Leighton Asiaが香港国際空港というパズルをデジタルツインで解決
- 香港国際空港は今後の需要に対応し、ワールドクラスの国際航空ハブとしての地位を維持するべく拡張を進めている。
- 同空港のターミナル2の基礎および下部構造工事をグローバルな建設会社Leighton Asiaが担当。
- Leighton Asiaは自動化により時間を節約し、シミュレーションによる工法の検証で安全面におけるリスクを軽減している。
- デジタルツインを構築することで、業務の合理化、ワークフローの統合、手直しの削減を実現。
香港国際空港 (HKIA) の2019年の年間乗降者数は7,150万人、貨物取扱量は480万tと、世界でも最も忙しい空港のひとつだ。HKIAは積み替え拠点や旅客ハブとして地域経済に欠かせない存在になっており、世界で最も利用される貨物のゲートウェイでもある。現在同空港は、今後の需要に対応し、世界の航空ハブとしての地位を強化するべく、大規模な拡張工事を行っている。
香港に本社を置くLeighton Asiaは、45年以上にわたり、アジア各地で注目を集めるインフラや建築のプロジェクトを手がけてきた。また、BIMを利用した情報管理と新国際規格ISO 19650に基づく卓越性の認証であるBSI (英国規格協会) Kitemarkを取得した、アジアでも数少ない施工会社のひとつだ。国際的な施工会社である同社は、HKIAターミナル2拡張工事の基礎および下部構造工事を担当している。
Leighton Asiaでは、デジタルエンジニアリングと新技術を背景に、プロジェクトの全関係者とのコラボレーティブなアプローチを採用している。同社ゼネラルマネージャーのコールマン・ウォン氏は「あらゆるレベルで持続可能なビジネスを実現するべく、プロセスを合理化と改善の方法を常に模索しています」と話す。「弊社は最高の安全性と品質性能を確保するため、デリバリーモデルを積極的に強化しています。革新的なソリューションの開発と導入を通じて、建設業界にポジティブな変化をもたらすリーダーとなることを目指しています」。
自動化の力を解き放つ
Leighton AsiaでBIM (ビルディング インフォメーション モデリング) マネージャーを務めるフランチェスコ・ティザーニ氏は「イノベーションと新技術に投資することを最初から決めていました」と話す。「このプロジェクトは新しいデジタルツールを大規模に導入する実験場となりました。ここでうまくいけば、他のプロジェクトでも利用できるようになるということです」。
最初にデジタライゼーションの対象に選ばれたのは、現場の掘削開始前に地盤の性質を把握するプロセスである地盤調査だった。地盤調査では、現場作業員がプレドリル (地面に小さな穴を開ける作業) を実施して土試料を採取し、試料を特定して紙に記録する。このプロセスをデジタル化するため、プロジェクトチームは山のような紙による記録を地盤調査 (GI) データベースに変換した。「弊社のエンジニアは、そのデータベースを見て、作成した地盤設計と比較し、設計が実際の地盤の状態に適合しているかどうかを再確認すれば良いだけになりました」とティザーニ氏は話す。
だが、設計とデータベースの比較には未だに多大な時間を要するため、チームはこのプロセスを自動化するためのスクリプトを開発した。「GIデータベースを基にプレドリルのBIMモデルを作り明確な地盤地図を作成しました。そして、そのモデルをベースにスクリプトで地表図を作成しました」と、ティザーニ氏は話す。チームはスクリプトをまとめるのに時間を費やす必要があったが、その取り組みは実を結んだ。
「プロセスの自動化という点で大きな成果であり、時間も大幅に節約できました」と、ティザーニ氏。「また、より正確で標準化されており、レビューも簡単になりました。誰もが確認し視覚化できるモデルがあることにより、ある意味、情報がシンプルになり、より多くのプロジェクト関係者がそれを理解できるようになりました」。
デジタルツインで業務を合理化
地盤設計の自動化の成功に活気づいたLeighton Asiaは、次に建設される建物の動的なBIMモデルであるデジタルツインを作成。このデジタルツインの主な目的は現場作業の効率化であり、BIMチームは現場チームが収集した情報と一致するデジタルツインプロパティを作成した。現在は複数の異なるスプレッドシートに値を入力するのでなく、現場チームがデジタルツインにデータを入力するようになっている。このデータはレポートの自動生成にも使用され、プロジェクト スタッフのドキュメント作成時間を最小限に抑えることにつながっている。
「最終的に、重要なプロジェクトデータを大量に含む大規模なモデルを誰もが利用できるようになります」と、ティザーニ氏。「最後に杭を打った日時、コンクリートを流した日時、型枠を打った日時、品質チェックをした日時を把握できるのです。デジタルツインの構築に多くのリソースを投入したことにより、業務への理解は深まり、現場で収集したデータをより有意義に活用できるようになりました」。
このデジタルツインは、Leighton Asiaの業務プロセスの最適化に役立った。プロジェクトチームの全部門は、それぞれのワークフローをAutodesk Assembleを通じてデジタルツインに統合し、自らのニーズに合わせてデータやモデルを使用できた。「例えば、見積チームはモデルを開くだけで調達面からアイテムを分類、グループ化、数値化でき、またBIMチームはモデルの品質維持に専念できます」とティザーニ氏は話す。
ティザーニ氏は、変更管理にデジタルツインを使用した結果、現場での手直しが大幅に減ったと評価している。現場スタッフは、2Dの図面に印をつけたり無数にあるバージョンを比較したりする代わりに、デジタルツインとAutodesk PlanGridを使用して変更を追跡し、注釈を標準化している。
安全リスクを緩和する
デジタルツインは、同プロジェクトの現場チームのアイデアを誘発させた。例えば、着工前に実現可能性を検証し、不一致を見つけ出すのにモデルを使用を検討するなどだ。この動きは、Leighton AsiaでCMS (工法シミュレーション) と呼ばれている、一連の工法を動画化したスナップショットの制作につながった。
例えば歩道橋解体のCMSを作成する場合、デジタルツインをベースモデルとして使用し、足場の設置、歩道橋の端部の解体、瓦礫の撤去の動画を作成する。「これらの動画は我々の方法論を検証するものであり、我々の用いる工程が実際に実行可能なのかどうか、また、考慮していなかった部分や機能しない部分がないかどうかを確認できます」とティザーニ氏は話す。
このシミュレーションは、エンジニアリングチームと作業チームとの連携を強化し、現場での安全リスクの緩和にも役立った。「どちらのチームも現場を3Dで確認できるので、潜在的な危険要素を視覚化して把握できます」と、ティザーニ氏。「そのため、防護柵を増やしたりもっと距離を取ったりする必要がある箇所をエンジニアが指摘すると、作業チームはすぐにそれを実行し、安全な作業環境を確保できます」。
連携は成功の動力となる
こういった革新はプロジェクトチーム内の意識改革につながった。チームのメンバーは、現場で収集した情報や現場外で作成したデザインを、解析可能なデータとして考えるようになった。「プロジェクトの主要データを体系的に収集および分析することは、傾向の把握に役立ち、また、予測に基づく定期的な無作為抽出検査よりも正確です」と、ティザーニ氏。「今や、分析したり、建設可能性の予測に使用したりできるデータが揃っているのです」。
ここまでプロジェクトが上手くいっているのは、マネージメントとスタッフの共同努力によるものであり、上からの支援と、下からの自発的行動があったからだと、ティザーニ氏は考えている。「私から提案することもあったでしょうが、アイデアや行動は、現場のチームによりもたらされているものです。弊社は、違った形で物事を行う手段について考えることに前向きな人材に恵まれています」。
持続的な効果をもたらすには、デジタライゼーションをBIMチームだけの問題とせず、関係する全チームの問題とし、全員にメリットをもたらすような容易に達成可能な目標を見つけるべきだと、ティザーニ氏は話す。「効率化を図るだけでなく、現場のスタッフを巻き込んで、どうすればよりスマートに一丸となって取り組めるのかを考えることが大切です」と、ティザーニ氏。「ビジネスをデジタル化するためのビジョンに加えて、それを実現させるのは、全員の寄与に支えられたコラボレーティブなプロセスなのです」。