Final Aimがヤマハ発動機、生成AIとのコラボレーションでデザインする未来の電動モビリティ
- ヤマハ発動機とFinal Aimが生成AIを活用して共同開発したConcept 451は、低速パーソナルモビリティに特化した小型EVプラットフォームを活用した電動モビリティで、農地や山間地での軽作業に特化したユニークなデザインが特徴。
- 生成AIはクライアントとデザイナーのコミュニケーションやデザインの収束と発散の繰り返しなどの作業に大きな力を発揮し、その創意工夫には権利が認められる。
- Final Aimは、デザインデータや契約書、知的財産権の情報などの重要データをブロックチェーン上で一元的に管理し、そのデータの真正性を担保するプラットフォームFinal Designを開発中。
ChatGPTに代表される生成AIは、その能力が企業やクリエイターからも大きな注目を集める一方で、権利に関するさまざまな懸念をも生み出している。デザインとテクノロジーはますます不可分な存在になってきているが、デザイナーは生成AIと安全かつクリエイティブに付き合っていくことはできるのだろうか?
その可能性を体現するものとして注目されるのが、今年1月に開催された東京オートサロン2024でヤマハ発動機ブースに出展されたConcept 451だ。この電動モビリティは、低速パーソナルモビリティに特化した小型EVプラットフォームとして開発中のYAMAHA MOTOR PLATFORM CONCEPTをベースとしており、農地や中山間地での軽作業に特化したユニークな形状が特徴。その共同開発に参画したFinal Aimは、コンセプトの構想段階からクライアントとのコミュニケーションまで、積極的に生成AIを活用している。
初期段階における生成AIとの対話
Concept 451の設計を手がけたFinal Aimの共同創業者、CDO (Chief Design Officer) の横井康秀氏は、未来の農業の姿や、そこに存在する課題の学習と、求められる機能要件の理解のため、さまざまな文章生成AIと対話を行ったという。「スポーティなトラクターなど単に造形の提案に使うだけでなく、農業については初心者である自分に、まずは日本の農業の課題、高齢化や事業継承などの問題を含めて網羅的な解説をしてもらいました」と語る横井氏は、従来はメーカーの社内で検討されていたような経営戦略構想や商品戦略、そしてEVとしての各種ハード要件などの仕様の検討までもAIと対話を続けた。
その後、機能的な要件を画像生成AIに持ち込み、プロンプトを調整しながら作業が進められた。「最初の方では独創的すぎるデザインもありましたが、個々の要素には、デザイナーでは絶対に思いつかないような機能やアイデアもありました」と、横井氏は振り返る。「2週間で2,000以上ものアイデアを出し、しかもデザイナーが行うような収束と発散を繰り返す作業を、非常に高い画像クオリティで行うという体験は、とても興味深いものでした」。
その結果、非対称なデザインや、必要となる光量やアウトドアでの活用といった要件から導き出された6連ライト、積載性を強調するようなパイプを使ったカゴなど、ユニークなデザインが生み出された。実用性も考慮したプロジェクトだが、「視認性を向上させるよう前方のピラーを無くしたデザインも、物理構造上はデザイナーが避けるであろう形状ですが、シミュレーションしてみるとギリギリ行けそうだということで、今回は採用することにしました」。
その後、Autodesk Fusionを使って3Dデータを作成。こうした一連の制作過程では、ヤマハ発動機とのコミュニケーションも毎日のように行われた。「デザインの初期段階では、従来は最初の2-3週間は手描きのスケッチに色や陰影をつける程度のイメージでやり取りをしていました」と、横井氏は述べる。「クライアントとデザイナーのコミュニケーションでは、特にイメージのすり合わせが重要な肝になりますが、生成AIを使うとデザインのイメージを非常に高いレベルで共有できるので、そのためのツールとしても非常に便利だと感じました」。
生成AIの知的財産権と、その管理
Final Aimは、デザインそのものの支援に加えて、設計・製造へのブロックチェーン、スマートコントラクトの導入の推進も行っている。同社が開発中のFinal Designは、デザインデータや契約書、知的財産権の情報などの重要データをブロックチェーン上で一元的に管理し、そのデータの真正性を担保するプラットフォームであり、Concept 451の共同開発では、ヤマハ発動機が初期の事例となった。「ものづくりの現場では、設計や製造の最終データやデザイン契約書などの管理が非常に煩雑になり、データの紛失が大きな問題になることもあります。ブロックチェーン技術を使うFinal Designでは、それを一元的に管理できます」と、横井氏。
同社にはこのところ、生成AIのデザインへの活用する際の権利に対する問い合わせも多くなっているという。「文化庁の著作権セミナーでは“人が思想感情を創作的に表現するための道具としてAIを使用したものと認められれば著作物に該当し、AI利用者が著作者となると考えられる”と述べられています。人の創意工夫が入れば権利として認められるため、その制作過程の記録は今後さらに重要になるでしょう。Final Designではブロックチェーン技術を使うことで、それを改ざんのできない、真正性が担保されたものにできます」。
現在Final Designは製造だけでなく、建設業界などを含めたデザインデータを扱う企業全般からプラットフォームとして注目されているという。「デザインデータのアセットを協力会社や業者に渡す際に、勝手にコピーされたり、どのデータが本物かが分からなくなったり、という問題が発生する可能性があります。そうした問題への対応、さらには生成AIを活用した建築デザインにおける真正性などにブロックチェーン技術を生かせないかという相談も増えています。Final DesignはAutodesk Platform Serviceと連携することで、デザインの3Dデータのビューワー機能も搭載しています」。
アイデアを考えた人が報われる世界
Concept 451のプロジェクトにおいては、ヤマハ発動機のオープンかつ柔軟な姿勢が、生成AIを使ったコラボレーションにも大きな助けになったという。「生成AIやブロックチェーンのように、これまでの業務フローや商習慣も変えてしまうような難解な技術が次々に出てきています。デザイナーもブロックチェーンを扱うのであれば金融、暗号資産やデータベース、生成AIを扱うのであれば知的財産など、いろいろなものに関心を持たなければいけない時代になっていると思います」。
「また、技術により何かを作り出すことは簡単にできるようになっても、今度はそれを評価する目利き力がとても重要になります」と続ける横井氏は、新たに要求される知識やスキルは増える一方だが、「最終的に実現したいことは非常にシンプルです」と言う。「それはデザイナーやエンジニアなど、アイデアを考えた人が報われる世界であり、そうした人たちにスポットライトが当たり、そこにバリューがあって、改ざんができない形で記録が残っていくということです」。