3Dプリンターの意外な歴史: 実用化は1980年代だった!?
- 3Dプリントの構想は1945年には存在しており、1971年には単純な形で実用化され、より速く、より効率的なものづくりの方法を提案してきた。
- 3Dプリントのテクノロジーが一般向け、企業向けに同時に発展したことで、AEC (建築・エンジニアリング・建設) や製造など、さまざまな業界がそのメリットを享受することになった。
- アディティブ マニュファクチャリング技術と3Dプリント可能な材料、特に新たな合金の継続的な進歩が、さらなる成長に貢献するだろう。
- 将来的には航空宇宙や電子機器、医療、エネルギー、自動車などの分野における、3Dプリントの新たな応用が期待されている。
80年も前の理論で、約40年前には実用化されているにもかかわらず、まだ登場したばかりのように思えるテクノロジーとは? 信じられないかもしれないが、それが3Dプリントだ。
2010年頃からMakerBotなどの企業が流行させたデスクトップ型3Dプリンターは、投資家やメディアの注目を集めることになった。だが、デジタル3Dデザインをもとに素材を積み上げて物体を作り上げていくプロセスのルーツが、遥か以前に遡るものであることを、製造業界の関係者たちは知っている。
Liquid Metal Recorder (リキッドメタルレコーダー) と呼ばれるプロセスの最初の特許は1970年代に取得されているが、そのアイデアはずっと以前からあった。1945年にマレー・ラインスターが書いた、未来を予見させる短編小説「宇宙震」(原題: Things Pass By) には、次のような描写がある。「近ごろ住宅や船の建材につかわれている電子プラスチックを、この可動腕に注ぎこむんだ。光電管の作用で、図面を走査線に映してゆくにつれ、この腕が宙に同じものを描く。ところが、プラスチックはこの腕の先端から、出ると同時に固まるんだ」。ラインスターの時代には空想科学だったこのアイデアは、その後まもなく現実のものとなった。
3Dプリントに使用される素材の拡大 (金属や新素材からバイオプリンティングまで)、プリントの高速化や精度の向上などにより、この数年で3Dプリンティング市場はさらに大きく成長している。最新の調査によると、3Dプリンティングの市場規模は、2024年の175億ドルから2029年には374億ドルに達すると予測されている。
イノベーションの積層: 3Dプリントの歴史を辿る
1971–1999年: 最初の3Dプリンターが登場
1960年代にテレタイプ社によって発明されたインクジェット技術は、電子部品を使用してノズルから材料を一滴ずつ「引き出す」ものだ。このデバイスは毎秒120文字を印刷でき、民生用デスクトップ型プリンターへの道を開いた。
テレタイプは、ヨハネス・F・ゴットワルド氏が1971年に取得した特許で説明されており、溶かしたワックスを用いた実験も行っている。そのアイデアは、液状の金属でできた物体を出力し、インクジェットの動きによって、その物体が1層毎に指定の形状に固まるというものだった。この装置がラピッド プロトタイピングの基盤となったリキッドメタルレコーダーで、「印刷」はインクに限定されないことが提起された。
材料押出プロセス
これらは材料押出プロセスと呼ばれる領域への小さな一歩であり、熱可塑性樹脂を加熱したノズルに供給してひとつひとつ「層」を重ねていく、民生用デスクトップ3Dプリンターと同じ手法だ。スピーディで安価だが、その材料 (基本的には弾性のあるプラスチック) はR2-D2やレーシングカーのモデル製作以上の用途には適さない。
1980年、名古屋市工業研究所で弁護士として働いていた小玉秀男氏は、金属の代わりに光に反応して硬化する特殊なプラスチック熱硬化性樹脂を使い、ゴットワルドの構想を実現する2つの方法を記述した。その研究は幾つかの論文に掲載され、1981年11月に特許を取得したが、プロジェクトは全く注目を浴びることなく失敗に終わった。
だが、種はこのときに蒔かれた。電子機器/軍用機器メーカーのレイセオンは、粉末状の金属を使用してオブジェクトを積層する特許を1982年に出願。1984年、起業家のビル・マスターズ氏は「Computer Automated Manufacturing Process and System (コンピューター支援製造プロセスとシステム)」と名付けられたプロセスの特許を申請し、ここで3Dプリントという用語が初めて使われている。
3Dシステムズ SLA-1
こうした試みを経て、実際に3Dプリンターを初めて製作したのが発明家のチャック・ハル氏だ。自身の特許をベースとした、放射線、粒子、化学反応、レーザーを用いて感光性樹脂を硬化させる技術は、デジタルファイルから空間データを3Dプリンターの押出装置に送り、1層ずつ造形していくものだ。
1987年、ハル氏が設立した3Dシステムズが世界初の光造形 (SLA: Stereoleithographic apparatus) マシンであるSLA-1を発表。このマシンにより、積層方式による複雑なパーツを、従来と比較すると飛躍的な短時間で製作できるようになった。ハル氏はその後もこの技術に関する60件以上の特許を取得してラピッド プロトタイピングの草分け的存在となり、現在も使用されているSTLファイルフォーマットを発明している。
この時代には3Dプリントはまだ新興技術であり、材料科学も現在ほどは発達しておらず、一般的な樹脂を使用した製品では硬化時に反りが生じる傾向があった。この当時の3Dプリンターは数十万円もしたため、重工業のプラントにしか設置されておらず、消費者の手が届くものではなかった。
1999–2010年: 3Dプリント技術が見せた潜在力
コンピューターシステムが停止して、デジタル世紀末が訪れるという2000年問題が懸念される一方で、この時期には3Dプリント技術が多くの業界で大きな可能性を示すようになっていた。
生物工学も大きな進歩を遂げつつあった。ノースカロライナ州ウィンストン・セーラムのウェイク・フォレスト大学再生医療研究所 (Wake Forest Institute for Regenerative Medicine) の科学者たちは、アディティブ マニュファクチャリングを用いて人間の膀胱の構成要素をプリントし、その臓器を患者の細胞でコーティングすることで、3Dプリント製の膀胱に拒絶反応が起きないようにしている。
その後の10年で医療用3Dプリント技術がさまざまな進歩を遂げ、科学者、技術者、医師によりミニチュアの腎臓や複雑な義足、寄付されたヒトの細胞で生体工学を活用した初の人工血管が作られた。
RepRap 3Dプリンター
こうしたムーブメント、とりわけ民生用製品におけるムーブメントは、ICT分野を揺り動かすオープンソースの概念が大きな後押しとなった。2005年、エイドリアン・ボイヤー氏が率いるRepRap Projectは、自作できる、もしくは少なくとも大半のパーツをプリントできる3Dプリンターを製作する、オープンソースのイニシアチブを立ち上げた。
このRepRapの哲学を応用した初のマシンであるDarwin 1.0によって、突如として誰もが思い描いたものを何でも作れるパワーを手にすることになった。同時期に立ち上げられたKickstarterでのクラウドファンディングでさまざまなプロジェクトが展開され、家庭用3Dプリントはさらなる盛り上がりを見せる。製造の民主化が、急激な進化を見せたのだ。
MakerBot 3Dプリンター
2006年には、いよいよ商用3Dプリント技術がデスクトップに到達。Objet (現ストラタシス) のプリンターでは、ユーザーはデザインをデバイスに送信して、特性の異なる複数の材料を使ってプリントすることができた。
デザインの取引、共有、取得を行えるマーケットプレイスやバーチャル交換会がいたるところに出現し、大きな関心を集めようになった。2009年になって、ほぼ何でもデザイン、プリントできるオープンソースのDIYキットとともにMakerBotが登場すると、共同設立者のブレ・ペティス氏はスーパースターとなり、3Dプリントはソーシャルメディアやeコマース、Webそのものなど、過去の新興技術に匹敵する高評価を受けるようになった。
2011年–現在: 3Dプリントの全盛期
現在、アディティブ マニュファクチャリングは成熟した技術になった。MakerBotへの (時には狂乱的な) 傾倒が落ち着きを見せ、業界が適切な場所を見つけられるようになる一方で、2010年代には産業用プラットフォームに対する消費者の関心とその堅牢性が高まっていった。今後、従来のCNCやフライス加工での製造に代わってアディティブが主流になるとの見方もあり、ラックスリサーチの2021年のレポートでは、2030年までに3Dプリントの市場価値は6兆円規模になると予測されている。
プラスチック製の玩具が一掃された後には、プリントフードから、1回の押出工程で複合素材に対応できるプロセスの高速化とコスト削減まで、3Dプリントから提供される、ありとあらゆるメリットが現実世界に残された。
3Dプリントに使える材料の種類も飛躍的に増加しており、人体組織のバイオプリンティングや患者に合わせたオーダーメイド臓器、銀や金製の製品まで存在する。
その応用はまた、発明家や技術者の想像力次第で多岐にわたる。サザンプトン大学の研究者たちは世界初の3Dプリント製無人航空機を飛ばし、3Dプリント製自動車メーカーはガソリンと電気のハイブリッドエンジンで最大85km/Lを達成し、またエコロジカルな生活構造の構築を専門とするスタートアップ企業は火星生活に適したロボット製居住空間を開発している。
3Dプリントは、被災地での緊急避難所の建設や、開発途上国でのアフォーダブル住宅の建設に利用されている。またスマートロボット工学、マイクロ製造、関節肢設計を組み合わせることにより脳にフィードバックを送る自己発電型の人工装具も実現している。
大型構造体の製造向けのハイエンド3Dプリントの多くは粉末床溶融結合法を使用しており、粉末状のさまざまな材料をレーザーや熱を使用して融合させる。これは主に金属部品に使用されるプロセスだが、高価で、特殊な装置を必要とするため、重工業分野でなければ実行不可能だ。
3Dプリントを活用している業界
アディティブ マニュファクチャリングは、多くの業界で定着している。日常生活で3Dプリント製の部品が使われているものが意外と多いことに驚かされるかもしれない。
建設における3Dプリント
建設業界は無駄が多く、その実践に問題の多い、歴史ある巨大かつ確立された分野であり、温室効果ガス排出量の40%近くを占めている。壁などのセメント系製品、鉄筋などの金属部品を3Dプリントによるクリーンな方法で製造することで、これまでの常識を覆せる可能性がある。気候変動によって、こうした変化がより重要なものとなっている。
そのスピードも、3Dプリントを採用すべき大きな理由だ。2016年には、ある中国企業が2階建ての一軒家を45日間で3Dプリントしている。同年、Apis Corは37.2平米の住宅の構造を、わずか24時間で3Dプリント。アディティブ技術は、鉱山跡や被災地のような足場の悪い場所でも迅速かつ低コストで展開できる。材料の輸送には、燃料を消費してガスを排出するトラックでなく、プリンターが設置される現場で調達可能な材料を使用する研究が進められている。
建築における3Dプリント
3Dプリントが実現する建築分野での最大のメリットは明白だ。既にデザインは細部までデジタル化された形で存在しているため、ボタンをクリックすれば数時間後には会議室の机上に見事なモデルが出来上がり、クライアントや投資家に好印象を与えることができる。梁の交換、窓の向きの変更、新しい階を追加するといった修正も、図面を変更して同じことを繰り返すだけだ。
製品の設計・製造における3Dプリント
最終製品が生産される工場やその近くでプロトタイプを製作する必要がある場合、設計者と製造者が離れていると、製品開発のデザインやレビューで貴重な時間を費やすことになる。
3Dプリントを利用すれば、工場がどれほど遠くても問題ない。オフィスやガレージに設置した3Dプリンターで、必要な数だけ低コストかつ迅速にプロトタイプを作成でき、無数のデザイン変更にも対応できる。
3Dプリントは、過去30-40年間の製造業の中心地だけでなく、あらゆる地域や経済情勢で製造業を成立させられる可能性を秘めている。
多くの製造業のワークフローは、すでにアディティブ プロセスに移行するための手段を備えている。また、ジェネレーティブ デザインやデザインファイルの転送・再利用が容易になり、製品設計のタイムラインがさらに短縮されることで、プロトタイプ作成や生産がより迅速化したデジタルのスピードが実現する。
初期の民生用3Dプリンターも、陳腐化を少しでも減らすことで無駄を削減できると期待されていた。破損した古い掃除機の部品の生産が終了していても、デザインファイルがメーカーのウェブサイトに残っていれば、それをデスクトップ機器に送信し、YouTubeの動画で取り付け方を学ぶことができる。
3Dプリントの未来とは?
Statistaによると、世界のアディティブ マニュファクチャリング市場は、この技術の応用が増え、材料に金属を使用できるようになることで、2023年まで年率17%の成長が見込まれている。また、アディティブ マニュファクチャリングの製品やサービスの市場は、2020年から2026年までで約3倍になると予測されている。
航空宇宙、電子工学、医療分野の大きな成長
製造、建築、製品設計といった業界が 3Dプリントの恩恵を受けていることは間違いないが、最も大きな成長が期待されるのが電子工学、航空宇宙、医療業界だ。America Makesでアディティブ マニュファクチャリングのプロジェクトエンジニアを務めるトッド・スパージョン氏は、電子工学業界ではハイエンド製品用のカスタム ヒートシンクなどが登場し、また航空宇宙業界では超高性能の軍事用途から一般航空用途まで3Dプリント製部品がより多く利用されるようになるだろうと話す。医療業界では、医療向けにさらに多くの材料が評価されるようになり、保険会社でアディティブ マニュファクチャリングの認知が広がれば、パーソナライズド医療が当たり前になるだろう。
「画一的で高価な人工装具の時代は終わったのかもしれません」と、スパージョン氏。「近い将来、ユーザーにぴったりフィットするカスタム人工装具が、米国の一般家庭でも手にも届くものになるでしょう。成長期の子供でも利用できるようになるのです」。
新たな応用と3Dプリント可能な新材料
アディティブ マニュファクチャリングには、既存の技術以外にも多くの可能性が秘められている。スパージョン氏によると、DIW (直接インク書込み法)や高密度ペースト材料押出コミュニティで興味深い取り組みが行われているという。例えば複数の研究グループが、硬化した感光性樹脂をセラミックや熱硬化性樹脂などの先進材料システムと組み合わせる方法を検討中だ。これは最終的にプリント基板や低コストの熱交換器、非バルクのセラミックなどに使用できる可能性がある。
「この分野での進歩は、航空宇宙や自動車などハイエンド分野の応用や、水の淡水化など大規模生産プロセスへのアディティブ マニュファクチャリングの投入につながるかもしれません」とスパージョン氏は話す。この技術を他のアディティブ マニュファクチャリング手法と組み合わせると、例えば人工装具の機構内に組み込むプリント基板や、バッテリーの新しい形状など、さらに多くの可能性が浮かび上がる。
3Dプリント可能な材料のリストも拡大している。「耐火性超合金は、エネルギー、航空宇宙、防衛分野でのイノベーションを可能にします」と、スパージョン氏。「現在、連邦航空局 (FAA) が求める炎、煙、毒性のテストに適合しそうな高耐久性樹脂が開発されており、これは関連分野の維持費削減につながるでしょう」。
アディティブ マニュファクチャリングの新たな研究開発は進展を続けており、3Dプリントの未来は、3Dプリント製サングラスが必要なほど、眩しく光り輝いているようだ。
本記事は、 2014年9月に掲載された記事をアップデートしたものです。この記事にはダナ・ゴールドバーグも協力しています。