Okra Solarのメッシュグリッドが僻地に電力を供給する方法とは
- 世界では7億人以上が電力にアクセスできず、何億という人たちが信頼性の低い電力に依存した生活を送っている。
- オーストラリア企業Okra SolarはIoTを活用し、僻地の居住地域を「メッシュグリッド」と呼ばれる分散型電力網でつないでいる。
- メッシュグリッドシステムは、孤立している居住地域間をつないで電力を供給することにより参入障壁を下げ、供給出力を向上させている。
- このシステムは、2030年までにすべての人々に安価かつクリーンなエネルギーを確保することを目指す国連SDGsの目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」をサポートしている。
世界で7億人以上の人々が電力網にアクセスできない状態にあり、その多くが、都市部から離れた僻地に住んでいる。こうしたラストワンマイルの地域では、送電網の延長が克服できない場合も多い。国連のSDGs目標7には、2030年までにすべての人々へ安価でクリーンなエネルギーの供給することが掲げられており、この目標7の成否が、より広範な経済発展や重要なサービスへのアクセスに影響を与える。
オーストラリア企業Okra Solarは、IoTとモジュール式の太陽光発電送電網を組み合わせることで物理的なインフラの必要性を低減した技術パッケージを、送電網外の僻地に住む人々の生活に浸透させようとしている。
Okra Solarは、集中型のインフラや広大なソーラーファームを必要とせず、電力をインテリジェントに共有できる屋上太陽光発電システムや蓄電池システムのネットワークにオフグリッド住宅を組み込む、メッシュパワーグリッドシステムを使用している。この分散型「メッシュグリッド」方式を採用することで同社は信頼性の高い電力を、従来の送電網の拡張と比較して、ごくわずかなコストで供給可能だ。現在までに1,500を超える世帯にクリーンエネルギーを提供しており、2025年までに200万世帯への普及を目指している。
Okra Solarの創業者兼CEOのアフナン・ハナン氏は「モジュラーシステムなので、集落から1km離れた家にもネットワークを設置できます」と語る。
メッシュグリッドシステムは、ミニソーラーグリッドと戸建太陽光発電のハイブリッドであり、前者より参入障壁が低く、後者より出力が大きい。ミニグリッドソーラーシステムの集中型インフラは設置費や運用・保守費が高く、設置に何か月もかかることがある。戸建システムはメッシュグリッドほど発電量が多くなく、またオフグリッド住宅は孤立しているため、予備電力を備蓄する余裕がほとんどない。
メッシュグリッドは、1接続あたりではマイクログリッドより低コストで高効率だ。「従来のミニグリッドのほぼ半分のコストでオフグリッド住宅に電力を供給でき、しかも信頼性と運用性は変わりません」と、ハナン氏。
Okraシステムは、屋根に設置されたソーラーパネルを起点に、僻地のオフグリッド集落を小さなハードウェアユニット数台のみでつなぐ。AI駆動の遠隔サイトマッピングツールは地理空間分析を活用し、メッシュグリッドの全ての屋根で最も効率的な太陽光パネルの配置方法を見つけ出す。
このシステムの要となるハードウェアが、Fusion 360で設計されたOkra Solar Podだ。これは電力を管理・供給する制御装置で、メッシュグリッドを構成する住宅数が2軒でも200軒でも、需要の増減に合わせて複数の住宅へ送電を行う。各戸には電池が設置され、電力需要の変動に対して余剰電力を活用する高い柔軟性を提供する。
「このPodが“この家には現状より多くの電力が必要だから、グリッドからの送電を増やそう”という判断を行います」と、Okra Solarメッシュグリッド担当プロダクトマネージャーのオスカー・エイチソン氏は話す。「電力が余っているから、他の家に送電して充電しよう、という場合もあります」
「例えば、ある家で結婚式があり、盛大なパーティを催すために高出力の照明やスピーカーが必要な場合には、余剰電力がある他の家庭から電力を回します」と、ハナン氏。
Podは遠隔地でも一般的な2G、3G、4Gネットワークに接続されることが多いが、VSAT衛星技術を経由してWi-Fi接続もできる。Podの運用 (配電、遠隔監視、モバイル請求) は、Okra SolarのスマートフォンアプリHarvestが担う。
IoTが提供する多くの効率化の中でも、とりわけこのネットワークに重要なのが、自動化による通信の効率化だ。オフグリッドの太陽光発電ネットワークをIoTに接続することは、発展途上国特有のメンテナンスとインフラストラクチャへ、重要なメリットをもたらす。グリッドのハードウェアのトラブルシューティングをアプリで行えるため専門知識のハードルが下がり、住民自らが保守・修理を実施できる。
「ソーラーパネルが発電していない場合、時系列データを確認し、何らかのルールを用いて自動分析して、現場のメンテナンス担当者に“この家でソーラーパネルの配線を修理せよ”というアラートを送信できます」と、エイチソン氏。「こうしたレベルの自動化は、IoT無しには不可能です」。
また交通インフラが充実しておらず移動に時間がかかる地域では、現地労働力へ依存することが、単なる経済発展以上の意味を持つ。「こうした地域へのアクセスには何日もかかることがあります」と、エイチソン氏。「そこへつながる道がないことも多く、アクセスは困難を極めることになりますが、事前にデータがあり、現地コミュニティに細かな修正を行える人がいれば、何が起こっているのかの把握するために毎回誰かを向かわせる必要がなくなります」。
メッシュグリッドのインフラは軽量で、修理しやすいメリットもある。集中型の太陽光発電インフラから全電力が外部へ送電される形ではないため、重く危険なケーブル配線は不要だ。「送電するのは小さな電力だけで、ある家の余剰電力を、次の家までのわずかな距離だけ送るのです」と、ハナン氏。「実際、使っているケーブルはかなり細く、また電圧もかなり低くなっています。設置が簡単で安全なだけでなく、より軽量なケーブルやインフラを使用するため、90%以上のコストを削減できます」。
Okra Solarは、これまでフィリピン、ハイチ、カンボジア、ナイジェリアでのメッシュグリッド開発に注力してきた。Okra Solarの顧客は電力サービス事業者であり、個人のエネルギー消費者ではない。ただし、同社はHarvestを通じた家電製品のリースも行っている。これにより鶏と卵のシナリオ、つまり住民が電力を消費する省力家電を使わないため、電気が必要とされない、という状況を回避できる。
メッシュグリッドは、より多くの家電製品に電力を供給することもできる。「住宅用太陽光設備」と呼ばれる従来のシステムとは異なり、Okraのメッシュシステムでは冷蔵庫や洗濯機、ポンプ、電気釜、精米機、エアコン、さらには通信塔まで、より大型の機器の稼働に十分な電力を生成できる。こうしたツールは、住民に生活の質を向上させる経済発展や起業の機会を提供する。
アイチソン氏はフィリピンで、メッシュグリッドにより製氷機能付き冷蔵庫が使用可能となっただけで漁村の経済が拡大するのを目の当たりにした。「住民は漁業で生計を立てているため、魚を保冷して市場で売るために氷が必要です。こうしたコミュニティの多くは、通常は巨大なブロック氷を輸送し、それを小さな氷に粉砕するため高額な料金を支払っています。1kgあたり1ドルは、大した金額でないように見えるかもしれませんが、彼らには大きな影響を与える額です」。
だがグリッドから電力供給を受ける冷凍庫があれば、氷を購入する必要がなくなり、冷凍庫関連の新ビジネスの立ち上げも可能になる。 「子供向けのアイスクリームや冷凍食品など、これまで地域住民が手に入れることのできなかった新しい食品の販売が始まっています」と、アイチソン氏。 「電気があるというだけで、新しいビジネスが始まっているのです」。