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プレファブシェルターと「品位ある労働」で包括的にホームレス問題へ取り組むPallet

建設中のPalletビレッジ
ワシントン州エバレットに拠点を置くPalletはプレファブ住宅と社会および雇用サービスを組み合わせてホームレスからの脱却を支援している
  • ワシントン州を拠点とする公益法人Palletは、自治体と連携としてホームレス問題に取り組み、仮設住宅のコミュニティを展開。
  • 迅速に建てられるプレファブ構造を採用し、ホームレス生活から脱却するまでの間、安全な場所とコミュニティを提供する。
  • ホームレス問題の解決に向けた包括的なアプローチのひとつに、インクルーシブな労働力の構築がある。Palletのスタッフの大半は、ホームレス問題やその関連リスク要因を直接的に経験している。

適切なシェルターに入れずにいる人は、全世界で約16億人に上る。米国のホームレスは50万人以上だ。

この危機は残念ながら拡大を続けており、常設シェルターの建設費用はかつてないほど高騰している。そして人手と供給の不足も問題を複雑にしている。建設業界は2025年までに200万人の労働者不足に直面する可能性がある。

その一方で、米国では過去5年間で恒久的住居に関する介入が450%増加している。この問題を解決してホームレスの人々に安定した住居や職を提供するべく、都市や州が奮闘しているからだ。

こうした取り組みの一環として、ワシントン州エバレットに拠点を置く企業が、常設住宅と「品位ある労働」への架け橋を築く、スケーラブルな製品と労働力のモデルを提供している。Autodesk Foundationのポートフォリオに登録されている公益法人Palletは、最も脆弱な層に安全かつ安心できる住居を提供するため、迅速に対応できるシェルターを建設している。このシェルターとそれが構成する村は、数か月や数年でなく数時間、数日の単位で展開可能だ。

Pallet創立者兼CEOのエイミー・キング氏は「路上で命を落とさないよう、すぐに解決策を講じる必要があります」と話す。「人命救助の手段として、迅速な実行が必要なのです」。

キング氏は、住宅は人権の一部だと主張している。「住宅は建設が難しく、非常に高価なものです」と、キング氏。「我々は、それを建設しているからこそ分かります」。キング夫妻は、総合建設企業Square Pegも設立しており、材料費の高騰や労働力不足によって常設住宅の建設には費用と時間がかかることを、身を以て知っているのだ。

シェルターを組み立てるPalletの従業員
Pallet社員の大半がホームレス、依存症、司法制度への関与などを経験している

単なるシェルターを超える存在

シェルターの構築は、Palletの包括的な支援モデルの基盤に過ぎない。このモデルでは、再利用可能なシェルターがもたらすセキュリティと、家を追われた人々に対処するために地域のサービス事業者や都市が行う仮設村づくりが組み合わせられている。

Palletシェルターの最初のデザインは2016年に作られた。社内に技術・設計チームが雇用されており、エンドユーザーからの生きたフィードバックが採り入れられる。「全ての製品を社内でデザインし、市場のニーズを満たすよう、それを常に進化させています」とキング氏は話す。

現在、Palletは第8世代のシェルターを製造しているが、モデルチェンジのたびにシェルターで生活する地域の人々の声を直接聞き、技術的な改良を加えている。Palletは軽工業にフォーカスして、主に加工や製品部品の組立を行っており、Autodesk InventorVaultを活用。「現在は、効率性を追求して製品ラインナップを拡大を継続するため、その最良の統合方法を模索しています」と、キング氏。

仮設住宅コミュニティは、鍵のかかるシェルター、施設内のソーシャルサービスと、食事やシャワー、洗濯の機会を提供する。Palletのサービス利用者はペットや個人の所有物を新しい仮設住宅に持ち込むこともでき、パートナーと滞在することも可能だ。こうした人道的要素は当然のことにも見えるが、多くのシェルターシステムには存在せず、それが必要な助けを求めることを躊躇させてしまうこともある。

支援機関と政府機関は、コミュニティで生活する人々を常設住宅に移し、雇用への道を確立するよう協力して取り組んでおり、そこにはPalletへの雇用も含まれる。

拡大する労働のニーズに応える「品位ある労働」

PalletのCEO兼創設者のエイミー・キング
CEOのエイミー・キング氏が設立した公益法人Palletは、迅速な対応が可能な仮設住宅を展開するだけでなく、雇用開発など地域社会の総合的なニーズに対応するサービスも提供している

キング氏は、Palletシェルターやコミュニティがホームレス問題に影響を与えるだけなく、自社の人材開発モデルに大きな可能性を感じており、他の企業もこのモデルを次世代社員育成に取り入れるべきだと話す。

「弊社の製品は素晴らしいものです」と、キング氏。「しかし最大の使命は、生活賃金をもたらす仕事とスキルセットを構築することで、人々の成長を支援することです」。

キング氏は他の経営者に対し、さまざまな、そして時には辛い人生経験を持つ人々の採用という決断が、現場や倉庫などの枠を超える報酬をもたらすと説く。

「家さえあればホームレス問題を解決できるというわけではないことを、理解してもらわなければなりません」と、キング氏。「四方の壁と屋根だけでホームレス問題は解決できません。雇用の機会や経済的な安定、富の創出が必要であり、それこそが持続可能な解決策を生み出す魔法なのです」。

この目標を達成すべく、キング氏はホームレスや依存症、刑期を終えた人など、正規雇用の確保・維持に苦労している人々を雇用するよう努めている

「弊社スタッフの大半は、司法制度と深く関わった経験があります」と、キング氏。「そうした経歴を持つ何千人もの人々に会ってきましたが、その経験から言えるのは、彼らはこれまで極めて優秀かつ知的、クリエイティブで、生産的な市民であるということです」。

長年にわたる交流を通じて、キング氏は従業員やPalletコミュニティの人々から、犯罪歴を持つ人の雇用を阻む規制や法律があり、仕事を得ることがいかに難しいかを耳にしてきたと話す。それに偏見も烙印が追い打ちをかける。

「抜け出すことのできない悪循環なのです」と、キング氏。「そして貧困に陥ってしまう。誰かに仕事を提供することは“あなたを信頼している”ということを伝える、とてもシンプルな手法なのです。我々は、彼らが自ら夢を描けるようになるまで育成し、支援します。その道を進むことで、彼らはこの世での役割があることを知るのです。最終的には、支援は不要になります。最終地点まで進み続けるのに十分なほど、自らを信じられるようになっているからです」。

キング氏は自身のメッセージが、一般的な雇用基準から外れた雇用に消極的な企業や経営者が躊躇するようなものだと認めている。その上で、政策だけでなく人間にも役割があるのだと語る。

「偏見をなくす方法は、異なる人々を一緒にして知り合わせるしかありません。それを実践しているのです」と、キング氏。「我々は、そうした偏見を受けている人々の物語を伝えられるよう、その世界へ外部の人々を取り込むよう努めています。そして彼らに出会った誰かが“こういう経歴のある人に会ったんだ。Palletでエンジニアをしていて、年収は1,000万を超えていて、家も子供もいる。人は変われるんだよ!”と語れるように。人々に例を示す必要があるのです。

「これまで、雇用主は重罪の経歴を持つ者は雇えないというのがスタンダードでした」と、キング氏。「しかし、その理由を問う人がいてもおかしくないはずです。 重罪を犯した人が悪人だというわけではありません。その大多数は(収監中の社会復帰プログラムで)更正し、これまでとは違う何かをすることを望んでいるのです。重要なのは彼らを理解し、“あなたには可能性がある、その可能性に火を灯したい”と手を差し伸べる誰かが必要だということです。その手段が仕事であれ、住居の提供であれ、コミュニティであれ」。

Palletのビレッジ
Palletの新しいビレッジサイトのコストは当初の約1/16となり、工期も短縮できた

都市とのパートナーシップで実現する長期的な変化

Palletの主要なクライアントは、深刻なホームレス問題に直面している市や郡、州だ。そうしたクライアントは、参入障壁が低く、用地選定や住宅供給、ソーシャルサービスとのつながり、コミュニティの採用、政治的プロセスなど、最も困難な課題を克服するための総合的なサポートを提供するPalletのモデルに魅力を感じている。

「これは長期にわたるパートナーシップです」と、キング氏。「長い戦いなのです。弊社は、都市がホームレス危機を総合的に解決するための支援をしたいと考えています。通常は地元のパートナーを活用していますが、ホームレスの人々のあらゆる面でのニーズが満たされるよう、すべての関係者をまとめる役割を担っています」。

「特に、ロサンゼルス市との提携では大きな進展がありました。ロサンゼルス市には、66,000人もの路上生活者がいるという大きな危機を抱えています。利用できる土地が少なく密集したこの都会でどのように取り組むべきか、1年をかけて話し合いを続けました」。

初の開設地となるロサンゼルスのサイトは2020年にスタートしたが、初めは完全な成功とは言えないものだった。「最初のサイトは費用がかさみ、通常よりも建設に時間がかかって、地域コミュニティとのトラブルも少なくありませんでした」と、キング氏。「でも最終的には実現できました」。このサイトは現在も運営されており、Palletとロサンゼルス市による今後のサイトの改善に役立っている。

「2番目のサイトでは、さらに良いものにするにはどうするべきか、一緒に考えましょうと話しました。それが本当の意味で、あらゆる面で市と提携する初の試みとなったのです」。

以来、Palletは現地の建築家、ゼネコン、市職員で構成される市の土木課と緊密に連携し、各サイト展開を効率的かつ費用対効果が高く、可能な限り簡単になるよう努めている。

「これらの新しいサイトのコストは、最初のサイトの約1/16です」と、キング氏。「これまでよりずっと安価かつ迅速に構築できています」。

Palletシェルターのインテリア
Palletシェルターは鍵のかかるドアを備えた個寝室で、サイトにはその他のリソースも用意されている

共感と使命感をビジネスに採り入れる

キング氏はPalletの製品によるものか他のソリューションなのかを問わず、Palletのミッションが達成され、米国のホームレス問題が解決されることを願っている。そのためにはPallet社員がビジネスとミッションの準備を整え、そこに投資することが必要だ。

「多くの経営者、特に株主のいる企業は収益性を重視する傾向にあります。それが問題だとは思いません」と、キング氏。「維持可能であることは重要です。しかし、私たちは大切なものを見失いがちです。人がいなければ収益を上げることは不可能なのです」。

キング氏は他のビジネスリーダーたちに対して、自分たちの使命は何か、それが地域社会にどのように役立っているかを常に考え、その使命が利益よりも重要となる場合について熟慮するよう説く。

「ビジネスには、利益を追求すべき瞬間と、使命を果たすべき瞬間があることを認識すべきです」と、キング氏。「それが対立する場合も多いのです。社会的企業である弊社は、その機会が使命に関するものか、利益的に関するものなのかを慎重に検討します。現在は、使命を果たすべき瞬間に向かうことに基準を定め、問題を解決するべく市場への浸透を試みている最中ですから。利益的な瞬間がやって来ることもあるでしょう。経営者としてそうした瞬間を見極め、その両方から利益を得ることができれば、地域社会にインパクトを与え、健全な収益を持続することができます」。

著者プロフィール

キンバリー・ホランドはアラバマ州バーミングハム在住の、ライフスタイル系記事のライター、編集者。所有する書籍を色分けしていないときは、キッチン向けの新しいガジェットを使った料理の実験を友人たちへ披露することを楽しんでいます。

Profile Photo of Kimberly Holland - JP