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製造業界を「コネクテッド」時代へ導くDXの7つのステップ

digital tranformation in manufacturing
メーカーはDXによりデータドリブンなコネクテッド時代に突入し、より顧客にフォーカスした、レジリエンスを備えるアジャイルな企業となる
  • パンデミックは製造業界に、DXを受容し、長年の課題を克服して、今日の要求に応える機会をもたらすことになった。
  • 従来の製造手法は消費者の期待するテンポではなく、製品は十分な利益を上げることができない。
  • 企業がプラットフォームによるアプローチを実現するべく、製造業DXのステップを進める中で、より優れた成果を得るためにデータの接続性が役立つ。

人間が業務を指揮し、ロボットや自律走行車両、AIが生産活動を担う製造業の未来を想像してみよう。生産性は高く、プロセスはリーンなものとなり、あらゆる製品がカスタマイズされる。今や、業界はこうしたDXという夢の国からそう遠くないところに位置しているが、クリアすべきハードルも存在している。

2020年以前の製造業界は、労働力不足やスキルギャップ、生産性の停滞などに悩まされていた。こうした問題は新型コロナウイルス感染症の大流行によってさらに悪化し、企業はほぼ一夜にして、点在する社員と変化する安全性のための手順を管理する必要に迫られた。消費者需要は振り子のようで、突然物を購入しなくなったかと思うと、すぐに方向転換して備蓄が始められた。こうした需要ショックはサプライチェーンを麻痺させることになった。

そして現在の製造業界は労働者不足の中、より良い製品、よりカスタマイズされた製品、より迅速な生産、より低いコストなど、次々と変化する期待へ適応する必要に迫られている。だが、ディスラプションは向上の機会でもあり、企業は長年の課題にテクノロジーで対処しようとしている。そしてクラウドに群がり、製造業界のDXを加速させている。

ここではレジリエントかつアジャイル、顧客中心でデータドリブンな未来、つまり「コネクテッド」な製造業の新時代へと企業を導くのに役立つ、DXの7つのステップを紹介しよう。各ステップは次のステップへつながっており、メーカーは各ステップの入口で、自社のDXジャーニーに適した選択ができる。最初のステップは従来の製造ライフサイクルのプロセスにつながっており、次の5つのステップでは、マスカスタマイゼーション、デザイン連携、フレキシブル製造、スマートサービスによってライフサイクルを変化させ、最後のステップではサイロを解体して業界を強化するプラットフォームアプローチが採用される。

1. コネクテッド製造サイクル

製品の開発と製造は、企画、設計、生産、販売、保守、廃棄という一連のステップで構成されている。従来の製造のライフサイクルは、手動のプロセス、互換性のないソフトウェア、不完全なコミュニケーションに依存したものだ。それがサイロ化された環境を生み、巨大なファイルが人から人へと渡されて、必要なものへと翻訳されるという状況が生まれていた。これは非効率的で、時間もコストもかかる。

この状況を変えるには、企業はまずDXへの入口を見つける必要がある。それは、例えば特定のプロセスや部門の自動化だ。自動化された環境同士をコネクトすることで、すべての関係者がより迅速かつ優れた意思決定を行うために必要な情報へアクセスできる、単一のエコシステムが生まれる。世界経済フォーラム (PDF P.13) によると、デジタル化がかなり進んでいるメーカーでは生産量が140%増加し、デザインの反復に必要な時間は98%短縮されている。共通のデータ体験の創造は、スムーズなワークフローと透明なプロセスとなる。このシナリオでは、データでコネクトされたデザインと製造がシームレスなフローとなる。

2. マスカスタマイゼーション機能

今やマスカスタマイゼーションの能力は必須のものとなっている。人々はスマートフォンが提供するパーソナライズされた体験を好み、それを他の製品でも再現したいと望む。それを市場投入に時間をかけず実現することが、メーカーの競争力へとつながる。

製造業 DX マスカスタマイゼーション
顧客が切望するパーソナライズの選択肢を提供するマスカスタマイゼーションを実現するデジタルファクトリーが、メーカーの競争力を高める

企業がアディティブマニュファクチャリングや自動化で業務を更新することで、パーソナライズが可能となる。その好例が、フル電気自動車タイカンが製造される、ドイツ・シュトゥットガルトに建設されたポルシェの新施設だ (PDF)。この施設では組立ラインが自律走行車両に置き換えられ、顧客の注文に応じて各ステーションに車が移動されるデジタルファクトリーだ。メーカーはAI、データ、ソフトウェアを活用することで、パーソナライズされたユーザーエクスペリエンスを提供することもできる。Pelotonは、トレーニング用バイクの顧客毎にコンテンツを用意することでそれを実施している。

3. 24時間体制でのデザイン連携

インダストリー4.0においても、ものづくりには人間同士の連携が不可欠だ。デジタライゼーションによりチームはバリューチェーン全体とコミュニケーションをとることができ、サプライヤーや協力会社などの関係者が連携して成果を上げるエコシステムを構築できる。

一元化された環境が相互運用性を支え、異分野間で同一ファイルを通じてリアルタイムにコラボレーションを行うことで間違いを減らすことができる。コンピューター周辺機器メーカーのLogitechは、世界各地に分散したチームがAutodesk Fusion 360を通じて連携している。データを中心とする同一モデルで作業することで、誰もが最新情報へ常時アクセス可能だ。

4. フレキシブル製造で、さらなるアジリティを実現

製造業界では、トヨタ自動車が考案したジャストインタイム思想に従って業務が行われてきた。これは必要な時に必要な分だけ注文を行うことで、効率的な在庫管理を実現する。だが、このアプローチはサプライチェーンが常に機能することを前提としており、パンデミックにより、それが実際には非常に脆弱なものであることが証明されてしまった。

フレキシブル製造は、サプライチェーンの断絶に備えた代替策だ。需要ショックが発生し、通常のサプライヤーが利用できなくなったり貨物が港で滞留したりした場合にも、企業は素早く方向転換を行い、アディティブマニュファクチャリングや機械加工で材料を内製したり、材料を現地調達したりすることができる。フレキシブル製造では、ひとつの屋根の下、あるいは同一のサプライチェーンでつながったエコシステムを活用するため、メーカーはリスクを分散できる。

5. カスタマーエクスペリエンスの強化

消費者の期待は急速に変化しており、より迅速に、よりスマートで、より良いものを求めるようになっている。従来の製造手法では、企業はこうした要望へ迅速に適応することはできない。事実、リリースされた製品の72%は、十分な利益率を達成できていない。メーカーは消費者が求めるものを提供し、テクノロジーを活用することで価値を提供する必要がある。そうでなければ競合他社に先を越されてしまう。

ひとつのアイデアは、バーチャルなブラウズ体験を生み出すことだ。消費者のリスクを取り除くことで、これまでとは違う形で消費者の関心を引くことができる。例えば橋梁メーカーのMabey Bridgeは、顧客が仕様を選択し、発注前に橋梁をデジタルレンダリングできる3Dツールを提供している。顧客自身がコントロールできると感じることで信頼が生まれ、関係はより強固なものとなる。またリピート客を生み出すことにもつながる。

製造業 DX デジタルメーカー 3Dレンダリングツール
デジタルメーカーは製造前に3Dレンダリングツールを使用して顧客により多くの選択肢を提供することにより利益率を上げる機会を増やすことができる

6. スマートサービスで顧客寿命を長期化

企業がデータドリブンな運営に移行することで、製品のデジタル機能の拡張は、より大きな価値を生み出す。例えばスマートフォンを考えてみよう。ハードウェアの購入は一度限りだが、顧客はアプリケーションを追加することでメーカーとの関係を構築していく。

顧客の手にわたるとデータが生成されるようになる製品によって、企業は収益源との関係構築の機会を創出できる。その結果、スマートサービスはメーカーの競争力を向上させる知見をもたらす。

7. 究極のエコシステムとしてのプラットフォーム

このデジタルジャーニーは、最終ステップであるプラットフォームで頂点に達する。人々は、スマートフォンの活用や映画のストリーミング鑑賞、ライドシェアの利用など、日々プラットフォームに関与している。プラットフォームとはさまざまなテクノロジーのエコシステムであり、分野や業界を超え、バリューチェーン内のあらゆるものをデータでコネクトする。プロセスを自動化し、チームをつなぎ、視覚的なデータモデルをひとつの環境で作成することにより、プラットフォームは製品の開発と製造全体の連携を向上させる。

企業は、プラットフォーム上に機能を追加し、求められている体験を生み出すことができる。これが設計と製造を組み合わせ、人、プロセス、テクノロジーからより大きな価値を生み出すためのクラウドベースのプラットフォーム、Autodesk Forgeの基盤となる概念だ。

Walt Disney Imagineeringの場合は、世界各地にあるテーマパーク向けのアトラクションを作成するため、建築、エンジニアリング、デザイン、工業生産、デジタル メディア、アニメーション、3D モデリングといった分野間の連携が必要だ。プラットフォームは、こうした複雑なプロジェクトに一丸となって取り組むための、コネクテッドな手法を生み出す。

製造業 DX
ソフトウェアプラットフォーム上で業務に取り組むデザイナーやエンジニアは、それぞれ異なるツールを使用し、異なるタイミングで製造プロジェクトに参加するが、実際には一元化された取り組みに貢献している

ジェットコースターの設計、制作を考えてみよう。それぞれの人の体験は異なるが、単体アプリケーションのように感じられる方法でソフトウェアプラットフォームを使用している。モーショングラフィックスのアニメーターは、スタイラスを使用し、タッチスクリーン上でプラットフォームを体験する。このデータは機械エンジニアへコネクトされ、同じプラットフォームを別の方法で体験して、CADプログラムで走路車輪の作成に取り組む。電気エンジニアは、このデータを利用して、ジェットコースターの電気系統を設計する。全体としては、これはひとつのソフトウェアのように見える。なぜそれが重要なのだろうか? 異なる役割を持つ人々の間での行き来がもたらす認知の中断を減らすことで、連携プロジェクトにおける相互ワークフローが強化されるのだ。

製造業界は岐路にあり、今後のニーズと合致しない伝統的な方法に根ざしているこの業界は、変化の瀬戸際に立っている。だが、進むべき道は明らかだ。それはDXのマインドセットを受容し、その入口を見つけて、プラットフォーム戦略に取り組むことだ。

著者プロフィール

スリナス・ジョンナラガッダは、オートデスクの設計・製造の業界戦略担当バイスプレジデント。メカニカルCAD業界で24年以上の経験を持ち、そのうち20年をオートデスクで過ごしています。戦略リーダーとしてFusion 360のビジネス成長の推進、Haas Automation、Apple、Microsoft、McMaster、Protolabs、Xometryなど市場をリードするパートナー達との有意義な関係の構築、製品ラインの新しいビジネスモデルの構築、アナリティクスから豊かな洞察を得るための革新的な新しいプロセスの確立を行ってきました。

Profile Photo of Srinath Jonnalagadda, Autodesk VP - JP