オペレーションの効率化で実現するビジネスのリスク軽減とイノベーションの促進
- AEC (建築、エンジニアリング、建設) 業界、製造業界の企業の多くは、運用リソースを防御的に機能させ、問題が発生した場合にのみリソースを投入している。
- リーダーの積極的かつ機敏な行動により、将来のショックを予見できないにしても、それに備えることができる。
- オペレーションの効率化を実現し、それを業務革新へと変えるには、ビジネスリーダーがIT組織と運用チームの強力な橋渡しを行う必要がある。
ビジネスリーダーにとって、水晶玉は存在しない。最上階のオフィスや工場のフロアから遠く離れた場所にある企業の隅々まで見渡すことができたとしても、はるか先の時間まで見通すことはできない。そして予測にどれほどコストと労力をかけても、未来が不可知である事実は変わらない。
そして未来が予測不能であるため、多くの企業は「攻め」よりも「守り」にリソースを費やすべきだと固く信じている。市場調査会社IDCが行った「2021 Future of Connectedness (つながりの未来)」の調査によると、2社に1社は業務に対して事後対応的なアプローチを採っている。つまり、問題が発生したときのみ、運用リソースやプロセスをシフトしているのだ。
だが、未来は予測できないにしても、そのための準備をしないわけにはいかない。
プランニング/デザインコンサルタント会社Kimley-Hornのニック・オットーCIOは、これは特にAEC分野では重要だと述べる。「弊社の最大の使命は、お客様のために確実に成果を上げることです」と、オットー氏。「私たちが支援する建築プロジェクトでは、設計・プランニング業務の初期から非常に多くのタスクがスタートします。そのため、納期を守ることは最重要であり、それを実行するには常に先取りする必要があります」。
The Association for Manufacturing Technology (AMT) のティム・シンバラCTOによると、それは製造業でも同様に重要だ。メーカー各社は新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、需要のシグナルがいかに急速に変化し、その備えが無い場合にどれほど大きな影響が及ぼされるのかを、身を以て学んだと彼は話す。
シンバラ氏は製造会社に関して「パンデミック時に発生したサプライチェーンの問題は、多くの経営幹部に、混乱に直面した場合の事業運営についての問いを投げかけました」と話す。「そして彼らは、根本的な問題はサプライチェーンの可視性であることに気付いたのです」。
AEC業界・製造業界のリーダーたちは、それぞれ独自の課題を抱えてはいるものの、積極的かつ機敏に行動することで、将来に起こるショックの予見はできなくとも、それに備えることはできる。重要なのは、ビジネスをより円滑に進めることのできるテクノロジー、そしてそれをビジネスリーダーが発見、開発、導入することを支援するITプロフェッショナルとの強力な関係性だ。
効率的なオペレーションの実現
デジタルトランスフォーメーションは、いまや最も重要な言葉となっている。流行を差し引いても、テクノロジーはリアルかつ具体的なメリットをもたらすと語るオットー氏は、きらびやかな新技術に固執するビジネスリーダーは、その本来の活用先となる業務やビジネスの効率性を見逃しがちだとも述べる。
「オペレーションの効率化で重要なのは、ビジネスの基盤を極めて効果的に提供することです」と、オットー氏。「私にとってそれは、予測可能で、確実で、信頼できるサービスを提供することです。システムはきちんとその仕事を全うしているか? 正しく動作しているか? そして、ビジネスのニーズに応えているか? そうでなければ成功とは言えないのです」。
こうした予測可能で確実かつ信頼性の高いサービスへの欲求こそ、多くの企業が旧態依然とした体系へ頑なに固執する理由だ。だが実際には、新たなテクノロジーがビジネスのスピード、正確性、入手可能性を高めることが、サービスの信頼性を高めることにつながる。
Kimley-Hornで、オットー氏は時短と連携を促進するデジタルワークフローを推進している。「会議室で各自が紙にメモを取りながらプランを検討するような方法から脱却させようとしています」と、オットー氏。「それは一貫した方法かつ共通の運用イメージで一緒に仕事を行える、デジタルレビューへの移行です」。
自動化もKimley-Hornの優先課題だ。「私の持論は、可能な限りすべてを自動化する、というものです」と語るオットー氏は、数年にわたり顧客向け自動化ワークフローを構築してきた。「例えば、弊社では協力会社の保険証書に関するプロセスを自動化していますが、これはAEC業界では重要な要件です。協力会社がポータルにログインして書類をアップロードすると、書類が自動ワークフローを通して承認されます。手順が多く手間がかかる面倒なことや、人手を割くメリットがない業務を自動化するのが狙いです」。
デジタル化と自動化は製造業の業務効率化も生み出すと、シンバラ氏は話す。残念なことに、メーカーは新たな技術を統合できるよう構築されていない、高価で旧式の設備を抱えていることが多い。手持ちの設備と求める機能とのギャップを埋めるには、相互運用可能な接続性が最重要となる。2007年、AMTとパートナー各社は製造機械用の共通言語の初期仕様を起草した。その後、AMTはMTConnect Instituteを設立し、MTConnect Standardをさらに発展させた。このMTConnect Standardはロイヤリティフリーのオープン標準で、10年以上にわたり製造制御、デバイス、ソフトウェアアプリケーション間の相互運用性向上を促進してきた。
「工作機械、ロボット、自動化、ディスクリート製造 (加工組立製造) 技術など興味の対象を問わず、標準規格をダウンロードして導入することも、ビジネスの問題をMTConnect InstituteやAMTに直接問い合わせることも可能です」と、シンバラ氏。「標準規格がソリューションの実現にどう役立つのかを、順を追って説明することが可能です」。
例えばレガシー機械とそれに取付可能な先進型センサーとの間の相互運用性など、相互運用性のメリットはデジタルツインの有望性にはっきりと表れている。IDCによると、2023年までに製造業の30%においてショップフロアのデジタルツインとリアルタイムの信号トランスポンダデータが組み合わせられ、生産スループット時間が80%削減されるようになる。
効率性をイノベーションに変換する
オートデスクのプラカシュ・コタCIOは、業務効率化の意外なメリットとして、運営の革新があると述べている。「ビジネスやオペレーションを円滑に進めることができなければ、新たな機能や価値を制定するための議論をすることもできません」と、コタは話す。
そうした精神に則り、Kimley-Hornのさまざまなサポート部門 (IT、人事、法務、財務など) のリーダーは定期的に招集され、協調的かつ集団的な継続的改善を追求している。
「定期的に会合を持ち、何がうまく行き何がそうでないのか、そして我々サポート部門が自らの業務をどう継続的に改善できるのかについて検討します」と、オットー氏は話す。彼は、CADマネージャーやエンジニアを含むITチームであるエンジニアリングアプリケーショングループの助けを借り、こうしたミーティングからイノベーションの機会を探り出している。「このグループは、実務担当者や生産担当者と協力して新たなビジネス機会の領域を見つけ出し、生産管理者がより速く、より効率的に、より高い品質で作業できるよう、新しいソフトウェアやソリューションが必要な部分を判断します」と、オットー氏。
製造業において、イノベーションは効率だけでなく進化をもたらすと、シンバラ氏は述べる。メーカーにとって、製品や生産性を向上させる新素材や生産プロセスの発見は重要な優先事項だ、とシンバラ氏。
「製造業における大きな阻害要因のひとつに、経験主義があります。納得するには、手作業あるいは機械加工で物理的に作成して触ってみる必要があります」。さらに、テクノロジーによって手作業による技法をデジタル化することで、発見を加速させられるのだと付け加える。「イノベーションの最大の機会は、実験のデザインの中にあります。これは、特定の材料を特定の工程で使用するとある特定の特性が得られるということを、合理的な確度で判断するのに役立ちます」。
従来の方法で十分なレベルの確実性を実現するには、法外なコストと時間がかかることが多い。デジタルツインによるシミュレーションのような技術を使用すれば、投資対効果は並外れて大きくなる。
「実験をうまくデザインできれば、何をどう作りたいのか、どんな材料で作るのかをより簡単に見極めることができるでしょう」と、シンバラ氏。「そして、その実現性にある程度の確信を持つことができ、不必要な実験を減らすことができます」。
サイロをつぶす
効率的なオペレーションを実現し、それを業務革新へと変えるため、ビジネスリーダーはIT組織と運用チームの間の強力な橋渡しを行う必要があると、オットー氏は話す。彼が率いるエンジニアリングアプリケーショングループは、部門間連携の見本だ。その秘密は、Kimley-Hornのフラットな組織体制にあるという。
「ひとつの会社、ひとつのチームというのが弊社のメンタリティです」と、オットー氏。「社はひとつのチームとして運営されており、部門間のサイロ化を非常に嫌悪しています。ビジネスに問題が生じたら、全員がその解決のためにテーブルにつく。それが弊社の企業文化なのです」。
Kimley-Hornは連携を重要視しており、オットー氏は、放っておけば自動化されてしまうような作業でも、あえて人の手が加えられるようにしている。たとえば、ITヘルプデスクへのチャットボット導入は、検討の結果、却下する判断が下された。
「戦略的に決断を行いました。Kimley-Hornの社員が助けを必要としているなら、社内のIT担当者に相談してもらいたいと考えました」と、オットー氏。「Kimley-Hornの社員にとっては、チャットボットを使用することで得られるかもしれない効率性の実現よりも、ITサポートスタッフとの個人的なつながりを維持することの方が重要だと判断したのです」。
シンバラ氏によると、製造においてITとオペレーションはより密接に連携するようになっている。また人材不足により、情報技術とオペレーション技術の従業員が責任を共有し役割を移動しやすくするための機能訓練の開発や資格認定の実施も余儀なくなっている。「これまでは2つの全く異なるコミュニティだったのが、単一のパイプラインになるかもしれません」と、シンバラ氏。「社内で、よくIT/OTに関する話が行われていますが、両者を区切っているスラッシュが消え始めているように思えます」。
より多くのITプロフェッショナルをビジネスに統合させることは、人材の問題を解決するだけに留まらず、最終的には成長を生み出す可能性がある。
「ここでも、重要なのは効率と効果です」と、オットー氏。「ITとオペレーションが連携すれば、効率性は上がります。効率化が進むほど、問題の火消しを行う必要性は少なくなります。そして火消しに時間を割く必要がなくなれば、先を見越して何を改善して次に何をする必要があるのかを考えることに、より多くの時間を割けるようになるのです」。