日本の建設業におけるDXとBIMの真価とは
建設業の効率向上は世界的な課題だ。日本でも建設業界の企業のうち78%がDX (デジタルトランスフォーメーション) を優先事項*としており、プロセスやビジネス、エコシステムの変革を推進することの重要度は高く、その必要性を強く感じていると言える。だが、その進展には課題がある。
調査会社のIDCはDXを「クラウドやモバイル、ビッグデータ、ソーシャルなど第3のプラットフォーム技術を、組織・運営、ビジネスモデルのイノベーションと組み合わせ、事業の運営と成長のための新たな手法を作り出すこと」と定義し、その実現までの道のり (DXジャーニー) を個人依存、限定的導入、標準基盤化、定量的管理、組織的革新の5段階で評価している。同社が先頃オートデスクと行った大規模な調査*では、日本の建築会社の多くがDXの初期段階にあり、その50%が第3段階 (標準基盤化) までに留まっていることが示された。
これほど多くの国内企業が立ち往生している理由は、個々のプロジェクト、個々の部門でデジタル化を進めているために、全社的な、あるいは業界としての進捗が遅いことにある。全社的なデジタル統合に向かう前にこの障壁があることは、他の国と比較しても明白だ。そして、この問題は企業の懸念にも顕著に現れている。
日本の建設会社が抱く最大の懸念は「効果的な技術の欠如、時代遅れの技術」だ。日本の現場には技術力があり、労働者のスキルが高く、それ故に手動のプロセスから離れられない。つまり現場に依存しているのが特長であり、それが課題でもある。これはプロセスがブラックボックス化しているということでもあって、現状の把握が難しいという部分もある。
また、日本における協力会社の階層構造など、カルチャー的な部分もあるだろう。だが世界全体を見ると、こうした項目に対する懸念は低くなっており、リスク管理や構築したデータの安全性の担保の懸念へとシフトしている。今後は、日本もそうした視点を持っていく必要があるのではないだろうか。
デジタル化の先にあるビジネスの改革
DXとはCADツールをBIMツールに置き換えることではなく、ビジネスや人をつないでいくことで業務のプロセスそのものを変革し、新しいものを生み出すことを目指すものだ。経産省がまとめたDX推進のためのガイドラインには、経営戦略としてビジョンを提示していくことが重要であり、そのためには経営トップのコミットメントが非常に大事なことだと述べられている。
その一方で、約8割の企業が老朽化したシステムを抱えている。これまで10年、場合によっては20年に渡って使ってきたシステムがあり、そこに多額の投資も行われてきたことが逆に足枷になっていると答えている。
MITによるDXのフレームワークでは、図面作成にCADを導入して二次元や三次元で検討を行うなど、新たなテクノロジー、つまり「WHAT (モノ)」だけにフォーカスするのでは、ビジネスの変革であるDXにはつながらないとされている。
DXの実現には「HOW (コト)」の部分を徹底的に見直すことが重要だ。そのためには、まずは「最適化」、つまりコンピューターを導入して、これまで知識や経験、勘を頼りにやってきたことを、無駄を省いて適切に行えるようにする。次に、これまで手作業でやってきたことをコンピューターやロボットなどの機械に置き換える「自動化」を行う。それは一時的や一部門での取り組みではなく、会社の標準として決定する、あるいは業界の標準として皆で共有化していく「標準化」が必要となる。
こうして「HOW」の部分を変え、新しいものを作り出すことによって、初めてDX、つまりビジネスの変革が起きる。この最適化、自動化、標準化の部分をBIMと言い換えてもいいだろう。BIMとはツールではなくプロセスの見直しであり、変革であるということになる。それを実現している日本の企業の例を紹介しよう。
佐藤総合計画の「最適化」
建築と都市・環境デザインを行う建築設計事務所の佐藤総合計画は、BIMで最適な設計を解析するため、ジェネレーティブデザインに無数の設計案を提案させている。Autodesk RevitとDynamoを活用し、日照量に応じた最適なルーバー角やピッチ、コストを抑えるための本数などをコンピューターで解析。目的に応じて条件を収束させることで、従来は2-3案程度の設計案から選択していたのに対して、定量的なデータをもとに設計を決められるようになったという。[事例PDF]
東急建設の「自動化」
建築・土木事業を手がける総合建設会社の東急建設は、自動化により精密な作業と作業量の圧縮を実現している。バーチャルのモデルとリアルな現場をうまくデータでつないで墨出しを行いながら、面倒な作業を自動化。3Dモデルを構築して、場合によっては点群データをかけあわせながら、ボーリング孔を選定する。TOPCONのLM100を使い、クラウドツールのBIM 360や墨出し用のデータ制作ツールであるPoint Layoutを連携させることで、従来は正確に行えていなかった墨出しを自動的にガイドさせ、作業量を従来の1/4に圧縮。地上と地下にある構造物の位置関係を、Civil 3D上で整合性を取って正確に再現できるようになった。[事例PDF]
大建設計の「標準化」
建築設計事務所の大建設計は、3Dモデルによるプレゼンで早期の合意形成を、BIMデータを基本設計、実施設計、施工で有効活用することで業務効率化を実現している。高品質の設計・解析を誰もが簡単に行えるBIMワークフローを全社で構築。全国の各拠点でのRevitの講習会、意匠・構造・設備をまたいだ問題解決、グループ会社との協働など、全社が参加するBIM部会での取り組みを行い、フルBIMのワークフローを目指すために社内標準を整備した。効率化につながるBIMの機能を優先することで、高い標準の設計を簡単に行えるようにしている。[事例PDF]
DXとBIMの今後
このように最適化、自動化、標準化を行なっていくことで、はじめてビジネスの変革であるDXを実現できる。データ活用は各業界で進められているが、関係者が多く、期間が長いうえ現場が毎回異なる建設業においては、データ活用にはまだまだ新しい可能性がある。ただし、現在はBIMの知識と研究が一部で孤立しているのも事実だ。今後、建設の世界、そしてBIMはつながりの時代を迎える。設計・施工・運用で、データをどう一元的に管理していくかが鍵であり、コネクテッドコンストラクション、コネクテッドBIMは、これからがますます重要なものになっていく。
*Source: IDC InfoBrief, Sponsored by Autodesk, Digital Transformation: The Future of Connected Construction, August 2020.