シンガポールのバードパラダイスが先進的な設計でネイチャーファーストを実現
- マンダイ野生生物保護区は、17ヘクタールのバードパラダイスを含むシンガポールの野生生物公園の本拠地である。
- Obayashi Singaporeは、この複雑な施設を統合ビルディング インフォメーション モデリング (BIM)、デジタルツイン、ドローン、3Dスキャナーを駆使して建設し、プロセスの合理化と持続可能性の向上を図った。
- • 8階建てビルに相当する高さのメッシュで覆われ、鳥が自由に飛翔できる巨大な飼鳥園の建設など、保護とデザインのバランスを取るため、デジタルによる大規模なコーディネーションが行われた。
シンガポール動物園、ナイトサファリ、リバーワンダーズ、そしてシンガポール北部の最新パーク、バードパラダイスがあるマンダイ野生生物保護区を、マンダイワイルドライフグループが管理。17ヘクタール (東京ドーム3.6個分) の広さを誇るバードパラダイスには、世界のさまざまな生息地を反映した大きなウォークスルーの鳥小屋があり、バラヘラサギ、トキ、アメリカフラミンゴ、コウノトリなどの鳥類が飼育されている。
バードパラダイスは自然保護区に隣接しているため、デベロッパーは大規模で複雑な構造物を、周辺環境に配慮しながら建設する必要があった。また、元の自然の地形をできるだけ維持しながら、有機的なデザイン要素を統合することも優先された。
スーパーゼネコンの大林組の完全子会社であるObayashi Singaporeは、利害関係者の協力関係を改善し、持続可能性に関する高い要求を満たすため、バードパラダイスの建設に高度なデジタル技術を駆使。同社DX部門ゼネラルマネージャー、シンガポールのアジアデジタルラボのイノベーションリードを務める河本周作氏は、「我々はこの大規模で複雑なプロジェクトで、多数の関係者間のSSOTの確立 (Single Source of Truth: 信頼できる唯一の情報源) と、それに基づくデジタルツインの運営を実現しました」と述べる。
大林組は統合BIMにより設計と開発の管理、建設順序の調整、現場検査の支援などを実施。環境への影響を最小限に抑えるには、バーチャルな設計・施工プロセスを通じた施工性の検証や、その対処も必要だった。
自然のデジタルモデリングからデジタルツインへ
Obayashi Singaporeのバードパラダイス担当プロジェクト・ディレクター、パトリック・チア氏は、バーチャル設計と建設段階での課題を克服するため、チームはAutodesk RevitやAutodesk Navisworksなどのソフトウェアを活用したと述べる。「ただし本当の課題は現実世界とデジタル世界の整合性を確保することであり、それはプロジェクト関係者全員の協力があって初めて達成できることでした。それによって関係者の間でデジタルデータがSSOTとなり、デジタルツインを最大限に活用できるようになりました」。
広大で険しい地形を正確に再現したデジタルファイルを作成するため、まずドローンと3Dスキャナーを使ってリアリティキャプチャを実施。収集されたデータはRevit、Autodesk ReCap Proで処理され、点群、オルソモザイク画像、地表面モデル、3D等高線などさまざまな出力が生成され、後のタスクで役立てられた。
バードパラダイスプロジェクトの BIMマネージャーを務めたObayashi Singaporeのポール・アンダヤ氏は「従来の土地測量の手法の代わりにドローンを使って敷地全体をマッピングし、包括的な地表面モデルを作成しました」と語る。「それにより、RevitとDynamoを使用して現状と提案されたレベルの差を分析でき、掘削エリアから埋め戻しエリアへの土の移動を最適化して、掘削と土壌廃棄の両方を最小限に抑えることができました。その成果のひとつが、美しい棚田の景観の実現です」。
鳥の生息地を最大限に保全するため、建設段階では自然環境と持続可能性の考慮が最優先された。「ドローンマッピングから生成されたオルソモザイク画像に現場の利用図面を重ね合わせることで、現場の施工を綿密に監視し、自然の状態が維持されていることを確認するという追加措置も講じられました」とアンダヤ氏は続ける。「各建設段階が環境へ及ぼす影響の監視は、デジタルツイン無しには困難だったでしょう」。
「点群データと統合BIMをNavisworksで組み合わせることでプロジェクトの完全なビジュアライゼーションが実現し、重要な問題を効率的に特定して、それを建設前に解決することができました」とアンダヤ氏。例えば、当初クレイモデルとして提示されたデザインは、3Dレーザースキャナーを使って3Dサーフェスメッシュに変換され、BIMとのシームレスな統合のために最適化され、デジタルツインの基礎となった。
「これはクライアントやコンサルタント、協力会社にとって、設計の正確性を評価し、スムーズな調整、詳細図面や概略図の作成、正確な数量拾いなどを行うための貴重なツールとなりました」とアンダヤ氏は言う。
また、アクリル水槽に沈める複雑な岩盤の内部に構造サポートやMEPシステムを収める際には、レーザースキャン、Autodesk 3ds Max、Navisworksを使用して干渉を解決。デジタルツインは、すべての領域で作図と製造のためのSSOTとして機能し、優れた結果をもたらした。
デジタルツインを活用したベストプラクティス
デジタルツインは、設計上の問題を解決するだけでなく、現場での施工を容易にするためにも使用された。複雑なウォークスルー型飼鳥園という構想は、鳥が自由に飛翔できる、メッシュで覆われた巨大な空間として実現された。その荷重は、8階建てビルの高さに相当する、多数の鉄骨柱で支えられている。
傾斜した柱と基礎の設計と設置の調整は非常に複雑で、複数の軸に沿って位置と方向を決める必要があったが、Navisworksを通じて仮想空間での問題の検出、構造の調整が行われた後、SSOTデータから施工図が作成された。BIMをエンジニアリング手法と統合することでコラボレーションの精度が向上し、プロジェクトが仕様に適合することが保証された。海中のコンブ林や岩場を再現した没入型体験施設ペンギンコーブでは、1枚が10tにも及ぶ巨大なパネルが23枚も使われ、構造物の細部までミラーリングすることで、効率性、安全性、資源の最適利用を実現した。
またデジタル・ツインは現場検査のSSOTとしても使用され、光学式やレーザー式のスキャン装置での測定結果がデジタル・ツインと正確に比較され、要求される精度と品質基準が満たされていることが確認できた。
「私たちの真の目標は、すべての関係者が共通の目標に向かって協力し、それを達成することでした」とアンダヤ氏は言う。「関係者全員の多大な努力により、デジタル・ツインは共存の概念に立ち戻ることのできる、信頼できる基盤となりました。これはSSOTの究極の形と言えるでしょう」。