Hondaがクランクシャフトの大幅軽量化でデザインする未来のエンジン
燃費向上とCO2排出量低減は、全ての自動車と関連部品のメーカーにとって最も重要な目標のひとつになっている。その実現に向けた極めて有効な手段が軽量化だ。世界有数の輸送機器メーカーであるHondaも、この課題への取り組みを継続しており、ボディ骨格からエンジン、ボルトまで、あらゆる部品の構造や材料を再度見直すリデュース設計を推進している。
Hondaの研究開発部門である本田技術研究所は、アディティブ マニュファクチャリングに早い段階から注目。トポロジー最適化による設計手法を探索する中で、複数の形状解を生成できるジェネレーティブ デザインが、従来の設計概念を大きく変えることになると考えたという。そしてエンジンのさらなる軽量化のため、このテクノロジーを活用した設計・製造を見据えたプロジェクトが始まった。
ジェネレーティブ デザインは、既に自動車業界ではシートベルト ブラケットやECU、オートバイのフレームなどさまざまなパーツの再設計に適用され、大幅な軽量化が可能であることが示されてきた。だが本田技術研究所が軽量化のターゲットとして選択したのは、エンジンの中でも主要機能部品であるクランクシャフト。ピストンの往復運動を回転力に変換する重要な役割を果たすため、非常に高い強度と剛性が要求される。
本田技術研究所の先進技術研究所で機械設計と流体機械の設計を行う戸髙宏純氏は、「エンジンの燃焼圧に耐えうるような形状、回転体としてのバランスなど、クランクシャフトには備えるべき機能が数多くあり、そこから導き出された形状が使われてきました」と述べる。「エンジン開発には長い歴史があり、クランクシャフトも既に完成されたパーツとされています。その中で、従来部品重量から30%もの軽量化を目指すという、かなりチャレンジングな目標を設定しました」。
「ジェネレーティブ デザインやアディティブ マニュファクチャリングを用いた設計には新しい考え方が必要であり、そのためには頭を柔らかくしなくてはならないと感じていました」と、戸髙氏。英バーミンガムを拠点とするオートデスク テクノロジー センターと共同で行われた、この世界的にも他に類を見ないプロジェクトは、柔軟な思考を養うところからスタートした。
同研究所で、設計された形状を具現化するプロセスの確立や新たな材料の研究開発を行う魚住久雄氏も、「どうしても固定概念のバイアスがかかってしまうところを取り除き、この部品に必要な機能だけを純粋に考えたときにどういう設計になるか、を考えることが重要です」と述べる。「そうした考え方の基礎を作るような、ロジカルシンキングのワーキングを一緒に行いました」。
先進的なクランクシャフトのデザイン
まずはHonda側から提示された要件を満たす形で、Autodesk NetfabbやFusion 360を使ってクランクシャフトのファースト ロットのモデルが作成された。「Hondaのノウハウとして持っている荷重や拘束条件の数字を共有して、オートデスクのチームとディスカッションを繰り返しながら形状を出していきました」と、戸髙氏。これまで四輪・二輪のエンジンにおいて、経験をもとに設計を行い、解析を繰り返し行ってきた氏は、その第一印象を「人間の骨のような、すごく有機的な形状で、これを自分の頭の中で考えて出すのは無理だなと思いました」と述べる。
その後、本田技術研究所のプロジェクト メンバーがテクノロジー センターを訪問。英国滞在中にはジェネレーティブ デザインのトレーニングと施設の見学に加えて、アディティブ マニュファクチャリングなど設計以外の工程に関する議論も行われた。同センターについて、戸髙氏は「設計してすぐに試作ができるので、フィードバックがすごく早い環境だと思いました」と述べる。
このモデルで得られた知見をもとに、Hondaのレイアウト要件や強度要件にミートさせるべく、再度境界条件を設定。オートデスクのトレーニングを受けつつ、セカンド ロットのモデルが設計された。「オートデスク側は航空宇宙をバックグラウンドに持つメンバーのチームでしたが、分野が違っても我々の意図を汲み取ってもらえたので、かなり短い時間の中で、ここまで形にすることができました」と魚住氏。
「従来のトポロジー最適化は、答えがひとつしか出ないとか、出てきた形状の修正に非常に手間がかかるというイメージでしたが、今回初めてFusion 360のジェネレーティブ デザイン機能を使ってみて、設計者として思い浮かばないような提案をしてくれるところに感動しました」と、戸髙氏は語る。その結果、クランクシャフトの設計で、目標を大きく上回る50%の軽量化を達成できたことには非常に驚かされた一方で、剛性や強度面で本当に大丈夫なのかという懸念も抱いたという。
「実際にエンジンに搭載して性能試験を行いましたが、その中で多くの知見を得ることができました」と、戸髙氏。「この結果をオートデスクのメンバーと共有して、ジェネレーティブ デザインをさらに進化させるための取り組みも行っています。特に回転する部品に対してジェネレーティブ デザインを適用したことは、両社にとって、とても良い経験になったと実感しています」。
「Fusion 360は、製造を加味した設計をしてくれるところにも非常に価値を感じています」と、戸髙氏は続ける。「型を使う、5軸の加工をする、アディティブ マニュファクチャリングを前提とした設計をするなど設計制約を考慮した形状を提案してくれるのは、非常に素晴らしいことだと思います。最近、コストが出せる機能も搭載されたので、設計者として部品の手配をする際の見積もりも出しやすくなりました」。