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製造業界における産業用ロボットの利点、欠点、不穏な点

産業 ロボット
  • 産業用ロボットは汚く、危険で、単調な製造業務や、ロボットでしか実現不可能な精度を要する業務に最適だ。
  • 自動組立ラインからリンゴの正確な収穫まで、あらゆる用途に対応可能な産業用ロボットが存在している。
  • ロボットは生産性や安全性を継続的に向上させる一方で、保守やシステム互換性の問題により予期せぬコストが発生することもある。

製造業で産業用ロボットが使用されるのは、Dirty (汚い)、Dangerous (危険な)、Dull (単調) という3つのDが理由だとされている。ネガティブな理由にも見えるがロボットには最適な作業形態であり、工業化が進むほど、ロボットは製造業でさらに重要な存在になるだろう。

4つ目のDとしてDetailed (精密性) も加えられるかもしれない。一貫したデザインを大量生産する精密製造は、疲れず退屈もせずに精密な動作を繰り返し行えるロボットでなければ実現不可能だ。

自動化 vs. ロボット

ロボットと自動化が密接な関係にあると考えるのは当然であり、クロスオーバーする部分は多いが、同じものではない。

自動化とは、人間の手で行われる作業を、ソフトウェアや機器、技術を活用して実行することを指す。作業に必要なファイルやアセットを適切な部署やスタッフへ自動的に届けられるよう、トラフィック管理を行うエンジンを想像すると良いだろう。

産業ロボット 工場 フロア
工場から農場まで、産業用ロボットが応用される場所や場面はどんどん広がっている

ロボットとは、センサーやアクチュエーターを用いて世界とやりとりし、自律的または半自律的に動作を実行する機械であり、大抵の場合は毎回まったく同じ動作を行う。

ロボットは多目的に使用可能だ。駆動するソフトウェアは再プログラム可能で、例えばマグネットグリッパーを吸引キャップや溶接トーチに付け替えるなど、連結部や可動部に異なるロボットハンド(エンドエフェクタとも呼ばれる)を装着して、さまざまなタスクを実行できる。

自動化とロボットをどのように組み合わせるにせよ、どちらもインダストリー4.0時代を象徴するものであり、物理世界とデジタル世界との境界を曖昧なものにして、組み込み接続性とマルチユースを実現する。

産業用ロボットの種類

ここで、一般的なロボットの種類とその機能について簡単に紹介しよう。

1. リニアロボット

組立ラインのように反復的かつ高精度な作業では、リニアロボットは通常、製品がそのエリアに入ってくると、そのパズルのピースを付け加えていく。

リニアロボットは、人間の膝や肘のように、少数の軸が一つの動作面に沿って直線的に往復運動するロボットだ。これが他の関節(手首や肩など)と組み合わされ、数軸によって単純な動きを行うことができる。回転軸を持たないリニアロボットは、自動化作業に最も適している。

2. 水平多関節ロボット

SCARA (Selective Compliance Assembly Robot Arm: 選択的柔軟性組み立てロボットアーム) は平行軸関節構造で、X-Y軸にはわずかにコンプライアンスがあり、Z軸には剛性がある(そのため「選択的」と呼ばれる)。SCARAの2リンク構造は人間の腕関節を模倣したもので、作業後は邪魔にならないよう格納または折りたたみができる独自の機能を備えている。

手が届かないところのネジを締めたり、倉庫でモノを大量に積み上げたり、難破船の周りを漂いながら慎重に割れ目を開いてモノを動かしたりするロボットを想像すると良いだろう。

3. 垂直多関節ロボット

垂直多関節ロボットは、SCARA型から一歩進んだ、複数の関節と可動面を持つロボットだ。単純に言えば、垂直多関節ロボットのアームには3つの硬いリンクの間に2つの関節があり、どの方向にも動くようになっている。SCARAには球体ロボットもあり、通常は1つの直動関節と2つの回転関節を持ち、球状の作業領域を持つ。

一方、一般的にイメージされる人間型ロボットはその典型例だ。人間のように動き、振る舞うには、考え得るあらゆる種類(旋回、蝶番、玉継ぎなど)の複数の垂直多関節が必要となるからだ。

だが、人型ロボットという助っ人の時代が到来するまで、垂直多関節ロボットは、溶接、材料加工、組立、ピックアンドプレース、梱包、システム充填など、数え切れないほどの用途に役立つ。

産業ロボット
人間離れした精度が要求される仕事では産業用ロボットの方が効率に優れている

4. 円筒座標型ロボット

円筒座標型ロボットは、回転するベースや台座の上に立ち、アームアタッチメントが本体の周りで上下に動き、内外へと伸縮する。しばしば「プリズム型」連結と呼ばれる。

空港にあるバゲージラッピングの機械を思い浮かべてほしい。アームアタッチメントが本体を上下しながらプラスチックフィルムを貼り付け、スーツケースを完全に包み込む。工場では、円筒座標型ロボットはコンベアやステーションから何かを持ち上げて回転させ、別のステーションに下ろすのに使用される。

5. デルタロボット

産業用ロボットでは珍しく、作業エリアの上部に配置されるデルタロボットは、逆三角形のギリシャ文字に似ていることからその名が付いた。

動力&駆動装置には3本のアームがあり、一般に想像される大型で重い産業用ロボットよりもはるかに繊細なものが多く、 (質量が軽いため) 精密かつスピーディな動作が可能だ。そのロボットハンドは、医薬品、食品、化粧品、小売包装など、軽量かつ反復の多い用途での作業が可能だ。

6. コボット (協働ロボット)

ロボットは工業用重機であることが多く、安全上のリスクから、従来は人間のオペレーターから離れたところで用いられてきた。

だが、人間とロボットの協働という新時代が幕を開けた。より良質なボディデザイン、軽量化と軟質化、センサー技術の向上により、ロボットは側にいても以前より安全な存在となった。それだけでなく、スマートなアルゴリズムにより、ロボットを人間と直接協働作業を行うよう訓練し、人間の共同作業者が行う作業に対応して作業を実行できるようになった。

製造における産業用ロボット活用のメリット

コスト

役員や幹部を納得させられるロボットの利点は、収益性の向上が証明されていることだ。スマートファクトリーの革新に関する最近の研究では、生産高が10%、設備利用率が11%、労働生産性が12%向上することが明らかとなっている。

産業ロボット 導入
産業用ロボットの導入は人間の仕事を排除するのではなくより適した仕事へと人間を解放する

データの力

つながる製造業界のあらゆる側面にプロセスやアウトプットのデータを収集する手段があり、現代のメーカーは、そのすべてを収集し照会する必要がある。結局のところ、評価できれば改善可能なのだ。

ロボットは実際の作業が行われる場所に存在するため、データによるパズルの重要な1ピースとなり、パフォーマンスやメンテナンスなど、従来は不良品が生産された後でやっと発見されたような変化を人間が見つける前に報告し、改善する機会を提供できる。

そのデータをスマートに処理することで、あなたの仕事を片付けてくれる。収集後、ビッグデータのワークフローは、分析を自動化し、改善が必要なもの、人間の管理者に直接報告すべきものを統括できる。

生産性の増大

既に研究の結果は出ており、ロボットが職場で人間を駆逐することはない。実際には、同じ資源でより多くのものを生産できるよう、人間の製造スタッフを支援する。

ロボットの安全性は、リスクマネジメントの分野から成長し、汚く、危険で、単調な作業から人間を救い、職場をより安全なものにした。業務遂行に最適なツールが与えられれば、より幸せで安全な人々が、無形の (だがリアルな) 生産性への効果を生み出す。

ロボットはメーカーにとって、今日のグローバル経済を競い合うための「必需品」カテゴリへと着実に移行しつつある。中国政府は2015年に、自動化の拡大により製品の品質を向上させることで、世界の製造強国としての地位をより強固なものにする計画を打ち出した。この計画は、2020年には15万台だったロボット製造台数を2030年には40万台に拡大することを掲げている。

それは産業界においても同じだ。 2012年から2017年の間、産業用ロボットは毎年平均10%ずつ増加しており、2023年には全世界で440万台になると見込まれている。

産業用ロボットの普及における課題

ロボットへの投資が完全なものだと考えるなら、それは少し早計かもしれない。ロボットは高額だ。大きな産業であり、数多くの規格が存在して、その品質もまちまちだ。製造ロボットの配備を誤れば、それが生み出すものよりはるかに多くのコストがかかることもあり得る。その潜在的な落とし穴をいくつか紹介しよう。

隠れたコスト

ロボットの価格は単なる本体価格であり、実際には統合のためコスト全体のほんの一部に過ぎないことも多い。事実、コンシューマー向けプリンターやカミソリのように、本体価格は捨て値で、消耗品 (トナーカートリッジや替刃) は割高という市場が新たな常識になりつつある。

ロボットが期待通りの高速化をもたらしても、製造ラインの小さな変更により、組立ライン全体が停止している間の収益が失われるだけでなく、ロボットハンドやタスクの更新にさらに費用がかかる可能性もある。

規格の問題

業界は成熟しつつあるが、その規格はまだ未開だ。求めるタスクに最適なロボットが見つかっても、そのロボットが自社工場にないOSや通信プロトコルを使っていることが判明し、それにより統合コストがかさむこともある。

その基盤となるプログラミングやソフトウェアを知的財産として熱心に保護するメーカーも、安価なシステムやオープンソースのシステム(再利用は容易だが堅牢性に劣る)を利用するメーカー(比較的小規模なスタートアップに多い)もある。柔軟性と安定性の選択となるが、どちらにもプラス面とマイナス面がある。

産業ロボット 溶接
企業はロボットの維持とメンテナンスの継続的なコストを考慮に入れる必要がある

維持費

ボストン コンサルティング グループのレポートによると、統合・保守コストを考慮に入れれば、実際のROIを得るにはロボットのコストの3倍から4倍 (コンベアや補助機械の追加など大規模な再整備が必要な場合は4倍から5倍) に設定する必要がある。

工場の組立ライン作業員5人に年間3万ドルを支払えば年間15万ドルになるが、ロボットを導入しても、その工程から人間の労働力が排除されるわけではない。試算によると、ロボット導入後の人件費は現在の0%ではなく25%になる。稼働に継続的なコストがかかるため、ロボット購入コストが完全にネットゼロになることはないだろう。

柔軟なアプローチ

特定のタスクのためにロボットを購入したものの、ワークフローが変化したら? ロボットは、どれくらいのスピードで古くなる? この答えは簡単ではない。現行のロボット技術を急転換させることは不可能であり、その技術がプロセスにどれだけ重要であるかによって、他のすべてが停滞する可能性もある (さらなる遅延が強いられ、コスト増大につながる) 。

また、ロボットを再利用するには、人間の専門知識も必要だ。ロボットハンドの置き換えなど簡単なものもあるが、専門的なプログラミングが必要になることもある。業界が成熟過程にあるため、工場のライン工の多くは専門知識を有していない。

革新的な産業用ロボットの例

ロボットは素晴らしい働きをする——いくつかの例においては、これまで長きにわたり人間の領域と考えられてきた分野で独自の能力を発揮している。ここでは、その応用の一部を紹介しよう。

工業用研磨を簡単に

産業ロボット
研磨加工を行うロボット[提供: Symplexity]

製造された部品の動作には、その表面が重要な役割を果たすことが多く、光沢の有無や平滑性、艶の有無により、その効率性は大きく変わる。紙やすりでこすったり、レーザーでエッチングしたりなど、研磨は手で触り、目で見て判断することが多いため、昔から人間の手で行われてきた。数字を元にコンピュータ処理で動くロボットにとって、「充分な光沢」という言葉には何の意味もない。

ロボットに同じ作業をさせる場合の課題は、それぞれの作業に合わせて進入角度や速度、力を調整しながら、無数の動作点を移動する必要がある点だ。しかし欧州の産学協同研究機関であるSymplexityは、この課題をものともせず、表面仕上げロボットを製作している。

アートな建築

ドームや放物線など、建築の自由形状要素における産業用ロボットの限界を考えると、コンピュータに芸術は作れないという使い古された主張には、それなりの意味がある。

デンマークのOdicoは、曲げられる加熱ブレードと発泡ブロックを使用し、建築家が思い描くままの目を引く奇抜な形の鋳型を作るロボット製造システムにより、その前提を変えようとしている。

産業ロボット アーム Odico
OdicoはAIを活用したさまざまな建築・建設ロボットを開発している[提供: Odico]

協働する

ロボット工学から生まれた最もエキサイティングなイノベーションのひとつに、人間とロボットの協働がある。ロボットと人間がうまく共存することで、人間と一緒に働くよう設計された、軽量でスピードコントロール可能なロボットという、まったく新しいロボット分野が生まれるだろう。

東京のあるホテルのスタッフはすべてロボットだが、実際には故障やクレームが絶えず、人間の仕事を増やしてしまっていることをご存知だろうか? 急速に高齢化が進み、介護者の数が不足するなか、ロボットバーテンダーやロボットウェイターの稼働を試みているのは日本だけではないし、それがコボットを工業生産へと先導する先駆けとなるかもしれない。

栽培工場

カリフォルニア大学デービス校 生物・農業工学部のある教授は先日、農業におけるロボットの必要性は「急を要する」ものだと述べた。人手不足は、1年前にはすでに農業界へ未曾有の影響を及ぼしていた。

収穫や加工などに必要となる多大な作業を行う人手が不足していることからも、農業に産業用ロボットを導入すべき時が来ていることは明白だ。

リンゴが収穫時期かどうかを見分けられるオレゴン州立大学のロボットや、リンゴを見つけ、吸引キャップを当ててねじり取るオーストラリアのロボットEveなど、世界各地でさまざまな構想が進行中だ。

産業用ロボットがある未来

巨大かつ重厚で、火花を散らしながら車のドアを溶接する油まみれの多関節アームというような、よくある産業用ロボットは、1960年代の時代錯誤なイメージだ。現在のロボットの形や大きさは、必要とされる製造タスクの数だけさまざまに異なる。

そして、労働力やスキルの不足から材料科学の向上や工場のデジタル化まで、あらゆるものがより多くの需要を生み出し、より多くのチャンスをもたらしているなか、21世紀の産業用ロボットは、それが何であろうと、その条件を満たすものとなることができるのだ。

この記事は、2018年9月に掲載された原稿を更新したものです。

Mark Smith contributed to the article.

著者プロフィール

マーク・スミスはワシントン州ベリンハム在住のライター、エディター、ミュージシャン。

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