太陽光発電のイノベーションでafterFITが目指す日本のエネルギーシフト
- 脱炭素社会を実現するためFIT制度終了後もエネルギーシフトを推進
- 各企業のグリーンエネルギーに対する取り組みが2020年秋から大きく変化
- パネルを最適な角度と高さに設置することで最大の効率を提供
- 3D設計でシミュレーションを活用することで影を制する
温暖化ガス排出を、今世紀半ばには実質ゼロに。EUが2019年に掲げた目標が世界的な潮流となり、エネルギーの消費大国である中国や米国、そして日本からも、それを目指す方針が示されるようになった。だが菅内閣総理大臣が所信表明演説で述べた「2050年までに排出量実質ゼロ」を実現するには、2030年までに再生可能エネルギーの利用比率40%を目指す必要があるという。
建設や維持のコストの高さ、発電効率の問題などから日本における再生可能エネルギーの普及は遅れてきた。それでも2012年7月にスタートした日本版の固定価格買取制度 (FIT制度) の後押しを受け、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの導入量は大幅に向上。2010年には8%に過ぎなかった再生エネルギー発電比率は、2019年には18%へと倍増することになった。
2016年に設立されたafterFITは、この流れをさらに加速し、脱炭素社会を実現するエネルギーシフトの実現を目指す。そのためにはFIT制度終了後も、太陽光発電や風力発電などによる再生可能エネルギーの継続的な普及、維持、活用が必要だ。同社はこの数年間で、既に太陽光発電所のEPC (設計・調達・建設) で214.9MW、自社保有の発電所により104.0MWの実績を上げている。
発電量のポテンシャルを引き出す
利用できる土地が狭く、傾斜地の多い日本で再生可能エネルギーの効率的な発電ビジネスを行うには、建設コストの低減と発電効率の向上が不可欠だ。afterFITは、テクノロジーの活用と丁寧な発電所作りをすることで、その土地が持つポテンシャルを最大限に生かせるノウハウを構築してきた。
発電所の設計に際しては、まずはドローンを使って撮影した空中写真を、Autodesk ReCapを用いて点群データに変換し、Civil 3Dを使って正確な地形を作成。3D設計と組み合わせることで、周囲の木々や障害物による影も考慮に入れながら、パネルを最大効率で配置する方法を検討できる。設計チームの白髪 絵里氏は、「まずは造成コストを下げるために、どこをどう削って、どのように切土・盛土を行うのが効率的かを検討します」と述べる。
メガソーラーでは、パネルやパワコン、蓄電システムなどに加えて、日射量計などさまざまな機器、さらには管理用道路なども必要となる。「メンテナンス用の人や車両が通る道を作るだけでなく、水をどう逃すかも大切で、設計でもかなり気を使うことのひとつです」と、白髪氏は続ける。「水が溜まってしまうと、それによってパネルを設置した架台の周囲の土が削られてしまい、架台の倒壊にもつながりかねません。メンテナンス用の道と水が流れる道を共通にする、排水用の配管を埋設するなど、いろいろな方法を使いながら、限られた面積を効率よく使うように工夫しています」。
発電所で最も重要な各太陽光パネルの発電量は、その場所と向きで大きく変動する。「最適な角度と高さは、設置場所によって異なります」と、白髪氏。「例えば北海道の案件であれば、雪への対策も必要になります。関東であれば一般的なパネルの架台の高さは1m以下なのですが、北海道では最大3.5m、パネルの角度も30度にしています」。
こうしたパネルの高さや角度は、発電量だけでなく設置コストにも直結する。「メガソーラーの場合、パネルの高さを50cm上げるだけで全体のコストが何千万円も増えることになるので、その変更が収支にどう影響するかを検討する必要があります。設置角度を1度変更するだけで発電量に大きな違いがあるので、分析チームとも相談しながら設計を進めています」。
3D設計により影を制する
各パネルの発電量を最大化するには、他のパネルの影がかからないようにすることも重要だ。同社によると、パネルの端に3cmの影が入るだけで発電量が60%以上低下することもあるという。「パネルの配置にはCivil 3Dを使い、アドオンであるHelios 3Dで、パネルの自動配置や3Dシミュレーションなどの機能を活用しています。その後、InfraWorksでビジュアライズして、影による影響を入念に確認します」。
発電効率に直結するパネル配置の設計には、長い時間がかけられる。「発電を開始する日が決まっている中、造成の計画が決まらないと設計を行えないことも多く、発電を開始する日も決まっているので、設計に使える時間は限られています。その間にCivil 3DとInfraWorksの間を何度も行き来してパネル配置の調整とシミュレーションを繰り返し、わずかでも影がかかるようなら配置を変更するなど、影による影響を最大限に抑えるようにしています」。
保守管理にもテクノロジーが生かされる。同社にはドローンやAIのスペシャリストが多数在籍しており、ドローンはレーザー測量だけでなく、点検にも活用。さまざまなドローンが現場に応じて使い分けられ、人間が点検を行う従来の手法では丸2日かかっていた作業が、ドローンを使うことで15分で済むようになったという。パネルの発熱状況から汚れ、損傷や接続の不良などを素早く発見することで、ダウンタイムを最小化。ドローンで自動点検を行うための研究開発も進められており、AIを活用した異常検知・分析システムの開発も進められている。
新たなビジネスの取り組み
グリーンエネルギーへの取り組みは、大規模な発電所以外でも進んでいる。afterFITの新たな取り組みであるソーラーカーポートは、ホームセンターの来場者や工場の従業員が使用する、100台規模の駐車場に設置することを想定したもの。ホームセンター向けの場合は利用者の利便性を配慮して柱位置などが工夫され、工場向けの場合は発電量を重視した設計になっているという。
このプロジェクトを担当する設計チームの前田瑞希氏は「従来の発電所の設計と大きく異なるのは、その下を人が行き来することです。4号建築物として確認申請が必要な規模なので構造計算もしっかりと行っています。その際、Inventorで3D作図をして、細部まで設計を行います」と述べる。「今後はInventor Nastranで接合部の応力解析もしていこうと考えています。工場やホームセンターの方にも、InfraWorksでモジュールの設置状況や人、車などのイメージを3Dで見てもらって、時間帯によってどういう影がかかるかなども確認してもらえます」。
脱炭素化の流れを受け、2020年秋から各企業のグリーンエネルギーに対する取り組みも、大きく変わってきているという。環境改善への貢献に対する企業の意思表示は、従来のような環境配慮や環境価値の取引だけでなく、今後は積極的な取り組みへの注目度も高まっていくだろう。