業界コンバージェンスがイノベーションを推進する仕組みとその理由
- 業界コンバージェンスとは、これまで無関係だったテクノロジー領域や作業プロセス、ビジネス、サプライチェーン、さらには産業部門全体の新たなつながりや融合を意味する。
- 自動車業界、電話、メディア&エンターテインメントなどさまざまな世界で業界コンバージェンスが起こってきた。
- 業界コンバージェンスは、ビジネスをより機敏かつ柔軟で、イノベーティブなものにする。
- コンバージェンスはプラットフォームを生み出し、業界そのものを変化させるため、ディスラプションの可能性も増大する。
業界コンバージェンスとは?
業界コンバージェンスとは、これまで無関係だったテクノロジー領域や作業プロセス、ビジネス、サプライ チェーン、さらには産業部門全体の間に出現する新たなつながりを表すものだ。この新たなつながりがそれぞれイノベーションを引き起こし、大きなディスラプションにつながることもある。
Oxford Learner’s Dictionary (オックスフォード現代英英辞典) では、コンバージェンスは以下のように定義されている:
この一体で移動するプロセスは、今後ビジネスの世界で、より頻繁に見られるようになる可能性がある。業界コンバージェンスは、テクノロジーやプロセス、業界が同一になるまで互いに融合することで生じる。これは決して新しい現象ではないが、コンバージェンスはデジタライゼーションに相当の影響を受け、それによって加速される。
スマートフォンはデジタル業界におけるコンバージェンスの影響力を示す例であり、デジタライゼーションの加速は、あらゆる業界内で同様の変革を促進している。これは深い影響を与えるものであり、もはや業界の境界は意味を成さず、競争はあらゆるところから降りかかってくる可能性がある。スマートフォンの例で言えば、ノキアはコンピューター ハードウェアという別業界からやって来た競争相手と対峙したが、Apple のポテンシャルをあまりにも過小評価した結果、市場リーダーの位置から蹴落とされてしまった。
こうした 2000 年代の携帯電話業界と同様の展開が、今や至るところで生じている。いまや自動車は車輪の付いたスマートフォンと見なされ、老舗自動車メーカーは、その縄張りの奪取を目論むテック企業と競合しなければならなくなっている。コンバージェンスと、加速する革新やディスラプションの流れに遅れを取らないためには、ビジネスの仕組みを変える必要がある。デジタル業界のコンバージェンスの時代において、もはや変わらないままでいる選択肢は存在せず、機敏性や柔軟性、革新を空虚なフレーズのまま留めておくことはできない。新たな競争相手は、まさにそうした能力で競争を仕掛けてくるのだから。
優れた機敏性、柔軟性、革新を確保するには、業務手法も融合する必要があり、業界、分野、事業間のサイロ化を解消すべきだ。建設を例に挙げると、新しいものづくり手法では、プロセスとテクノロジーを通じて建築家やエンジニア、ファブリケーター、協力会社、施工会社、オーナーを、よりシームレスに連携できるよう一体化する必要がある。
設計、デザイン、製造、所有、運用の方法を変革するため、データとそこから生まれる知見、自動化を活用することで、ビジネスにコンバージェンスを活用できる。コンバージェンスが進む業界のベストプラクティスを活用し、多分野の機能をひとつにまとめることで、ビジネスにおいて以下のことを実現できる:
業界コンバージェンスの歴史
イノベーションの基礎は、テクノロジー、プロセス、ビジネスのモデルをブレンドした新たな組み合わせを生み出すことだ。こうしたイノベーションは人類の起源から続くものだが、DX がパワフルなロケット燃料であることが明らかになって、融合のペースは指数的に加速している。異なる業界のブレンドは、より迅速かつ簡単なものになってきており、デジタルアセットの場合は、組み合わせられるものの数も無制限だ。
自動車業界
技術やプロセス、あるいは単なるアイデアの新たなブレンドは、常にイノベーションと進歩の核となってきた。自動車は 20 世紀の重要な革新のひとつであり、業界コンバージェンスの優れた例でもある。初期の自動車は、馬車と鉄道に由来する、新たな推進装置のコンバージェンスだった。それ以来、自動車はコンバージェンスの重要なポイントになってきた。冶金やゴム製造といった材料のブレイクスルーは、より優れた車体やタイヤの材料を生み出した。その後、消費家電や電気通信業界と自動車業界とのコンバージェンスにより、カーステレオや車載電話が製造されるようになった。
だが現在、自動車業界内のコンバージェンスはデジタルへと移行している。自動車は車両であると同時にフルスケールでアップグレード可能なコンピューターとなり、自動車メーカーはテック企業 (あるいはその緊密なパートナー) になる必要が生じているのだ。競争力を保つには、最新の自動運転機能やモバイル技術、アプリとの統合を提供する必要がある。この自動車製造とテクノロジー業界のコンバージェンスはデジタル領域であるため、物理的なダッシュボードへの接続数による制約もない。今や無限数のモノを自動車に接続可能だ。
電話
電話は業界コンバージェンスの最たる例と言えるかもしれない。有線電話では電話をかけることしかできなかったが、ワイヤレス技術とデジタル技術との融合によって、メールを送信できるモバイル デバイスとなった。帯域幅と処理能力、マルチタッチ ディスプレイ技術、カメラの小型化が「スマートフォン」というコンバージェンスの超新星を生み出し、それは爆発的な成長を遂げた。
メディア&エンターテインメント業界
業界コンバージェンスの別の例として、VFX 業界が挙げられる。1990 年代初頭の技術進歩により、それまで同時進行で作業を進めていた個々のチームのコンバージェンスが加速した。映画「ターミネーター2」には、CG におけるブレイクスルーがフィーチャーされている。1991 年の公開当時、撮影はまだ完全にアナログで、映画製作のワークフローは極めて段階的なものであり、プリントと共有、レビューの間には待ち時間が存在した。
映画製作と VFX のデジタル化は、物理的なフィルムの配送やデジタル化作業など、付加価値を生み出さないタスクを排除することで生産性を劇的に向上させた。ワークフローは段階的なものから、複数のチームが同時に、もしくはプロジェクトの異なる面の作業を行う並列的なものになった。こうした並列のワークフローと素晴らしい VFX の需要の高まりは、大規模スタジオの外に存在するサードパーティプロダクションによる、ツールやスキルの専門分化の増大へとつながった。業界はコンバージェンスにより、ひとつのスタジオ内で全てを行う独自の社内ワークフローから、外注とオープン データ標準に基づくユニバーサルなクリエイティブ市場へと移行したのだ。
ビジネスは融合する業界へどう適合し、歩調を合わせることができるのか
ビジネスにおいて、コンバージェンスの流れに遅れを取らないための重要な手段は、自らの業務手法を適応させることだ。企業は、サイロ化されたリニアなプロセスや、連携とオーナーシップの不足をもたらすことが多いサイロ化されたビジネスの実践から離れる必要がある。
優れた業務手法とは、デジタルで自動化され、首尾一貫した情報モデルに基づくものであり、アジャイルで統合化され、各業界のベストプラクティスの活用に重点を置くものだ。こうした新たな業務手法には、ビジネスをより機敏かつ柔軟で、イノベーティブなものにするのに役立つ 4 つのポイントがある。それはワークフロー連携、オンデマンド カスタマイゼーション、仮想化技術、そして継続的な再形成だ。
新たな業務手法: 業界コンバージェンスの 4 つのポイント
1. ワークフローの調整
AEC (建築・建設、エンジニアリング)、プロダクト デザイン&製造、メディア&エンターテインメント (M&E) の各業界は、ワークフローの調整と追跡に、Autodesk BIM 360 やその他の BIM アプリケーションなど、デジタル ツールを使うことが多くなっている。各チームはデジタル ツールを活用することで他のチームやエコシステム、サプライ チェーンとプロセスを調整し、タスクを自動化してデータの知見を獲得することで、従来は不可能だと思われていた成果を実現できる。
パワフルなデジタルツールの例が、製品や建物のデジタル ツインだ。デジタル ツインとは、データを統合し、継続的に更新するモデルだ。AI と機械学習でドライブされ、物理モデルのパフォーマンスのモニターや保守、最適化が可能。デジタル ツインは全員に同一なデータへのアクセスを与えるため、より効率的な調整、連携が行える。
クリエイティブ スタジオ向けのプロジェクト管理アプリである Autodesk ShotGrid (旧 Shotgun) は、コンバージェンスを実現するデジタル ツールの好例だ。このプラットフォームはビジュアル プロダクションのさまざまな情報全てを一箇所に集めるため、スタジオは異なる企業や時間帯の人々のワークフローを調整することが可能となり、チームがより迅速に仕事を完了させ、コストを削減するのに役立つ。
ワークフローの調整においては、過去のワーク プロセスをキャプチャし、プロセスと結果との関係性を分析して、その知見を活用することで、より良いアプローチを導入できる。ワークフローの調整により、あらゆる業界でチームによる、より良いものづくりが実現する。ShotGrid を使用する VFX の 6 スタジオが「ゲーム・オブ・スローンズ」の同じエピソードの作業を行ったり、複雑な製造組立の調整を行なったり、建物の設計に建設のロジックをブレンドしたりすることが可能だ。
2. オンデマンド カスタマイゼーション
今日、あらゆる層の顧客が、より多くの選択肢とカスタマイゼーションのオプションを期待するようになっている。だが、こうしたオプションの提供には大規模なカスタマイゼーションが必要となるため、一般的には大きなコストがかかる。だが AI がより多くの業界へ融合されることで、プロセスはより柔軟で適応性の高いものになっている。メーカーは、よりカスタマイズされた製品や、CNC マシンによる高精度の独自コンポーネントの大量組立を導入するようになっている。
ジェネレーティブ デザインは、デザイナーや製造メーカーが独自のデザイン基準を満たすソリューションを発見するのに役立ち、カスタマイゼーションの味方ともなり得る。デジタル ツインも重要だ。例えばビル プロジェクトで、ユニットバスのコンポーネントをオフサイトで構築する製造性設計 (DfM) ベンダーが採用されている。ユニットの寸法が急に変更された場合、それはデジタル ツイン経由で即座にオフサイト生産メーカーへ通知されるため、間違ったサイズのユニットが作られることはない。
ビル プロジェクトは詳細な部分まで決められているため、アナログの世界では、その変更は非常に難しいものだった。今やデジタル ツインが、まるで生き物のように常に進化を続ける。反復可能でアジャイルなので、デザインのカスタマイズも問題にならない。顧客が土壇場でファサードを変更してもデジタル ツインを素早く適合でき、そこから柔軟なプレファブリケーション製造施設へ、新たな情報が伝えられる。
別の地域でもアピールするようカットを編集するポストプロダクション会社にとっても、アディティブ マニュファクチャリングを活用してジャストインタイム方式でマシン部品を交換する企業にとっても、そしてモジュール建築のさまざまなコンポーネントをオフサイト製造の提供する協力会社にとっても、未来はカスタマイズ可能な世界になる。
3. 仮想化技術
XR (エクステンデッド リアリティ: VR/AR/MR の総称) で可能となったデジタル ツインとバーチャル環境により、イノベーターたちはクリエイティビティをイマーシブな体験として具象化可能となった。仮想化技術は、デジタルとフィジカルの世界を新しく有益な方法でリンクする。デジタル ツインはビルや製品のリアルタイムな運用状況を視覚化。移り変わる環境での製品性能シミュレーションにより、製品の採算性が明らかになる。また画面や XR 上のハイパーリアルな世界は、視覚的に豊かで多感覚な体験によりユーザーを魅了する。仮想化技術は、体験と期待を永続的に変化させるものだ。
例えばマルチユーザーVRにより、ビルの施工前に人々が集団でビル内を「歩き回る」ことや、建設中のビルの現在と未来の段階を分析することができる。コラボレーターはどこにいても、現場に足を踏み入れることなく、自身の体験を共有可能だ。シミュレーションによりスロープやその他の造作を検証でき、また地震や火災の際の安全性を評価することもできる。
製造や製品開発に使用されるデジタル ツインのようなバーチャル クリエイション ツールは、現実世界での製品性能を検証するオプションをシミュレートできる。どのデザインが実世界における保守を最小限に抑え、最も効率的な製造プロセスを生み出すのかを示すことも可能だ。自動車業界や航空業界では、次世代車両の検討にデジタル ツインが使用されている。エネルギー分野では、石油採掘装置などの複雑なシステムの詳細なデジタル レプリカにより、不具合や故障を起こしやすい箇所を予想可能だ。
4. 継続的な再形成
所有者や運用者は、建設現場や工場フロア、制作スタジオだけでなく、既存の製品やプロジェクトも修正できる。性能やカスタマーエクスペリエンス、ニーズの変化に基づく変更も可能だ。
AEC 業界における継続的な再形成の例に、ビル性能管理が挙げられる。竣工して使用されている間にビルの向上、適合を行うのだ。ビルのデジタル ツインへ流入するセンサー データで、性能の継続的な最適化ができる。例えばエネルギー効率を向上させるために HVAC システムの変更を提案したり、窓の開閉のスケジュールを作成したりすることが可能だ。また新しい建材の推奨や、ビル全体のソフトウェアをアップデートもできるだろう。
テスラの電気自動車は、ソフトウェアとデータ モニタリングにより、製造済みの製品をどう継続的に再形成できるかを示すものだ。テスラ車のオペレーティング システムは新機能や機能向上を継続的に追加し、より多くのデータが収集されるのに応じて自動運転などの機能が更新される。Peloton エクササイズ バイクや類似製品では、コネクトしたディスプレイに新たな体験が追加される。製品の継続的な再形成は、既に分野によっては競争戦略上も必要不可欠なものになっている。
新しい業務手法への適応の利点
VFX 業界の例が示すとおり、コンバージェンスはプロセス、専門分野の境界、業界の関連技術に広く影響する。
より効率の良いプロセス
最大の利点のひとつに挙げられるのが、多くの人とチームが同じプロジェクトに同時進行で取りかかることを可能にすることで生まれる効率だ。映画製作を変えたのと同じデジタル化とデジタライゼーションのプロセスも、ものづくりの方法を変えている。
ひとつの建設プロジェクト内で、建築家とエンジニアが別の部分に、またオフサイトのファブリケーターは工業化建築のプレファブリケーションの要素に、それぞれ取り組むことができる。これはビルの設計と施工、運用のコンバージェンスによって実現し、オーナーは作業の調整や体験のカスタマイズ、継続的な最適化や再形成が行える。
オーナーがさらなるコントロールを獲得
こうした手法は、ビルのオーナーがプロセス全体を理解して、さらなる管理能力を持つのに役立つ。また作業全てを標準化し、モジュール化することができる。その結果、ユーザー エクスペリエンスや品質、運用コスト、設備投資、持続可能性、カーボン フットプリントを、より良好にコントロール可能となる。
スマートシティ: 業界コンバージェンスの例
スマートシティ ムーブメントの出現は、業界コンバージェンスにおける大きなトレンドとなっている。
スマートシティは以下の 5 つの性質で定義できる。
従来の都市とは対照的に、スマートシティのデザインと運用は、よりデータとデジタル サービスに基づくものとなっている。それにより住民に、また自治体やインフラと交通機関の提供者にも、より優れたエクスペリエンスが生み出される。
スマートシティのポテンシャルの多くは、その実現に何年もかかりそうだ。スマートな配電網や給水網、道路埋込型の電気自動車用ワイヤレス給電設備、照明や交通を含む都市システムの AI 支援による自動化などがそうだ。だがスマートシティの機運は高まっており、それには建築家や土木技師、デザイナー、ファブリケーター、施工会社、協力会社、オーナーの間における、現在とは異なる、そしてより優れた、データとワークフローのコンバージェンスを含めたコラボレーションの手法が要求される。
例えばモビリティ企業はインフラ提供者や自治体と連携することで、そのサービスをスマートシティに組み込むベストな方法をデザイン可能だろう。英国のスタートアップ企業 Arrival は、こうしたラインに沿ったプロセスに着手し、将来的に自動運転を行う予定の小型オンデマンド バスを作っている。
問題となるのは:このバスはどこで使用するのが最適だろうか? どこなら安全に運行できるだろう? このバスのベストな運行経路、スケジュールは? 異なる公共交通機関の代替となるだろうか? ということだ。
コンバージェンスはさらなる「プラットフォーム」を生み出し、業界そのものを変化させる
スマートシティのモビリティは、自動車業界のコンバージェンスという、長い物語の新たな章を書き始めるものになる。だが、これは最終章ではない。自動車、電化製品から建設まで、多くの業界が多面的な「体験」をデザインするようになっており、この体験にはアドオン、カスタマイズ性、サブスクリプションなども含まれる。これらのデザインされた体験は、個別の製品というよりプラットフォームとして機能する。
自動車業界での継続するコンバージェンスにおいて、大手自動車メーカーは自らをデジタル モビリティやデジタル エクスペリエンスの企業と位置づけるようになっている。つまりソフトウェア エンジニアリングとサービスのエコシステム構築に投資せざるを得なくなっているのだ。このところ注目されているのは、全方向の周辺環境をモニターして隣接エリアの詳細を提供する AR 対応のディスプレイやエンターテインメント システムだ。各メーカーは、自動車メーカーというよりテック企業になっている。
こうした投資は、継続すべき伝統的な事業を有する既存企業にとって莫大な支出となる。こうした変化は必要不可欠だとしても、企業を競争の渦へ放り込むことにもなる。自動車モビリティ プラットフォーム企業の大手各社は、従来の競合企業だけでなく、モビリティ サービスのみを提供する Uber など、より新しい企業とも競合するようになる。もちろん Uber は、モビリティとスマートフォンのコンバージェンスで初めて実現したビジネスだ。
テクノロジー企業を自認してきたテスラは、一時的なデジタルキーを利用してテスラ オーナーが所有する車両を他者に貸し出せるようにするマスター プランを持っている。また、テスラ車は将来的に完全自動運転となる可能性があり、そうなるとレンタルを希望する人は、誰かが所有する自動運転のテスラを使った Uber タイプのライドをオーダーすることになる。つまりテスラ所有者はライドシェアリング サービスの小規模業者となるのだ。
コンバージェンスが生み出す機会の増大に従い、業界のディスラプションの可能性も増大する。
製品販売からプラットフォーム販売への進化は、AEC 分野でも起こっている。ある大手建設技術企業は、データを基にしたビル性能管理体験を生み出すプロセスの準備を進めている。こうしたシステムは、21 世紀の建設のニーズへの対処に必要なコンバージェンスの一部だ。ただし建設分野に加えてデータ分野でも事業を行うということは、Google のようなデータと解析を扱う企業との競合を意味する。
コンバージェンスの未来は?
今後、業界のコンバージェンスと、同じプロジェクトへ同時に携わる、多分野にわたる人材のコンバージェンスの波が押し寄せることは確実だ。問題は、その速度と効果だ。
Xprize 設立者でアントレプレナーのピーター・ディアマンディス氏は、2020 年刊行の著書「2030年: すべてが「加速」する世界に備えよ」で、AI やロボット工学、3D プリント技術、IoT、デジタル生物学、XR、ブロックチェーン、グローバルなギガビット接続性など、先進技術の波が指数曲線的に加速するペースでコンバージェンスを起こしつつあり、その多くが想像よりも早く、個人や社会の生活のあらゆる側面に影響するようになると論じている。
コンバージェンスが生み出す機会の増大に従い、業界のディスラプションの可能性も増大する。
スマートフォンがカメラ、コンピューター、ソフトウェア、ゲーム、出版などの事業分野にどれほど大きなディスラプションを引き起こし、それが人々の暮らしをどれほど変えたのかを考えてみよう。コンバージェンスがさらに多くの業界に影響を与えるなか、スマートフォンに匹敵するようなディスラプションは今後も継続的に、至るところで起こる可能性がある。そのディスラプションの内容を正確に予測することは非常に難しい。
だが、交通機関などの分野は複数の面からディスラプションを経験することになるだろう。時速 1,000 ㎞ 以上で移動するハイパーループは、空の移動、陸の移動など、あらゆる種類の公共交通機関に破壊的な変化をもたらす可能性がある。空飛ぶ車というかつての夢は自動運転される有人ドローンという形で実現され、他の移動形態やライドシェアリング サービスにディスラプションをもたらすかもしれない。だが、同時に開発が進む VR が極めてリアルなものへと進化し、職場への通勤や友達との直接的な会合、休暇の必要性が減ったり、そうしたいと思う人が減ったとしたらどうだろう? そうなるとハイパーループや有人ドローンの商業的成功の可能性は下がることになる。
あるものにとっての優れたソリューションが、それを行う欲求を排除する別のソリューションによるディスラプションの対象となるかどうかの予測は不可能だ。コンバージェンスによって矛盾する世界がひとつとなり、類似した問題に対するさまざまなアプローチが生まれる。技術のディスラプションは、一部のビジネスにダメージを与えるが、その一方で世界にはプラスになる。解決すべき問題は多いが、幸いにも多くの業界や技術、人材が、解決のためのコンバージェンスを起こしているのだ。
本記事は2021年5月に掲載された原稿をアップデートしたものです。