データ保護の法律が信頼とイノベーションを生む理由
誰もが一息入れる時間を必要としている。フルタイムの仕事と日々の雑用をこなしつつ十分な余暇を享受する唯一の方法は、ライフ ハック (仕事術) を見つけること、つまり便利屋の TaskRabbit やパーソナル スタイリストの Stitch Fix、ヨガベースのフィットネス Asana Rebel、夕食宅配の Blue Apron といった「お助けサービス」を利用することだ。
それこそが、広告がパワーを持つ理由だ。より健康、スマート、ハッピーでリラックスした自分になれるとうたう広告に、誰もが簡単に心を揺さぶられてしまう。ユーザーへの関連性が高くタイムリーなパーソナライズ広告なら、その効果もさらに高い。2017 年の Epsilon の調査では、「パーソナライズされた体験を提供する企業のビジネスを利用する傾向が高い」と回答した人は 80% に上る。
パーソナライズは、薄気味悪いと感じさせることもある。例えば Instagram フィードをスクロールすると、ネコや子供、夕日や食事の写真の間に、パーソナライズされた広告が現れる。この種の「オススメ」はユーザーの好みにぴったりで、とても便利かもしれないが、落とし穴もある。消費者が、おとりのように利用されているのだ。
収益を広告モデルに依存する企業は、有料広告である特定のオススメが、それ以外のものよりユーザーの目に付くようバイアスをかけて提示する。しかも大量の広告で常に人々を混乱させるだけでなく、ユーザーに関する膨大な情報も収集している。
これに対抗してバランスを取る法律がなければ、こうした広告モデルがあらゆる人のプライバシーを奪ってしまうだろう。Google、Facebook、Instagram などの無償サービスを使用する人は、自覚しているよりずっと多くの犠牲を払っている可能性がある。だが、その事実が人々の意識へと上るのは、英ケンブリッジ・アナリティカと Facebook のスキャンダルのようにデータが不正使用されたときだけだ。
顧客優先、企業は二の次
自身のデータについて、誰もが一定の保護を受ける基本的な権利を有している。米国の場合、データ流出や未認可のデータ使用の問題における希望の兆しは、それが連邦議会でデータ保護関連の法律が制定される契機になっている点だ。ヨーロッパにおける個人データ機密保護は、今年 5 月以降、一般データ保護規則 (GDPR) によって大幅に強化された。だが世界各地の企業は、自らが収集するデータの種類とその理由を明確にし、データ取り扱いの制御権を顧客へ提供する必要がある。
GDPR が発効されて間もなく、カリフォルニア州は、消費者プライバシー法 (California Consumer Privacy Act: CCPA) を成立させた。この法案はカリフォルニア州の消費者と取引を行う企業に対する重大なプライバシー規制を規定するもので、GDPR 指針の多くを包含し、2020 年に発効されることになっている。
CCPA は適切な意図を持つが、にわか仕立てで起草されたもので、明確さとニュアンスに欠けている。その具体性はさておき、そもそもデータ保護関連の法律は州のレベルを超えて規定されるべきだ。各州が個別にプライバシーを定義すると、企業各社は 50 もの異なる規制に準拠する必要が出てくる。複数の弁護士を擁する大企業であれば複雑な規制環境にも対応できるだろうが、小中企業には対処が難しい。その結果、規模のメリットや競争力を持たない小規模企業が押し出され、イノベーションの機会が失われてしまう。
連邦法として成立すれば、こうしたハンデが無くなり、あらゆるテック企業がより容易に準拠でき、かつコストのかからないものとなる。ソフトウェア業界の企業団体 BSA は先日、連邦法で管轄されるべき主要な問題を取り決めた「BSA プライバシー構想」(英文 PDF) を公開した。米国には、Facebook の問題は解決できても他の企業に過度な悪影響を与える、まとめて振り下ろされる棍棒のような規制でなく、国民にコントロールと透明性、セキュリティ、一貫性を提供する国内法が必要だ。
信頼とは確信と機会
国内法は全ての企業の競争とイノベーションを容易にするだけでなく、消費者からの信用も高める。強制力を持った法律は、消費者の権利を強化し、保護できる。そして安心感が得られれば、つまり自身のデータの管理や操作が自由にできる状態であれば、顧客が自身と世界に実質的な価値を与えるようなデータ活動に参加する可能性も高くなる。
参加にもさらに安心感と確信が持てるようになるため、新たな手法を生み出すエコシステムが促進される。顧客が特定のサービスについて、オプトイン (承諾して参加) で得られるもの、オプトアウト (承諾せず不参加) で失うものを正しく理解できれば、懸念や不信感に惑わされず、より良い決定を行うことができる。
例を挙げると、私は 23andMe (DNA 解析サービス) を信頼している。健康と祖先のルーツに関するサービスで価値が得られるし、収集する情報 (英文情報) とその利用方法の透明性が確保されているからだ。私が 23andMe Research への参加を希望すれば、23andMe は DNA を分析し、科学的進歩を目的としたカスタマー データのプールへと追加する。
だが私の DNA と個人情報が許可なく第三者に転売、貸与されることはない。誰かの利益のために私のデータがマネタイズされることはないと、私は理解しているのだ。Google も、私のデータを私自身のものに留め、ターゲットや交換の対象にしなければ、私からの信頼を取り戻せるかもしれない。だが、そうはならないだろう。私は 23andMe を信頼して関係を結んでいる。だからこそ、暗号化された私のデータが使われることに喜んで同意するのだ。この信頼が見込み違いかどうかが判明するのは、時の経過を待つしかない。だが、少なくとも現時点では上に述べた通りだ。
インスピレーションとイノベーションの肯定
より厳粛な国内プライバシー法の制定により、企業に広告モデルほどの収益がもたらされず、利益を上げるために別の手法を見つける必要があるのであれば、そうしよう。
透明性の実現により、超巨大規模ではない企業も消費者へ経済的利益を強調できるようになり、よりイノベーティブなサービスを消費者に提供可能となる。例えば Stitch Fix のカトリーナ・レイク CEO がパーソナル スタイル サービスを提供する会社を立ち上げた際には、消費者中心のサービスにするという明確な意図を持ち、「パーソナライゼーションと、人と人のスケーラブルなつながりの構築」に重点を置いた。
Stitch Fix はデータ サイエンスに人と人との交流を組み合わせることで、ファッションを各個人のスタイルや体型に合わせてパーソナライズしている。特定のスタイリストを利用すれば、それだけユーザー個人に対する理解が深められ、そのユーザーの好みによりマッチした、手元に置いておきたい洋服が送られてくるようになる。
消費者に制御権を提供する法律は、Stitch Fix のような、より消費者中心の企業の誕生、活躍を後押しすることになる。レコメンド サービスの利用を選択しても、広告向け統計データとしての利用からは除外可能であるべきだ。また人と直接の関係を構築しない場合も、レコメンド エンジンを使ったサービスは、ユーザーの好みに合うものをより素早く見つけるのに役立つ。つまり、盲目的にオンライン検索をする手間を省いてくれる。これは Netflix 加入者には功を奏しているようで、Netflix で視聴されるコンテンツの 80% は Netflix のレコメンド アルゴリズムに基づいたものだ。
間違いなく信頼できる小売のレコメンドを、バイアス無しに受け取れることを選択できるとしたら、どうだろう? 関連性が高く、有料広告でない提案が提供されるなら、それを押しつけがましいとは感じないのではないだろうか? 私なら第三者や広告主の影響を受けていないレコメンドを受け取りたい。
一方でレコメンド エンジンは、何かを販売する企業にとって、自社製品を購入するよう十分納得させられるのであれば有用だ。人々が必要とする優れた製品を生み出しており、有料広告を利用する理由が、自社製品がオススメとして確実にトップのページに表示されるためだけでなければ、それは消費者にとって良いことだ。
結局のところ、企業はこの方向へと進まざるを得なくなっている。各国のプライバシー法策定の動きが、その勢いを増しているからだ。法律制定の目的はデータの利用を、価値を抽出するためだけでなく還元するために行うよう、企業に動機を与えることにある。それにより企業は、顧客を単にマネタイズするのではなく、顧客の役に立つようなデータの利用方法を見つける必要が出てくる。
企業が透明性を保ち、そのデータの制御権を顧客に提供するようになれば、イノベーションの好機がもたらされるだろう。そのイノベーションが、人々の休暇取得に役立つかもしれない。