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小規模メーカーによる金属3Dプリントへ画期的変化をもたらすOne Click Metal

金属の3Dプリントで作成したドローン
中小メーカーがより手頃な価格で金属3Dプリントを利用できるようになれば、より多くのイノベーターがビジョンを実現可能となる [提供: One Click Metal]
  • ドイツ企業One Click Metalが生み出した、中小企業の製品開発を加速させる、手頃かつ安全でシンプルな方法。
  • 最新のジェネレーティブ デザイン ツールを活用するコンパクトなマシンが、金属の粉末を優れたビジネス機会に。
  • 従来は予算の潤沢な大企業にしか実現し得なかった次世代の金属積層造形技術により、3Dプロトタイプがわずか数クリックで出現。

金属造形とは、かつては巨大な炉で粗鉱を超高温に熱し、溶岩のようになった合金を樋で流して、シリコン製の型で冷やすことを意味していた。だが現在は精製済みの金属粉末を使用した金属積層造形法であるレーザー粉末床溶融結合法 (LPBF) を使用することで、製造会社は手間やエネルギーをかけずに同様の成果を得られるようになった。

3Dプリンターは学校から工場まであらゆる場所で目にするようになったが、まだ金属3Dプリンターはそれほど一般的ではない。その理由のひとつは、金属プリントが高価すぎることにある。この10年あまりで技術は着実に向上しているとはいえ、主流である3Dプリントに比べると使用方法が複雑で、大型かつ複雑な機械に依存しているのが現状だ。

こうした状況を一変させたいと考えたドイツ企業のOne Click Metalは、BOLDseriesと呼ばれる金属アディティブプリンティングシステムの開発により、品質に妥協することなく手頃な価格と携帯性、使いやすさを実現。その使命は、欧州経済の基幹をなす何千という中小の製造企業に、高性能な製品やコンポーネントのプロトタイプ、金属3Dプリンターの機能の恩恵を受ける連続部品の設計を、迅速かつ安価に行う手段を提供することにある。

one click metalの MPRINTと MPURE
One Click MetalのMPRINT (左) は安全かつクリーンな粉末カートリッジシステムを使用して金属アディティブ マニュファクチャリングを行い、MPUREマシン (右) はコンポーネントを取り出し、未使用の粉末を自動的にふるいにかけて再利用可能にする [提供: One Click Metal]

金属プリントを手軽な価格に

世界的なレーザー/製造機械メーカーTrumpfの研究開発部門としてスタートしたOne Click Metalは、リーダーシップ チームがレーザーに関する親会社の専門知識を破壊的変化をもたらすビジネス価値へと転換させる機会を見出すと、独立した会社へと分離された。

3Dプリンターの原材料のほとんどはプラスチックと同じもの、つまり豊富で成形可能なポリマーからできている。だがナイロンやポリカーボネート、スチレンは、化学的基盤が比較的弱い多孔質な素材に仕上がる。それとは異なるのが金属のプリントだ。タービン翼や自動車エンジンといった重工業製品には、より強い材料が必要になるが、工業規模の応力、熱、圧力に耐えうる強固な結晶質の微細構造をもたらせるのは金属だけだ。

One Click Metalの自動販売機サイズのユニットでは、規格化されたカートリッジへ安全にパッケージされた産業グレードの金属粉末が使用されている。このユニットを電源に接続し、Autodesk Netfabbなどのツールで作成した3Dデザインファイルを読み込んで微調整してたら、「プリント」をクリックするだけでいい。

3DプリントユニットMPRINTの200Wファイバーレーザーは、複雑な金属構成でも優れた生産性と精度を実現する。2つの機能が1台に集約されたMPUREproは、コンポーネントを取り出して直に触れなくても未使用の粉末を除去でき、内蔵された自律型超音波ふるいが、処理済みの粉末を供給カートリッジへリサイクルして再利用可能にする。また、MPRINTユニットは独自のパーツを作成できるほど汎用性が高い。One Click MetalはAutodesk Fusion 360によって、粉末カートリッジの開閉を行う高度なドライバー部品を設計・出力することができた。

わずか数クリックで金属のプロトタイプが作れる
成長する金属3Dプリント市場へより多くの中小メーカーが参入可能となるよう、One Click Metalは最適な使いやすさでMPRINTを設計した [提供: One Click Metal]

One Click Metalのゲリット・ブルッゲマンCEOは「組立エリアの限られたスペースと、モーターメーカーの仕様のため、動力伝達に使用できるのはフェザーキーだけです」と話す。「キー溝は、プッシュ加工やブローチ加工で作るか、フェザーキーを部品に加工する必要がありますが、アディティブのデザインとプロセスがより優れた解決策となります」。

One Click Metalは、ドライバーを個別に作る代わりにNetfabbを使用してパーツを積み上げていった。部品の設計では、支持に無理がないように積み重ねるための配慮がなされた。そうした理由からパーツは互いに常に180度回転させた状態で重ねられ、それにより支持しやすくなっている。「これにより、生産にかかる時間とコストを大幅に削減することができます」とブルッゲマン氏は話す。

成長する市場

One Click Metalは、金属アディティブプリント市場へ絶妙なタイミングで参入したと言えそうだ。Grand View Researchの評価によると、昨年の全世界の金属3Dプリント市場は35億2,000万ドルで、2022年から2030年の間の年間成長率は23.9%と予測されている。同社の最新レポートによると「金属3Dプリントは、ラピッドプロトタイピングと先進の製造実践の必要性の高まりに大きな恩恵を受けている」。

ここにはNASAも参画。アメリカ航空宇宙局は、将来のロケットエンジンの80%以上を、金属アディティブシステムを使用して3Dプリントする意向だと発表している。イーロン・マスク率いるSpaceXも、同社の製造能力の増強のため3D金属プリントへの投資を行うことを発表している。

建設が次のフロンティアとなるかもしれない。2021年、インペリアル・カレッジ・ロンドンは、アムステルダムに世界初の3Dプリントによる金属製の橋を設置し、開通させている。

金属3Dプリンタを扱う人
MPRINTは最大プリントサイズが150mm×150mm×150mmで金属積層造形にレーザー粉末床溶融結合法 (LPBF) プロセスを使用している [提供: One Click Metal]

課題: 金属プリントを大衆にもたらす

適切なタイミングで登場したOne Click Metalだが、その道のりには大きな障壁もあった。そのビジネスモデルは、中小企業へ3D金属プリントの能力をもたらし、従来は手が届かなかったものを比較的小規模な環境で、より安価かつ簡単に展開できるかどうかにかかっている。

金属3Dプリントにおいて、スペースや費用、複雑さ、安全性が大きなハードルとなる。One Click Metalは、それをクラウドベースのコラボレーションツールを活用し、親会社のレーザーに関する卓越性とサプライチェーンのパートナーとで問題解決を図って、補完的な設計情報を提供することにより克服した。

「弊社は金属のアディティブプリントの市場拡大を妨げる3つの主要な障壁を特定しました」と、ブルッゲマン氏。「まずは金属粉末そのものです。特に小企業では従来の製造機械の隣で使うことになるため、処理プロセスが大きな問題となります。品質の問題上、粉末が湿ったり、混入が生じたりしてはいけないのです」。

2つ目の課題は、機能性と価格が両立した3D金属プリンターをどう設計するかということ、そして最後の課題は広範囲にわたる訓練が必要ない機械を作ることだった。「簡単に使える必要があると考えました」と、ブルッゲマン氏。「企業の多くは、これを最初から一日じゅう使用するわけではなく、プロトタイプなどの最初のアイデアからスタートし、時間をかけて製品化していきます。業界においては、初期投資コストが3D金属プリントのコストの賛否を決める大きな理由になっています」。

MPRINT のカートリッジ
MPRINTの5カートリッジリボルバーに最大数を充填すると、最大プリント容量の250%の粉末供給量を確保できる [提供: One Click Metal]

One Click Metalは、金属粉末用に標準化されたカートリッジを開発。これにより粉末のオープン処理が不要となり、品質の確保、粉体の再利用を目的とした再回収が可能となっている。

「全体的なプロセスは市場の他のLPBFマシンとそう変わりませんが、単に性能の良いマシンというだけでは充分でないことは分かっていました」と、ブルッゲマン氏。「まだプロセス自体になじみがないため、顧客の求めるワンクリック方式となるよう、すべてをまとめたのです」。

未来へと飛び込む

現行のマシンは150cm×150cmサイズの出力に最適化されており、まだイノベーションの余地は大きい。One Click Metalは同社のMPRINTマシンを使用して、複数の飛行部品を極めて複雑な単体の金属形状へと統合する作業用ドローンを作成した。

「社員の一人がドローンのパイロットで、この機械で最適化された金属製ドローンを作ることを思いついたのです」と、ブルッゲマン氏は話す。同社は、その方法をオートデスクジェネレーティブ デザイン チームに相談した。「ドローンの全パーツをひとつひとつ検討し、それらを単体フレームに組み込めるデザインを複数試しました。Fusion360が示したアプローチは、最適化され、かつコスト抑制につながる点が素晴らしかったですね」。

クラウドでのコラボレーション

同社が今年も世界各地で開催される数々のイベントやセールス活動に備えるなか、ブルッゲマン氏は、One Click Metalの成長のカギはコラボレーションになるだろうと話す。

「弊社と販売パートナーは、販売プロセスにおいてコスト計算やデザインの追加アドバイスを提供し、顧客がその問題の適切なソリューションを見つけられるよう支援します」と、ブルッゲマン氏。「Fusion 360とNetfabbはそれに最適です。最高の機能を備え、最高の価格を実現しており、機能向上も継続的に進められています」。

また、オートデスクの教育機関向けプログラムにも価値があると話す。「大学や学生と一緒に、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます」と、ブルッゲマン氏。「それにより誰もが同じデザインプラットフォームを使い、クラウド上でチームとして働くことができるのです」。

著者プロフィール

マーク・ドゥ・ウルフはテクノロジーのストーリーを得意とするフリーランスライターで、コピーライターとしてアワードを獲得しています。ロンドン生まれで、チューリッヒを拠点としています。コンタクトはmarkdewolf.comまで。

Profile Photo of Mark de Wolf - JP