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ジェネレーティブ デザインが支援する金型冷却管の自動設計

ジェネレーティブデザインが支援により自動設計が行われた金型冷却管のモデル
ジェネレーティブデザインが支援により自動設計が行われた金型冷却管のモデル

複雑な形状のプラスチック製品の大量生産には欠かせない存在である射出成形。加熱溶融された材料を金型内で冷却するこの加工法で成形品の品質とコスト削減を追求するには、熟練設計者による優れた冷却システムの開発が重要になる。その冷却用水管の設計を自動化する極めて先進的な取り組みがAutodesk University Japan 2019で紹介された。

パナソニック株式会社 ライフソリューションズ社は、金型製作に世界初のハイブリッド3D金属プリンター、LUMEX Avance-25を活用。金属粉末の積層造形と切削仕上げを組み合わせたアディティブマニュファクチャリングにより、金型冷却用の水管を3次元的に配置した革新的な製造法を考案し、成形品に沿って水管を配置するコンフォーマル冷却によって、ドリル加工による直管を組み合わせた従来工法の金型より約20%も冷却時間を短縮している。

金型の設計・製作を行う同社生産技術センターで解析業務を行う上本誠一氏は、金型設計の授業や、CAEのスキルアップの支援なども担当。高いスキルと経験が要求される金型設計者の育成の重要さと、その難しさを熟知している。2014年のインターモールドで発表された箱形状成形金属の最適な冷却回路の設計に際しては、成形品の反りのデータを評価項目として、冷却管のさまざまな間隔を検討。それをきっかけに、金型設計の自動化を考えるようになったという。

パナソニック株式会社 ライフソリューションズ社 生産技術センター 生産技術開発部成形技術開発課の上本誠一氏

ジェネレーティブデザインが、構造解析による軽量化の際に人間では思いつかないような形状をスムーズに作れることに感銘を受けたという上本氏は、「ジェネレーティブデザインを使えば、ある程度の情報を設定することで、自動的に冷却管の形状を作ることができるのではないかと考えました」と述べる。

「トポロジー最適化では与えられた条件に対してひとつの解しか得ることができません。また、そこで得られた形状をスムーズなものにするのは大変です。対してジェネレーティブデザインでは、スムーズな形状が出てくること自体すごいことだなと思っていました」と、上本氏。「複数の提案を求めることができ、ものづくりを考慮した計算ができるのも有用だと感じました」。

自動設計を行う対象として、パイプファン (左端) で使われている羽根の成形金型が選ばれた [写真提供: パナソニック株式会社 ライフソリューションズ社]

自動設計による設計支援

その一方で、ジェネレーティブデザインによる金型設計においては、そうした“形状にとらわれない結果”以上に「設計作業の自動化」に期待していたという。数多くの製品開発が行われる同社では、設計者のスキルだけに頼らず、Autodesk Moldflow による成形シミュレーションを活用することで設計の完成度を向上させている。「設計者のスキルに依存しない自動設計が行えるようになれば、設計者の負荷を減らせるのではないかと考えました」。

その実現のため、同社は英国バーミンガムを拠点とするAutodesk Advanced Consulting チームと共同プロジェクトを行うこととなった。自動設計の対象には、既にパイプファンの構成部品として量産も行なわれている羽根の成形金型を選択。この羽根は、ライフソリューションズ社の成形品としては、サイズ的には小さい方だが複雑な形状をしているという。羽根の形状を境界条件、熟練設計者によるモデルを初期形状とし、水管を作る範囲の形状を限定した上で、成形品の細部に水管が侵入しないよう設計禁止領域が設けられた。

ジェネレーティブデザインによる自動設計の過程では、計算が繰り返されることで形状が変化し、必要な部分だけの水管の形状が現われる。既に社内のエンジニアにより完成度の高い金型設計が行なわれているため、上本氏は「現状の金型を超えるような性能のものは、恐らく出てこないのではないかと思いながらも、こうしたスムーズな形状が自動的に生み出されることには、非常に驚きを覚えました」と語る。

また、金型の外殻だけを規定して自由に水管を配置させる条件設定とした場合には、水管が途中で分岐するというユニークな形状が出現。上本氏も、これまで目にしたことにないような形状に驚かされたという。「ジェネレーティブ デザインで提示された形状は、どれも人間が思いつくような形状ではありませんでした」。

成形品の実証で同等の性能を確認

その後、熟練の金型設計者による初期設計案のCase B (製品製造時にも使用)、その初期形状をもとにジェネレーティブデザインで自動設計が行われたCase C、より自由な自動設計が行われたCase D、Case Cに水管を追加したCase Eの計4種類の金型が実際に製作され、成形品の精度を測定することで金型としての性能が検証された。

成形品のCase毎の寸法を測定した結果、その差は微小であり、冷却管の形状による差は小さいことが確認された。上本氏は「温度のやり取りの計算をしながら形状を導出できたのは、素晴らしいことだと認識しています」と語る。「スムーズな形状のCADデータが得られたということで、自動設計を行うという部分の目的は達成できたと思っています」。

初期形状を熟練設計者による設計に限定して自動設計した CASE C (左) と、初期形状を外殻だけに限定して自動設計を行った CASE D (右)

自動設計した金型を製作し、成形して実証を行なった。[写真提供: パナソニック株式会社 ライフソリューションズ社]

現在、熟練設計者がひとつの金型設計にかけている時間は8時間に及ぶという。「こうした複雑な形状の設計に必要な時間は、モデリングのスキルが高くても、それ以下に短縮するのは難しいと思います」と、上本氏。今回のプロジェクトではプロトタイプ的なソフトウェアを使っているため、自動設計の計算にはそれ以上の時間がかかっているが、今後はプロジェクトをさらに推し進めて、パッケージ化などによる大幅な時間短縮や、より温度管理を重視したプログラムにすることを目指している。また、一般の人にも利用できる形で登場することを期待しているという。

「これまで考えたことのないような形状が導出されていることで、社内でも非常に興味を持たれています。ツールとして使えるようになれば非常に便利ですし、このテクノロジーをほかのツールにも展開できるのではないかと期待している人もいます」と、上本氏。「今後ソフトウェアとしてパッケージ化され、Moldflowにアドオンされるような形で利用できるようになれば素晴らしいですね」。

著者プロフィール

オートデスクのInternational Content Manager for APAC & Japan。「Design & Make with Autodesk」コンテンツハブの日本語版、韓国語版、中国語 簡体字版を担当。

Profile Photo of Yasuo Matsunaka - JP