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公園の未来と都市計画の変化: より公平なアフターコロナの社会

公園 未来 PARK(Ing) Day

シカゴのサウスサイドで生まれ育ったSite Design Groupのランドスケープアーキテクト兼プランナー、アーニー・ウォン氏は、ジェントリフィケーションの進む裕福なエリアから旧公営住宅跡地まで、市内のありとあらゆる地区で公園を設計してきた。ウォン氏は、この状況が大きく変わりゆく中で公園が果たす役割と、良質な屋外空間が重要な地域で公演が利用できなくなることで失われるものを理解している。世界がコロナウイルスの猛威に曝されている現在、都市計画は新たな現実を受け入れるべく変化し、不平等の影響を認識することになるかもしれない。

ウォン氏は、この基本的な景観設計の解釈を、米国におけるランドスケープアーキテクトの祖、フレデリック・ロー・オルムステッドと共有している。「オルムステッドは公園を、都市部の工業環境からの休息の場として設計しました」と、ウォン氏。オルムステッドは不潔で危険な19世紀の労働環境に対して、シカゴの家畜置き場で働く労働者のための公園や、ニューヨークの港湾作業員のための遊歩道を提供した。公園は、移民や労働者階級の米国人のための公衆衛生の矯正手段ともなった。身体の休養、新鮮な空気、自然とのつながりを提供する場だったのだ。

未来 公園 ランドスケープ アーキテクト アーニー・ウォン
アーニー・ウォン氏 [提供: Site Design Group]

公衆衛生を平等なものとする公園は、米国でかつてないほど急を要するものとなっている。都市は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行、制度化された人種差別による、二重の公衆衛生危機に直面している。制度的人種差別は、警察官により引き起こされたジョージ・フロイド氏やその他の黒人の死をきっかけに、米国内の広範な抗議へと発展した。都市公園はこれまでも集団行動やコミュニティの場として存在しており、デモ行進や抗議の拠点としての役割を果たしてきた。だがコロナウイルスを原因とするソーシャルディスタンスの指示により、こうした空間は、動揺のさなかに社会的な絆をつなぐ緊張感と、コロナウイルスの感染拡大予防のため人との十分な距離を保つ必要性との板挟みとなっている。

こうした危機のまっただ中で、2つの問題のもつれを解くことは難しい。だがウォン氏は、景観設計と都市計画は人々をパンデミックから守るため、そして景観に描かれた偏見に対応するために変わるだろうと話す。「我々は、全てが大きく変わりつつある時代の最中にいます」と、ウォン氏。「これまでのやり方を続けることは、もはや不可能です」。

合間にある緑

シカゴやボストンなど歴史の古い都市にある、緑豊かな中央分離帯と並木のある歩道を持った幅広で軸状に伸びる大通りは、公共空間を取り戻し、街のあちこちに緑の空間を埋め込む機会となる可能性がある。屋内の公共空間がほとんど閉鎖されている現在、レクリエーションとしての屋外空間、移動手段の代替となる空間の両方に、新たな関心とニーズが生まれている。ウォン氏は、ポストコロナの歩行者専用道路 (シカゴ市内の大きな公園をつなぐ道路など) は、自転車や歩行者専用の空間として、車に勝る「移動手段としての機能性空間」となると予測している。シカゴには、既にその前例がある。市内の高架鉄道線路を利用した公園 606 は、その資金のほとんどが交通手段のプロジェクトとして調達され、渋滞の解消と大気の質の改善に向けたアメリカ連邦高速道路局のプログラムから5,000万ドルを得た。

未来 公園 シカゴ State Street パンデミック
パンデミック期間のシカゴの State Street。Site Design Group ランドスケープ アーキテクト兼プランナー、アーニー・ウォン氏は「シカゴの公共空間の 70% が車道に面しています」と話している。[提供: Site Design Group]

多くの都市はコロナによるロックダウン中に道路を封鎖し、自動車の往来をできなくしているが、そこから一歩前進することで、自動車専用道路を自転車専用レーンに転換する以上の効果をもたらすだろう。「シカゴの公共空間の70%が車道につながっています」と、ウォン氏。「クレイジーですよね」。理想的なのは、こうした幹線道路沿いに、近隣地域の歴史を示す道標と、自転車と歩行者に優しいビジネスがある街路景観をゼロから再考することだ。

シカゴの並木通りの面積は6.9平方キロ、長さは約42kmに及ぶ。公平さの観点から言えば、歩行者自動車専用道路としての並木通りは、孤立している公園とは異なり、公園の少ないエリアを多いエリアにつなぐ手段として機能でき、既存の緑化空間と移動手段のインフラをあらゆる方向に広げて活性化できる。

自然を模した遊び場

ウォン氏はこれまで数多くの遊び場をデザインしているが、遊び場には一般的に接触感染の原因となりやすい人だかりがあり、デザイナーたちはそれを回避しようと努力していると話す。だが既に、滑り台とジャングルジムという典型的なモデルに代わる選択肢が登場しつつある。冒険や自然にフォーカスを置いた遊び場には、工場で製造された遊具 (滑り台、雲梯、ブランコなど) でなく、丸太や大きな石など、子供たちが自ら遊びの空間を作り出せる自然界の要素が使われている。

こうした公園は、ソーシャルディスタンスも促す。「遊び場に遊具があると、子供がそこに群がり、人だかりができてしまいます」と、ウォン氏。「自然の遊び場であれば、子供たちはそれぞれが自分たちの居場所を見つけます」。Site Design Groupが手がけたシカゴのネイチャープレイパークWelles Parkでは、さまざまな形の枝で洞窟や城を作ることができ、階段状になった切り株は飛び移ったり登ったりするのに最適だ。McKinley Park Community Play Gardenでは、子供たちは小川でしぶきを跳ね上げたり、草原の迷路を歩き回ったりすることができる。

こうした公園は、無視されがちなコロナ時代の経済の実態にも対処するものだ。米国の景気は不況なのだ。今後、大規模な公共事業は実現が難しいが、自然の遊び場の材料は質素だ。木、石、あとは水栓くらいのものだろう。寄付や廃品、再利用の材料がフル活用されたMcKinley Park と Welles Parkのコストは、約1,000万円だ (Site Design Groupによれば、公園の遊び場のフル改修の平均コストは3,500万円、新築では1,500万円から最大で2億円に達する)。「いまや問題は「手に入れた材料でどう間に合わせるか?」になっています」と、ウォン氏は話す。

コロナの流行が長引き、人々が屋外を再発見するにつれ、その維持費と管理費はさらに増大するだろうと、ウォン氏は話す。これは、特に自然公園などの史跡においてはそうだ。「人混みを避けるため、皆が自然の中に行きたいと考えています」と、ウォン氏。国立公園のシステムは、現在約 1.2 兆円もの保守残務を抱えているが、それはさらなる損耗によって悪化するだろうと、氏は続ける。公園管理者とデザイナーにとって、人々の景観への関心と、それを保護する必要性とのバランスが、今後は重要な課題となるだろう。

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Welles Parkでは木が遊具として機能する [提供: Site Design Group]

新たな支払い方法

公園の不均衡とコロナ保守残務の両方に取り組むための、ウォン氏によるシンプルな提案が新通貨だ。

このアイデアは、地元シカゴの公園活動家との対話から生まれた。彼らは、総面積36平方kmに及ぶシカゴ市内の公園のメンテナンス資金不足を嘆いていた。ウォン氏は幅広いニーズを考慮し、この仕事をこなせる労働力と、シカゴのホームレス、住宅問題を抱える人々のことを考えた。コロナにより、その人数が急増することには疑う余地がない。ウォン氏は「この2つの問題を、一緒に解消するにはどうしたらいいだろう?」と考えた。

そこで誕生したのがParkCoinだ。このParkCoinを使用すれば誰もが公園管理の仕事に貢献でき、報酬としてアフォーダブル住宅用のサービス券や光熱費支払いの割引券を受け取ることができる。

限定的かつ地域限定だが、これは市民保全部隊 (CCC) にも似ている部分がある。ニューディール政策の一環として行われた CCC では、世界恐慌時に国立/州立公園の建設や植林のため、300 万人を超える人々が雇用された。公共部門の支出の増加に従い、その活動を拡大することも可能だ。そしてこの需要は、グリーン ニューディールやコロナ対策となる緑の経済刺激策においては、ほぼ無尽蔵となるだろう。

未来 公園 McKinley Park Community Play Garden
自然界の材料にハイライトを当てた McKinley Park Community Play Garden [提供: Site Design Group]

作業空間を再考する

コロナウイルスの懸念はプランナーに、実行可能な作業空間のコンセプトの展開の機会をもたらしている。「皆、屋外ではずっと安全であると感じます」と、ウォン氏。ひとつのアイデアとして、賃貸可能な屋外の作業空間を提供するというものがあり、それはコワーキングスペースのようにチェックイン可能な「カバナ (休憩所) 」だと、ウォン氏は話す。事業の必須コストは、その構成を根本から再設定する必要がある。屋外のコワーキングスペースプロバイダーは、建物のリース交渉をする代わりに、屋外空間を査定するようになるだろう。ウォン氏は、公園を眺めて、これは収入源になるか?と考えたりはしないように、と釘を刺す。だが、公有または私有の街路、路地、中庭、ルーフデッキは、戸外ミーティングや有料Wi-Fiスポットの魅力的なロケーションとなるかもしれない。

こういった空間へ人々を巧みに配置するには、独自のデザイン課題が提示されるだろう。これは、ホスピタリティ産業が既に経験している、屋外でのビジネスの再建にも類似したものだ。Site Design Groupはモントリオールの美化遊歩道、サン=ドニ通り (赤く塗られた路上に駐輪場、ハンモック、テラス席を提供) からインスピレーションを得て、コロナ禍によるホスピタリティ産業の崩壊への戦略的対応として、シカゴのサウスサイドの75th Street で遊歩道上に席を設ける取り組みを行っている。

公正さが常に重要

環境団体Friends of the Parks の 2018 State of the Parks報告書 (P.11) には、シカゴではヒスパニック系の居住地域での全面的な公園面積不足、主に白人のノースサイドと圧倒的に黒人の多いサウスサイドでの公園プロジェクトの不均衡、白人居住地域の資金援助要求が通る確率が黒人居住地域より2倍も高いこと、つい最近までサウスサイドにはドッグランが皆無だったことなどが列挙されている。

過去20年のランドスケープデザインは、都市活性化のためのイベント向けの街の中心的存在、「人々が一斉に集まる場所」となることにフォーカスが置かれていたと、ウォン氏は話す。ウォン氏の地元シカゴのMillennium Park、606、Chicago Riverwalk、ニューヨークのHigh LineHudson Yardsなどは、「観光地であり、インスタ映えする場所」だと、ウォン氏。「これは間違いなく今後変わるでしょう」。

今後は、より小さく、より間質的で一時的な景観へと重心が移るであろうことは想像に難くない。だが一方で、健康維持のためのソーシャルディスタンスと集団行動には、根本的な緊張関係がある。「これがどう進展するのかは、我々の社会の行動、今後は人々がどう互いに触れ合っていくのか次第でしょう」ウォン氏はこう話す。

当局がコロナに対処できず、あちこちの都市が数カ月、数年にわたって延々と恐怖に晒されることになれば、大規模かつ「ほぼ絶望的な」公共空間からの退却が現実味を帯びてくると、ウォン氏は話す。そして、その影響を最も強く受けるコミュニティの貧困状態は悪化し、そこでは白人がさらに減り、その埋め合わせはますます困難になるだろう。

だが、この公衆衛生の危機にリーダーたちが適切に対処し、公共の空間が不可侵であることを行動で示す政策措置を積極的に支持すれば、「公共の空間に対する関心が、再生する可能性があります。そして資金提供が行われるのは、この分野になるでしょう。人が安全に感じるからです」と、ウォン氏。これも、デザインと公衆衛生のつながりだ。重要な公共空間への投資は、コロナウィルスへの対処が政策とデザインによってのみ可能だと、人々が感じる場合にのみ興隆しうるのだ。