インドの大気汚染へ立ち向かうLSEVのスピーディな開発
- インドが抱える環境コスト
- コンセプトから製品まで90日で
- 同一プラットフォームとモジュール化
- 目標の実現のため研究開発に賭ける未来
インドは一般的にはテクノロジーに貪欲な人口過密国で、古くからの伝統とイノベーションが接近しながら調和しないことも多い国だと認識されている。だが、開発途上の分野が多い他の国々と同様、この国も環境コストを抱えている。都市別の大気汚染ランキングでは、上位30カ所のうち実に21都市をインドが占めている。
現在、インドのEV生産は減少傾向にあるが、政府は米国や欧州、中国に奪われたシェアを取り戻そうと考えている。自動車の新規販売台数におけるEVの割合を、2030年までに30%にすることを目指すが、現在のEV販売台数が数%に過ぎないことを考えると、これはかなり野心的な目標だと言える。この流れを支援するべく、インドはNational Electric Mobility Missionを制定。これには国内におけるEV設計と製造を促進するための、EVの販売と生産のインセンティブに向けた助成金が含まれている。
ベンガルールを拠点とするGreendzineは、この新たな枠組みの一端となることを目指している。共同設立者であるカーティケヤン・サンダラムCTOとアンジャン・クマールCEOは、デザインのモジュール化を活用することで、LSEV (Low Speed Electric Vehicle: 低速 EV などとも呼ばれる) を業界でも最速スピードで生み出している。
同社のアプローチは5ステップのユニークなプロセスで構成されるもので、それは「EVオーナーのように考えること」から始まる。サンダラム氏は「二次調査と顧客との対話をかなり深く行うことで、顧客が製品の気に入っている点、そうでない点を理解しようとしています」と話す。このアプローチでEV購入者にとっての3つの不安が明らかになった。それは走行距離、充電とアフターサービスだ。
「EVに関する顧客の関心を理解したいと考えたのです」と、サンダラム氏。「最初に関心を持つのは製品のフォームだと考え、従来のガソリン車から乗り換えるための差別化要因となるフォームを理解しようと考えました。そして立ち上げたのがQuark Uです。これは電動原動機付自転車で、ガソリンを使うスクーターの形状を真似た電動2輪車になっています」。
次のステップはGreendzineが「fail fast, fail forward (早い段階で失敗して前へ進む)」と呼ぶアプローチで、同一のベーシックなプラットフォームから、全てがモジュール方式でデザインされる。パーツやビルドは3Dプリントを活用した迅速なプロトタイピングが行われるため、それが機能しなくても時間や知的所有権における多大な損失もない。
これら全てが、Greendzineの「コンセプトから製品まで90日で」という迅速な製品開発戦略につながっている。サンダラム氏は、それは現在の経済では必然なのだと話す。「市場は超高速化しています」と、サンダラム氏。「市場調査に3年、プロトタイピングに2年をかけるような余裕はありません。その間に市場は光速でシフトしてしまいます」。
製品ラインナップ
現在、こうしたアプローチによる製品として、電気2輪車Quark、スポーティな3輪車Irrwayと、スマートなオーダーピッキングを行う商用倉庫業務向けMOPTroの3種を販売。そのデザインと製造プラットフォームにより、最高時速60km、最大積載量約200kgのLSEV市場において、Greendzineの存在感は確かなものになっている。
Greendzineの全製品の起点となっているのが48Vのデザインプラットフォームだ。同社が生産する車両は、各車両の形状とスタイリングは異なるものの、そのタイプを問わず、原動機や制御装置、バッテリー、充電器など、核となる構成要素は全て48Vで動作する。
パワートレインハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアは同一だ。つまり、全ての新製品に対して、その基盤となるプログラミングやハードウェアが存在し、48Vプラットフォームの堅牢なサプライチェーンが存在していることになる。Greendzineの3製品には多数の規格部品が使用されており、それらが材料費の70%を占める。
「これはつまり、非常にコスト効率が高く、効率的なリソース管理が可能だということです」と、サンダラム氏。「デザインも短時間で行っています。複数の製品に共通の部品を使用することで、サプライチェーンの時間と複雑性も低下します。構成要素の検証と適合認可にかかる時間も短縮でき、少量でもコストをうまく抑えることができます」。
モジュール化の大部分は、Autodesk Fusion 360、Inventor に代表されるデザイン ソフトウェアで実現されている。Greendzineは環境や社会善を促進する団体に対してソフトウェアを寄付する、AutodeskのTechnology Impact Programに参加。サンダラム氏は、こうしたソフトウェアによってGreendzineが目指すアプローチが可能になったと述べている。
「システムにモジュール方式を組み込めようになりました」と、サンダラム氏。「Fusion 360は、我々にとって粘土細工のようなものです。形状の有効性の迅速な確認が簡単なことは、3Dプリントを活用してモデルをプロトタイピングへと移行するのに役立っています。物理的な形状を素早く実現して、それが要件にかなうかどうかを理解できます。こうして“失敗と前進を早送りで行う”ことができるのです」。
またGreendzineは最初の車両以降、全車両をクラウド プラットフォームに接続している (所有者にはアプリが提供され、所有する車両の性能や状態の全数値が提供される)。これにより、エンジニアには製品の信頼性に関する4年分のデータが提供され、それがデザインや検証、プロトタイピングの促進に活用される。
サンダラム氏によれば、同社の最終目標は、低価格なだけでなくサステナブルなEVを開発することだ。「我々が重点を置くのは技術構築で、その次がブランド構築です。そして最終的には、市場投入までの全業務拡大を支援可能な、製造分野の大企業との提携です」。
Greendzineは先日、インドの大手マテリアルハンドリング ブランドGodrej Material Handlingと、インド全土でのMOPTroのマーケティングと流通の提携を結んだところだ。
業務向けの開発
サンダラム氏とクマール氏によるGreendzineの事業計画は、実に考え抜かれたものになっている。だが意外なことにMOPTroは当初の事業計画には無かった製品で、その誕生はほぼ偶然の出来事だった。大手eコマース企業の創業者が新聞に取り上げられたIrrwayの記事を読み、自社倉庫におけるモビリティの問題を解決したいとGreendzineに連絡を取ったのだ。
倉庫での運用サイクルは、個人やコンシューマーによる使用より、遥かに厳しく過酷なものだ。商品運搬用の電動車両は昼夜を問わず稼働し、繰り返される発進と停止の動作が車両性能に影響を及ぼす。「eコマースの大型倉庫の場合、オペレーターが車両を発進・停止させる回数は日に1,000回にもなります」と、サンダラム氏。「これは車のエンジンを1,000回始動させるのに匹敵し、トランスミッションやバッテリーに多大な負荷を与えます」。
こうした条件と、ピーク性能を維持するために必要な耐久性に沿ってデザインすることで、GreendzineはパワートレインのG-Torqueとバッテリー充電技術のNanoGridの完成度を向上させた。このテクノロジーは、要求が厳しい短距離向けレジャー用製品を寄せ付けないレベルだ。
サンダラム氏とクマール氏は、将来的にはインド政府の法規制がEVの普及を変化させると期待しており、国内の学術機関との提携を行っている。最もエキサイティングなのは、コンピューターサイエンスとAI分野で国内トップクラスの大学である、ベンガルールのInternational Institute of Information Technology (IIIT-B) との提携だ。「現在、車両向けの技術開発として、自動運転車両とロボット工学に関する研究プロジェクトへ一緒に取り組んでいます」と、サンダラム氏。
Greendzineはその未来を研究開発に賭け、目標を実現しようとしている。サンダラム氏は、その目標はひとつの方向を指し示していると話す。「革新的なソリューションを低コストで提供することにより、電動モビリティを最良の選択肢にしたいと考えています」。