NEXCO中日本が見据える高速道路の維持管理の未来
2007年に米国防総省高等研究計画局 (DARPA) が主催した、完全自動制御の無人ロボット車による市街地レースUrban Challengeは、自動車メーカーに大きな衝撃を与えた。この実現により、それまで誘導ケーブルなど道路のインフラでサポートされるものだと考えられてきた自動運転が、自動車が単独で自律的に走行する技術へと大きく転換するきっかけとなった。
では、自動運転が早い段階で実現する場所とされている、高速道路の未来は、どのようなものになるのだろう?
東名、新東名高速道路など、現在2,000kmに及ぶ高速道路の管理運営を行う中日本高速道路株式会社 (NEXCO中日本) 環境・技術管理部 環境・技術チーム サブリーダーの石田篤徳氏は、今後の少子高齢化の進行や、現場経験の豊富な世代の退職などを考えると、高速道路の効率的な維持管理がさらに重要になっていくと述べる。
その準備段階として、NEXCO中日本では、現場を訪れて確認する作業が欠かせない二次元の図面を使った従来の維持管理から、効率よく維持管理を行うための既設道路の三次元データ化を始めている。「現在供用している東名、新東名などの路線は既に二次元で図面ができているので、それをどう三次元化していくかが、これからのテーマになると思っています。既に新東名はMMS (モービル マッピング システム) を使って、全線を点群データ化しています」と石田氏は語る。
こうしたデータをもとに、どのようにCIMモデルを作っていくかが検討されているが、東京外かく環状道路や中央自動車道の小仏トンネル渋滞対策事業など、新たなプロジェクトには設計段階からCIMを導入。Autodesk Civil 3D やAutoCAD Map 3D、複数のCIMモデルを統合して見ることのできるNavisworksや、これらの製品とInfraWorksなどが収められた Architecture, Engineering & Construction Collectionが使用されている。
膨大な情報を道路管制センターで集中管理
渋滞や事故などの情報を迅速に提供することは、交通量の多い高速道路会社の重要な役割である。その情報を管轄するのが、管内4箇所に設置された「道路管制センター」だ。高速道路にはトラフィックカウンターやCCTVカメラのほか、雨・雪や風、気温や霧などの自然環境データを取得する気象観測機器が多数設置されており、交通量や自然環境などの各種情報を収集している。
こうしたデータは全線に敷設された独自の光ケーブル ネットワークを通じて集められ、道路緊急ダイヤルや非常電話、交通管理隊からの情報とともに状況の把握や判断が行われる。その後、各地に設置された制御板からの情報提供や施設の制御、交通管理隊への指示や警察・消防への出動要請がなされている。
AIやロボットによる維持管理の自動化
しかし、例えば東名高速では2km毎に設置されている従来の車両感知センサーによる計測では、その設置間隔の長さにより、正確な渋滞区間の把握や走行速度の把握が難しいところがあった。NEXCO中日本が先日発表したBluetoothを用いた所要時間提供システムは、高速道路脇に設置された複数の受信機を使って、走行車両上の携帯端末やカーナビなどで使われている Bluetooth機器の通過時刻差から所要時間を算出するというものだ。そのデータを活用することで、最新の所要時間情報をこれまで以上に細やかに情報板や標識へ提供することが可能となる。このシステムを集中工事や大規模工事車線規制、リニューアル工事などに活用することで、サービスのさらなる向上が期待できる。
また今年から、料金所などの構造物に加速度センサーの設置も始められた。これにより、地震などの災害の後にデータを確認することで、遠隔地からも構造物の健全性を判断することが可能になる。それ以外にも除雪作業の自動運転化、作業員の安全を確保するための車線規制の自動化など、多岐にわたるシステムの取り組みが始められている。また、このところ増加している車線の逆走への対策も、各種センサーで感知を行い、ICTビッグデータを活用して渋滞情報、落下物なども含めて情報提供することも目指しているという。
維持管理の自動化に向け、AIやロボットとの連携にも力が入れられている。高速画像処理を用いたトンネル内のひび割れを検出する技術は、東京大学大学院情報理工学系研究科と共同で 2013年から開発が続けられてきたが、2017年に時速100km走行における幅0.2mmのひび割れ検出を達成。2018年度中の導入を目指している。また、既に橋脚などの検査にドローンを運用。現時点では、ひび割れの状態は人間が画像を見て判断しているが、将来的にはAIによる自動化も視野に入れているという。
また、データ収集とその分析の活用は、運転者側や構造物の研究にも及んでいる。交通事故を引き起こす要因や交通安全対策の効果を把握するための脳活動の可視化、構造物の品質・耐久性向上、環境負荷やコストの低減など、安全性や快適性を提供するため、さまざまな技術開発に取り組んでいる。新たな技術や工法の情報提供、共同研究・開発者の募集など、大学や企業が保有する技術の活用にも積極的だ。
自動運転への対応
もちろん、急速に開発が進められる自動運転への対応も進められている。今年1月には国土交通省が、新東名高速道路の遠州森町PA – 浜松PA間で、隊列走行の実証実験を実施。同省が 2025年を目処としている高度自動運転 (レベル4: 特定の状況下で、ドライバーが全く関与しない) の実現のため、2020年までに自家用車の高速道路における部分自動運転 (レベル 2)、また物流サービスは2020年代前半に高速道路でのトラックの隊列走行の実現を目指すなど、高速道路での自動運転は重要な位置を占める。さらにインフラ側からの自動運転の支援として、合流先の車線の交通状況の情報提供などを行うことなども検討されているという。
高速道路は、CO2削減や地球温暖化対策を進める役割を果たしている。環境や地域社会への配慮も進めており、既に管内40箇所以上のサービスエリア、パーキングエリアにEV急速充電スタンドを設置。トンネル照明へのLEDの導入や太陽光発電の導入なども行われている。「建設予定地の木から種を取り、それを苗木にして戻すということもしています。地域性苗木と呼んでいますが、その地域の木を植え直すことで、地域の遺伝子を乱さないようにできます」。
サービスエリアなどから乗り降りできる ETC 専用インターチェンジ「スマートIC」の設置も進められている。これにより沿線地域から高速道路へのアクセスも向上し、物流効率化による地域産業の発展、災害地時の救援・復旧活動の迅速化など、さまざまな効果が期待できる。2018年4月現在、40箇所以上で営業が行われており、今後も続々と追加される予定だ。
NEXCO中日本管内の高速道路では、1日約187万台もの車が行き交い、100件の故障車、200 件の落下物処理が発生するという。「現時点では、多くの情報を人が判断して、人が処理しています。今後はそれを機械に置き換えたり、AIに置き換えたりして自動化していくことを目指しています。そのためには、CIMモデルと動的なデータを、どう紐づけていくかが、より重要になると思います」と石田氏。「ただし、我々は道路を24時間、365日運営しており、何かあったときに間違いは許されません。最終判断するところには人もいる。そこまでのデータの収集と分析を、システムを使っていかに効率的に、正確に判断するかが求められています」。