれるレンガ積みロボットがその一例だ。またBuilt Roboticsの自律トラックローダーはLiDAR、GPS、デジタル ファイルを使用して建設現場を自動走行し、必要に応じて穴を掘ったり埋めたりできる。

それ以外の活躍中の建設用ロボットには、トラックやダンプカー、また「メガマシン」と呼ばれる、320tもある自動運転の巨大重機などがある。現在、オーストラリアの企業Rio Tintoが、これら巨獣の一群を採鉱作業に展開中。各マシンは、現場から数千マイルも離れたパースの本社から制御されている。

8. 環境に配慮したアスファルト

建設業界は1960年代初頭に再生ゴム、主にリサイクルした使用済みタイヤを、アスファルトの混合剤として使うことに成功。これにより、アスファルトの品質向上と材料費の低減、埋め立てゴミの削減を実現できた。近年では、アスファルトに使用済みペットボトルや使い捨てプラスチックが使用されるまでに広がっている。

建設技術 2021 ロッテルダム市はレゴのようにつなぎ合わせられる再生プラスチック ブロックで自転車用道路を建設中
ロッテルダム市はレゴのようにつなぎ合わせられる再生プラスチック ブロックで自転車用道路を建設中 [提供: PlasticRoad]

オランダ・ロッテルダムでは、再生プラスチックを100%使い、レゴのようにつなげるブロックで構成した自転車専用道路の建設が計画されている。しかも、アスファルトに混合される再生材料はプラスチックとゴムだけではない。オーストラリア・メルボルンのRMIT大学の研究者たちは、タバコの吸い殻を追加することで、車道の質を向上させつつ重金属を安全に含有させられることを論証。シドニーでは、環境に配慮したアスファルト混合剤に、リサイクルしたプリンタートナーが取り入れられている。

9. 自己治癒するコンクリート

コンクリートは、世界で最も一般的に使われている建材だ。そのコンクリートが、もし亀裂を自己治癒できるとしたら? 奇妙に聞こえるかもしれないが、古代ローマ人は2000年以上も前に自己治癒力を持つコンクリートを使用していた。現代の科学者たちは今、同じことを行う方法を見つけ出そうとしている。そのアプローチのひとつが、石灰石を生成するバクテリアに由来するものだ。ラトガース大学の材料科学者たちは、亀裂が生じると同時に治癒するコンクリート混合剤として、トリコデルマ・リーゼイと呼ばれる石灰石を生成する菌を使用している。

自己修復するコンクリートは、亀裂を修復する生物学的な要素を利用している [提供: TU Delft]
 
修復するバクテリアはコンクリート内部で最長 200 年間も生存する [提供: TU Delft]
 
コンクリートは伸長力で生じた亀裂を自動修復する [提供: TU Delft]

10. サーキュラー ビジネスモデル

テクノロジーというよりも一種の哲学であるサーキュラー ビジネスモデルは、製品のライフサイクル全体を考慮するものであり、2017年にその勢力を伸ばした。グローバルコンサルティング企業ローランド・ベルガーは、建設業界におけるサーキュラー ビジネスモデルが2025年までに6,000億ユーロを超えるグローバル市場を創出すると予測している。

その最前線にいるのが、ヨーロッパの建設グループRoyal BAMだ。そのパイロット プロジェクトである Circl は、当初から解体を想定した巨大なパビリオンだ。そのアイデアは、モジュラー ビルディング技術と入念なリソースの追跡により、Circlの構成要素全てを別の建物で再利用できるようにするというもの。

BAMのサステナビリティ部門グループディレクター、ニテッシュ・マグダニ氏は「使用されている材料の一部は、実際に価値が高まるはずです」と話す。「実際のところ、私たちは、この未来の価値をしっかり取り込むことができるような、材料を貸し出す手段を開発するつもりです」。この目的を達成するため BAMは、100%の再利用と、より再利用に適した新たな契約手段を可能にするオンライン マーケットプレイスを展開している。

本記事は2021年1月に掲載した記事の内容を更新したものです。追加レポート: アンガス W. ストッキング, L.S.