大和ハウス工業がデジタル化で実現を加速する未来の建設現場
「ここ最近、現場では若い人たちの覇気が感じられないと思っていました」と語る大和ハウス工業株式会社の吉岡憲一 技術本部・施工担当執行役員は、建設業界で 34 年もの経験を持つ。建築系施工推進部長も務める氏は、「どうやったら若い人がもっと建設現場に来てくれるかという話は、会社でも、国や政府でも語られています」と述べる。「そのためには働き方改革や効率化は欠かせませんが、建設という仕事に興味を持ってもらわなければ実現できないでしょう」。
昨年11月に米国ラスベガスで開催された Autodesk University に初めて参加した吉岡氏は、日本人も含む 12,000 名を超える参加者たちが、生き生きとした目で IT やロボットなど最先端の建設テクノロジーを見ていることに感動したという。「若い人にとって、建設業がやってみたい仕事になるには、こういうものを使わなければいけない。それを期間中、ずっと変わらず感じることになりました」。
そう語る吉岡氏が、帰国後すぐにアクションを起こしたのは、デジタル化により建設現場の効率化を実現するソリューションを導入する取り組みだった。氏は、この取り組みを「特に大和ハウス工業では、すぐに取り組まねばいけないこと」だと感じたと述べている。
「当社内に部署や部門の数が非常に多くなり、口頭で伝えるだけでは仕事ができなくなっています。通常の仕事に加えて、それぞれの現場が、いろいろな部署に指示をもらったり、さまざまな試行を行ったりしています」と続ける吉岡氏は、自らの経験から、それが現場の人間にとって大きな負担になっていると述べる。「効率化のため、いろいろなシステムが導入されていますが、現在はその連携ができていない。そこを一元化できるようなものを作りたいと考えていました」。
ペーパーレスならではのメリット
その中で、2018 年にオートデスクが買収したスタートアップ企業、PlanGrid の提供するソリューションに注目。「BIM を扱う中で PlanGrid を使いながら、いろいろな技術の蓄積、システムの連携を進めていくことで迅速に省力化ができる」と考えた吉岡氏は、全国 9 ブロックそれぞれにおいて、IT に強い人材を選抜してリーダーとし、試行現場を即座に選定。まずは新大阪に建設中だったホテルの現場が選ばれた。
「最も期待値が高かったのは、ペーパーレス化の実現でした」と、吉岡氏。「書類をペーパーで残すと、ひとつの現場で段ボール 20 箱や 30 箱の規模になります。それを作る労力と保管する場所、さらに活用する労力を考えたら、データ化による効果は非常に高いと考えました」。
現場監督を務めた同社本店 流通店舗事業部工事課の村山雅彦主任は、「PlanGrid は検査には非常に使えるツールだと分かったので、検査工程に入るところだった現場に導入することになりました」と述べる。「初めての現場ということで、検査では従来の紙ベースの作業と PlanGrid による作業の両方を実施しましたが、PlanGrid の方が皆の評判も良かったですね」と村山氏。「従来の検査では傷や汚れがある場所、納まりがおかしい場所を、図面に追記したり、写真を撮って、個別に事務所へ持ち帰り、一棟で 500 程度にもなる検査項目を、時間をかけて整理していました。これら全てがその場でデジタル化、保管されるので、誰が見ても一目瞭然ですし、現場から戻ってすぐに iPad で見ることもできます」。
「これまでは傷があると書かれていても、それが何の傷かはわからないので、いちいち現場に行く必要がありました。それが事務所にいながら、これは下地が悪い、表面が悪いというのが分かるのは良かったですね」と、村山氏。「初めて使う人にも 30 分ぐらい簡単にレクチャーするだけで使いこなせていたので、そこも良かった。それなりに iPad を使える人ということで検査員を選定しましたが、若い人だと取り組みやすいですね」。
「今回、設計担当者にも iPad で検査をやってもらいましたが、写真にも手書きで書き込めるのが良かったという意見がありました。PlanGrid の良さは、どういう風に傷や不具合があるかが、文字だけじゃなくて写真や動画で撮って残せるということに尽きると思います」。
検査の労力を大幅に削減
「施主様にも今回のテスト導入についてご説明したら、分かりやすいと喜んでもらえました」と、村山氏は続ける。「音声認識で入力することもできるし、ドアの開き勝手のニュアンスなども動画で撮って添付できる。それを見たお客様が分かりやすいとおっしゃったのも、良かったことですね」。
この試行による労力の削減について、村山氏は「どれくらいの効率アップになったかを数値で表現するのは難しいんですけど、紙ベースと比較すると、感覚的には労力が 60-70% になったと思います」と述べる。「その後で情報共有ができることを考えると、60% くらいに減ったと言えるんじゃないでしょうか」。
「現場監督が、どの仕事に労働時間の何%を費やしているかというデータそのものも、現在は無いんです」と吉岡氏も続ける。「今後はそういうデータを蓄積して、何 % の削減ができたのかを数字で見ることができれば、どんどん意欲も湧いてくるでしょうし、そういうことをしていかなくてはいけない」。
村山氏は、さらにペーパーレスのメリットを「検査後に業者別でリスト化したり、集計したりするのも、紙だと相当大変なんです。そのフィールドレポートをボタンひとつで出せるのは、大きな違いですね」と述べる。「現在、さまざまなフィードバックをオートデスクと共有しています。今後、フィールドレポートの出力を日本の使い方にマッチしたものにできれば、恐らく労力は従来の 50% にできるでしょう」。
村山氏が現在担当している神戸市三宮の現場では、PlanGrid をさらにさまざまな段階で活用する取り組みが行われている。「検査のときにはすごく役立ったんですが、着工から竣工まで、これをどうやって使っていくか、日々の現場の記録を置き換えられないかと試行しています。現場のさまざまな業務を取り込んで、どうペーパーレス化を進めていくかが活用のポイントだと思っています」。
「私にとって、最もプライオリティが高いのは無駄を無くすことです」と、吉岡氏。「建設で何かを省くことは難しいことですし、やることはどんどん増えているので、その中で兼用できること、省略できることを見つけていく。昔は頑張ってやるしかなかったんですが、いまはそれで解決できる量ではなくなっています」。
「設計が変わらないと施工も変わらないので、まずは設計部門でこれまでの技術を蓄積し、それを施工部門がアレンジして、使いやすい内容にしていくことで、若い人が少しでも楽に、そして楽しく仕事ができるようになればと思っています」。