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スマートファクトリー教育で目指すリーダー育成と未来の働き方の実現

工学院大学 スマートファクトリー教育 未来の働き方
画像提供: 工学院大学
  • 製造業における次なるフロンティアは、AIIIoT (インダストリアルIoT)、クラウドなどのテクノロジーの活用により、あらゆるレベルのプロセスをデジタル化するスマートファクトリーの創出。
  • 深刻化する労働力不足に対処するため、製造業界には変化するテクノロジーや機器を理解できる人材が必要とされている。
  • こうしたギャップを埋めるべく開発された工学院大学のスマートファクトリー教育は、学生が将来の仕事に必要なスキルと実務経験を得られるプログラムなどを提供する。

2011年にインダストリー4.0が定義されて以降、それを支えるクラウドコンピューティングやAI、デジタルツインなどのテクノロジーが急速に発展。製品設計からサプライチェーン、生産、流通、販売まで、製造業をあらゆるレベルでデジタル化するスマート マニュファクチャリングの実現に向けた取り組みが進められている。その中核となるスマートファクトリーは、製造業界とその未来を大きく変えることになるだろう。

スマートファクトリー構想は、ものづくりの設計・生産をIIoT (インダストリアルIoT) AI、クラウドなどのデジタル技術により効率化するもので、それがあらゆる製造会社のビジネスにメリットをもたらすことは、既に「Smart Factory Study (スマートファクトリー研究)」などからも明白だ。だが製造業が抱える労働力不足の問題をスマートファクトリーによって解決するには、多種多様な機器・システムを活用してさまざまなデータを活用できる、未来の働き方に対応したスキルを持った人材が必要不可欠と言える。

工学院大学 機械システム工学科の濱根洋人教授は「日本企業がコスト面から新興国に工場を移す一方で、例えば世界情勢によりマシニングセンタや高性能デジタル工作機を日本から新興国へ輸出できないなど、政治的な影響も大きく受けるようになっています」と述べている。

「ドイツをはじめとするヨーロッパの工作機がシェアを拡大し、また他国の企業が自動生産で生産率を上げる、ITを活用するなどの施策を行なっている中で、日本は従来の製造方法を踏襲する傾向にあり、生産性向上がかなり遅れてしまっています」。

工学院大学は、加工技術教育や加工に関する安全教育の機会を提供し、技術者教育プログラムの開発と創作活動の支援のため、2015年に「ものづくり支援センター」を設立している。そのセンター長も務める濱根教授は「設計や加工の知識を身につけるだけでは、予想されているインダストリー5.0に向けた人材育成に対応できません」と語る。「企業で、こうした状況に対応した工場を稼働させるための人材が不足しているのです」。

「今後は、日本人の学生が日本以外のグローバル企業に就職することも必然的に起きてくるので、それに対応した人材を育成する必要もあります」と、濱根教授は続ける。「そのためには教育内容の更新と改革が必要だと考えました。近年、半導体やスマートフォンなどを短期間で製造する技術において、ドイツや中国や、米国はスマートファクトリー化を先行して推し進めています」。

濱根教授は、日本では競争力の引き上げに必須であるリーダーの育成が十分ではないと指摘する。そこで同大学はスマートファクトリーの実現に向け、5次産業革命を支えるリーダー育成の拠点となる教育プログラムの開発を行うことにした。

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八王子キャンパスに設置された5軸マシニングセンタはスマートファクトリー教育で重要な役割を果たす [画像提供: 工学院大学]

スマートファクトリー教育によるリーダーの育成

工学院大学が2024年度からスタートさせたスマートファクトリー教育は、CAD/CAMによるクラウド型マネージメント、各種シミュレーション、加工工程や精度検査を集約化し、その管理操作をネット経由で可能とすることで、チームによる生産工程や生産管理などの、実際の製造現場に即したマネージメントを学ぶ。

そのための装置として八王子キャンパス構内の施設に5軸マシニングセンタを設置。この施設をバーチャルファクトリーとして、同校の新宿キャンパスからネットワーク経由で遠隔操作、モニタリングを実施することができる。

学部2年生で行われるスマートファクトリー教育では、スマートファクトリーやマシニングセンタの歴史や基礎から、従来のNC/CNCプログラムの基礎と実習、さらには3CAMから5CAMの割出加工・同時加工の演習まで、少人数による濃密な授業を実施。その最初の段階から、1学年160人の学生全員が設計・製造機能の統合ソリューションであるAutodesk Fusionを活用して学習を行っている。2025年度からはCNCターニングの本格的な授業も実施される予定だ。

これほどの規模でIIoTに対応したマシニングセンタ、CNCターニングの導入・活用を行う大学は世界でも非常に珍しく、大きな注目を集めている。この教育プログラムは文部科学省2023年度教育装置整備事業に認定されており、政府をも巻き込んだスマートファクトリー実現の先進的な取り組みを実施。濱根教授のこうした取り組みは世界的な評価を受け、先日開催されたオートデスクのAU 2024では、イノベーションプロジェクトを選出するDesign & Make AwardEducation Excellence部門賞に輝いている。

「従来の工学部機械系学科は、自分の手で旋盤やフライス、製図を行うというイメージでしたが、そうしたものは大企業の工場を中心に製造現場から消え、CAMやマシニングセンタを使った製造が行われていきます」と、濱根教授は述べる。「そうした工場を創設したり管理したりする人、それを世界へ発信したり、世界の企業に入ってプロジェクトマネージメントしたりする人を育てる教育を行うということが、企業の方からも共感を得ています。また各企業や他大学から、この環境を見学に来られる方も増えています」。

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学生はソーラープロジェクトのようなグループ活動でスキルを実践的なチャレンジに適用できる [画像提供: 工学院大学]

学生プロジェクトによる教育効果の強化

工学院大学では自主的なものづくり活動として、学生フォーミュラやソーラーカーなど、さまざまな学生プロジェクトも積極的に行われており、機械工学科・機械システム工学科の学生は機械の設計・製作、3次元CAD、制御電気工学など、大学で学んだ知識や技術を生かして活躍している。濱根教授が顧問を務める工学院大学ソーラーカーチームは、オーストラリアで開催されるBWSC (Bridgestone World Solar Challenge) などさまざまレースに参加。そうした経験も教育活動に生かされている。

「私は、学生の教育において重要なのは個性を重んじることだと考えています。大学生になる頃には、もう性格や個性は固まっており、それは変えられません」と、濱根教授は述べる。「チームづくりにおいて、それぞれの性格や個性が嫌うことをやっても、うまく行かない。好きなだけでは世界一になれませんが、自分がオリジナルで、居心地が良くて楽しめることや場所を早く見つけることが重要で、それがダイバーシティ&インクルージョンの理解や実現にもつながります」。

こうした活動は、産学連携にもつながっている。「例えばソーラーパネルの提供をお願いする際にも、学生だけで企業に行って話をしたり、海外の企業にもZoom経由で部品供給をお願いしたりすることもありますし、企業が行う勉強会に協力することもあります。ベンチャー企業からは、ユニークなパーツや塗料などのテストの依頼も頻繁にありますね」。

「最近の学生は、いろいろな情報がある中で、そこから選別してきている世代なので、自分が調べたことからうまく選別することには長けているし、吸収も早いですね。最初は自分の可能性を信じ過ぎて、そこにこだわってしまったり、また海外の学生と比較すると日本の学生は大人しいなどと言われますが、学生プロジェクトなどを通じて世界中の人と友達になったり、またチームでの活動に参加することにより、精神的に大きく成長します」。

このプロジェクトの経験を経た学生が、そのスキルや経験を評価され、望む企業への就職が実現する例も出てきている。そこには、新しい技術やスキルを身につけた学生が、従来からの既存の概念にとらわれずにものづくりに関わり、それが未来のものづくりにつながる道筋が見えるようだ。

著者プロフィール

オートデスクのInternational Content Manager for APAC & Japan。「Design & Make with Autodesk」コンテンツハブの日本語版、韓国語版、中国語 簡体字版を担当。

Profile Photo of Yasuo Matsunaka - JP