製造業における産業用ロボットとは自動化され、プログラム可能な機械であり、対象物やワークフローに対してピックアンドプレース、溶接、接着、検査など一連のアクションによる産業タスクを実行する。
こうした動作は少品種多量生産の際に不特定多数のユニットで繰り返されるが、ロボットは飽きたり疲れたりしないため、すべての動作を最初の動作同様に精密かつ正確に行う。また、インテリジェントなソフトウェアとカメラやレーザーなどのセンサーを使って動作を調整し、毎回わずかに異なる作業を行うような多品種少量生産にも産業用ロボットは利用されている。
一般的に使用されている産業用ロボットには、以下のような種類がある。
スカラ (Selective Compliance Assembly Robot Arm) とも呼ばれる、水平方向の動作と上下方向の動作アームで構成された産業用ロボット。4軸構成では先端部が回転することで動作の自由度が高い。
スカラロボットは非常に高速・高精度で、電子機器や食品などの製造業界におけるピックアンドプレース用途によく使用される。
円筒座標型ロボットは、ベースから伸び回転する単体または多関節のアームを持ち、そのエフェクターの到達範囲内にあるフィールド全体にアクセスしてタスクを実行する。
地面やコンベアから何かを拾い上げ、その場で回転させて別の場所に置くロボットを見たことがあるなら、それはおそらく円筒型ロボットだ。
ギリシャ文字に形状が似ていることから名付けられたデルタロボットのアームは下向きで、エフェクターで収束する逆三角形のような形をしている。作業エリアの上に吊り下げられ、エフェクターで下の構造物や面にアクセスする。
より大型の産業用ロボットほど強度のないデルタロボットは、食品や医薬品の梱包など、重い部品を使用しない小型、軽量、精密なピックアンドプレース作業により適している。
プログラムされた動作により高速移動を行う大型ロボットは、周囲にいる人々への安全リスクを内在している。こうしたリスクに対処するため、コボット (協働ロボット) は人間の作業者と共に作業するよう設計されている。
コボットは、深刻な損害やケガを引き起こすことのないよう一定のサイズや速度に制限されている場合が多いが、プログラミング次第で人間がロボットと接触した際に強制停止させることも可能だ。そのため、難しい問題に取り組むようロボットを訓練するAIの学習にも適している。
産業用モバイルロボットは、工場や倉庫での資材の移動に使われる車輪付きのロボットベースだ。一部のロボットは床に埋め込まれたワイヤーを使って指定された経路をたどる (AGV: 無人搬送車とも呼ばれる) が、最近の進歩によって、より自由に動けるようになっている。自律移動ロボット (AMR) は建物の地図を把握し、部品を自律的に搬送できる。AMRはカメラやレーザーなどのセンサーを使用し、障害があれば安全に停止する。
AIは他の無数の分野同様、産業用ロボットにも多大な影響を及ぼしている。旧世代のロボットは、プログラムされ、起動した後は、ある意味で忘れられた存在になっていた。人間がワークフローを設計し、そのステーションが配置されると、そこに材料が到着するたびに、ロボットがプロセスの一部を繰り返し実行する。
現在、メーカー各社は工程において、産業用ロボットにより広い業務を与えようとしている。学習データが十分にあれば、ロボットはより多くのタスクを自ら実行でき、機械学習を応用して、そのスキルセットをこれまでにない状況や変化する環境にまで拡大できる。他のプロセスから提供されるトレーニングデータと自身の過去の実績により、人間が入力しなくても常にオペレーションを効率化できる。
3D設計や3Dプリントなどのデジタル技術により、産業用ロボットはさらに小規模な企業や事業にも利用され始めている。こうした民主化によって分野は拡大し、より俊敏なプレーヤーによる革新が促されることで、全体的なパフォーマンスと普及率が向上するだろう。
ロボットはIIoT (インダストリアルIoT) の要素でもあり、この分野は2030年まで年率23%の成長が見込まれている。産業用ロボットが (他の無数の物理的プロセスや測定とともに)、AIトレーニングデータとして使用される、より大規模なデータセットなどと密接につながると、産業用ロボットのエコシステムのセキュリティ確保が、さらに重要になる。
世界中の企業や組織が、産業用ロボットがもたらすさまざまなメリットを活用している。
建物は基本的にオーダーメイドであり、同じレンガ積み作業が繰り返されることはないので、建設のこうした部分は、デジタル時代に入ってかなり経つ今もなお手作業で行われている。
だがオーストラリアの建設会社FBRは、レンガ積みが実はロボットに最適な作業だと気づいた。建築計画を3Dでデジタルで表現すれば、コンピューターは次のレンガを積むべき場所を正確に把握でき、こうしたタスクはロボットの方が人間よりずっと正確に行える。
そしてFBRは自律的にレンガを積むピックアンドプレースロボット、HadrianXを開発した。これによりプロセスは迅速化し、またプロジェクトマネージャーは施工の基礎となるデータによって必要なレンガの数と接着剤の量を正確に把握できるため、無駄を省けるようになった。くことができる。
ロボットがモノを作る典型的なケースが、何十万もの玩具や自動車、コンピューターを生産する工場ラインだ。精度が要求されるより小規模な市場は、ロボットには課題が多い場合もある。生産量がはるかに少なく、頻繁に改良が行われると、設計者はロボットをゼロから再プログラミングする必要があるためだ。
これこそ、デンマークの風力タービン翼メーカーOdicoが直面していた課題だった。12tの風車の翼をタービンに取り付けるには、接続装置の配置や角度、引張強度、奥行きに細心の精度が要求される。Odicoが開発したロボットDrill Mateは精密なパターンを繰り返し穿孔し、たとえ設計がゼロから変更されても、使用した厳密なパラメーターを保持して再配置する。
産業用ロボットの利点の一部は、50年以上もほとんど変わっておらず、退屈で、危険で、汚い仕事を人間よりも上手に、速く、安定してこなすことができる。だが自動化により、その利点は現在、増大している。
ロボットやAIが人々の仕事を奪うという悲観論に反して、産業用ロボットは同じリソース (人間とモノの両方) を用いて、より多くのものをより速く、より良く生産するのに役立っている。こうした自動化の進展によって人間の労働者は指揮系統の上位へと移動し、クリエイティブなフリート管理のポジションに就くようになる。
精密な産業用ロボットの使用が拡大することで、製品の一貫性と品質も向上する。産業用ロボットはこれまで以上に細かく精密な作業を行えるようになることが予想され、またジェネレーティブ デザインのようなツールと組み合わせることで、設計はより堅牢で耐久性に優れ、より高い性能を発揮するようになるだろう。
人々がロボットと一緒に働くことが増えれば、コラボレーションが機械学習のためのデータセットとなり、パフォーマンスを継続的に向上させることができる。これによってさらに良好な成果が得られ、作業員の安全を最優先した、より確実な工程内連携のスタイルが実現する。
自動化の効果は、パンデミックがグローバル社会をその方向へ押しやる前にも数字に現れており、スマートマニュファクチャリングの要素 (その極めて重要な一部が産業用ロボット) は、かなりのコスト削減を可能にしてきた。2019年の調査によると、スマートマニュファクチャリング技術により生産高は10%、生産能力使用率は11%、労働生産性は12%向上している。こうした増加は、結果として企業の収益向上につながる。
産業用ロボットは、IIoTの一部として膨大なデータセットを生成、収集する。あらゆるコンポーネント、あらゆるプロセスのあらゆる手順の性能とステータスをデジタルで示せるようになれば、分析ツールを応用し、そのデータに複数のストーリーを語らせることができる。これによって機械の性能や、技術への投資対効果が得られているかどうか、修理や交換が必要な工具など、多くのことが明らかになる。このデータをサプライヤーや販売システムなど他領域のデータとつなぐことで、企業の市場位置を正確に、常に更新された形で把握できる。
かつての製造や建設労働者は、油や木くずにまみれ、ペンキや油の臭いがして、この分野特有のケガや病気に苦しんでいた。自動化されたワークフローにおける産業用ロボットは多くの場合、人間の仕事をこうした危険な役割から、労働者のノウハウとAIが提供できる可視化された分析を結びつける新たなポジションへシフトできる。人間の労働者は困難な業務を行うロボットのワークフローを設計、実装、管理するようになり、創造性と経験をビジネスの向上に活用する。
数多くの利点がある一方、ロボットは高価であり、ワークフローへの導入も容易ではない。また産業用ロボットへの間違った思い込みにより、余計なコストがかかることもある。企業には以下のような、よくある落とし穴が存在している。
ショールームで示されるロボットの価格には、統合管理やワークフローへの適切な配置のためのツールは含まれていないことが多い。
また自社のラインやサプライヤーの基準を少し変えることで、将来を見据えた対策が必要となる、隠された部分が姿を現すこともある。新しいソフトウェアやエフェクター以上のものが必要になり、変更作業による中断で収益が失われる可能性もあるのだ。
産業用ロボットメーカーのほぼすべてが標準規格を自社設定しており、それはそのメーカーが展開している分野にしか適合しないことが多い。効率やパフォーマンスをレポートする分析ツールや、既存のハードウェアに適合しないエフェクターのための代替品など、目に見えないコストがさらにかかる可能性がある。
ロボットは孤立した状態で動作するわけではなく、またプロセスを強化するサービスやアップグレードが無料提供されることはまずない。最終的には経費節減になるが、ロボット稼働のエネルギーコストを考慮しても、コスト回収は長期投資となる。
ロボットはさまざまなメリットをもたらすが、その順応性は、製造における (人間など) 他の動作主体ほどは高くない。新しい製品やワークフローシフトを導入する場合、人間であれば何が変わったのかを知るだけで事足りる。ロボットには再プログラミングや再構築が必要で、それには時間や専門知識、費用がかかる。ロボットが工程に不可欠なものであれば、それだけ再プログラミングにかかる費用と遅延は大きくなる。
産業用ロボットは「一度プログラムを組めば終わり」というモデルから脱却しつつある。社内の他のシステムやデバイス、プラットフォーム、場合によってはサプライチェーン全体と接続できるため、ロボットの目標はデータを利用して自律することとなっている。
ロボットは、将来的にはその内部を監視する信号の読み取りから販売やマーケティングのデータまで、ネットワーク全体から得られる情報の利用とそれに基づいた意思決定を行い、より良いパフォーマンスを発揮するために自ら変更を指示できるようになるだろう。その結果、人間の管理者は各機器やツールをプログラムせず、概念レベルで事業目標を生み出せるようになる。
継続的に更新されるライブトレーニングデータを使用するアルゴリズムは、ダウンタイムの削減や、故障や渋滞が生じる前の管理者への警告発信、コンピュータービジョンを使った人間のテスターよりもずっと詳細な検査による欠陥の発見などを実現するだろう。
工場オーナーやプロジェクトマネージャーは、ワークフローをデジタルモデル化し、ライブデータで常に更新される正確なデジタルツインを作成できる。機械学習は、ソフトウェア、接続性、ワークフロー要素の物理的な位置などへの改善を提案できる。
AIは、プロジェクトが始まる前ですら、完璧なワークフローのモデル化に役立つ。ジェネレーティブ デザインとは、性能に関するパラメーターを人間の設計者や管理者がアルゴリズムに入力し、その基準を満たす複数のデザインを生成するよう求める方法論だ。
産業用ロボットはIIoT (インダストリアルIoT) の極めて重要な一部分であり、物理的に生産された成果物と、それがどのように機能しているかを調査する最良の機会を提供する。
産業用ロボットはツールや製品、トポロジーの生産、仕上げ、動作、パッケージングを行っているが、今後は顧客が期待するものをどう提供するかに関するデータを提供可能になるだろう。そのデータは組織のIIoTランドスケープにフィードバックされ、全社的なデバイスやシステムから信号を読み取って、すべてのプロセスや部門の状況が俯瞰的に示される。
IIoTは、ロボット工学全体も向上させている。産業用ロボットシステムは、ベルトコンベアからラインを流れてくる製品までシステム内のあらゆるものの測定値を取り、それ自体の測定値の収集・合成が可能だ。つまり、そのプロセス全体やロボット自身のオペレーションの生産性に関する知見を提供できるということだ。
これは市場への製品の過剰供給を示す予測データから、生産速度を落とすよう促すもの、あるいはロボットが「2次ベルトが少し磨耗してきています。次のダウンタイムの間に交換しては?」といった通知を送るものまで、あらゆることが考えられる。
デジタル技術がもたらす自動化は、製造のあらゆる段階に影響を与えている。
その一例がラピッド プロトタイピングだ。ジェネレーティブ デザインとアディティブ マニュファクチャリングで実現するこの方法論は、グローバル規模の製造多国籍企業にも、スタートアップや中小企業にも適用できる。
デバイス、ツール、コンポーネントの基礎となるトポロジー (またはその一部) の概念化のコストは、それを実行するための演算能力をわずかに上回る。ジェネレーティブ デザインにより、プロジェクト マネージャーは多数のイテレーション候補から選択を行える。
実世界の条件下での設計テストは、デジタルファイルを3Dプリンターに送り、また管理者が必要な性能基準に対してテスト可能なプロトタイプを作成するだけの簡単なものになっており、必要であれば基準ごとに異なる構成にすることさえ可能だ。
ここでIIoTの力を再度利用することで、満たすべき指標に応じてデジタル設計を微調整できる。生産準備が完了すれば、このファイルをワークフロー全体に渡るSSOT (信頼できる唯一の情報源) として産業用ロボット環境へ送信し、プロトタイプ作成で意図された通り、正確に作成できる。
産業用ロボットの未来は、一言で表せば「自動化」だ。
ロボットは、特にAIの時代には継続的に自らのパフォーマンスを報告し、問題を修正し、効率性を見出すデータランドスケープの一部として、よりオペレーティングエコシステムにつながったものになる。ロボットとそれを動かすアルゴリズムは、ビジネス目標に対応し、サプライチェーン全体から入ってくるデータからより多くの情報を得ることで、システム内での地位を確立していくだろう。
未来の製造や工場の労働者は、これまでとは違った役割を担うことになる。ロボットの作業手法や工場のワークフローにおけるロボットの位置づけについての経験が必要となるだろう。だが人間が新しい製造機能を設計・構築する (あるいは既存の機能を再利用する) 場合、彼らは単なる機械工やオペレーターではなく、定義としては管理者となるのだ。
人間はクリエイティブな問題解決の能力により、産業用ロボットとそれにつながる技術が成すべきことの全体像の設計と制御、アウトライン作成を行う。今後求められるヒューマンスキルは、技術や身体的なものだけではない。工場労働者はシステムエンジニアや管理者となり、データ分析やアルゴリズム言語を理解する必要が出てくる。また経営者や事業主は適切なトレーニングに今投資して今後の世界に備えなければ取り残される可能性がある。
本記事は2018年9月に掲載された記事をアップデートしたものです。協力: マーク・スミス
成長の過程で世界を変えたいと考えていたドリュー・ターニーは、やがて他の人がどう世界を変えているかについて書くほうが簡単だと理解しました。現在はテクノロジーや映画、科学、書籍などの著述を行なっています。
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