巨大なハイブリッド製造機械により3Dプリントが新たな高みへ到達
- ハイブリッド製造は、アディティブ マニュファクチャリングとサブトラクティブ マニュファクチャリングを単一の機械へと統合。
- LASIMM (Large-scale Additive Subtractive Integrated Modular Machine: 大規模アディティブ/サブトラクティブ統合型モジュール機械) は、大型の金属製建設資材を3Dプリントするために設計された。
- LASIMMの成功により、設計者はそれが他の材料でどう機能するのか、また建設以外の業界をどう変えられるのかを模索可能となった。
玩具サイズの3DプリンターをMaker Faireで目にするようになった10年ほど前の時点では、住宅1棟を丸ごとプリントするというアイデアの実現は、ずっと先の話のように思えた。だが2019年後半には、施工会社各社が3Dプリントによるコンクリート製小型住宅を集落単位で製造するようになった。3Dプリントが、より大きなスケールで機能するようになっているのは確実だが、都市建築や製造業向けの、大規模かつ複雑なコンポーネントを製造することは可能だろうか? 企業、大学、非営利団体で構成されたコンソーシアムが、それを証明しようとしている。
業界における商用の積層造形は、従来のフライスや鋳造、研磨加工では実現困難なものやコストの高い複雑な形状の製品、とりわけ急ぎで少量だけ必要とされるものに重点が置かれてきた。こうした製品は、通常はかなり小さなモノだ。だがグローバルに活動する建築/アーバニズム/デザイン事務所Foster + Partnersは、トラス構造用の全長5mの鉄骨のデザインとプランニングで、積層造形における規模の限界を打ち破ろうとしている。
ハイブリッドな製造機械の設計
このプロジェクトは、LASIMM (Large-scale Additive Subtractive Integrated Modular Machine: 大規模アディティブ/サブトラクティブ統合型モジュール機械) の極めて重要な概念実証となった。LASIMMとは、金属の積層と切削の機能を備えた巨大なハイブリッド製造機械で、開発者によると、このシステムにより製造時間とコストは20%削減され、アディティブ マニュファクチャリングの大量生産性は15%向上すると予測されている。
EUのHorizon 2020研究革新プログラムの資金援助を得ているLASIMMは、最大径2m、全長6 m、重量2,000kgまでの金属製建築部材と構造物を3Dプリントできるようデザインされている。Foster + PartnersはLASIMMプロジェクトに参加するパートナー企業10社のひとつであり、オートデスクがリード ソフトウェア プロバイダーを務めている。
航空宇宙関連企業のBAEシステムズとデンマークの風力発電機メーカーVESTASはLASIMMプロジェクト スタート時からのパートナーで、2019年のパイロットプログラムにおける実演デモ用製品の製造でFoster + Partnersに加わった。Foster + Partnersの目標は、未来の建物に組み込むための技術の可能性を示す、構造スチール製のカンチレバー トラス (片持ち梁) の製造だった。
Foster + PartnersのSpecialist Modeling Groupデザイン エンジニア、ジョッシュ・メイソン氏は「Foster + Partnersはこれまでも、建造物に使用される材料科学を前進させ、デザインの空間や性能特性の最も純粋な要件を理解する研究に投資してきました」と話す。
「構造上の体積を、より大きくコントロールする可能性を模索しています」と、メイソン氏。「通常はI形鋼や鋼板を扱いますが、その組み立てや切断、溶接には大変な労力が必要です。3Dプリントにより形状をコントロールできれば、照明やダクト、エアフロー、伝熱、音響を、その部材の構造内に直接組み込むことができます」。
デザイナー陣は、トラスの構造上の仕組みを示し、デザインにおける応力の流線を可視化したいと考えた。Foster + Partnersアソシエートのサミュエル・ウィルキンソン氏は「このトラスの上下の縁は先端に向かって徐々に細くなっており、その間にある梁は応力の流線に基づいて設計されています」と話す。「トラス内部の部材のレイアウトで、梁内部の張力と圧力をビジュアライズできます」。
LASIMMは、スペイン・パンプローナのプロジェクト パートナーでロボット工学関連企業、Loxinの施設に設置されている。この機械は、産業用ロボットアームと特殊フライス加工ロボットを組み合わせたモジュラー構造となっており、アディティブ マニュファクチャリング、機械加工 (切削作業)、計量、検査を実行できる。
ジェネレーティブなワークフローを活用して構造の拘束条件をテスト
このカンチレバーの積層構造プロセスは、鋼板にコンポーネントを層状に溶接することからスタート。チームはジェネレーティブ デザインのワークフローを活用し、拘束条件のセットをデザインの自動生成へと発展させた。梁の制約はかなりシンプルで、長さ5m、幅500mm、奥行き120mm、末端に向かって先細りになる形状 (50 mm) で、先端の点荷重は500kgだ。
チームが異なるサイズ (5mから2mの間でさまざまな選択肢がある) の梁を検証することで、多様なサイズでの使用可能性が示された。ジェネレーティブなワークフローは、そのデザインを別の形状やサイズにも適用させた。「内部構造や梁の奥行きには改善の余地がありました」と、メーソン氏。「ですが、社内研究で、面外座屈が主な構造上の制約となることが明らかになりました」。
座屈は、溶接プロセスによる熱が、金属を放物面のサドルのような形状、ポテトチップスのような形に歪ませた際に生じる。鋼板の熱変形のバランスを取るには、片方の面にプリントしたらひっくり返し、反対側に対象な形をプリントする必要がある。「何度も鋼板をひっくり返して新しい層をプリントします」と、ウィルキンソン氏。「大型の部品で、このプロセスに対称性が必要でした。このように、部品を元の板に相対する方向にすることが、大きな制約のひとつでした」。
材料研究の主な目的は性能の向上だった。「通常は、これほど細部まではデザインできません」と、メーソン氏。ツールの進行する経路を試行錯誤し、表面がどう変化するのかを確認する必要がありました。将来的には、これも指定できるようになるでしょう」。
Foster + Partnersチームは、このデザインに関して、比較的慎重な決断を行った。今後のプロジェクトの目標のひとつは、より多くの自由な形状を、より小さな鋼板上にプリントする手法を考案することだ。
LASIMMで探求するハイブリッド製造の可能性
中期的な目標は、LASIMMを実際の商業プロジェクトに応用することだ。「繰り返し使用されるコンポーネントを用いるような大型プロジェクトであれば、やはり鋳型を使用した方がコスト効率も高くなります」と、メーソン氏。「でもデザイン面では、唯一無二のものとなる可能性を追求する方が刺激的です。プロジェクトのコストを上げることなく、あらゆる部品をユニークなものにする、それこそが私たちの夢なのです」。
デザイナーたちはLASIMMが他の分野とどのように連携し、他の材料を組み合わせたり、木材、炭素繊維などで製造できるものを融合したりできるかの探求を計画している。「多くのメーカーがさまざまな目的でアディティブな建設を行っており、我々はそれを新しい技法と融合させ、材料をより効率的に使用することに関心を持っています」と、ウィルキンソン氏。「市販の材料を使用したり、型枠を使用してコンクリートを打ったりする場合も、必ず押出される材料の限界に制約を受けます。ある時点で、アディティブなプロセスの方が、コスト効率の優れた手段となるでしょう」。
このテクノロジーは、建築プロジェクトのサプライチェーンを一変させる可能性も持っている。LASIMMは巨大だが、その機能は、より小型でより携帯性に優れたコンポーネントや構造を使って再現可能だ。
だが、より望ましいシナリオは、ローカル市場にサービスを提供するために、小規模な製造組織のネットワークを世界的に確立することだろう。このアイデアを実用化するには、各組織が品質と再現性の世界基準を満たすことを証明できるような基準を設定する必要がある。こうした認定制度のデザインは、標準化された部品の複製製造の場合には比較的シンプルだ。だが、ジェネレーティブ デザインのアプローチを採用してひとつひとつ異なる部品を製造する場合、認定制度の制定はずっと複雑になる。「ジェネレーティブ プロセスが認定可能な部品のみを製造するような、新しい制約を導入することになるでしょう」。
本記事は2020年2月に掲載された原稿をアップデートしたものです。