インダストリー4.0をつなげるIIoT (インダストリアルIoT) の世界へようこそ
- 製造業におけるIoT (IIoT) は、あらゆるデバイスと機械、システムがパフォーマンスとオペレーションのデータを収集、報告、共有するという原則に基づいて機能する。
- 機能の自動化と相互運用性の実現には、設計プロセスの合理化、工場の円滑な稼働、現場の安全性の向上などのメリットがある。
- 接続されたデバイスが増えると、サイバー攻撃やマルウェアのリスクが高まる可能性がある。現在は形成期にあるIIoTが、より広く採用されることで、この分野における標準が確立され、技術革新が進むだろう。
- IIoTは今後も業界の生産性向上に重要な役割を果たすだろう。現時点で行動を起こす企業は、自社の運用とシステム、工場を未来に備えたものにできる。
インターネットは、クラウド時代になってようやく本領を発揮している。単に画面上にWebページを表示するのでなく、インターネットはデジタル サービスやプラットフォームをつなぐ基盤を形成し、人々がより簡単にモノの創造や購入、共有、評価を行えるようにするものなのだ。
同様にIoTも最もインパクトを持ち得る形へと進化している。だが2016年の時点で消費者はこれ以上のデバイスを欲していないとする報告書もあり、あらゆるデバイスが互いに会話するようなIoTユートピアは実現しないのかもしれない。
その代わりに、IoTが本領を発揮するのは産業界だろう。IoTはインダストリー4.0の重要な要素になりつつあり、既に製造や物流、建設などの企業がアナリティクスやビッグデータ、デジタル ツインなどの拡張ツールセットを採用している。
IIoT、インダストリアルIoTの時代の到来だ。
IIoT (インダストリアルIoT) が意味するものは?
IIoTは、動作中のデバイスや機械、システムそれぞれがパフォーマンス・データの収集、報告、共有を行うという原則に基づくもので、そこには出力、入力、速度、負荷、メンテナンス状況、販売、位置のデータをはじめ、各コンポーネントに適用される全てが含まれる。
工場のコンベヤーのベルト、顧客関係管理プラットフォームのデータベースのサイズ、原子炉の炉心温度などに関するデータの全てが、明日の労働力にとって重要なものとなる。
IIoT環境は、幾つかのレイヤーにより構成されている:
コンテンツ
コンピューターやモバイルの画面からARブラス、VRまで、あらゆるインターフェース。
サービス
IIoTデータを収集し、それを運用に関するインサイトへ変換するアプリとソフトウェア。
ネットワーク
物理的に接続された工場フロアのツールから現場からのモバイルデータまで、情報の送信すに使われるプロトコルとデバイス。
デバイス
CNCフライスや3Dプリンターから生産ラインのロボット、輸送・梱包機器まで、組織内でレポートを行うハードウェアを指す。
既にさまざまなIIoT機器が波及している。オフィスビルを改修する建築家を想像してみよう。ビル内のセンサーから得られるライブ・データは、通行や照明、空調の使用状況を検知し、それをBIMモデルとデジタル ツインへ継続的に流し込むことができるので、改修要件がリアルタイムで更新される。
製造業では、生産ラインのアセットに取り付けられたセンサーが異常な振動をメンテナンス・データベースに報告することで、ラインや工場全体が停止するよりずっと前の段階で、故障部品を修理・交換するよう迅速に特定できる。
石油やガスの分野では、価格や需要の市場変動がビジネスリスク指標へダイレクトに反映され、ドリルやトラックへ対応や能力の調整をリアルタイムで指示可能となる。
IIoTとIoTの違いとは?
開発者がWebサイトの本稼動前にサブドメインや実験サーバーでテストするように、家庭用市場はIIoTの非公式な実験場となっている。
複数デバイスが単一ドメインでシームレスな通信を行うという原則は、家庭用IoTでも同様だ。産業分野での違いは、デバイスの種類とそれをドライブするシステム、デバイスが報告するシステムと、規模の大きさが異なる。
コンシューマー向けIoTは、デバイスメーカーやシステムメーカーが早い段階で、かつ頻繁に失敗する場となる。そのプラットフォームやツールが産業分野に到達した段階では最初から機能する必要があり、そうでなければ土俵に上れないのだ。
IIoTの仕組み
IIoTが実際にはどのように機能するかを理解するため、幾つかの実例を見てみよう。
Rachioのスマート芝生散水システムは、現在と将来の天気予報からデータを取得し、散水のタイミングと量を自動的に理解する。これをゴルフコースやオフィスパークに拡大すれば、土壌の質や傾斜、日照、天候などの条件に応じて、植物や芝生に最適な水やりができるため、水の使用量に大きな影響を与えることができる。
各業界から、より広範な例を紹介しよう:
製造業
重工業におけるIIoTの現時点での前進拠点は、メンテナンスコストの削減だ。製造業の複雑な生産ラインでは、従来はスケジュールに従って部品交換が行われており、ワークフローの部品は想定寿命に達すると取り出され、交換される。その部品が検査により、もっと長持ちすることが判明したとしても、企業は新しい部品の購入費用を負担する。ベルトを流れてくる製品を止めないよう、一種の保険を払うようなものだ。
だが全ての旋盤や電源装置、多関節エフェクターにセンサーを取り付けることで予防保全は変わり、各工具に許容可能な性能パラメータを設定できる。IIoTデータがそれを常に報告し、何かの温度が上がりすぎたり、摩耗しすぎたり、電力を使いすぎたり、十分に正確に狙いを定めていなかったりすると、自動化された警告が発せられる。
コスト削減には2つの方法がある。まずはメーカーが、まだ長く使える可能性のあるものを単にスケジュールに従って廃棄するのではなく、デバイスの全寿命を活用することだ。また、問題の起きた部品を一時的にバイパスできるようワークフローを設計すれば、部品交換のためのダウンタイムを最小限に抑え、フル稼働を維持することができる。
建設
建設業界では、IIoTはスタッフや資産のトラッキングに有用だ。企業が複数の現場を同時に管理しており、そのキャパシティに資材の供給や天候、スタッフの稼働状況が影響する場合、車両やユニフォームにトラッカーを貼り付けることで、すべての場所と全員の位置を一目で把握可能となる。
米国の建設現場では、毎年3億ドルから10億ドル相当の機材が盗難に遭っている。IIoTに接続された資産であれば、被害を受けた場合にも、その追跡はずっと容易になるだろう。
建設業では労働者の安全も大きな問題であり、産業別の事故や死亡者の数では、ほぼ最大レベルだ。IIoTのデータで、特定のエリアで負傷が多発していると報告された場合は、詳しく調査することで理由が明らかになる可能性がある。
エンジニアリング
部品やコンポーネント、デバイスの設計にジェネレーティブ デザインなど精密な3D設計を実施することで、より効率的でコスト効率の高いものにできる。
例えば、プロトタイプ設計の3Dファイルを、3Dプリンターに送ることが可能となる。テスト後、そのスペックを3Dプリントプロセスからデジタルファイルへ戻し、更新した上で本生産に送る準備ができる。
IIoTのメリット
システムをコネクトすることで、数多くのビジネス上のメリットが生まれる。
柔軟性の向上
他のプラットフォームや機械と接続するように設計されていない古いシステムやレガシーシステムは、改造や再プログラムに非常にコストがかかります。IIoTツールは、カスタマイズが容易で、どのようなワークフローにも最小限の混乱で導入できるように構築されています。
見える化の向上
原材料から小売のパッケージまで、あらゆるものにセンサーやトランスミッターを取り付けることで、サプライチェーン全体の資産を、より詳細に把握できる。
こうしたインサイトにより、市場の状況へ即座に反応することが可能だ。原材料が不足している場合、大きな経済的打撃を受けないよう、代替品を探したり、供給を控えたりすることができる。また、有名人が特定の製品を気に入っているとツイートしているのを見かけたら、メーカーは即座に生産を拡大し、新たな需要を満たすことも可能だ。
より良い情報
工場フロアでのデバイスのパフォーマンス、特定の商品に関する販売やオンライン上のチャットなど、生産・製造・流通のあらゆるポイントでシグナルの収集、照合が可能。これら全てをIIoTを使って効果的にまとめることで、ビジネスを即座に、継続的に、マクロ的に把握できる。
拡張性の向上
迅速な変化が可能であるIIoTにより、製造業が自社のビジネスやセクターの動きに合わせたスピードで革新と成長を追求し、需要曲線を先取り可能となる。また、稼働中の生産環境を中断せずに規模の拡大ができる。IIoTの原則が組み込まれた新しいシステムとプラットフォームでは、生産やワークフローをシームレスかつ迅速にシフト可能だ。
品質管理の向上
IIoTデバイスは、自身のパフォーマンスをレポートし、アウトプット品質を監視・追跡できる。
安全性の向上
石油やガスを監視するためにIIoTへコネクトされたデバイスは、漏れや高圧のレポートが可能。製造業においては、管理者はコネクトされたデバイスで潜在的に危険な機器と作業員の位置関係を全体的に把握でき、VRやロボットの遠隔操作により危険のない場所で作業が行える。
IIoTのセキュリティ
IIoTは有望だが、そのずさんな導入は災いをもたらす可能性がある。一般的なインターネットがそうであるように、システム間の接続性が高まるということは、悪意のある行為者やサイバー脅威の侵入口が増えることを意味する。
IIoT環境の規模が大きくなれば、それだけ接続されるデバイスやデータベース、ソフトウェアが増え、脅威のプロファイルも増大する。ビジネスネットワーク全体の強度は、その最も弱い部分と同じであり、ひとつでも攻撃ベクトルがあればDDoS攻撃のような手法で業務を麻痺させることができる。そうした問題の発見と軽減にはコストがかかるだけでなく、業務がオフラインになっている間の利益も失われてしまう。
IIoTの展開において最も脆弱な攻撃対象には、以下のようなものがある。
Webインターフェース
サプライチェーン全体からスタッフやパートナーがIIoTデータにアクセスする場合は、誰がいつ、何にアクセスし、その許可を受けているかを確認するクレデンシャル管理が重要だ。またパスワード管理も非常に重要で、セッションやタイムアウトの管理でループを閉じることができる。
ネットワーク セキュリティ プロトコル
「ハッカーは家の外で、車の中からWi-Fiを使う」という例えは、製造業や建設業にも当てはまる。オープンポートやその他のネットワークの脆弱性により、サイバー脅威者のネットワークやドメイン・レイヤーでのオペレーションへのアクセスを可能にする可能性がある。
暗号化
コネクトされた今日のサプライチェーンの世界では、IIoTネットワークを通じて転送されるデータが企業組織の境界内に留まらない可能性があるため、データ生成を行う前に、強力なエンドツーエンドの暗号化標準を適用する必要がある。
モバイル アクセス
IIoTが導入された職場では、個人所有のデバイスを使用することで「クラウド・クリープ」の問題が増加しつつある。オペレーターがサードパーティのサービスを通じてファイルを送信すると、組織のドメインにとって重要なデータが、あらゆる場所に存在する可能性が出てくる。また、脆弱性がある従業員のアプリが、ネットワーク全体へのサイバー脅威に新たなバックドアを与える可能性がある。
IIoTの未来
IIoTはその形成期にあり、より広く採用されることで、この分野における標準的な慣行が確立され、技術革新が進むだろう。今後の最も重要なトレンドには以下のようなものがある。
デジタル ツインの台頭
完全にデータドリブンなワークフローにより、オペレーションとその中のすべてのものの正確なデジタル表現、つまりデジタル ツインを簡単に構築できる。
デジタル ツインは、ワークフローの変更をプロトタイプ化し、シミュレーションでテストするなど、さまざまな機能を提供する。また、オペレーターがVRやモバイルのようなテクノロジーを使い、世界のどこからでもコンポーネントを操作できるようになる。
クラウド インサイト
IIoTはビッグデータの一面である。出力や結果に関する情報を競合他社や業界団体と共有することは、当初は直感に反することかもしれない。だが全ての情報をクラウド上で組み合わせることで、業界がどこに向かっており、何が必要なのかを、必要な人は誰でも、より明確に把握できるようになる。
貿易協定、政府の産業政策、温室効果ガス排出量や持続可能性に関する測定は、どれもより正確な情報で共有されるものとなる。
拡大する脅威への直面
サイバーセキュリティがかつての重要分野だと考える人もいるが、まだ始まったばかりだ。ドメインに接続するすべてのデバイスやインターフェースが、新たな脆弱性の可能性を秘めている。セキュリティをIIoTのDNAに組み込むことが、次のサイバー時代における最大の技術科学となるだろう。
学習する機械
レガシー・システムはブラックボックスだが、それが相互運用性のために構築されたスマート・アプリケーションやプラットフォームに徐々に取って代わられる中で、それらが適切に統合されていることを確認するシステムの必要性が高まるだろう。
AIの登場により、ワークフローがインテリジェントに実行され、プロセスが生成するすべてのシグナルとデータがそこに取り込まれる。それを使用して、特にロボットを使う施設では、人間が関与することなくプロセスのさらなる合理化と改善が行われる。
アディティブ マニュファクチャリング: 付加価値の向上
工業分野で始まったアディティブ マニュファクチャリングは、10年前当時の消費者領域から離れ、最も価値を提供できる場所に戻ってきた。アディティブ マニュファクチャリングにより、製品やワークフロー部品のプロトタイピングは、より安くて速く、より持続可能なものとなる。そして、データは双方向に行き来し、プロセス・ツールは最良の結果を提案し、プロセスは順次、より良い作業方法を通知する。
IIoTの落とし穴を避ける
コンシューマー向けIoTアプリケーションには、まだ長い道のりがある。産業界に対応するためには、これらのアプリケーションは、これまでの開発に影響を与えてきたバランスの悪い最小実行可能製品 (MVP) の実装を超える必要がある。
150の接続デバイス、18の異なるシステム、5つの異なるネットワークを想像してみよう。そして、コンシューマー向けIoTの試験場と化した大きな家を思い浮かべてほしい。例えば、マルウェアから他のデバイスを保護するIoTセキュリティ デバイスがネットワーク上の比較的少数のデバイスにさえ対処できなかった場合、この構成から多くの問題が生じる可能性がある。トラブルシューティングの手間となり、最終的にはシステムの失敗につながる。
これをデータセンターの冷却管理システムのように数百、数千というセンサーやアクチュエーターを配置する必要があるような、より複雑なセットアップに実装することを想像してみてほしい。産業環境では、これらすべてのデバイスと相互接続のための継続的なトリアージと管理は許されない。ただ機能する必要があるのだ。
IoTが産業界に付加価値をもたらすには、以下が必要だ:
明確な価値提案
コンシューマー向けIoTアプリケーションの多くは、クールだが不必要なものであり、何がテクノロジーで可能かを示してはいるが、人間の真のニーズには対応していない。セキュリティ、省エネルギー、健康などのためのものには、その設置やメンテナンス、トラブルシューティングに必要な時間や注力などのコストを上回るメリットが必要だ。
総合的な製品開発
最小性 (な製品の機能) に重点を置きすぎ、その実行可能性を軽んじた最小実行可能製品が、あまりにも多くの第一世代IoT製品へ影響を与えてしまったが、それはIIoTにとっては良いことではなかったのだ。
本記事は2016年3月に掲載された原稿をアップデートしたものです。