製造業におけるコンバージェンスが消費者とその世界にもたらすメリット
- 製造業において、生産を加速する必要性がますます高まっている。
- デザインと製造のコンバージェンスは、企業が消費者の需要に応えるための最良の方法。
- このコンバージェンスは、製造業において、理に適ったDXの次のステップでもある。
- ジェネレーティブデザインは、デザインとものづくりの間の溝を埋めるのに役立っている。
今から 1 世紀以上も前、ヘンリー・フォードが大量生産を実現する画期的な製造方法である「ライン生産方式」を普及させた。このリニアなアプローチはうまく機能してきたが、今日の世界に新たな創意工夫を必要としている。それがコンバージェンスだ。
コンバージェンスとは、デザインと製造のプロセス、データ、技術を融合し、異分野間のワークフローを効率的に調和させることだ。これは、順次的な段階のモデルに代わる、より流動的で柔軟なプロセスを生み出す。またコンバージェンスは、消費者需要の高まりに対応し、アジャイルなワークフローでイノベーションを加速させるのにも役立つ。
今日の世界では、企業は製造を意識したデザインを行うことが不可欠だが、ツールを用意する必要もある。IoTはコネクテッド インダストリー (つながる産業) を生み出し、コンバージェンスの礎を築いた。また、アジャイルなデザインと製造の新時代において、デジタル技術とスキルアップした労働力も重要な役割を果たすことになるだろう。
製造業におけるコンバージェンスとは?
多分野間のプロセスコンバージェンスとは、デザインと製造の交差を意味する。それはデザイナー、エンジニア、メーカー、機械工が初期デザインから物理的な製品の完成まで連携することを可能にする、関連性を持たない技術のデジタルな合流点だ。
コンバージェンスはサイロを解消し、ツールやテクノロジーが相互運用可能なデータ ポイントを生み出して、コラボレーティブなワークフローを促進する「つながるエコシステム」を構築する。大量生産に対応する一方で、カスタマイズも可能だ。コンバージェンスには以下のようなメリットがある:
- 市場の変化や顧客のニーズへ迅速に対応するアジリティ (機敏性)
- ミスの少ない、より迅速な生産を実現する凝縮されたワークフロー
- チーム間のコミュニケーション向上とシームレスな連携
- より大きなイノベーションの機会
- 自動化された、よりサステナブルなプロセス
では、製造業におけるコンバージェンスとは、実際にはどういうものなのだろう? それは、エンジニアと製造業に携わるプロフェッショナルによる、クラウド上での共通データ環境での連携という形態となる場合がある。また、チームが協力して機能や性能の要件を定義し、クラウド コンピューティングを活用して問題に対する最適な幾何学的ソリューションを探す、ジェネレーティブデザイン・プロセスとなる場合もある。
コンバージェンスを推進するものは?
コンバージェンスを促進する外部要因には、以下のようなものがある。
より迅速なイノベーションに対する、留まることのない需要
今や大抵のものはワンクリックで注文できる。人々はより迅速にモノを手に入れたいと考えており、メーカーには新たな業務手法が必要とされている。世界の人口は2050年までに97億人に達すると予想されており、需要は高まる一方だ。消費者は、より迅速なイノベーションと、よりカスタマイズされた製品を必要としている。旧来のリニアなプロセスで、需要に対応することは不可能だ。企業は、よりアジャイルかつイテレーティブ (反復的) でなければならない。そのためには、デザインするプロセスと作るプロセスを融合させる必要がある。
フォードの時代には、大量生産のためカスタマイズは犠牲になっていた。しかしコンバージェンスにより、企業は「プリント」ボタンを押し、一点もののアイテムを製造するという能力を得た。顧客がこのプロセスを直接利用することも可能で、自らデザインしたスニーカーの注文や、ドリームカーの制作を行える。
クラウドでのDXの加速
製造業には長い歴史があり、その変化は緩慢な波のようにやってくる。だが製品開発チームが世界中に分散していることで、パンデミックによってDXが加速した。
AI、ロボット工学、VR/ARなどの技術がスマートファクトリーの増加を刺激し、コンバージェンスの基盤を築いている。その多くは、クラウドだからこそ可能となっている。
クラウドベースのエコシステムは、関連性のないテクノロジー同士がコミュニケーションできるデータドリブンなコラボレーション環境を生み出し、これはジェネレーティブデザインの理想的なホストとなっている。エンジニアが意思決定を行うと同時にクラウド上でシミュレーションがリアルタイムに実行され、機能するものとそうでないものが判断される。ゼネラルモーターズは、シートブラケットの改良にジェネレーティブデザインを活用した。元の部品は、別々に製造された8つの異なる部品を組み立てたものだ。150の候補から最終的に選ばれたのは、全ての安全要件を見たし、質量が40%軽量化、強度が20%向上した一体成形による部品だった。
自転車部品メーカーSRAMは、デザインと製造のギャップを埋める別の例を提供している。より優れたクランクアーム (自転車のペダルとクランクセットをつなぎ、エネルギーを変換してチェーンを回転させる部分) をデザインするため、ジェネレーティブデザインを活用。多様な地形に対応するために必要な部品性能を入力し、結果的にクランク アームの重量を半分まで軽量化することに成功した。また、強度も20%向上し、製造プロセス全体の効率化にも役立った。
すべてのプロセスをクラウド化することで、製品がそのライフサイクル全体で各部門を行き来する際にもデータの忠実性を維持するデジタル スレッドが作られる。例えば自動車部品のリコールの場合を考えてみよう。通常は、物理的な修理のため、車で修理工場に向かうことになる。だがテスラのオーナーの場合は、クラウド経由でのソフトウェア アップデートにより、その問題を車が車庫にある間に解決できる。またテスラ車は、ユーザー データをテスラのエンジニアに送り、継続的な性能向上を図っている。
よりリーンになる必要性が、業界をさらにサステナブルに
世界のエネルギー消費量の54%、二酸化炭素排出量の20%を占める製造業界のカーボンフットプリントは、かなりの大きさだ。企業が高まる消費者需要に対応するために、デザインと製造のプロセスがより強く結びつくことは、地球のためにもなる。
コンバージェンスにより、業界がさらにリーンになる理由:
- 使用する資源の削減
- アディティブ マニュファクチャリングによる廃棄物の排除
- デザイン段階での潜在的な問題の特定、手戻りの削減
- 最もサステナブルな選択肢を選べるよう、無数のバリエーションを生成
- サプライチェーンと生産スケジュールをつなぐことで、レジリエンスの高い在庫管理を実施
だが、より多くのものをより速く生産することとサステナビリティを、どう両立させるのだろうか? まず、企業は原材料からリサイクル可能性やサーキュラリティに至るまで、製品の総フットプリントを理解する必要がある。コンバージェンスによって、エンジニアは生産を開始する前に、さまざまなデザインの不確定要素 (原材料など) をデジタルで検証できる。デザイナーは、埋め立てごみにならないよう製品のリサイクル方法を決定し、循環型のアプローチを採用できる。
伝統的なデザインの製品に環境に悪い材料が使われていると、その材料は製品の寿命が終わるまで存在することになる。デザインと製造を融合させることで、エンジニアは、より望ましい結果が得られるよう、より早い段階でプロセスに重要な情報を提供可能となる。
コンバージェンスを促進する3つの方法
企業に対する、より良いサービスの提供を求める圧力が高まる中、エンジニアやデザイナーは、そのすべての決定が下流工程に及ぼす影響を、これまで以上に意識する必要がある。コンバージェンスはその勢いを増しており、従来のシステムに縛られないスタートアップなど、新しい企業に市場を開放している。かつては資産であった重工業主導の大量生産方式は今や負債となり、企業の迅速な対処を妨げている。スタートアップはコンバージェンス性の高いビジネスモデルを直接的に目指し、それ以外の働き方を回避している。
コンバージェンスは、より良い結果と製品につながる。企業がこの製造モデルのメリットを享受するための、3つの方法を紹介しよう。
1. 外部からの視点を受け入れる
長く事業を続けているメーカーは「これが我々のやり方だ、これまでもこうしてきた」と主張し、変化に抵抗を示すことがある。だが、こうしたた狭い視野がイノベーションを妨げ、成長を阻害して、企業の命取りになりかねない。外部からの視点を持ち、変化を受け入れることが重要だ。従来型の企業は、異なるパラメーターで運営され、旧式のプロセスの影響を受けていない競合他社から学ぶことができる。そうした企業はより迅速に行動し、より多くの革新を実現することで、業界に破壊的な変化をもたらしている。
2. 活動ではなく成果に価値を置く
企業が生産性や収益性を失うのは、活動がもたらす結果を理解せずに、活動に集中しすぎた場合だ。重要なのは、なぜモノを作るのか、どうすれば価値を提供できるのかを考えることにある。それがフィットネス機器であれジェット エンジンであれ、その本質的な価値は、物理的な資産を構築するための努力でなく、最終的にその製品が提供する体験に存在するのだ。
3. 労働力のスキルアップ
企業がデザインと製造をつなぐためにワークフローを再構築する際には、労働者のスキルアップの余地を確保する必要がある。マッキンゼーによると、デジタルでつながった世界においては製造業界の労働力の90%が新たなスキルを必要とする。リーダーは、肉体労働ではなく、人間の創意工夫を必要とする仕事に対してチームを訓練する必要がある。デロイトが予測するのは、デジタルツイン エンジニア、スマートファクトリー マネージャー、ロボット オペレーターなどのキャリアだ。
世界がパンデミックの影響に立ち向かう中、製造業界には安定をもたらす力が求められている。それは、より優れたレジリエンス性、より堅牢なサプライチェーン、デジタルの未来に対応する労働力へとつながる道だ。製造業界にはコンバージェンスが必要なのだ。