2022年版: 製造業の未来を定義する5つのデジタルトレンド
- インダストリー4.0が進展する一方で、次なる産業革命が迫ってきている。
- 人間は機械とより密接に連携し、機械はアダプティブに自動化を行えるようになる。
- その結果、より迅速でレジリエンス性を備えた製造が可能となり、即時にマスカスタマイゼーションを行える新たな時代が到来する。
製造はあらゆる場所で行われているが、それに気づかれない場合も多い。製品が工場から各家庭のキッチン棚へ届くまでのプロセスが、ほとんど人目につくこともないほど、この業界はその方法に長けている。高速道路で大型輸送トラックとすれ違うような機会を除けば、まさに見えざる手が商品を動かしているようだ。
これはインダストリー4.0と、それを支えるデジタル機能の影響力の高まりを証明していると言える。だが製造業の技術的進化は、まだその完成にはほど遠い。
パンデミックの到来で、ハンドソープやトイレットペーパーが買い占められたことを覚えているだろうか? これは、誰もが依存している巨大産業すらも、打撃を受けて中断することがあることを思い知らされた出来事だった。製造業界のレジリエンスが試され、その生産活動は、かつて考えられていたほど確実なものではないことが判明したのだ。
もちろん、ロックダウンの時期にはプラットフォームとリモート連携の威力が発揮され、数々の成功例が明らかとなった。だがその一方で、計画を根底から覆すようなマクロ的問題も露呈することになった。持続可能性の向上に対する需要、消費者の権利拡大、政情不安、情報爆発、そしてハイパーコネクテッド化により、アジリティと応答性、サプライチェーン、運用のレジリエンスのすべてが試されているのだ。
インダストリー4.0がこうした問題に対応する筈だったのでは?
第4次産業革命であるインダストリー4.0が登場してから、既に10年近くが経過している。データドリブンかつインテリジェントな自動化のパワーは、製造業およびその他のあらゆる主要分野を変革してきたが、その完了にはほど遠い。
インダストリー4.0を実現し、その恩恵を受けるために必要なテクノロジーとプラットフォーム、スキルセットは、現時点では実験コストを吸収できる規模とグローバルな拠点を持った企業にしか提供されていない。
こうした技術は、あらゆる規模と予算のメーカーが利用できるものになる必要がある。しかし世界がその実現を待っている間に、AIやIoT、アナリティクス、ロボティクス、3Dプリント技術の融合が、別の産業革命の登場を示唆する新たな能力を誕生させつつある。
それを、ここでは仮に「インダストリー5.0」と呼ぼう。これはデジタル化の次の段階であり、現在のプラットフォームやデジタルアセットが「互いに話し合い」、人間とコンピューターがより調和して、連携できるようになる。だが、商品を供給し続けるためには、製造は今後も進化し向上し続けなければならない。今後6-10年の未来を牽引していくであろう、5つの進展を紹介しよう。
1. 製品のライフサイクル全体におけるデザインとシミュレーション
製品のコンセプト立案、製造から販売、最終的な返品や廃棄まですべてのデータが収集され、製造の各段階間に集中型のフィードバックループが形成されるようになる。その形のひとつがデジタルツインであり、モデルベースのシステムもそうだ。これらを組み合わせることで、すべての生産工程がつながり、情報を共有しながら改善・学習していくシステムを構築できる可能性がある。
部品を製造する場合、設計とエンジニアリングの焦点は、当然ながらその部品に絞られる。しかし機械システムにおいて、個々の部品は他の部品に取り付けられる。それがエンジンの部品でも、風力タービンを構成する歯車でも、より大きな最終製品を構成するひとつの部品に過ぎない。
必要とされるのは、ある部品のデザインが変わったことを認識し、その変更によって他の部品の形状がどう変わるのか、また構造全体の性能にどのような影響を与えるのかを計算できるツールだ。
インダストリー5.0では、こうした相互依存性を考慮し、システムレベルでの最適化を可能にするシステムが登場するだろう。自動化された最適化ワークフローは、現在のところはコンポーネントレベルでしか実現しておらず、システムの大半は手動で設定されている。異種のデータセットをリアルタイムに接続することで、大規模で複雑なシステムの最適化の自動化が可能となる。これにより、製品開発プロセスを大幅に短縮できる可能性がある。
2. つながるデジタルツインによる新たなインターネットの出現
テクノロジーのコンバージェンス (融合) が広がることで、クロスプラットフォームでのコミュニケーションと互換性が極めて重要になる。5Gの登場により、ハイパーコネクティブ化を実現する技術アーキテクチャが具体化しつつある。これがシステムと人間、デバイス間の、さらに高度なやりとりが可能な世界へと導くことになるだろう。
パンデミック中に、デジタルツイン技術が急速に導入されることになった。今後10年で、さまざまな環境下で相互に連携・交流できる、現行のウェブのパラレルワールドのように存在するネットワークやエコシステムのような、異なるコンテクストを持ったデジタルツインが登場するかもしれない。
スマートシティや自動交通システムが定着することで、収集されるデータも非常にリッチなものになっている。データは孤立したままでは価値は下がるので、共有する必要がある。その場合、知的財産の保護がさらに重要になるため、各デジタルツイン間で共有されるデータのセキュリティの維持には、ブロックチェーンのような技術の活用が期待される。
3. 拡張知能がマシンを同僚へと変化させる
インダストリー5.0は、人間とコンピューターの連携の新時代を告げることになる。デジタル技術の急速な普及により、機械が人間に取って代わるのではないかという憶測も増えている。だが実際は、機械は全く新たなレベルで人間と連携する手段を学習しているということだ。現在、我々は拡張知能の到来に直面しつつあり、コグニティブコンピューティング機能により、人間はより良い判断をより迅速に行えるようになる。
例えばヨーロッパのスポーツ用品メーカーのデカトロンは、AIを用いて同社の高性能自転車をより効率的に設計・製造し、軽量化、耐久性向上、高速化を図るとともに、設計段階での二酸化炭素排出量を削減している。
職場のマシンがよりスマートになり、接続性が高まることで、インダストリー5.0は、よりコラボレーティブな運用パートナーシップの構築、現時点ではソフトウェアだけでは処理できない複雑なタスクやプロセスの自動化を実現する。
4. MaaS (サービスとしての製造) が概念から現実へ
サプライチェーンがより多様化し、デジタルネットワークを通じてつながることで、新たな民主化が引き起こされる。消費者が実質的なシステムインテグレーターとなり、複雑な製造プロセスを組み合わせ、ボタンをクリックするだけで独自に設定を行うことができる。
既にEコマースで実現している状況からすると、例えば新しいキッチン用品が必要となった際、ログインして望みの色、要素、素材、サイズ、機能を選択するだけのプラットフォームを想像するのは難しくない。
インダストリー5.0の技術力があれば、それはより簡単に、しかもほぼ瞬時に可能となる。マシンに注文を直接送信して迅速な製造を実現する一方で注文処理を行い、翌日、場合によっては同日配送が行われる。
5. マスカスタマイゼーションにより「インスタントかつカスタマイズ」が一般的に
商品には、より短時間での提供と、これまで以上のカスタマイズ性が求められるようになる。製品を迅速に提供するためのシステムやマシンは、既に存在している。たとえばアマゾンは一部の製品で、受注生産による24時間以内の提供を目指している。これが数年後には他の小売店や分野にも拡大し、製造業界や小売業界に大きな影響を与えるようになるだろう。
現在のような製品や販売戦略は、実質的に消滅するかもしれない。あらゆるものをインターネットで設定して、素早くオーダーメイドできるようになれば、店舗スペースもほぼ必要なくなる。
4.0の仕事を片付ける
だが、こうしたトレンドが進展する前に、インダストリー4.0の約束が実現されなければならない。これまでのところは、大手メーカーの独壇場に留まっている。製造業の中でも圧倒的な割合を占める中規模の企業では、まだデジタル化の恩恵が十分に得られていない。
このギャップを埋めるため、データを共有し、自動化された指示を受けることのできる半デジタルデバイスへと現行の工場設備を転換するための実験が進行中だ。
一方、テック企業各社は、中小企業向けの製品を向上させており、また、より小規模なメーカーの予算に合わせたソリューションや収益モデルを拡大している。デジタルマニュファクチャリングの民主化は進行中だが、それをさらに加速させ、上流の設計データと下流の使用データが含まれるようプロセスを拡張し、真の製品進化を可能にするフィードバックループを促進する必要がある。確かに、次の産業革命が本当の意味で始まるには、まだ多くのハードルを超える必要がある。次の産業革命であるインダストリー5.0を見越して、今こそそれに備えるべき時なのだ。