インスピレーションをコンセプトに: Kia Global Designが開発する自動車設計向け生成AI

Kia Global Designでは、生成AIが自動車設計者による着想とイノベーションの高速化を支援し、設計をコンセプトから最終形へともたらすプロセスを加速させています。


Kia Global DesignとAutodesk Researchが開発した生成AIツールはホイールオプションを提案し、デザインプロセスの加速に役立った

提供: Kia Global Design

生成 AI によって作成された自動車ホイールのデザインが素材として使用された実際のホイールの横に表示される

Kijun Lee

2025年2月25日

分: 読書時間
  • Kia Global DesignはAutodesk Researchと共同でホイールのコンセプトデザインを行うAIツールのプロトタイプを開発し、このツールが人間の設計者と同じように作業できるよう、生成AIモデル活用の訓練を行った。

  • デザイナーは生成AIツールを使用することでスケッチの時間を短縮し、アイデアをより迅速に検証することでデザイン決定の質を向上させることができる。

  • オートデスクのBlankAIなどデザイン向けのAIツールの進化に伴い、AI技術はますます重要なデザインパートナーになるだろう。

コンセプトデザインとは、デザインプロセスの最初の段階を指す。デザイナーはこの段階で、その後展開していくアイデアを特定する。これは既存のデザインや材料からインスピレーションを得る一方で、過去にとらわれず新しいものを生み出す取り組みでもある。デザインプロセスにおける主要な要素であり、創造性が開花する段階でもあるが、慣れ親しんだものと不慣れなものとのバランスを取るという課題に直面するデザイナーには、ボトルネックとなることもある。

Kia Global Designの上級研究員ヴォホ・ソ氏は、自動車業界のインダストリアルデザイナーにとって、この問題の解決にAIが役立つのではないかと考え始めた。「着想を得るのは、デザイナーにとって最も骨の折れることでもあります」と、ソ氏。「多数のイメージを素早く生成するのにAIを利用できれば最高だと思ったのです」。

Kia Global Designは関連技術を2018年から研究してきたが、その当時入手できたAIツールでは満足のいく結果は得られなかった。2020年、同社はオートデスクにカスタマイズしたツールの共同開発を持ちかける。何年もの準備期間を経て、ソ氏率いるグループはオートデスクとコラボレーションを行い、「Bridge Inspiration and Design」と名付けた研究プロジェクトに取り組んだ。そして研究者たちは2022年9月から2023年8月にかけ、コンセプトデザインのワークフローに生成AIを組み込んだプロトタイプツールの開発に取り組んだ。

既存のワークフローとの統合

生成AIのホイールデザイナーがキーワード特性と最初のコンセプトスケッチを使用して複数のイメージを生成し、デザイナーがそれを最終的なデザインへと洗練させる
生成AIのホイールデザイナーがキーワード特性と最初のコンセプトスケッチを使用して複数のイメージを生成し、デザイナーがそれを最終的なデザインへと洗練させる 提供: Kia Global Design

このツールは、できるだけデザイナーの実際のワークフローを反映するよう、意図的に構築されている。通常、インダストリアルデザイナーは新しいデザインを考える前にデザインのコンセプトとなるキーワードを決め、そのキーワードに合致する外部画像などの参考資料を探す。このインスピレーションはコンセプトデザインプロセスの一部であり、そこでは多くのイメージをスケッチして、アイデアが素早く吟味される。生成AIツールは、そのプロセスのうち「大量の画像をスケッチする」仕事を引き受ける。

ツールの使用方法は簡単だ。まず、デザイナーは模倣したいデザインキーワードとして、「大胆」「ダイナミック」「スタイリッシュ」「シンプル」「スポーティ」「最先端」などを選択する。そして最初のスケッチをツールにアップロードして、“Create design”ボタンを押す。ツールは、選択されたキーワードとアップロードされたスケッチに基づき、類似画像を生成。

そして、デザイナーはツール内で画像を微調整し続けることができる。最初のスケッチに、インスピレーションを得るためのコンセプト画像を追加し、画像のどの部分をどの程度参照するかを指定することも可能だ。デザイナーは、生成される画像の対称性の数などのパラメーターも調整できる。生成された画像に気に入ったものがあったら、デザイナーはそれをベースとして、新しい画像をツールに繰り返し作成させることができる。この機能により、デザイナーは積極的にツールを操作し、画像を微調整して望む方向へと持っていくことができる。

「デザイナーが反映させたい視覚的特徴を捉えた画像を素早く生成し、最終的な製品作りの参考にできることに意義があります」と、ソ氏。「このプロセスは、デザイナーの実際の仕事の進め方によく似ています」。このツールは、まだプロトタイプの段階からデザイナーたちに好評を得ており、使いやすく、生産性を高めるのに役立っている。

AIでボトルネックを解消

「デザイナーの仕事は多岐にわたります」と、ソ氏。 「今度たくさんスケッチしていろいろと試さなければいけないときもあれば、綿密かつ確かに交渉できないときもあります。 デザインに正解はありませんから、最適の選択肢を見極めることが非常に重要です。 最終的な目標は、画像を生成する時間を物理的に短縮することで、意思決定の質を向上させることです」。
ソウルのデザインスタジオでKiaのデザイナー陣にプロトタイプをプレゼンする共同研究のプロジェクトマネージャー、イェ・ワン氏 提供: Kia Global Design

効果的なツールの開発は、ソ氏が率いるKia Global Designと、技術面を担当したオートデスクとの緊密なコラボレーションによるものだった。プロジェクトに参加したデザイナーと研究者は異なるバックグラウンドを持っていたため、まず優先されたのは、互いと、デザイナーのワークフローをよりよく理解することだった。

「Autodesk Research Industry Futuresのシニア プリンシパル リサーチ サイエンティスト、イェ・ワン氏が率いる研究者10人ほどと毎週ミーティングを行い、デザイナーがどのように問題に取り組み、解決しているのか、また彼らの仕事のプロセスについて説明しました」と、ソ氏。「研究者に理解しやすくなるよう、具体的な質問が数多く投げかけられ、デザインの基本要素が詳しく説明されました」。

個々のデザイナーの仕事の進め方をより深く理解するため、Autodesk ResearchチームはKia Global Designのデザイナーたちに、それぞれ約1時間に及ぶ詳細な個別インタビューも行った。こうしたデータすべてが、ツールの開発に活用された。

「デザイナーの仕事は多岐にわたります」と、ソ氏。「素早くたくさんスケッチしていろいろと試さなければならないときもあれば、綿密かつ正確でなければならないときもあります。デザインに正解はありませんから、最良の選択肢を見極めることが非常に重要です。最終的な目標は、画像を生成する時間を物理的に短縮することで、意思決定の質を向上させることです」。

AIの限界と今後の課題

ダイアグラムには、ユーザー入力や、デザインを生成するために AI モデルに取り込まれる初期スケッチ、テンプレート、またはインスピレーション画像を提供するために使用されるデータセットなど、AI ツールのアーキテクチャが示される
AIモデルのアーキテクチャにはユーザー入力、画像データセット、オープンソースの拡散モデルが組み込まれている 提供: Kia Global Design

AIにはまだそれ独自の制約がある。現在のところ、AIがインダストリアルデザイナーの仕事を支援できるのは、初期のコンセプトデザインなど一部に限られている。AIの限界と役割を理解することが重要だと、ソ氏は強調する。AIがデザインの役に立たないという考えや、逆にAIが何でもできるという仮定を掘り下げてみるのだ。「デザインプロセスには、デザイナーが苦労するボトルネックがあります」と、ソ氏。「AIは万能ではありませんが、プロセスの半ばで介入してデザイナーを解放することで、生産性の向上に役立ちます」。

その代表的な例が2D画像を3Dモデルに変換するプロセスであり、自動化とAIにより大幅な時間短縮が可能になる。Kia Global DesignとAutodesk Researchが取り組んだプロジェクトには当初、AIが生成した2D画像を3Dモデルに自動変換する技術が含まれていたが、変換された3Dモデルがまだ実用に耐えるものではなかったため、除外することにした。

しかしソ氏は「将来の投資と技術開発によって、この技術は実現可能になる」と考えている。この見通しの根拠となるのは、AI技術の急速な発展だ。かつてはAIの限界と考えられていた課題も、新技法の登場により急速に克服されつつある。

例えばAutodesk AI Labは先日、2D画像、テキスト、ボクセル、点群などから3Dモデルを作成できる技術、Project Berniniを発表した。まだ実験段階だが、オートデスクはこの技術を市場に投入するべく複数の企業と提携を行っている。

より大規模なテクノロジーと豊富な資金をもつ基盤モデルが利用可能になることで、生成AIへの参入障壁は低くなる。「以前は活用前にAIに学習させるための大量のデータが必要でしたが、現在は既に基盤があるため、ゼロからの構築に必要な労力の多くを省くことができます」と、ソ氏。

「以前、ワークショップでオートデスクのBlankAIを使用したのですが、Kiaに関するデータを使用して学習させたわけでもないのに、プロンプトとしてモデル名を入力するとKiaの自動車に似た画像が生成されました。このプロジェクトでは、独自のデータで学習せずオープンソースのVersatile Diffusionモデルを使用しましたが、結果は実用に耐えるものでした。さまざまなAIツールを迅速に導入し、適切なタイミングでうまく活用する能力は、デザイナーにとって今後極めて重要になるでしょう」。

Kijun Lee

Kijun Lee について

Kijun Lee (이기준) はフリーランスのジャーナリスト兼翻訳者。国際情勢、最先端技術、地域社会との関わりに関心を持ち、ジャーナリストとして「中央日報」や「Forbes Korea」に勤務した経験を持つ。「Design & Make with Autodesk」韓国語版エディター。

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