サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジやロンドンのタワーブリッジ、フランスのポン・デュ・ガールやミヨー高架橋、中国の程陽橋、ベネチアのリアルト橋など、世界中に象徴的な橋が存在している。だが円形劇場とカフェ、ピクニック ガーデン、滝、さらにはインタラクティブなアート インスタレーションまでが含まれる橋を想像したことがあっただろうか?
これは空想ではない。2019 年までにオープンが予定されている、ワシントン DC の 11番ストリート・ブリッジパーク (11th Street Bridge Park) のコンペを勝ち取ったデザイン (OMA + OLIN によるもの) は、未来の橋の姿を垣間見せる。今日の橋が荘厳で象徴的な建造物として存在するのに対し、未来の橋は、単に魅力的な外観を持つ建造物、障害を越えて往来する手段以上のものになるだろう。
その一例となる 11 番ストリート・ブリッジパークは、キャピトル・ヒル地区とアナコスティア川東岸のコミュニティの一体化を目指しており、車は通行できない。スコット・クラッツ氏が指揮を執るこのプロジェクトの目的は、歩行者の往来手段という枠を越え、インスピレーションや人間同士のつながりを生み出すような橋の再構想にある。
クラッツ氏は昨年 11 月の声明で「コミュニティ主導の厳しい精査プロセスに従うことで、11番ストリート・ブリッジパークは、行政と民間部門がワールドクラスの公共空間へ公正に投資し、公共空間を構築できることを示す有益な例となる可能性があります」と述べている。
この11番ストリート・ブリッジは世界初の多目的橋ではないが (中国・天津市の永楽橋は巨大な観覧車を備えている} が、コミュニティにまとまりを生み出す独創的なデザインへの道を歩んでいる。
昔と今未来の橋の姿をよりはっきりと把握するには、これまでの橋の歩みを考察することが重要だ。1883 年に完成したブルックリン橋は象徴的建造物としての橋の典型的な例であり、壮大な 20 世紀の土木工学における優れた成果でもある。ゴールデンゲートブリッジに先行して建造されたこの橋には、未来の土木工学を思わせる粋が凝縮されていた。
当時、この橋は世界最長の吊り橋であり、その橋脚はトリニティ教会の尖塔を除く、ニューヨーク市内のどの建物よりも高かった。また、当時の画期的なテクノロジーである鋼鉄ワイヤーが使用されている。19 世紀に完成したブルックリン橋やその他の先進的な土木構造物は、米国を団結させ、20 世紀における経済的成功の基盤を築いた。それは橋が何であり、何が実現できるかという概念を変化させた。橋は、まさに人と人とをつなぐものなのだ。
近年、橋に関する記事が多数書かれている。ほとんどは、膨大な数の橋が荒れ果てたままとなっており、機能上、構造上の欠陥をはらむ状況を扱ったものだ。交通システムは、社会のインフラ システムの重要な要素を示している。こうしたシステムの崩壊は、即座に波及効果を生み出す。
緊急時には、交通システム、特に橋は不可欠な存在となる。捜索救助活動のための移動と医療チームによる負傷者の病院への搬送を円滑化し、電力や水など重要な公共施設へのアクセスを提供し、食糧や水などの支援物資の輸送を可能にする。地震などの自然災害の場合には、交通システムが機能し続けること、あるいは早急に復旧することが必要不可欠だ。
過去の事例から、地震による高速道路への被害(橋、車道、トンネル、擁壁など)は交通の流れに深刻な打撃を与え、地域経済に短期的そして長期的に悪影響を及ぼすとともに、地震後の緊急対応や復興を妨げる可能性があることが分かっている。特定の公衆安全目標を実現するよう耐震補強が行われてきたが、エンジニアリングによる解決策は経済的、政治的な理由で制約を受けてきた。
しかし、性能照査型地震工学 (PBEE/Performance-Based Earthquake Engineering) の発展と、適切なビジュアライゼーション、シミュレーション、分析手順により、土木エンジニアは、地震を含む今後インフラに生じる問題の影響を軽減することができるようになっている。
これこそビルディング インフォメーション モデリング (BIM) が、エンジニアリング上の優れた成果を生み出すために重要な役割を果たす場面だ。破損した橋が周辺地域に甚大な影響を及ぼすこともある。それが取り壊され、より大きな橋が別の場所に新設されると交通パターンが変化し、コミュニティの孤立につながることもあるのだ。しかし、橋が単なる橋でなくなり、新たなつながりや経済、繁栄を生み出す源になるのだとしたら?
より良い橋のための BIMBIM は、土木工学と土木エンジニアに発展の機会を与え、より複雑な橋の作成を可能にする。エンジニアとデザイナーは極めて詳細な 3D 構造モデルを活用して、インフラのプランニングやデザイン、建設、管理の品質を高めるための優れた洞察を得ることができる。
BIM の導入によりデザインとドキュメンテーションの手作業による修正でき、デザイン スケジュールを 40%、建設スケジュールを 30% も短縮できる。デジタル ファブリケーションへのデジタルデザイン モデルの使用も、20% の製造時間短縮につながる。これは、世界各地に無数に存在する老朽化した橋を修復、改修して、単なる橋以上の何かへと変貌させることができることを意味している。
イリノイ州運輸省の構造工学技術者で、米運輸交通担当者協会の「ソフトウェアおよびテクノロジーにおける橋/構造技術委員会」(T-19) のメンバーであるティモシー・アームブレヒト氏 (P.E., S.E.) は「BIM が状況を一変させる可能性があります。BIM モデルは背景や周辺環境に適応する形で表示され、[クライアントや一般市民が] 視覚的に理解できるよう、素早く簡単に変更可能です。市民との会合を行っている最中に変更することすらできるのです」と話す。
古い橋の橋脚に建設される 11番ストリート・ブリッジパーク、「人々のための橋」(Bridge of the People) として知られるオレゴン州ポートランドのティリクム歩行橋 (車は通れない) など、橋はますます洗練されたものとなりつつある。
今後は地震やその影響をシミュレートすることにより、都市のインフラが経験する可能のある問題の識別、診断、予測を行えるプロセスへの依存度が高まるようになるだろう。未来のデザインパラメーターが決まれば、それに対処できる橋のデザイン代替案の作成や、最も経済的で時間効率の良い建設アプローチの模索に BIM の活用が役立つだろう。
133 年前に建設されたブルックリン橋は、当時は画期的なものであり、現在でも見る者に強い印象を与える。だが将来、橋は単なる橋ではなくなる。それが未来の土木工学と土木エンジニア技師の目標を変化させるに違いない。
テリー D. ベネット (LS LPF MRICS ENV SP LEED AP) は、建造環境の建設・エンジニアリングにおける業界ソートリーダーシップ、戦略的イノベーション&プランニング、ビジネス戦略開発、ソフトウェアソリューション マネージメントの経験を有するテクノロジー業界のリーダー。
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