グリーンなBIMプロセスで建設された中国のアイコニックな競技場
オリンピックやFIFAワールドカップなど、昨今の大型スポーツイベントによって中国全土でフィットネスブームが起き、至るところでスポーツ開発が推進されている。国内の美しい都市景観の中に、注目の会場が次々と誕生。そのハイライトのひとつが、「天府の国」と呼ばれる四川省の省都、成都市のPhoenix Mountain Sports Parkだ。成都市は都市開発を加速させ、国際イベントの名高いホスト都市にすることを目指している。
2021年7月に完成が予定されているPhoenix Mountain Sports Parkは、成都市で開催される第31回ユニバーシアード夏季大会 (FISU)、2023年AFCアジアカップの主会場となる予定だ。
この会場建設の指揮を執っているCCEED (中国建筑第八工程局有限公司) は、グリーンビルディング技術に強い関心を抱く。数々の技術的課題にもかかわらず、チームはBIMを活用し、施工プロセス中の緊密なコラボレーションを推進している。
このPhoenix Parkは、2020年度AEC Excellence Awardsの大規模建設カテゴリーにおいて、最優秀賞を受賞。この部門には35か国から、実に260を超えるエントリーが集まった。プロジェクトのイノベーティブな建築技術は21件の特許を既に取得しており、さらに17件を出願中だ。またプロジェクトに関する36件の論文が発表されており、四川省からは工法賞を獲得している。
エンジニアリングによって新たな高みへと到達
総床面積約456,000平米、収容人員数60,000人のPhoenix Mountain Sports Parkは、FIFA基準のサッカー場、NBA基準のアリーナ (18,000席) と緑の景観、複合商業施設で構成されている。完成後は有名な国際スポーツ イベントや地元リーグの試合の主催会場となり、都市公園環境における最新スポーツアリーナの模範的な例となるだろう。
このプロサッカースタジアムは最先端の技術を用いた未来的な膜構造を採用し、巨大でひまわりのような形状のケーブルドームの屋根を、世界で初めて実現。この単層ETFE (エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ素樹脂) 膜構造は、この種のものとしては最大で、そのサイズは広げると25,000平米に及ぶ。
このデザインは施工チームに大きなチャレンジをもたらした。CCEED中国南西部部門のBIMディレクター、チン・チャン氏は、膜構造のドーム屋根の建設は極めてテクニカルなプロセスであり、チームにとって初めての経験だったと話す。スチールグリッド構造と巨大かつオープンなケーブルドームは、中国国内だけでなく国外にも前例の無いものだった。参考にできるようなスタジアムプロジェクトの施工実績が無いため、困難と予測不能なことだらけだった。
こうした課題に対処するため、CCEEDのチームは数十ものテクノロジーの研究を行った。膜構造建設のリーンかつ安全な実践には、BIM、3Dスキャニング、スマート建設技術の活用が役立った。厳格なモニタリングにより最適化されたプランニングが施工品質を向上させ、リードタイムを短縮することになった。
BIMプロセスを設計、生産、施工で活用
プロジェクトのEPC (エンジニアリング、調達、施工) 契約は、デザイン、製造、施工の各チームに緊密な連携の必要性、短いスケジュール、タイトな予算といった数々の課題を提示することになる。だが、こうした課題にもかかわらず、プロジェクトのライフサイクル全体で有効に活用されたBIMプロセスにより、チーム間の効率的な連携が円滑化された。
建設施工会社の設計管理チームは、デザインプロセスの早い段階で介入し、BIMとグリーン分析ソフトウェアを使用して、品質と実践の向上の面でデザイナーを支援。このプロセスは、プロジェクトの時間とコスト削減に重要な役割を果たした。
チームはBIMを活用し、実際の生産をスタートさせる前に製造プロセスのプリビジュアライズ、シミュレート、分析を実施。関係者全員がプロジェクト全体でモデルと関連情報の確認を行った。デザインチームはAutodesk RevitとNavisworksを使用して多分野にわたるデザインの調整と統合を行い、設計と施工をコネクトし、完成予想図や工法を最適化して、施工技術と管理の問題を解決。リードタイムは既に132日短縮され、16億円以上の施工費用が削減されている。
施工をリーンに保つ先進技術
BIMをライフサイクル全体に組み込むことに加えて、PhoenixプロジェクトはVR/AR、ビジュアライゼーション、720°パノラマ、センサー、ドローン、GPSポジショニング、GISなど先進の建築技術を活用することで、施工プロセスにおけるリーンの実践を向上させた。「設計フェーズから施工フェーズまで、Phoenix Mountain Sports Parkプロジェクトには初期段階から多数の先進技術が組み込まれています」と、チャン氏は話す。
チームはAutodesk Dynamoを活用して、湾曲した観客席にマッチするテンプレートを自動生成。これにより、手動による測定や計算の時間を節約できた。AIのパワーを活用したリアルタイムのドローンモニタリングは、施工プロセスにおける安全性と制御性の確保に役立った。また、180°のホログラム投影やリアルタイムのセンサーデータ収集を使用することで、重要なソリューションにおいてさまざまな関係者が連携して効率性を最大化し、安全性におけるリスクを低減した。
環境に配慮した建築で、より優れたユーザーエクスペリエンスを
成都市のPhoenix Mountain Sports Parkプロジェクトは、今後建設される会場へ、サステナブルなグリーンビルディングモデルを提示するものだ。施工プロセス全体を通じて建造物と周辺環境のつながりが十分に配慮され、年間を通して自然条件下で実現しうる最高のユーザーエクスペリエンスの確保を目標としている。
施工チームは、グリーンビルディング分析ソフトウェアを活用して自然換気や採光、音響、見通しなどの最適化を実施。夏と冬の気温、空気分配、熱の快適性評価を分析した後、シミュレーション結果に基づいてデザインの継続的な最適化が行われた。
チャン氏は、こうした大規模事業の鍵となったのがBIMだったと話す。「これほどの効率を実現したのは、BIMを目的主導で活用したからです。プロジェクトのライフサイクル全体にわたるBIMの接続性は、無限の利点を提供し、業界へ新たなエコシステムをもたらします。BIMの活用はデジタルツインにまで広げられています。IoTセンサー、シミュレーション技術、AIを活用した、BIMを中心とするバーチャル建設は、実際の施工プロセスの大幅な品質向上と、関係者への利益をもたらすでしょう」。
チャン氏は、今後同様の建造物が施工される際に、このプロジェクトの成功とそこから得られた経験がプロジェクトのライフサイクル全体にわたる業界でのBIM活用の推進に役立ち、オーナーや施工会社に経済上、社会上の利点をもたらすことになると考えている。