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Open BIMが導く「つながるデザインビルド」のエコシステム

膨大なプロジェクトファイルを交換したのに、それを受け取った相手が開けなかった時代を覚えているだろうか? プロセスはぎこちなく、ワークフローは非効率的で断片的なものだった。今後、AEC (建築、エンジニアリング、建設) 業界が、よりモダンになっていくためには、どのような方法があるのだろう?

その答えとなるのがBIM (ビルディング・インフォメーション・モデリング) だ。BIMとは、デザイン、エンジニアリングから施工、運用まで、建築物情報の作成・管理を行うプロセスを指している。そしてOpen BIMは、ソフトウェアソリューションの相互運用性を実現し、そのベンダーを問わずに情報共有ができる共通言語と規格だ。

BIMは設計データと結び付けられた3Dデジタルモデルによって業界を前進させたが、Open BIMは建造環境のDXで重要な役割を果たす。これによって建築、構造、機械設備など、そのプロセスがサイロ化されていた分野のチームが、それぞれの好むソフトウェアを使用しながら情報を交換できるようになる。

Open BIMは、建設チームの作業効率の向上や、顧客へのより良い成果物の提供に役立ち、デジタルによる業界の潜在力を発揮させ始める。

Open BIMを活用してオンラインコラボレーションを行う設計・施工チーム
Open BIMはプロジェクトのあらゆるフェーズでチーム、ツール、プロセス間の相互運用を可能にする

Open BIMとは?

Open BIMを単純に定義すると、異なるソフトウェアを使用する多分野のチームが情報交換を行う方法ということになる。基準と作業手順を共有することでデータの流れを向上させ、建設の各段階におけるチーム、ツール、プロセス間の相互運用性を実現。Open BIMは、製品ではなく作業方法だ。

英国のOpen BIM Networkなど、幾つかのAEC業界団体がOpen BIMを支持している。業界全体への導入を促進するべく、Open BIM関連のほとんどの活動の調整や承認、支援は、オートデスクが設立メンバーの一員となっている非営利コンソーシアムbuildingSMARTが行なっている。同団体はOpen BIMを次のように説明している: 「Open BIMは資産の引渡し、運用、保守の目標達成の実現に役立つよう、資産のライフサイクル全体で人とプロセス、データを結び付けます」。

Open BIMは、AEC企業に優れた柔軟性を提供する。buildingSMARTの監修したグローバルなオープンデータ規格、IFCファイルとしてデータをインポート/エクスポートすることで、さまざまなソフトウェアを一緒に機能させられ、よりスムーズなワークフローと容易なコラボレーションを実現する。

Open BIMの6つの主要原則

buildingSMARTは、Open BIMの定義で以下のように述べている。

1. 相互運用性が建築資産の業界におけるDXのカギである。
2. 相互運用性の促進のため、オープンかつ中立な規格を制定する必要がある。
3. 信頼性の高いデータ交換には独自の品質評価基準が重要となる。
4. オープンでアジャイルなデータフォーマットによりコラボレーションのワークフローが強化される。
5. テクノロジーの選択の柔軟性が、全ての関係者にさらなる価値をもたらす。
6. サステナビリティは、長期的かつ相互運用可能なデータ規格により守られる。

Open BIMのものとで作られた建築資産
相互運用性は建築資産業界におけるDXの重要な推進力だ

Open BIMの仕組み

建物を建設するプロセス全体を見渡すと、建築家、エンジニア、ゼネコンなど、さまざまな分野が連携した取り組みが必要になっている。そこには異なる企業が参加し、各企業が異なるソフトウェアを使用している。Open BIMはコミュニケーションギャップの解消のため、高い透明性を実現する共通言語を作成する。プロジェクトに関わる全員が、使用するソフトウェアを自由に選択し、プロジェクト情報をベンダーに依存しないIFCファイルとして保存することができる。

例えば建築家はAutodesk Revit、構造エンジニアは他社のソフト、ダクトや配管、電気系統の設計を行うシステムエンジニアはまた別のソフトを使用しているとしよう。ひとりとして同じソフトウェアを使用していないのだから、これはワークフローの観点では最悪のシナリオのようにも思える。プログラムによって出力されるものが異なるため、プロジェクト情報の交換の際にデータの損失、回避策、修正が避けられない。Open BIMのアプローチでは、IFCファイルによって、こうした異分野間での情報の受け渡しが可能になる。

ここでOpen BIMやIFCの利点が発揮され、建築家はメタデータをデザインの特定の要素に結び付けることができる。例えば建築家はIFCを考慮してモデルをデザインでき、メタデータの一部は、壁などデザインのさまざまな箇所に結び付けられる。IFCをエクスポートすると、窓やドアの位置、材料の仕様などの情報が適切な場所に配置され、他部門はそのデータを参照しつつ、それぞれが担当する作業範囲に取り組む。

Open BIMでは個々のチームが、デザインの現状を伝えるためIFCにエクスポートを行う。他のチームが、そのファイルを参照しながら作業することで、調整された優れたデザインを提供できる。

Open BIMで共通言語を生み出している2つのファイルタイプについて、もう少し詳しく説明しよう。

IFC (Industry Foundation Class) ファイル

IFCファイルは、オープンで相互運用性のある、事実上のBIM標準であり、同一言語を使用しないデスクトップオーサリングアプリケーション間での情報交換を可能にするデジタルファイルタイプだ。プロジェクトチームは、全関係者が全く同じ言語を使用するよう、使用するIFCスキーマバージョンを定義したモデルビュー定義を選択する。IFCはPDF同様の参照モデルで、データのアーカイブや閲覧の一手段だが、オーサリングツールではない。Open BIMではIFCを使用することで、関係者が自由に選択したデザインプラットフォームを使用できる。

BCF (BIM Collaboration Format) ファイル

Open BIMにはBIM Collaboration Format (BCF)と呼ばれる別のフォーマットがあり、これもbuildingSMARTが管理している。BCFは、プラットフォームを超えてデザインの問題をコミュニケーションする。誰がBIMデータを作成し、どのツールが問題の追跡に使用されているかを問わず、BCFにより他者が、自ら選択したツールで問題にフラグを立て追跡することができる。

相互運用性の進化

サイロ化され分断されたプロセスからオープンなエコシステムへの移行は、AEC業界に新たな可能性を生み出している。しかし、このデータの相互運用性の実現には、何十年もの月日がかかっている。

1980年代には各社がDXFなどのオープンファイル形式に取り組んだが、それほど本気ではなかった。1994年、AEC業界とソフトウェア団体が団結してInternational Alliance of Interoperabilityを設立し、それが2005年にbuildingSMARTとなる。企業各社は、1996年までにIFC互換のソフトウェアを設計するようになった。そしてbuildingSMARTはAECがよりデータ主導型の未来に到達できるよう、IFC規格の継続的な改訂、向上を行っている。

BIMプロセスがクラウドに移行するのに伴い、Open BIM標準規格は進化を続け、チーム間のコラボレーションとAEC業界における相互運用性の全体像を生み出しつつある。Open BIM標準規格が、近い将来にさらなる相互運用性を支援する、2つの手段を紹介しよう。

Open BIMによりAEC業界はサイロ化したプロセスからオープンなエコシステムへと徐々に進化
AEC業界はサイロ化したプロセスからオープンなエコシステムへと徐々に進化している

巨大なファイルから粒度の高いデータへ

現行のOpen BIMの仕組みでは、IFCファイルに各分野の作業範囲全てが含まれている。だが情報のやり取りにおいて、大容量ファイルの交換は最良の方法とは言えない。そのゴールは、こうした情報交換を、より細かな情報の要素へ分割することだ。IFCファイルには数万から数十万のコンポーネントが含まれている。情報の流通単位は、こうした巨大なファイルから、より細かなデータへと移行しつつある。例えば建築家が850MBのファイルをエンジニアに送る場合、そのファイルにはエンジニアの業務範囲には無関係な、不要な情報が含まれていることが多い。粒度の高いデータの共有とは、関係者が厳選された情報セットの送信や、デザインの特定部分のみの更新が可能だということだ。

APIがデータをつなぎ、より業界のクラウド化へ近づける

IFCの流通単位がより細かな情報へと進化することで、交換のメカニズムも、ファイルベースで人間主導のエクスポート−アップロード−ダウンロード−インポートというプロセスから、2つの異なるプログラム間の接続を可能にするアプリケーションプログラミングインターフェース (API) という、中間コードを使用し、自動化されたデータフローへと移行している。APIは、データを送ることのできるパイプを作ることだと考えると良いだろう。

粒度の高いデータをつなぐAPIには、次のようなメリットがある。

  • データAPIは、関係者が特定のワークフローに取り組み、必要な特定のデータに接続することを可能にする。
  • こうしたAutodesk ForgeなどのAPIは、クラウドプラットフォームによるつながるエコシステム、インダストリークラウドの推進を支援する。それを実現する唯一の方法は、粒度の高いデータ上で動作する、これらのクラウドプラットフォームAPI間の相互運用性を確立することだ。
  • データ交換の自動化は、業界が切実に必要としている生産性と効率の向上につながる。

オートデスクのAPIを活用してデータ、人、ワークフローをつなぎ、相互運用性を高めている4社を紹介しよう。

  • Resolveは、Autodesk BIM 360からOculus Quest VRヘッドセットにファイルを転送してモデルのビジュアライゼーションを実現する統合を構築した。
  • Datum360は、技術的なエンジニアリングデータとそれに関連するモデルを融合させる統合を作成。
  • hh2は、自社のUniversal Construction Modelを用いて、プロジェクト管理データや財務情報をAutodesk Buildにつなげている。
  • Newformaが開発したNewforma Connector for BIM 360では、デザインファイルとプロジェクト記録が統合されており、プロジェクトの全体像を把握できる。

Open BIMが業界のデジタルジャーニーをレベルアップ

AECがデジタルコラボレーションの拡大へと向かう中、デザインビルドプロセスへの一元的アプローチは、すべてのデザインと施工のチームに次のようなメリットをもたらす。

関係者の調整

さまざまなチームが同じファイルを使用して作業することで、プロジェクト全体にわたる調整が可能になり、手直しの52%における主原因である意思疎通の齟齬を減らすことができる。オープンなエコシステムにより、すべてのチームがプロジェクトに等しくアクセス可能となる。

相互運用性

人、プラットフォーム、ワークフローの間でデータを容易に交換できることは、情報のサイロ化解消と、効率化に役立つ。例えば建設要員は適切なドキュメントを探すことに、労働時間の35%を費やしている場合もある。つながるエコシステムがあれば、必要な情報を簡単に見つけることができる。

つながる単体のエコシステム

Autodesk Construction CloudやResolve、Datum 360、hh2、Newformaなどのソリューションは、相互運用性向けのクラウドAPIを開発し、BIMデータの交換を可能にしている。

長期的な資産管理

IFCは、デジタルモデルからプロジェクトの収支、使用した材料までプロジェクト情報をデジタルで保存し、構造物のライフサイクル全体で使用できるようにする。BIMがデジタルツインの駆動源となり、Open BIM規格はBIMプロセスに投入されるデータの相互運用性を確保することで、完工後も構造物の長期にわたる継続的な最適化とモニタリングを可能にする。さらに、以下のような奥深いメリットもある。

1. 将来的に資産を売却する際、そのプロジェクトに携わった全チームから得たすべてのプロジェクトデータを、共通データ環境に保存して含有できる。
2. プライバシー要件は、データが安全にアーカイブおよび管理されることを保証する。
3. デジタルツインへのリアルタイムでのアクセスにより、潜在的な問題のトラブルシューティングや、建造資産を取り巻く環境の変化を評価することができる。

より持続可能なプロセスとプロジェクト

デザインチームが情報やワークフローを調整することで、より効率的でつながるプロセスが実現する。共通の情報に基づいて作業を行うことで、チームはカーボンインパクト (二酸化炭素排出の影響) など、より重要なプロジェクト成果に集中できる。

スケジュールと予算の超過削減

すべてのプロジェクトデータにリアルタイムでアクセスできることで、プロジェクトを予算とスケジュール通りに進めることができる。デザイナーや建設関係者は、各オーサリング ツールで共通の情報を使用することでエラーを着工前にデジタル領域で発見し、建設中の問題を回避できる。

Open BIMにより道路などの資産の、よりよい管理が長期的に実現する。
Open BIM規格はBIMデータの相互運用性を確保する。それは長期的な資産管理の向上を意味する

こうしたメリットにもかかわらず、過去35年間における業界のBIM採用率は60-70%にしか達しておらず (PDF P.17)、これは他の技術 (平均8-28年で採用率90%に到達) に比べ、非常に遅いペースとなっている。だが業界全体が前進するには、こうした基準をすべての企業が採用する必要がある。

Open BIMをすぐに導入すべき3つの理由

Open BIMやIFCを活用して運用を行わないのなら、ただ図面をやり取りするだけで、その価値を棚上げしていることになる。IFCベースのワークフローでは、より忠実度の高いデータを扱うことができる。デジタルの世界が距離を縮める中、その時流に加わらない企業は取り残されてしまう。DXは、Open BIMで終わりではないのだから。ここで企業がOpen BIM規格を採用すべき3つの理由を紹介しよう。

1. 将来性

AEC業界でデジタル化、データの共有化が進んでいる。Open BIMプロセスを採用している企業は、進化を続ける分野における破壊的変化を最小限に抑え、変化に対応できる。

2. プロジェクト機会の増加

Open BIMは、BIMプロセスによるコラボレーション機能を強化し、デザイナーが不慣れなツールを使用するのでなく、自らが好むソフトウェアを選択できる。入札においては、他の業種と同じデジタル環境で業務が行えないという理由だけで入札を逃してしまうこともある。Open BIMとIFCの目的は、アプリケーションとプラットフォームをつなぐことにある。

3. 人材の誘致

労働人口にデジタルネイティブが占める割合が増加しつつあるなか、企業は人材誘致のためにデジタル化の促進を継続する必要がある。労働者の高齢化が進み、デジタルアクセシビリティのあるキャリアを求める若い世代から見落とされがちで、労働力不足に直面している建設業界にとって、これは大きな懸念だ。ハーバード・ビジネス・レビューの最近の調査によると、就活生の88%は最新のコラボレーションツールを活用している企業を求めている。

建設現場におけるOpen BIMはデジタルネイティブにも必須だ
デジタルネイティブな今日の労働力は最新のコラボレーションツールを求めている

Open BIMへの転換を牽引する3社

新技術の活用に遅れがちなAEC界だが、中には先駆的な取り組みを行なっている企業もある。シームレスなワークフロー、効率的なコラボレーション、より良いビジネス成果の実現のため、大規模プロジェクトでOpen BIMを活用している3社を紹介しよう。

Erik Guidice Architects (EGA)

EGAは、スウェーデン・ヨーテボリにおける総面積約6万平米のビル、PlatinanのデザインにOpen BIMを活用。この決断で、EGAと建設に関わる施工会社とのコラボレーションが向上した。EGAはRevitを主要デザインプラットフォームとし、IFCファイルをエクスポートすることで、さまざまなソフトウェアアプリケーションを使用する他チームとの共有ができた。このOpen BIMによるコラボレーション戦略を用いて、次は2024年パリオリンピックの選手村を建設する予定だ。

Norconsult

ノルウェーのエンジニアリング/デザイン事務所Norconsultは、ノルウェー南部に500億円以上を投じて全長19kmのE39道路を建設し、インフラのデジタル化を前進させている。Norconsultは2,000名の関係者に単一の情報源を用意したいと考え、主要なプロジェクトプラットフォームとしForgeを使用して、リアルタイムコラボレーションと10万点に上るデジタルドキュメントのファイル共有を可能にするクラウドソリューションを構築した。同社はBIMモデルの閲覧にForge APIを活用し、現在は独自のデジタルツインプラットフォームを構築している。

VolkerWessels

オランダ・ズヴォレ-ヘルフテの鉄道網拡張プロジェクトでは、線路の新規敷設、車道と自転車道の移転、列車用トンネル建設が必要だった。VolkerWesselsは、より深いレベルでのデータ統合のためにBIMとGISを組み合わせ、複雑な本プロジェクトをナビゲートした。Open BIMの使用により、プラットフォーム間、バリューチェーン内の関係者間での透明性が高まり、コラボレーションが容易になった。

Open BIMの未来

BIMがAEC業界のワークフローを向上させ、Open BIMがデータファイルの相互運用性を促進する一方で、DXは拡大する建築資産の複雑化に対応するべく進化を続けている。コラボレーション促進のためのデータの取得と活用への依存度は、ますます高まっている。今後予想される動きを紹介しよう。

政府によるBIM義務化

よりサステナブルで効率、生産性の高い建設プロセスの構築が実現するのメリットは、建設業界に留まらない。Open BIMへの移行は、増加する世界人口を支えるためのより寿命の長い建造環境など、社会的利益を強化する。複数の政府が、既に公共・民間のAEC企業にプロジェクトでのOpen BIMの使用を義務付ける建設関連の指令を策定し、より積極的な姿勢を見せている。

Open BIMにより進化する鉄道インフラ
一部の政府はすでに公共部門と民間部門の両方にOpen BIMの採用を義務付けている

巨大なファイルからより細かなデータへの移行

Open BIMの未来は、相互運用性を実現する最新技術スタックへと移行しつつある。APIで駆動した粒度の高い情報を使用し、業界のサービスを結びつけている。今後は現行のアプローチに比べて、よりターゲットを絞り、自動化され、高性能なものとなるだろう。

インダストリークラウドの増大

未来は、つながるAECインダストリークラウドとなるだろう。これは、特定のプロジェクトに必要な技術スタック全体がクラウドに融合 (コンバージェンス) されることを意味する。各部分はAPIを介してつながり、製品による相互依存のネットワークを形成する。各社は協力し、業界が必要とするものを提供するための総合的な能力を提供していくようになる。インダストリークラウドは、粒度の高いデータ上で動作するAPIで推進されるようになる。これこそが、業界に代わる未来の集合体だ。

著者プロフィール

ヴァネッサ・ベルトリーニは、オートデスクのソートリーダーシップ戦略およびプログラム担当ディレクター。エンジニアリング会社で技術文書の執筆と編集のキャリアをスタートさせており、それ以降はエンジニア向けの翻訳に携わってきました。

Profile Photo of Vanessa Bertollini, Autodesk Director - JP